#scene 00-01
大陸一の力を持つヴァルデマル帝国。
その中央部よりもやや北西にあるのが帝都ダールベルク。
この国で、いや、大陸で一番栄えている街。
その要因の一端を担っているのがこのギルド“黒き新月”。
冒険者ギルドや多くの露店が出ている広場から、貴族区の方へ入った位置にある比較的大きめの屋敷。そこが彼らのホームである。
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「御嬢さんたちは何しに帝都へ?観光かい?」
ダールベルクの門で身元確認をしながら兵士が尋ねる。
「そうですわね、最近まで王国で貴族をしていたのですけど、まあいろいろありまして、冒険者をやっていますの」
「せっかく冒険者になったのですからいろんな街を見て回ろうと思いまして。しかし、たしなみとしてやっていた剣術や魔法がこんなふうに役に立つ日が来るとは思いもしませんでしたわ」
「なーるほど、御嬢さんたちも大変なんだな」
身分証として提示されたギルドカードを確認し、特に問題がなかったため返却する。
ミロスラヴァ共和国から始まった統轄ギルド制度によってこのギルドカードは身分証明としてかなり信頼度の高い物となった。
そもそも統轄ギルド制度とは、それぞれバラバラに存在していたギルドを纏めるための管理組織である。ちなみに彼女たちが所属するのは、モンスターを討伐したり、街道をゆく商人体たちの護衛をしたりという仕事を行ういわゆる冒険者ギルドで、各国が出資しているため公営ギルドとよばれるギルド“青い翼”。
多くの冒険者たちはここに所属している。
「そんで、帝都は初めて?」
「ええ、はっきり言って王国と帝国はあまり仲がよろしくないのでこちらの方には来ませんでしたね」
「そうか。なら、簡単に街の案内をしよう。とりあえず、この大通りをまっすぐ行けばたいていの物が買えると思う。女性向けの店はあまり知らないが、大通りを抜けた先にある広場に面して青い翼の支部があるからそこで聞いてみるといい」
「わかりました。親切にどうも。あ、それと“クレセント”ってどこにあります?」
兵士の顔が曇る。
「なんだ?殴り込みにでも行くのか?やめといたほうがいいぞ?」
「しませんわよ、そんな野蛮なマネ」
「確かに王国を2度も落としたのはあのギルドですし、今、こうしてここにいるのも彼らのせいですけども……」
「まあ、騒ぎだけは起こさないでくれよ。オレたち帝都民はアイツらの世話になってるんだ。それに、アイツらがいると飽きないし」
「そうなん、ですか?」
「おう、オジサン。もう顔パスでいいよな?」
そういうと黒髪の青年が彼女たちの後ろを通り過ぎようとする。
「ダメだダメ。こっちも一応仕事なんだよ」
「なんだよ。自分は女の子ナンパしてるくせに」
「仕事だよコレも!」
「ナンパが仕事とか、言い切ったなオジサン」
「テメェ……後であることないことクレハさんに伝えるぞ」
「それはやめてくれ。殺される」
青年が自分のギルドカードを投げ渡す。
彼女たちの見たことがない黒のカード。
金の刻印があった気がするがよくは見えなかった。
「そうだ、ナギ。この子ら案内してやれよ。クレセントに行きたいんだってよ」
「あんなとこ行って何が楽しいんだ?見たところ王国の貴族様っぽいし……燃やしに行くのか?」
「だから、どうしてそう野蛮な事を言い出すのですか!?」
「まあ、燃やされるだけの事はしてるからなぁ……」
「うるせぇ。まあ、いいや、ついてきなよ」
ナギとよばれた青年が歩き出すのに従って、2人も大通りへと向かう。
「2人はクレセントについてどんな噂を聞いたことがある?」
「ええっと……メンバーは9人で、魔人とかも仲間に入れてるって」
「ああー、王国は魔人差別がひどいからなぁ」
「あとは、王国の城を崩壊させたり法国の中央教会を崩壊させたり、ワイバーンの群れをたった7人で殲滅したり……」
「やっぱりそういうイメージしか広まってないか……ああ、そこの屋台のサンドウィッチ美味しいよ。超お勧め」
2人の話を聞きながらもちょこちょこ自分のオススメの店などを教えてくれる青年。
そして、こっちだよ、と言われ道を曲がる。
いつの間にか広場を抜け貴族区の方へ向かっている。
