#scene04-10
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ログハウスを片付け、船着き場に着いた一同は、その船着き場に予想よりも多くの人間たちが待っているのを見る。商人たちが多いようだが、なぜこんなところでたまっているのだろうか。見た感じここで夜を明かした人間もいるようだ。
「何かあったのかしら?」
「王国で内乱始まったから急いで逃げようとしてるんだろう」
「ああ、そういえば内乱とかしてたわね――もう終わったけど」
「素で忘れてたん?」
その時、先頭を歩くナギの姿を見てひとりの男が、船を待つ商人たちの集団の中から出てくる。
「お久しぶりです――いや、久しぶりだ。ナギ殿」
「おっと、偶然だな。そろそろ声を掛けようかと思ってたところだ、ヴァルラム・ベイリー」
「そうだったのか。お世辞だとしてもそれはありがたいことだ」
「最近の景気はどうだ?」
「厳しい。内乱のせいで戦闘用の機巧装置が売れる。そのせいでサイアーズの勢力がどんどん強くなっていってる」
「なるほど、法国の内乱はまだ落ち着きそうにないか……」
「こうやって地道に王都まで来て商売していたらこちらはこちらでテロに巻き込まれてな」
「そりゃ大変だ……といっても、テロは今しがた鎮圧されたようだがな」
「本当か?――それよりも以前見た時よりも随分と人が増えているが」
「ああ、今日のところは全員付いてきてるからな。それよりも、ちょっと、大規模な商売しようと思うんだが、帝国方面に伝手はあるか?」
「むしろ、今は帝国との取引をメインで行っている。特に大きな問題がないそちらは部下に任せて、私はサイアーズに喧嘩売りに来ているというわけだ」
「なるほどなるほど……だが、帝国方面との貿易とかかなりしんどいんじゃ?」
「法国内から売れる商品もかなり少なくなっていますし、何より貴族が色々とちょっかいを掛けてくるので」
「商売の話になると少し丁寧語になるのが面白いな。まあ、いいや。帝国内に伝手があるならオレのところ来ないか?さっきも言ったけど大きな商売しようと思ってるから専門的な商人がほしくてな」
「以前は、領地無しの男爵だと言っていたが、流石の私も部下たちを飢えさせることはできないのだが」
「いや、最近伯爵になって領地貰ったから問題ない。まだ、街の開発も随分しないといけないから、資材を調達してくれるならオレからもじゃんじゃん金払うぞ?」
「なるほど、それで基盤が整ったらうちの販路を使って商売を拡大していくという事か?」
「まあ、そういう事。といっても、いろんなもの売り出す気だから新規顧客も開拓してもらわないといけない」
「それなりの難易度が伴うな……」
「だが、一つ。大きな取引相手として、“ヴァルデマル帝国”を確保してあるから早々に不調になることはないと思う」
「なるほど、そこから儲けるかどうかは我々の腕次第という事か」
「そう言う事だ」
「……一度、領地にお邪魔したいと思う。なんにせよ法国の北部か、帝国の方へと移住しようと考えていたからな。世話を焼いてもらえるというなら、是非甘えたい」
「やはり、南部はもう?」
「サイアーズ商会は中々手ごわいな……真っ当な方法ではもはや勝てない」
「……兄が随分増長しているようで、御迷惑をおかけしています」
ナギの隣へとやってきたアイヴィーが軽く頭を下げる。
「……ナギ殿、この方は?」
「アイヴィー、という。元サイアーズ家の人間だ。サイアーズから攫ってきたから今はオレの嫁だが」
「アイヴィー・シュヴランと申します。元はサイアーズの人間でしたが。私はあの家がそれほど好きではありませんので」
「なんだか複雑な事情があるようですな」
「まあ、色々あるんだよ。まあ、部下たちにも説明があるだろうし、今すぐ来いとは言わないけど、街の整備が整う前に来てくれれば、店の一つぐらいはこちらで用意するよ」
「なるべく早く話をまとめて来よう」
「――で、話は変わるんだけど、なんでこんなに混んでるの?」
「法国の内乱のせいで連絡船も混んでいて……」
「なるほど……仕方ないから自前の船で行くか」
「おっ、あの高速船だね?」
「ルイテル君、高速船とは?」
「ナギが作った機巧エンジンを積んだ船ですよ。かなり速いですよ」
「ほう、それは楽しみだ」
「またあれですか……」
