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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
110/131

#scene04-13



3日ほど帝都で過ごしたナギたち一向はいよいよ、ナギの領地“エストール”へと移動を開始した。

帝都ダールベルクからクニス州エストール市までは通常の馬車で最短経路を使うと1週間ほどかかる。

ただし、ナギたちであれば半日もあれば着く。


未だにこの速度での移動に慣れないペトラは昼食があまり食べられないという事態に陥ったが、最年長のアーケインですら問題なかったため、ペトラが特別弱いという事で我慢してもらう結果になった。


朝9時に出発したナギたちが領地へとたどり着いたのは16時過ぎであった。

周囲には民家らしきものがぽつぽつ見えるが、人の気配はほぼないといってもいい。


「完全に開拓地だね」

「前に一回来たけど、まあ、こんなもんだろう。港で仕事してるおっさんたちが帰ってきたらもう少しにぎやかになるさ」

「ナギ君、ここはどういう土地なのか教えてくれんかね?」

「はい。わかりました。その前に、適当に家建てて入りましょう。海が近いので風が冷たくて寒いですし」


そういってナギが案内したのは、細かく区画分けされた場所の一角。

特別大きく土地がとってある場所が二つ並んでいる。


「こっちがうちの屋敷で、隣がルイテル」

「わざわざ建ててくれるのかい?」

「流石に建てないわけにはいかんだろう……アーリックの家は隣か前に確保しようと思おうのだが」

「ありがたい」

「アリン達のアパートメントも近くに用意してくださるそうですね」

「明日になったらキーリーと基礎工事をするから1日で大半の建物はそろえる予定だ」

「無茶苦茶ですね」

「私たちも上物は無理だけど基礎工事だけなら魔法で手伝うからね」

「オレは魔法は上手くないが、力仕事なら」

「ああ、ありがとう。じゃあ、この土地の特徴と造成計画について話そうか」


そういうと、ナギはいつものログハウスを自分の区画に置いた。

皆慣れた様子で中に入り、シャノンはいつも通り全員分の茶を用意し、キーリーが領地の地図を広げた。


「案外小さいのだな」

「だけど海にも面していて、鉱山もあるから価値的にはすごく大きい」

「イグナート山脈の鉱山だからエクトル鋼もそれなりに出るはずだね。他は主に鉄かな」

「気温は南に山脈があるせいでそれほど上がらない。夏でも30度(摂氏)を超えない程度らしい」

「避暑地としては最高ね?それで、もともとここに住んでた人たちはどうするの?」

「農業組と漁業組に分かれるみたいだな。先日頑張って交渉したから区画整理と組合の設置には同意を貰った。まあ、移動先の家や農地をこっちで用意するぐらいなら安い。他の移民は自分で呼びかけたのと、アーケインさんとこのと、ルイテルが呼びかけてくれたのがいるからそれなりの数になりそうだな」