「そういえば、忌色とされている黒をギルドカラーにししているって聞いたことあるような」
「あとはギルドマスターともう一人、魔人じゃないのに黒髪の人間がいるって」
「黒の何がダメなのかオレにはわかんないけどね」
青年が自らの黒髪をいじりながらそういうと、2人が固まった。
「あれ、どうしたの?着いたよ。ここがギルド“黒き新月”のホーム」
「え……?ちょっと待ってください……」
「うん?どうかした?」
青年が首をかしげる。
「ああああ、あなたもしかして……?」
「え?ウソ!?うそ?」
動揺する彼女たちの背後から声がかかる。
黒いコートを着た金髪の青年。どこかで見たことがある気がしたが確か帝国の第一王子ではなかっただろうか。その隣には同じコート(といっても女性用にアレンジがされている)を着た女性が控える。
「あれ?ナギ、何をしているんだい?これから昼食兼会議じゃなかったかな?」
「ナギさんがここにいるってことは、今日の料理はクレハさんが作ってるんですか?」
「ああ、そうだけど。アイツ最近ヘルシー志向とかで野菜ばっか出してくるんだよなぁ。シャノンに任せた方が良かったかなぁ」
「それで、こちらの御嬢さんたちは?」
「ああ、観光案内。クレセントが見たいっていうから案内してきた」
「なんかたまに観光で見に来る人いるんだよね」
「悪名高いですからね」
「お前ら自分のギルドになんか恨みでもあんのか?ん?……まあ、いいや」
そういうと、どこからともなく黒いコート――製作者の彼によるとドイツの軍服をイメージしてるらしい――を取り出すと羽織る。着崩したシャツを正し、黒のネクタイを締める。襟元には金の三日月が光る。
「改めまして、オレがクレセントの代表ナギだけど。それで、何か用?」
「うぇ!?いえ、ほんとに見に来ただけですので!」
「すみません、お時間取らせましたっ!」
2人は慌てて来た道を駆けて行った。3人が苦笑しながらそれを見送る。
「しかし、ルイテル。第一王子様がこんなところを護衛もつけずにフラフラしてるってどうよ?」
「その王子様を呼び捨てにする君もどうなの?大体、近衛にも僕より強い奴なんていないんだから護衛は意味ないかな。それに、一応ペトラもいるし」
「まあ、ルイテル様が勝てない相手に私が太刀打ちできるわけありませんが……」
「まあ、いいや……とりあえず入ろう。そろそろ怒られる」
「そうだね」「はい、そうですね」
ナギが玄関の扉を開こうとしたとき、内側から扉が開かれた。
「おお?なんだ、もう帰っていたか」
「アーリックか。どうした?探しに行けと言われたか?」
「ああ、ちょうど今言われたところだ」
「安心しろ、今帰ったから。あと、2人もさっき合流した」
「わかった。昼食の準備はできている。パンドラが空腹で若干不機嫌だ、早く座ってくれ」
「オーケー、今日の献立は何よ?」
「今日はとりあえず焼き魚、それと煮物?」
キッチンの方から女性の声がする。
「疑問符着けるのやめねーか?というか、まだヘルシーメニュー継続中?」
「いえ、それはパンドラとアーリックから抗議が来たからやめたわ」
「聖女様そんなにがっついていいのかよ?」
「うるさいです」
「お帰りなさいませ、ナギ様」
「おう、シャノン。例の件は?」
「はい、滞りなく」
「よし、じゃあ」
ナギが堂々と上座に座る。
「みんな、飯食いながらで良いから聞いてくれ。次、どんな楽しいことをするか、ちょっと計画建ててみたから」
「そんなにハードルあげて大丈夫か?」
「面白くなかったらどうするのかしら?」
「気になりますね」
「……うん」
「で、何するん?」
視線がナギへと集まる。
「おう………ちょっとまてよ」
何かを探すしぐさをすると、一枚の地図を取り出した。
「次の目的地は、ここだ」
ナギが指差したのは、ヴァルデマル帝国から南に相当進んだ先にあるオーシプ自治州南端の街ガルニカ。
結成からわずか半年でその名を大陸中に知れ渡らせたギルド“クレセント”が結成された土地でもある。
「どうして今更ガルニカ?」
「なんたって、クレセントを結成した街だしな。それに、一人欲しい人材がいるんだ」
「ああ、彼女ね」
「そうそう」
他のメンバーが首をかしげる中、ナギとクレハはあの街の事を思い出していた。