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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
112/131

#scene04-15



街の基礎工事も9割がた終了し、おとなりの子爵家からの家具の購入も終えた。

そして、移民の皆様方も続々と領地に入ってきては驚いている。


「まあ、驚くであろうな。出発時点ではただの荒れ地だと聞かされていたのに、道も城壁も水道も農地でさえ準備されているんだから」

「そうですかね?まあ、爺様が先出の移民たちのなかに大工とか多めに詰めておいてくれて助かってますが」

「まあ、あいつらがおらんと家も創れんからな基本的に」


工業区の工房設置予定の地区や、新たに建築を進めているアーケインとナギの会社(社長はシュライン)の周辺を中心に驚きの速さで家が建っていく。

勿論、ナギやキーリーが手を貸すので、基礎工事は即終了し、外観と内装だけを手掛けることになっているのだが、なかなかに優秀な大工や建築士といった者たちが含まれていたようで、次々と家の建築計画がされていく。


また、少数ではあるが雑貨店や食料品を扱っていたものも移民してきていたため、これも相談して、現時点での措置としてナギたちがいくつか卸すことで、それぞれ品物を展開してもらえるようにした。


「農業してくれる人が……野菜と小麦主体だっけ?4世帯?」

「ああ、農地の配分はどうする?」

「全員東農業区K-2で」

「わかった、そう伝えてくる」


アーリックにEA-K-2と書いた地図に4つ丸を付けたものを手渡し、案内を任せる。


「待たせた。ナギからこの4つの土地を好きに使っていいと言われている。ひとまず、家1軒分に畑一枚だそうだ」

「ありがとうございます、騎士様」

「いや、俺は別に騎士ではないが……」

「ああ、そうでした。王国とは違うのでしたね」

「まあ、気にせんでくれ。ヴェルカ人のオレを徴用してくれるような変わったやつだからお前たちも悪いようにはされんだろうさ」

「それはもう。税率も前のところと比べれば圧倒的に少ないですしね」

「農地も安全そうですし、すぐ近くに街がありますし」

「すぐに耕す畑の数を増やして大儲けしてやりますよ」


農業地区であろうと、上下水道の設備は整られており、また、いくつか大浴場のような施設も作ってある。

暮らしやすさでいえば圧倒的にこちらの方が上だろう。


「一番お金がかかるインフラ工事を自分で片づけられる分ナギは圧倒的に低コストで街を作れるよね」

「ルイテル様、ナギ様から次の仕事が」

「ああ、すぐ行くよ。そういえば、もうすぐ、僕が選んでおいた“エストール領軍”と政務官や役所の職員たちがきてくれるよ」

「建築を急がないといけませんね」

「そうだね。ここ数日で100軒ぐらい建っている気もするけど」

「高レベルの生産職って怖いですね……」


ナギの予定している街の構図では、1ブロック当たり20世帯分ほどの家が建つ予定である。

こちらに着いた移民団は、まずキーリーが仮設したアパートメントで生活しながら、土地の契約と家の建築を依頼する。

そんなこんなですでに会社の予定地周囲8ブロック、工業区に職人の工房3ブロック分埋まっている。単純計算で3000人前後の人間が移り住んだことになる。


王国・リュリュはかなり大きい町だったが、そのほぼすべての人間がこちらに来たと言えるだろう。納税者の大半が来ているので、税収は無である。

どれだけ領主が嫌われていて、アーケインに人望があったかはっきりわかる図である。


「ナギ様、失礼します」

「どうしたシャノン?」

「リュリュからの最後の移民団が到着しました」

「わかった。すぐ行こう。爺様、行きましょう」

「そうだな、久々にシュラインの奴の顔も見よう」


他の皆に建築の指揮を任せ、3人が出迎えに歩いていくと、駅の付近で数十名の人の塊を見つけた。駅といっても、建物だけで、施設としては機能していないのだが。


「やあ、シュライン。お疲れさま」

「シュライン。よくたどり着いたな」

「爺様……どうせ先についているだろうと思っていたけど、納得いかない物がありますね」

「ナギ君の作った機巧装置で一瞬じゃったよ。帝都も観光してきた」