「余裕があれば、ヴァルラムたちだけでも乗せて行ってやろうと思ったんだが、今ちょっと諸事情で法国が通れなくてな」
「そうだったのか。まあ、ヴェルカ人もいるようだし仕方ないか」
「そう言う事だ。無用な混乱に巻き込まれるのは遠慮したい。とりあえず、出るときにでも連絡をくれ」
「ああ、以前貰った番号にだな?」
「あと人数とか、家庭数とか教えてくれると、こちらで貸せる部屋の確保ができるかもしれない」
「わかった――ということは、部下の家族たちも面倒見てくれるのか?」
「嫁さんや子供だけ法国に置いていくことも問題あるだろう。それにうちの領地は圧倒的に人がいないから移民は大歓迎」
「そう言う事か」
「とりあえず、かの有名なレヴェリッジを全部買い取ったからそれなりの人数は増えたけどな、じゃあ!また!」
「ああ――ん?今衝撃的なことが聞こえた気が!?」
旧来のネストリ湖連絡船では、王国からレムケまで移動すると確実に1日はかかるが、船から眺める風景だとかそんなことを一切合切無視したナギの高速船ならば3時間ほどで着く。
ペトラは若干ぐったりしていたが、アーケインは元気だった。
ヴァルラムと別れて2時間半でレムケの港へと付いた。それなりに朝早く出ているため昼前には到着し、そのあと、休憩もなしに帝都までバイクを飛ばした。
ペトラの眼から光が消えたが、それ以外はみな元気だった。
「ペトラ、おーい、大丈夫かい」
「ひゃい、だいじょうぶれしゅ」
「……ダメそうだぞ」
「パンドラ、治せるかい?」
「まあ、治せるとは思うけど……これ精神的ショックの方が大きくない?」
「私がやる?」
「……エレノラさんは勘弁してください」
「ここが、帝都での拠点なのかね?」
「はい。ルイテルの持ってる屋敷の中で一番小さいやつですけど」
「玄関を入ってすぐに昇降機が設置されているな。これはアイヴィー君のために?」
「ええ、そうですね」
「お爺様、他のお部屋にもいろいろな機巧装置が設置されていますよ。ナギ様とキーリー、アイヴィーが全力で改造していましたから」
「なるほど、それを見せてもらうのも楽しみだ」
「とりあえず、ここまで強硬でしたから何日か休みましょう。手続きを片付けつつ帝都観光でもしてください」
「そうだな。そうさせてもらおう」
「御爺様、まずはお部屋に。その後はお風呂などどうでしょう」
「風呂まであるのか」
「ええ。ナギ様こだわりの大浴場が」
「昼食は適当に済ませてしまったので夕食は少し頑張って作りますよ。お風呂の後は遊戯室で適当に時間をつぶしていてください。キーリーに工房を案内させてもいいですが」
「工房はナギ君のいるときの方がいいだろう。遊戯室というのも気になる。ルイテル君が言っていたビリヤードというものがあるのだろう?」
「ええ、他にも色々おいてますよ。時間つぶしにはピッタリです」
「それは楽しみだ」
「遊戯室にはいくらか酒とか、紅茶もおいてますからご自由に飲んでください」
「酒は、せっかくだが遠慮しておこう。あまりいい酒を見せられると調子に乗って料理の前に泥酔してしまいそうだ」
「そうですか。お爺様にしては珍しい」
「そんなことはない。さあ、シャノン、部屋はどこを使えばいい?」
「階段を上ってすぐ左手の部屋、客室1と札が掛かっているところへどうぞ……といっても、荷物は私が持っていますのでご案内しますが」
シャノンがアーケインを連れて二階へと上がる。
風呂の方は先ほどクレハが男湯の方も用意してくれていたので問題ないだろう。
「さて、と。少し凝ったものを作るか」
「何を作るの?」
「おお!?いつの間に!?」
「なんで驚いてるのよ……」
「クレハ、普通は背後に立たれると驚く」
「で、なに作るの?手伝うわ」
「今日は懐石」
「……それは少し凝ってるわね。というか大変ね」
「だろう?」
「じゃあ、早速取り掛かりましょうか」
「……あのう、その前に、私の部屋はどうすれば?」
「あ、そういえばジーナの部屋ないんだった」
「仲間だからある体で動いてたわ」
「複雑な心境です」
「とりあえず、私の部屋使う?どうせ私ナギの部屋で寝るし」
「……お言葉に甘えていいのやら悪いのやら。ああ、でも、ナギさんの婚約者になったからには、ここは私がナギさんの部屋で一緒に寝るって言った方がいいのかな?うーん……いや、でも、そんな、心の準備が……」
「……うん、無理しないで私の部屋使いなさい」
「……はい」