#scene04-07
壁を垂直に走って上っていたナギとクレハは、上から聞こえる銃の音がやんだのを感じた。
已然としてドラゴンは城の周りを飛び回っている。
「クレハ、あのミトより小さいトカゲ斬れるか?」
「当然」
クレハが一気に加速して小さくなる。
「さて、オレも行くか」
◆
ソウタは血を吐きながら、階上のほぼすべてが吹き飛んだ広間に転がっていた。
「Lv.8でも上位といったところ、なかなかだったな」
「くっそ、Lv.9ってなんなんだよ!ここまでちがうもんか!?」
「レベル差とはそういうものだ。お前、私のところに来るか?」
「断る!テロリストなんぞの仲間になる気はねぇ!」
「ならばここで死ね」
「くっ」
その瞬間、突然ソウタの隣に現れた黒い男が、ドラゴニアの槍を掴み、砂に変えた。
「!?――貴様、何者だ!?」
「おい、オッサン。一つ聞きたいんだが――」
窓の外で竜の絶叫が聞こえた。
「――竜騎士っていうのは竜がいなくなったら何になるんだ?」
ザッ、という音とともにナギの背後にクレハが現れ、ドラゴニアに向けて彼の愛竜の首を投げた。
「大したころなかったわね。ワイバーンと変わらないわ」
「まあ、所詮はトカゲだし……おい、ナカハラ君だっけ?なんか地味に死に掛けてるけど大丈夫か?」
「……大丈夫じゃ、ねぇ」
「大丈夫そうね」
「大丈夫そうだな」
「……………」
ドラゴニアは口を開かない。
呆然と立っている。
「まだ、竜が死んだことを信じられないのか?」
「……貴様ら」
「戦争しに来たのはお前らなんだから、これぐらいで恨まれてもな」
その時、形だけ残っていたドアをノックしてシャノンが入ってくる。
「失礼します、ナギ様」
「おう、シャノン。調子はどうだ?」
「絶好調です。ああ、そちらの方にお土産です――ロド」
「はい」
ロドが槍の突き刺さったままのザンクスの死体をドラゴニアに向かって投げた。
それをまた呆然と眺める。
「嘘だ」
「は?」
「こんなのは嘘だ!なぜここで俺が負ける!?」
「そんなこと言われても、お前らのギルド、思ってたほど強くなかったぞ?」
「もう斬っていいかしら?戦う気がないなら黙ってほしいのだけど」
「ザンクス!ザンクス、起きろ!」
「いや、どうみても死んでるでしょ……」
「おーい、ナカハラ君、ここに最高に苦いポーションと最高に甘い毒薬があるんだけど、どっちがいい?」
「ポーション、ください……」
ナギはもはや目の前の男に興味を失っている。
クレハも同様だ。
シャノンはため息をつき、アリンは怒りをこらえている。
そして、顔をしかめながらソウタが起き上がった。
「ナギさん、これ、マジでまずいじゃん……」
「マズさを追求した試作品だ」
「賢い人ってたまに意味わかんないことするよな……」
「で、ナカハラ君。この男どうする?」
「どうするって言っても、オレじゃ勝てないし」
「いや、竜死んだからその加護系とかもなくなってLv.4ぐらいの騎士になってるぞ」
「えええ!?そんなにかわるもんなの?」
「まあ、どこで見つけてきたのか知らないけど、竜ってのはそれほど強いもんなんだよ」
「それほどのやつをあっさり殺したこの美人さんは?」
「オレの嫁だ。ロリコンのナカハラ君には関係ないかもだけど、手出しやがったら殺すぐらいじゃ済まないからな」
「その疑惑いつ晴れるんだよ……」
「ソータ!生きてる!!?」
部屋にクラリッサが駆け込んでくる。
そして勢いよくボロボロのソータに抱き着いた。
「よかったぁ」
「ほら、ロリコンじゃん」
「疑いようもないわね」
「リュディには近づかないでくださいね」
「ってええ!?まだ生きてる――けど、どうしたのこの人」
「なんかナギさんたちが一瞬で自分の愛竜と自分の右腕片付けちゃったから呆然自失みたいな?」
「え?あんたはなんもしてないの?」
「オレは死にかけてたところをナギさんに助けてもらっ!?」
「あああ、本当にありがとうございます!シュヴラン男爵!」
「あ、こないだ伯爵になったよ」
「シュヴラン伯爵!」
「まあ、いいや、アリン。こいつ拘束して。どうするかは女王陛下に任せよう――ルイテル、作戦終了。城まで来れるか?」
『ああ、いったん炊き出しは終了しようかな』
「結構楽しんでるな」
『まあ、王族のままだとできないことだからねぇ。すぐ行くよ』
『うちは門とか道とかその辺修理してるわー。エレノラだけ借りてええか?』
「いいけど、エレノラに何させるんだ?」
『一人でやってると暇やねん』
「……エレノラあんまりしゃべんねぇじゃん」
『あっ……』
「キーリーもとりあえず、合流しろ」
『あんま、城とか王族とか好きやないんやけどなぁ』
「言われてんぞ、ルイテル」
『僕は元だから』
数十分後。
軟禁されていた侍女や兵士たちを開放したのち、ほぼ完全に復元された大広間でナギたちと王+一部貴族たちが向かい合っていた。
「今回は本当に助かった」
「いやいや、アリン達を王都に潜ませておいてよかった」
「そやつの首は中々の値段がついてたいと思うが、どうする?」
「とりあえず、処断は女王陛下に任せる」
「報酬は……」
「先に王都直してから言いなよ」
「わかった。だがきっと今回の件についての報酬は払う。ソータとクラリッサにもな」
報酬が出ると聞いて喜ぶソウタとクリッサ。現金な奴らである。
「はっはっは、女王陛下。高くつきますよ。覚悟しておいてくださいね」
「しかし、この男。どうしてこんなにもふさぎ込んでいるのだ?もっと横柄な奴だったと思うのだが」
「ほとんど負けを経験せずにここまで来たのに、今回ほぼ全滅ですからね。心が折れたのでしょう」
「なるほど。まあ、おとなしい方がよいか。私としてはこんなものか。エヴラール王は?」
「私も感謝と報酬を与えたいところだけど、金がなくてね。まあ、貴公がうちに来てくれれば侯爵待遇で迎えるぐらいのことは指定もいいが」
「エヴラール様、流石にそれは……」
「アーヴィン、じゃあ、どうやってこれに報いろというのだ?――ああ、そうだ。話は変わるが、アーリック、久しいな」
「お久しぶりです、エヴラール2世陛下」
「お主にはいろいろと聞きたいこともあるが、ひとまず感謝する――ヴィオレット女王、後は個人的な話になりそうだ」
「ああ、そうだな。それでは後は会議室で」