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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#01黒の剣姫編
11/131

#scene 01-10

「私だけど、今少しいいかしら」

「え、ああ、待ってくれ」


とりあえず床に散らかした薬の材料を腕輪の中に突っ込み、ドアを開いた。


「作業中だったかしら?」

「いや、ひと段落ついたところだ。それよりどうした?」


ナギが問いかけると、クレハが着ていたシャツをまくり上げる。


「!?」

「……内出血。案の定、痣になったのだけど、ポーションで治るのかしら?」

「ああ、湿布薬は……これだな。貼っとけば三日ぐらいで治ると思うが」


湿布を6枚ほどクレハに渡す。


「それぐらいの怪我ならポーション使わなくてもいいだろう」

「女の子には死活問題よ?」

「んー……すまなかった」

「それよりも、その並べているのは……」

「え、ああ…………あー……」


片付けておけばよかったと後悔する。


「――まさか、そのたいそうな物を使わずに勝てるとでも思われていたのかしら?」


こういう展開が予想できたからだ。


「まてまて、これは今仕上げたところだし、まだ実戦で使えるような代物じゃない」

「本当に?」

「ああ、大地の神(アデライダ)に誓って。――明日にでも最終調整をする予定だ」

「とりあえず信じてあげるわ。それで、これはどういう武器なの?」

「どういうって……機巧魔法の装置を杖型に改造しただけだが」

「近接でもある程度使えるみたいね」

「まあ、エクトル鋼製だしそういう使い方も想定してるけど……」

「へえ……いいわね」

「……お前の得物、剣だろうが」

「棒術も少し習ったわ」

「ほんとにオーバースペックだな……本当に人間か?」

「人間だからお腹に痣作ってるのだけど?」

「……うん、それは反省してるけど」

「内臓とか大丈夫かしら……」

「一応その辺傷つけないように加減はしたし、ポーション飲んでるなら大丈夫だろ」

「一応信じておくわ」


そういうと、自分の脇腹に湿布薬を張り付ける。

まじまじと見るわけにはいかないが、なかなか良いスタイルをしている。


「ところで、」

「え、他にも何か?」

「これ、魔宝石よね?しかも結構な大きさで、高純度。どういう仕組みかは判らないけど、内部に金で刻印が入れてあるし……ここまでの物は初めて見たわ」


並べていた中から黒色の球体――時の魔宝石(クロックジェム)を拾い上げ、光にかざすクレハ。


「まあ、ここまでの物を作れるのは相当高位の錬金術師だけだな。それに、魔宝石だけでも仕事はするが、やはり内部に刻印を入れて初めて魔法発動の媒体として役に立つ」

「そういうものなのね、魔法は単発の加速術式しか使わないからわからないわ……これは?」


透明の球を拾い上げる。


「ああ、実験的に作ったんだけど全種類の魔石塊を混ぜて錬成したらできた。属性は“虚”らしい」

「貴方が創ったのに“らしい”って」

「視てみたら既にそう書いてあってな」

「万能すぎやしないかしら、その眼」

「戦闘力は皆無だけどな。ちなみにその“虚”属性だが、魔法を発動させるという用途には全く使えないことが判明した」

「……いったい何の役に立つのよ」

「まあ、いろいろ使い道はあるんだけど、」


機巧杖を腕輪の中に収納し、魔宝石も回収していく。


「その籠手みたいなのは何?」

「これか……何と説明したらいいか……まあ、まだ完成してないから完成したら教えてやろう。というか、部屋に戻らないのか?そんな薄着で男の部屋に来るもんじゃないぞ」

「さっきからその薄着の部分に視線が集中している気がするのだけど?」

「否定はしない。男だからな」

「そう」


部屋に戻る気はないらしく、ナギの部屋の奥へと入る。

そして、壁に掛けていた防具の前で足を止めた。


