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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
108/131

#scene04-11




ナギがクレハとともに食事の準備を進めて2時間ほど経った頃、訪問者があった。

いつも通りペトラが対応したようだったが、ルイテルではなくまっすぐナギを呼びに来たため、一旦クレハに調理を任せて貴賓室へと向かった。

なお、料理の方は、本格的な懐石を目指したものの、二人ともさして知識がなかったため会席料理が出来つつある。


貴賓室には、ルイテルとアーケイン、それに宰相が座っていた。

シャノンがお茶を用意し、ペトラがそれを運んでいる。


「突然お邪魔して申し訳ない、ルイテル様、シュヴラン伯」

「今日はどうしたんだい、宰相」

「いや、結構な数の移民がシュヴラン伯領を目指して入国した様でしたので」

「ああ、もう入国してたんだね」

「といってもつい先日ですから、シュヴラン領に着くにはまだ1週間以上かかるでしょうね」

「シッファー伯にはご迷惑をおかけします。我が領地に行くには、伯爵の領地は確実に通りますから」

「いえ、それは構いませんよ。かなりの量の旅人が通過することになるのでうちの領地にもいくらかもうけが出ますから。それに粗暴な人間たちの集まりというわけでもないでしょうし、何グループかに分けて旅をしているようなので宿がパンクするようなこともないでしょう」

「その辺は気を付けるように言いましたので」

「ああ、そうでしたか、ありがとうございます――それで、ルイテル様、こちらの方は?」

「彼は、アーケイン・レヴェリッジ。そこにいるシャノンの祖父にあたる方だよ」

「ああ、あなたがあの……初めまして、ヴィリバルド・シッファーと申します」

「孫娘とその旦那がお世話になっておりますシッファー伯爵殿」

「いえ、シュヴラン伯には帝国の発展に大きく貢献してもらっていますし、彼のおかげで我が領地もその恩恵に会えそうですよ」

「そうでしたか」

「我が領地は、牧畜が盛んでして、準備が整えば、乳製品や肉類なんかを輸出する手はずになっています。是非ご贔屓に」

「それは楽しみですな。この歳になっても本当に美味い物は辞められませんから」

「ああ、そうだ、シッファー伯、この後、お仕事は?」

「はは、実はシュヴラン伯を訪ねるので無理やり切り上げてきました」

「そうでしたか、もうしばらく時間が掛かるのですが、今日は少し変わっていて、なおかつ凝った料理を用意していまして――お爺様の歓迎の意味も込めて」

「ほうほう、それは実に気になりますね」

「ですが、ここで伯爵だけお誘いすると、また奥様やお嬢さんに叱られてしまうと、」

「そうですね、そこがネックです。普段から家を空けがちですからね。そろそろ、宰相職を辞して領地に帰ろうとも思っているのですが。領地の方もあまり代官に任せっぱなしにしておくのも問題ですし」

「いっそご家族もご招待しようか、とも思ったのですが、流石に突然すぎて失礼になりますよね」

「そうですね、妻と娘の準備を考えると――ええ、ですがそれぐらいは急かしてきましょう」

「大丈夫なのかい?というかそこまでする?」

「ルイテル様はいつもナギ様や皆さんの作られた食事を取られているので感覚がマヒしてきているかもしれませんが、こちらの食事を食べた後だと、味に物足りなさを感じたり、城の料理が濃かったり薄かったりと色々と感じるようになりましてね」

「まあ、ナギやクレハの料理は科学的に味付けされているから、ベストな味を引き出しているのさ。それに、ハーブや僕らの見たこともない様な色々な調味料なんかで味付けされてるしね」

「そうだったのですか」

「特にあれだね、この前のビーフシチューは絶品だったね。結構いいワインをドバドバ使ってたけど。ああ、そうだ、屋敷の料理人連れてきたら?味盗めるかもよ?ナギ、人数は?」

