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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#01黒の剣姫編
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#scene 01-09

こちらの世界は食文化がそれほど発達していないようで、少なくともナギは焼く、煮る以外の調理方法が取られているのを見ていない。

パン酵母はさすがに存在していたが、街から外れるとその文化もあまり浸透していない様だった。

本日の夕食は熊バーグ(ナギ命名)とオニオンスープ(ただし具は玉ねぎのみ)。

ナギが用意した凝った皿に盛りつけたためそれなりの物に見える。


「す、すごいです……少なくとも見た目は美味しそうです」

「ジーナ、貴方喧嘩売ってる?」

「明日買い出しするとして……肉類はやっぱり狩って来るしかないか……いや、でもこの町で野菜買うと高いんだよな……」

「ナギさん、完全に思考パターンが主婦になってますよ?」

「あら、割といけるわね。熊」

「だろう?」

「……お二人とも自由ですね」


ジーナが恐る恐る料理を口に運ぶ中、ナギとクレハはこの料理について改善点を上げているようだった。

こんな風に凝った調理をされたものを食べたのは久方ぶりのジーナにとってはこれでも人生においてかなり上の美食になりえるのだが、2人は満足していないらしい。


「……やっぱり、柔らかさが微妙なんだよな。ステーキにして食ったけど靴底噛んでるのかと思ったもの」

「そうね、もう少し脂身が欲しいところね。共和国では牛の肥育やってるみたいだけど……かなりいい値段するのよね」

「そうだったな。金溜まるまでは魔物の肉でいい奴がないか探してみるか……」

「それより、このコンソメ、作ったの?」

「ああ、それなりに苦労してな。いるか?」

「ええ、いくらかしら?」

「銀貨20枚」

「15枚にしなさい」

「わかったよ」


無意味に凝った紙の箱に入ったそれをクレハに渡し、銀貨を受け取るナギ。


「あと、入用なものはあるか?自分で言うのもなんだけど、結構何でも作ってるぞ?」

「そうね……髪が傷んでるのをなんとかしたいのだけど、定期的にお風呂に入れる世の中ではないし……」

「まあ、それはあるな。一応、シャンプーとか作ってるんだけど。なんかレオナルあたりに伝わってる薬草が肌にいいとか髪にいいとかでそれを使って作ったシャンプーとコンディショナーと、洗顔にボディーソープ?」