「産業としては、漁業、農業、工業、鉱業といったところだろうか?」

「そうですね。といっても鋼を売ることになる可能性は低いですが」

「ほう、何をするつもりかな?」

「大型の機械類を生産することになりますからね。ルイテルは知らなかったみたいだけど、イグナート山脈って結構色々な金属出るし」

「例えばどんなん?うち、サンプルにいくつかほしいかも?」


キーリーがそういうのでナギは瓶に入った鉱物を机に並べていく。

全て領内の鉱山からとったものだ。


「鉄、銅、鉛、ボーキサイト、ニッケル、クロム、コバルト、金、銀、亜鉛、エクトル鉱にウラン鉱。硫黄とリンも取れるかな」

「ウランって……」

「大丈夫、まだ使う気はないから」

「じゃあ、構わないわ」

「クレハ、ウランって何?」

「まだ教えないわ」

「えええ!?めっちゃきになるやん!」

「といっても相当掘らないと出てこないから大丈夫だと思うけど」

「大丈夫なの?」

「まあ、量もすごい少ないし。たぶん地球の埋蔵量よりも圧倒的に少ない」

「じゃあ、安心ね?」

「そもそも原子力利用の知識なんてないし……」

「あなたならやりかねないと思ったのよ」

「ひどい言いがかりだ……まあ、それはいいとして、管理がめんどくさいから村みたいな飛び地の集落は作らないようにして、中央の街に隣接する形で農業区を作る予定」

「まあ、その方が魔物の襲撃とかにも対応できるし、いいと思うけど、農業区二つも作るのかい?」

「ああ、土の都合でそれぞれ作れるものが変ってくるんだけど、東側は小麦大麦、イモ類に野菜類がメインだな。こっちは領内で消費しきる予定」

「となると西は輸出用かな?」

「そうだな。たぶん果物とかが育てられると思うんだけど」

「なるほどなるほど。果樹ならあてがあるから話してみようかな」

「ルイテル様、どうしてそんなに積極的に?」

「だって、ナギが取れたてのほうが美味しいっていうから」

「ナギさんの洗脳ですか!?」

「何で洗脳とか言われなきゃならんのだ。素だろこれ。とにかく、農業系は冬の間に農地作って人呼ばないとダメだな」

「そうだね。まあその辺は任せてトリカとかフォイゲとかイルマとか農業政策ダメなところから人引っ張ってくるから」

「任せた。その時は護衛にアーリックを出すから」

「任せろ」

「おー、じゃあ、ついでに帝国旅行と行くかい?」

「楽しみだな。パンドラも一緒でいいか?」

「ああ、問題ないよ。キーリーとアイヴィーさえいれば整備の方は何とかなるし。まだ、魔法使える人員がいるし」

「私たちも働くの?」

「魔物を駆逐してくれるだけでも助かるが」

「それならまかせなさい」

「うちは作ってる方が楽しいから付き合うで?」

「ならば私は鉱山の計画でもしておこう」

「助かります、アーケインさん」

「私は何か役に立つでしょうか?」

「アイヴィーには路面電車、“エクトール・トラム”の計画をしてもらいたい」

「面白そうですね」

「狭い領地だけど、開発地区が他の領地と比べて異常に広いから移動が大変かと思ってたけど、そうでもなさそうだね?」

「農業区の端っこからでも30分で中央街区に入れるようにするのが目標だな」

「それにも少し噛ませてもらおうかね」

「構いませんよ。どうせ共同開発して、うまくいけば帝都に売り込む予定だったし」

「あはは、我が弟ながら大変なことになりそうだね。絶対手伝わないけど」

「とにかく来週には移民してくれる皆も入ってくるし、それまでに最低限の家屋を用意していかないとな」

「私の部下たち、もとい、シュラインの部下たちのほかに、服飾なんかの職人もつれてきているから存分に使ってやってくれ」

「そんなに全部が全部連れ出したらリュリュの街空っぽになってしまうような……」

「安心してください、ジーナ。それでもリュリュの街には領主の親類とか中央から派遣されてきた兵士とかがいますから――まあ、小金は持っていても生活は崩壊するでしょうけど」

「ダメじゃないですか……」

「共和国からも王国からも結構な数が入ってきているみたいですね。これ、警備用の兵士とか足りるんですか?」

「それは大丈夫じゃないかな?士官希望の兵士は僕が選別したし」

「ルイテル様、いつの間に……」

「ペトラ、僕が軍事系の派閥に大量にコネ持ってるの忘れたの?」

「なるほど……それ、スパイとか大丈夫ですか?」

「いや、そんな危なっかしいやつじゃなくてシンプルに仕事ほしい優秀なメンバーを選んだからね。それに選任したのが僕だから裏切ろうなんて考える奴もいないと思うけど」

「警備系はしっかり揃えておかないとまずいしな。接してるシッファー伯とディースブルグ候とパウル子爵にはもう挨拶してるけど、他のとこからスパイとかいろいろ来るだろうし」

「領地接してる3人はとびぬけて頭良い新貴族だからね。パウル子爵のところからは木材なんかをメインに仕入れることになるだろうし」

「あー、こないだ話ししたときに紹介してもらったけど、結構家具とかがいい感じだったから迎賓館とかルイテルたちの屋敷、あとは警備隊とかの宿舎用の家具とか揃えてきてほしいだけど――だれか」

「そこは自分で行かないのかい?」

「いや、流石に宿舎用は比較的シンプルで機能性重視の奴を発注かけてきたけど」

「じゃあ、それも今度観に行ってくるよ」

「それがいいと思う。あんまりルイテル独占するとほかの貴族に文句言われるし」

「やれやれ、継承権捨てても面倒なことだね」

「ああ、忘れてた。教会2種類建てるからそれぞれの神官を用意してほしいんだけど、アーリック、パンドラ、伝手あったりするか?」

「私は一人思い当たる友達がいるわ。仲良かった女の司祭なんだけど、貴族とかに受けがよくなくて、あんまり出世できてない子が」

「オレも変わり者で良ければ、すぐに紹介できる。今の天神教会のトップの息子が外に出たがっていたはずだから誘ってみよう」

「アーリックのそれは大丈夫なのか?」

「地母神教の教皇がどうかは知らないが、世襲制でもないし、そもそも国内以外に信徒はいない。ついでに移民でも募っておくか?」

「移民は嬉しいが、今は国が立て直しの時期だからな……とにかく、そういう方針で行こうと思うんだけど、細かいところはこれから詰めていくとして――夕食にしようか」



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