「料理人2,3人なら余裕あるよ」

「またとない機会ですね、では少し失礼して一度屋敷に戻りますか。1時間後に妻と娘含めた6人でお邪魔してよろしいですか?」

「はは、何だかレストランみたいになっているけどまあ、構わないよ」

「そうですね、お代としては、そちらの工房の皆さんと、アーケイン氏の移民の手続きをすべて城でやらせておきます、というのはどうでしょう」

「それは助かります。あ、これ、御爺様から預かっている出発した移民のリストです」

「確かに預かりました。それでは、一度失礼します」


ナギから紙を受け取ったシッファー伯は一礼して部屋を出ていった。


「なんか、ルイテルも含めて、本当に貴族?」

「いやいや、ナギの作る物は特殊なのが多いし、クオリティも高いからね」

「まあ、腕は一流とは言わないけど、食材に関してはいい奴を選んでるからな。さて、シャノン、食堂をいじるから手伝ってくれ」

「ええ、わかりました」


ナギはシャノンを伴って部屋を出て、食堂へと入る。


「ルイテル君、“食堂をいじる”とは?」

「ああ、ナギの趣味で、食事に合わせたテーブルだったり、皿だったり、カトラリーだったりを揃えるんです。ナギの錬金術があれば部屋の壁紙を変えるのもたやすいですから」

「食事に合わせて部屋をリフォームするとは、贅沢な話ですなぁ」





結局のところ、デザインを決めきれなかったナギは、クレハとキーリーの意見も聞きつつ部屋を改装した。

食事はクレハによって順調に作成されていたので、ほぼほぼ完成しているが、貴族のお客様が来るという事はその従者も少なからず来るという事であまりの食材で簡単な料理を作りつつ、シャノンとキーリーに今日のメニューを解説していた。


「なるほど、これが本物の和食ってやつ?」

「まあ、あった食材で作ったから完全とは言えないけどな」

「前菜は煮物系で、吹き寄せっていうんだっけ?こういうの」

「まあそうだな。根菜と茸しかなかったけど。吸い物は貝、煮物は鯛だな」

「流石にワイバーンの陶板焼きとかいう料理は初めて作ったわね。あとは小鍋と天ぷら……どうでもいいけど、この青い固形燃料わざわざ作ったの?」

「本当はお凌ぎも作りたかったけど、刺身にできるほどいい魚がなかった」

「お酒は、日本酒?」

「そうだな。一応、白ワインも用意してあるけど……これ合うかな?」

「どんな感じ?」

「ちょっと飲んでみるか?」

「いいの?」

「いやいや、これからお客さん来るのに飲ましたらあかんやろ……それより、クレハもシャノンも着替えんでええん?」

「そうですね、一応着替えましょうか」

「そうね」


といっても、ここの女性陣の準備は早いもので、20分もしないうちにそれなりの格好に着替えて出てきた。そして、他のメンバーも食堂に集まっていく。

全員が集まった直後ぐらいに、シッファー伯が妻と娘を連れて到着することになる。





シッファー伯は、自分の帝都の屋敷に着いてすぐ、料理長を呼び出し、適当な部下二人と正装をして出かける準備をしておくようにと、声を掛けた。

そして、自分の妻と娘の待つ部屋に向かう。


「あら、あなた。はやかったんですね」

「すまない。少し予定が変わってね」

「……まさか、お仕事ですか?」

「まあ、そのようなものだよ。コレット、フローラ、悪いが出かける準備をしてくれ、夕食に行く」

「突然ですね」

「ああ、シュヴラン伯と進めていた事業の足がかりができたのでね。そのお祝いと、重要人物の歓迎も兼ねてシュヴラン伯が変わった料理を作ってくれるというのでね」

「なるほど、そうですね。それは少し気になります。先日戴いたものも美味しかったですから」

「それに、ルイテル様が、うちの料理人を連れてきていいと言ってくれてね。存分に味を盗んでもらおうかとね。悪いけれど突然お邪魔することになったからなるべく急いで準備をお願いしていいかな?」

「なるほど、それでは急いで準備をしましょうか、フローラ」

「え、はい、お母さま」


「――ふむ、美味しいものが食べれればまたいくらか二人からの私の評価もあがるかな?」


余談だが、シッファー伯曰く、この時ばかりは、いつも掛けている時間は何なのかと思うほどに手早く準備を終えたらしい。


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