乱入者
男の娘爆誕まで、あと少し!!
(さて、ここからどうするか)
冷や汗を書きながら、罪人はこの状況を切り抜ける方法を考える。
強がったはいいものの、力の差は歴然としている。
あちらはそう簡単に壊れることのない玩具だと思い込んでいるようだが、過大評価もいいところだ。
ぶっちゃけ、罪人はそこまで強くない。元々、出身が学者の一族だ。長い年月をかけて、強い血を自らの血族に取り込んできたような戦闘系の一族に比べると当然、見劣りする。
女性にも見間違える自分の体。筋肉がつきにくい体質で、筋肉の質もそこまでいいという訳ではない。
足りない分は頭脳と技量で補ってなんとか、中堅どころ、頑張って中の上程度。血の滲むような訓練の果てがこの程度とは泣きたくなる。
では、魔術はどうか?罪人の魔術はかなり特殊だ。相手との相性にかなり左右される。
相手の手の内は解りきっていないが、おそらく相性は最悪だろう。
「ふはは、罪人。本当に私は楽しんでいるよ。感謝だ、愉快だよ」
そうかよ、と答えつつも、罪人の中で焦りが生まれる。
更に追い打ちをかけるのが、時間制限。予言では、11時には、『太陽の間』に到着しなければならない。
時計は、十時四十五分。残された時間は、十五分。
自分の判断は間違えた。何であんなことをしたのか、少し前の自分の首を絞めた気分だ。
だが、やってしまった以上は前に進むしかないのだ。
愛用の斧を構える。呼吸を整え一歩前へ。
そこで、一つの異変に気付く。
金と銀で装飾された部屋に赤い絨毯。目がチカチカするような光景に、自然の緑色が目に写る。
それは緑の芽。赤い絨毯や、壁からニョロリと生え出す。
(やばい)
慌てて、後ろに下がる。
それと同時に、爆発的な勢いで成長を開始する。
芽が伸び、太さを増し、根が床を破壊し、瞬時に会場を森へと変える。
(伯爵の魔術か?)
「ん? お、これは?」
伯爵を見るが、その伯爵の周囲には茨が生え始める。どうやら、術者は伯爵ではないらしい。
「すまぬな。罪人。この茨を何とかするから、そこで待っていてくれ」
呑気なことをいう伯爵。そういっているうちに、まるで繭を作るかのように、伯爵に巻きつくその姿を消していく。
よく見ると、罪人と伯爵を囲うように根は生えている。その外側には宴の参加者達。つまり完全に隔離された状況だ。
つまりは第三者の介入だ。城を守護するものか、宴の参加者か?
しかし、解ったのはその程度。術者を探そうとするが、罪人の眼を狙う槍のような鋭さを持った枝が、それを阻害する。
「てめぇら、落ち着いて逃げやがれ。『押さない、駆けない、シバかない』で、『おかし』だゴラァ!」
「……小太郎。それ、なんか違う」
木々の向こうから悲鳴に交じって、明らかに落ち着きをもった男と女の声が聞こえる。この声の主が、術者だろうか?
斧を振るう。この細さにしては異様な強度を持つ枝を伐採する。
(この魔術、エルフか?)
森の住民を自称するエルフ。ファンタジーゲームや漫画の定番だが、その魔術もまたイメージから外れるものではない。
『緑の尾』
植物の尾の成長速度を自由に操り、強度や性質を何十倍にも高める魔術。あまり強そうには見えないが、たった一人で森に侵入した百人の魔術師を殺害したという記録も残っている。
根が地面を破壊しながら、罪人へ迫る。
足元の根を切り、奥へと逃げる。が、横から別の枝が伸びてくる。振り向いて武器を構えるがそこで罪人の動きが止まる。
足に、根が絡まっている。無理矢理引き抜こうとするが、腕の太さにまで成長した根はどうしようもない。
根は足から胴体を目指し上へ。枝は罪人の眼へと。
「くそっ!」
詰んだに等しい状況。だが、それでも斧を振るい、枝を破壊する。
残った根が胴体に巻きつく。ギリギリと締め上げる。
「がはっ」
肺の空気をすべて吐き出してしまう。
遠のく意識。それを必死に繋ぎ、根を断ち切ろうと斧を振るう。
一撃、二撃と加え、斧を落としそうになりながらも三撃目を振るう。
そこで、根は切断され、ようやく胴を締め付けから解放される。
肩で息をしながら立ち上がる。
「ちっ、あれで死ななかったか。予言の犬が」
木の陰から一組の男女が姿を現す。
主人公は弱いです。
でも、それを補う何かを持っています。