「……なんで最後疑問符つけるのかしら?」

「気にせんでくれ。あとやろうと思えば化粧水とか作れなくもないが……」

「そう、じゃあ全部お願い」

「……時間かかるぞ?」

「3日ほど滞在するつもりだから」

「3日で作れと仰る」


ナギが手持ちの素材を確認しながら、不足している物をリストアップしている。


「費用はどれぐらいかしら?」

「そうだな……正直金貨数枚は出してほしいところだが」

「3枚ね」

「今回は特別にそれでいいだろう……とりあえずこれ使ってみるといい」


クレハに硝子の小瓶を渡す。


「アルコールにアロエとかローヤルゼリーとかコラーゲンとかをいい感じに混ぜた奴だ」

「雑な説明ね。もう少し何とかならないものかしら?」

「一応日焼けとかにも効く感じに作ってるんだが、肌弱いと負けるかもしれん。調整するから今日寝る前にでも手の甲にでも少し塗ってみてくれ」

「わかったわ」

「……ナギさん、ほんとに錬金術師なんですねぇ」

「……まだ疑ってたのか」


ナギが呆れた様子でジーナを見る。


「今日の戦いぶりを見ても、私が見てきた魔術師と比較しても遜色ないほどでしたし……」

「そりゃ、使ってる属性が特殊なだけだって……」

「というか化粧品って錬金術師が作るんですか?」

「まあ、これも薬みたいなとこあるし……。科学的根拠のないような奴なら別に錬金術師じゃなくても作れるけどな」

「科学?」

「まあその辺は気にするな。じゃあ、オレは部屋に戻るけど。いろいろ作らないといけないし。おっさん、あとで湯持ってきてくれ」


ナギがそれだけ言うと食堂を出たところにある階段を昇っていく。


「わかった。それで、そっちの黒髪の御嬢さんは泊まりでいいのか?」

「ええ」

「……自分で言うのはなんだが、“剣と車輪”の向かいに上等な宿があるぞ?」

「大丈夫よ。寝れればそれでいいわ」

「嬢ちゃん、逞しいな……」

「えっと、それじゃあ私は下宿に帰りますね。どうも御馳走様でした」

「ええ、また明日会うと思うわ。その時はよろしく」

「はい、“青い翼”にてお待ちしています」


一礼して去るジーナを見送り、クレハも鍵を受け取り部屋へと向かうことにした。


                  ☽


「さてと、」


ベッドと机以外何もない部屋の床に直接座りながら、ナギは材料を並べていく。

ポーションと言えども、スキルで簡単に作れるようなものではない。

乳鉢やビーカーといった器具を並べる。

一応、主人に気を使って臭いの強い薬草などは使わないように心がけているが、大体そういう種類の薬草は効果が強い物である。

なるべくそう言ったものを使わないようにすると、余計な手間や、かなり貴重な代用が増えることになるのだが。


「薬系はなまもの使うせいで完全複製もできないんだよな……」


鉱石だけの扱いであれば、今日決闘の中で見せたように、簡単に生成することができる。

しかし、何でもというわけにはいかない。一度己の手で作った物や、設計がある程度簡単で部品の少ない物それもある程度は構造を把握してないければならないなどかなりの制約がある。


「たしかネストリ湖で汲んできた水がまだ何リットルかあるはずだから、これをベースに……」


乳鉢にいくつかの材料を放り込んですりつぶしていく。

始めは濁った緑の汁だったが、だんだんと色が澄んでいき、空色になる。これで完成だ。

大量にストックしてあるガラス瓶に注ぎ蓋をする。

昼の戦いでずいぶん浪費したためできるだけ備蓄分も作っておきたい。


次のポーションを創ろうと材料を用意したところで、扉がノックされた。

扉の向こうから声がする。


「湯、おいておくぞ」

「ああ、ありがとう」


すぐに扉を開け、廊下におかれた湯と乾いたタオルを回収する。

そういえば、着替えもせずに作業をしていたことを思い出す。

上着と下に来ていた防弾防刃のベストを脱ぐ。

どちらもエクトル鋼を極細に加工した糸を編み込んである。軽いが、そう簡単には刃は通らないはずだ。

しかし、昼間確かに腹を貫いたあの剣。

やはり、ヒューゲル流というのは凄まじい物なのか。


ついでに服の斬れた部分を補修し、タオルに湯を含ませ体を拭う。

一応日本人としての習慣が体に染みついているため本当は風呂に入りたいところだが、贅沢はいえない。

寝巻用のシャツを着て、作業を再開する。

ポーションを含む薬全般を統べて創り終えると一時間ほどたっていた。

夜もだいぶ更けてきた。

上着のポケットに入っている懐中時計を確認したところ22時を過ぎたところである。


一度背伸びをすると次の作業に取り掛かる。

この街に来てから少しずつ進めてきた自らの“武器”の最終調整だ。

取り出したのは杖。

ただの杖ではない。全面的にエクトル鋼が使われ、強度としてはこれ以上の物はなく、魔力との親和性も高い。

そして、何よりの特徴は頂点部分に取り付けられた機巧。

魔力を増幅し、魔法の効果を増幅し、機巧魔法を操る、ナギ専用の杖である。


そもそもこの世界の魔法とは不便なもので、1人1属性しか扱うことができない。それはどんな英雄でも、例外ではない。

しかし、共和国初代大統領の発案によって、人類はその壁を越えた。

“機巧魔法”と呼ばれるそれは、とてもシンプルなシステムである。

まず、魔物の体内で生成されたり、地脈の集中する地点で採掘される“魔石塊(ブロック)”を錬金術師が精錬し魔宝玉(ジェム)と呼ばれる物へ変える。

それに魔法陣を刻み、魔法を発動させる補助をする機巧にセットし、魔力を流すことで魔法を発動する。

ただし、この最後の段階で使用者の才能が問われることとなる。


“魔力”を“魔力”として扱えるか。


魔力を魔力そのものとして、つまり自分の持つ属性と完全に分離して扱うことができるか否かでこの機巧魔法の適性が決まる。

訓練すればだれでもある程度はできるようになるのだが、大量生産の難しい機巧は高額で、さらに各属性の魔宝石もそれなりに値段の張るものである。

わざわざ訓練してまで身につけようとするものは少ない、というのが今の現状である。


機巧杖と共に並べるのは火・水・風・地・聖・魔・時・幻の各属性の魔宝石。

そして、手首につける形の不思議な機巧が一つ。


そして、そこに加えるのは先ほど採取した、クレハの血。

新たに取り出した無色透明の魔宝石を血の中に落とし、錬金術の合成を行う。


そうしてできたのは真紅の魔宝石。

そこに、金で剣の模様を描くと、8つの魔宝石と共に並べた。

満足気にうなずいて、それらを片付けようとしたところ、再びドアをノックするものが現れた。


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