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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
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#scene04-05



一同が街道に出て、バイクの準備をしていると、背後から大勢の人間と馬の悲鳴が聞こえてきた。

いったい何をやっているのかと振り返るとそこには見知った顔がある。


「マチルダ、どうかしたのか?」

「いえ、お気になさらず。馬の乗り方も知らない猿が馬と一緒に転んだだけでしょう」

「マチルダ、あなたがわざわざ出てきたという事は何かあったんですね?」

「はい、シャノン様。先行して王都に潜入していたアリンから連絡がありました。ルーツとの講和会議中に元貴族の残党とそれに雇われた“蒼き太陽”が攻撃を開始したと」

「……それは本当ですか?」

「はい。現在アリンたちは女王陛下の保護を優先して動いております。あと、太陽ですが、前国王と契約があったようでして、それが破棄されたのにお怒りのようです」

「すまない、御爺様。優雅なランチは楽しめそうにない」

「わかっておる。一大事じゃ」

「王都に向けて全速で進む!流石にこれはひどいし、見過ごすのもな」

『了解』


全員が武装を準備し、返事をした、が、


「ルイテルとペトラは留守番ね」

「えええ!?そんな」

「ルイテル様、自重してください」

「流石によその国の元王族に介入させるのは……」

「気にしなくていいのに。というかみんなの活躍が見たいだけなんだから。僕は基本的に戦わないからさ。そう、リュディとアーケイン氏の護衛に徹するよ」

「まあ、二人の護衛は必要だけどさ……街道に置き去りにするよりはそっちの方が安全だろうし」

「よし、話はまとまったね?じゃあ、僕とペトラ、リュディとアイヴィーは適当なところで拠点創って待機ね?」

「……テオ、悪いけどこいつの御守を頼む。前に行きそうになったら殴っていい」

「了解しました」

「信用なくない!?」

「ルイテル様、当然の結果かと」

「ペトラがつめたい!?」

「よーし、行くぞ。特に、ジーナとアーリックは知り合いもとい親族がいる可能性があるんだし」

「ああ、もしかしたらお父さんが……あ、これ急がないとやばいじゃないですか!?」

「だから言ってるだろ。さ、全員移動準備。アーケインはオレの後ろにどうぞ」

「ほう、これが移動用の新型機巧か」

「お爺様、今は遠慮してください」


「アーリック、あなたの知り合いがいるかもって?」

「ああ、うちの家族は前王家の護衛をしていたからな。こういうときは前に出てくるかもしれん」

「なるほどね」





王都の様子は最悪だった。

住民たちにしてみれば、やっと貴族の支配が緩和されたというのに、ふたたび品性下劣な奴らが戻ってきたばかりか略奪まで始めたのだ。

蒼き太陽の連中は、元貴族の残党に比べれば全然マシであった。むしろそういう輩を見かねてこちらを助けてくれることさえあったが、城を責め立てる様子は見ていられなかった。


「おい、アルティエリ。しばらく見ないうちに腕なまったじゃあねぇか?」

「うるせぇよ、リッター。近衛にいたくせに今まで何にもできなかった奴は黙ってろ」

「オレぁ姫様逃がしたり隠蔽したりしてたぜ?さすが、クソ子爵に娘取られそうになった奴はちげぇな!?」

「てめぇ後で覚えてろ」


襲ってくる雑兵たちをなぎ倒しながら槍を持った2人の騎士が奮闘する。



「いやあ、父上。まさかこんなことに巻き込まれるとは」

「仕方ない。陛下をお守りするためにも少し剣を振るうか」

「キレないでよ?父さん」

「お前もな、アーヴィン」


王宮のエントランスの正面扉が、青い傭兵によって破られる。


「いやはや、妹を連れてこなくてよかった」

「それは確かに」


老いた騎士が、大剣の一振りで正面の傭兵たちを一掃する。


「こりゃ、何時間も持たんかもしれんぞ……」



すでに襲撃開始からは1時間程度経過している。

蒼き太陽の幹部連中が参戦してからというもの、こちらの兵は消耗するばかりで城内にも安全な場所はない。


「ヴィオレット様!まだ生きていますか!」

「ちょっと、ソウタ!失礼でしょ!あと、今はルーツの王様もいるんだから!」

「よい。ソータ、戦況はどうなっている?」

「どうもなにもひどい有様ですよ。ここに来るまでに何人か中尉だ准尉だかの軍人みたいなのを何人か倒しましたけど」

「ヴィオレット女王、どうやら一番来てほしくない奴が来たようですよ」

「エヴラール王、なにかとっておきの術式とかはないか?」

「そう言うのは城の持ち主に聞きたいところですけどね」


会議室で向かい合って座りながら、君主二人はそろってため息をついた。


「いやいや、消沈してる場合じゃないでしょ!?」

「ソータ、やばいよ!ドラゴン!初めて見た!」

「いや、クラリッサ、そこじゃなくない!?」


ドラゴンの咆哮よって会議室のガラスが震え、割れた。


「おい、ガラスは高いんだぞ?」

「イネス国王とは思えぬ言葉だな」


竜の背には大きな槍を持った男が座っている。


「“元帥”ドラゴニアか」

「そうだ。といっても、まあ、それは偽名だがね」

「さてさて、どうしたものか。あの男は死んでも祟るとはまったく」

「ここはオレが!クラリッサ!2人を」

「え!?無理よ!だって、竜騎士よ!?流石のアンタでも無理!」

「やってみなきゃわかんねぇだろ!」


ソウタは二丁の銃を構え目の前に浮いている竜騎士に放った。





広場のど真ん中の壊れた噴水の前に陣取ったルイテルたちは、たまに襲ってくる落ちぶれた貴族たちを狩りながら、住民たちの救護をしていた。


「さて、さて、みんな、調子はどうかな?」


無線機に向かってルイテルが問いかけると、すぐに爆音が返ってきた。



エレノラとパンドラは王都周辺に待機していた雑兵たちを焼き払っていた。

相手は集団で襲ってくる。基本的に前衛のない術師などいい案山子でしかないが、彼女たちは術行使のスピードが尋常じゃなく速い。


「火炎波」「鎌鼬」「水槍」「禍風」「魔槍」「雷針」「氷晶」「白雷」「「氷晶千華」」


怒涛の勢いで発動される魔法に、剣士は近づくこともできず、術師も火弾(フレイムショット)も撃てずに吹き飛んでいく。


「この人たち大したことない」

「ナギさんが外にいる奴らは大勢が決してから中に入ってこようとしてる腰抜け没落貴族だっていってたわよ」

「なるほど。通りで弱いわけ」


すでに死屍累々。逃走を始めている没落者たちに向けて数発魔法を撃ち込んでエレ小野らとパンドラはルイテルに返事をした。


「こちら、パンドラです。とりあえず、適当に散らしておきましたよ」

『お疲れ様。まあ、そいつらは放っておいても別に何ともなかったんだけどね』

「だろうと思いました。まあ、使い捨ての魔導書(グリム・タグ)の実験ができて良かったですが」



「ルイテル殿、グリムタグとは?」

「ナギがあの二人と作った兵器ですね。なんでもあらかじめ何件か術式を読み込ませておいて、消費していくみたいです。通常の機巧魔法と併用すればほぼ隙なく魔法を撃ちづけられます」

「それはすごいな……」

「欠点があるとすれば信じられないようなコストがかかることと、ナギにしか作れないことでしょうね」



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