「充実してますねぇ……それで、我々はどうすれば?」

「お前と一緒に来たのは、事務系の社員と、屋敷の執事とメイドたちだったな?」

「はい。そうです」

「我々の家はまだ未完成だ。今、建築部隊とナギ君とキーリーの力を借りて、他の家を作る合間に作っている」

「そうでしたか」

「会社をビルにして、その上層に居住スペースを作る予定だ。ちなみに完成予想図はこれだ」


にやりと笑いながらシュラインに紙を手渡すアーケイン。


「おお、これは、最高に格好いいですね」

「そうだろう」

「なるほど、こんなに格好いい 建物ならば社員も増えますね」

「そうだろう。ああ、支払いはお前がするように」

「え゛」

「流石にこんなものタダでもらうわけにはいかん。まあ、土地代と素材費用を除いた部分が、会社の社長となるお前に掛かる借金だ。大体20年ぐらいで返せる」

「社長は爺様がするのでは?」

「私は会長になる。ナギ君が顧問だ。しっかり励め」

「ぐ、まあ、それぐらいの借金すぐ返しますよ、ええ。というかこの街、ほんとうに更地だったんですか?」

「後で写真を見せてやろう。数日でここまで出来上がるさまを見ているのは楽しかったぞ」

「お爺様、それより皆さんを仮設住宅の方に」

「おお、そうだった。みなも疲れただろう。ひとまず落ち着いて寝られる宿を用意してもらっている。それに、今は大浴場も無料で開放されている。クレハ君やアーリック君が狩りをして結構な肉類を用意してくれているから食料も問題ないぞ」

「初めのうちはもっとつらいかと思っていましたが」

「まあ、正直、ナギ君がいなければ想像通りになっていただろうな。本当にいい男と結婚してくれたものだ」

「そうでした、姉さん。結婚おめでとうございます」

「ありがとう、シュライン」

「街が落ち着いたら結婚式をするから、お前も何かそれなり物を贈るようにな」

「ええ、任せてください。ナギさんクラスの結婚式となると各国の重鎮もたくさん来るでしょうから、その度肝を抜く様な物を贈ってやりますよ」

「はっはっは、その意気だ」

「その前に、会社を立ち上げて、交易路を作って、やることがいっぱいありますね。そういえば、お爺様、会社の名前は?」

「ああ、それなら、ナギ君の名前からと取って“ミカヅキ”にすることになった。シャノンとクレハ君の強い推薦だ」

「ほお、いいですね。早速ロゴマークと看板を作ります」

「頼むぞ、シュライン。もうすぐ外観だけは完成するミカヅキビルディングに飾り付けるのにふさわしいものを頼むぞ」

「お任せを!」

「……お爺様、シュライン、皆さん疲れているので早くアパートメントの方に向かってください」

「……わかりました」「……わかった」


シャノンに叱られてやっと移動を始めた最後の移民たち。

ナギもそれについて戻ろうと歩きだしたところ、初めて通信機が鳴るのを確認した。


「おお?」

「鳴っていますね」

「なるほど、それは便利そうだな」


「こちら、ナギ・シュヴランだ」

『ごきげんよう、シュヴラン伯。ヴァルラム・ベイリーです』

「おお、連絡待っていたぞ」

『申し訳ありません、思ったより移民希望者が多いのです』

「こちらとしては全然かまわないが」

『商会のメンバーの親類縁者、近所の者も含めて200名前後になりそうですな』

「問題ない」

『それは良かった。すでに100名出発しておりまして。私もこれから出ます』

「わかった。野盗やらに気を付けて」


「ナギ様、お相手はあの商人ですか?」

「ああ、また、移民ラッシュだ」

「良かったですね?」

「まあ、初期の手続きさえ終われば……」

「そうですね。何はともあれ、お爺様、シュライン」

「どうした、シャノン?」

「優秀な商人が領地に入ってくれます。これで流通の心配はないかと」

「なるほど、前もってそういう人間を押さえておいたのだな」

「そこがナギ様のすごいところです」

「ふむ、そうだな」

「流石ですね、義兄(あに)上」

「義兄上……って、間違いではないけど」

「まあ、公式の場では領主様とか伯爵様とお呼びしますので」

「それでしたら構いません」

「なぜ、シャノンが許可をだす?まあ、いいけどさ」


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