「まさかこれもエクトル鋼?」

「そうだが、そのエクトル鋼糸を編み込んだベストとコートを貫いたお前はいったい何なのだ」

「ただの女の子よ。ちょっとスペックが高めの」

「ちょっとどころじゃねーよ」


コートを壁からとると羽織って見せるクレハ。


「軽いわね」

「エクトル鋼糸も使ってるが地の魔宝石(アースジェム)使って術式刻んでるから相当の防御力だ」

「これ一着御幾らかしら?」

「素材だけで数百万Eはすると思うが」

「さすがにそんなに現金を持ち歩いてないわ。クロヴィス国際銀行(ぎんこう)に行けばあるかもしれないけど」

「へぇ……やっぱ冒険者ってのは儲かるのな」

「傭兵業の方が効率はいいのだけどね」


クレハはコートを壁に掛けると、ベッドの上に座った。


「いや、まだ居座るのかよ」

「久しぶりにまともな戦いをしたからハイになってるの」

「良く言うぜ、本気出してない癖に」

「―――その眼どこまで見えているのかしら?」


クレハのこちらを見る目がきつくなる。


「そんなに大した情報は得られないぞ?見えるのは身体能力とかそのあたりだな。基本的に対象の“価値”を測る眼だから」

「それで、どうして私が本気を出してないと?」

「職業レベルがLv.8に達すると習得できるのが“奥義”。基本的にこれは同じ職業の者は全員共通だ。しかし、この記録を残した共和国初代大統領のシン・カミナはLv.10の魔剣士だったらしいな。属性は水で彼が得た“超越奥義”は振るえば辺り一面が凍てつく大技」

「何が言いたいのかしら?錬金術師Lv.10」

「そうだな、剣術師Lv.10。どうやら、我々異世界人という生き物は技術習得速度が異常に速いらしい。そのぐらいしか特典はないが」

「あるじゃない、眼が」

「これはこっちの世界に連れてこられた慰謝料みたいなもんだろ。どうせなら身体の能力とか強化してほしかったわ」

「錬金術師では身体能力上がらないのかしら?」

「なんか集中力が上がった気がするけど」

「よかったじゃない」

「なんかしょぼくないか?ここまで動けるようにするのに日々どれだけ鍛えてきたことか」

「お疲れ様」


落ち込むナギに心の籠らない返答をするクレハ。


「なんだかんだ言っても、貴方も本気出してない――というよりも、さっきの杖も含めて本気出せてない状態だったのでしょう?」

「まあ、でも準備は整ったけどな」

「それは、再戦の意志有りという事かしら?」

「できれば戦いたくない、が」


一呼吸おいてつづける。


「お前ほどの人材は中々いないだろうから、是非仲間に引き入れたいと思っている」

「――まあ、どっちでもいいのだけど。それじゃあ約束の品はお願いね?」

「ああ」


部屋を出ていく彼女を見送ると、ナギはベッドに倒れ込んだ。


「再戦か………自分で言うのもなんだけど、オレ戦闘系じゃないんだよな」


そして、転がっていた籠手を装着する。

腕輪から真紅の魔宝石を取り出すと、籠手の表面に描かれた刻印の上に落とす。

ただの籠手に見えるこれは、かなり複雑でごちゃごちゃした機巧をナギが情報のみ残して再構成したもので、立派な機巧式魔力制御装置である。

しかし、この籠手。普通の機巧装置とは違い、魔法を発動するためのものではない。


魔宝石は刻印の中に吸い込まれ、その直後、3つの魔法陣が重なり合って展開され、歯車のように回転した後、カチリと止まって刻印の中に消えて行った。


その後30秒ほど天地がひっくり返ったかのような眩暈と凄まじい吐き気に襲われたが、どうやら実験は成功したらしい。

ただ、身体の内部から焼けるような痛みが来るので実戦で用いることができるかは謎だ。こればかりはしばらく慣らすしかないのだろうが。


魔宝石の効果が上手く働いているのを確認すると、ナギは新しい武器に製作に取り掛かった。


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