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役職不明

 見張りに見つからないよう、城を囲む森を歩く。

 邪魔な草を掻き分けながら、『罪人』は考える。

 斡旋してもらった女と組んで丸一日。予言の関係者とのことだが、正直、どの役職(クラス)なのか、見当がつかない。

 女性の魔族。女性であるから『姫』の可能性もあり、性別の関係のない『道化』の可能性もある。確率は低いが魔族であるから『魔王』の可能性も捨てきれない。

 斡旋してもらったのは失敗だったか?そんなことを考えてながら歩いていると、森の向こうから大きな門が見えてきた。

 門の前には、やはり見張りがいた。二人。いや、二体と言うべきか。

 まるで彫刻のように微動さえしない体。スーツを着ているので解りにくいが、首元には繋ぎ目が入っている。

「おお! 人形ではないか」

「……何、興奮してんだよ」

 そう人間ではない。人形だ。魔術師によって作られた疑似生命体だ。

「儂も人形が欲しくてのぉ。命令に忠実で、休まない。為政者にとっては理想的な駒であろう?」

「ああ、まあ言うとおりだが、欠点も多いぞ。まず、あれ一体でどんだけかかると思っている。休まないっつーけど、メンテの時間もコストもかなり食う。正直、素直に人を雇うか、シンプルな構造のゴーレムを使ったほうがいい。 完全に金持ちの道楽だぞ。あれ」

 もっとも、人形を持っているというのはそれだけでステータスとなる。

 この城の主である黒松は人形作成において第一人者とされている。日本における人形作成の匠とされている黒松家の技と異界の人形作成術との融合。市場では高値で取引されているとか

(金、持っているんだろーな)

 常に食うに困っている罪人からすれば、うらやましい限りだ。

「ふむぅ。いいことばかりではないのだな。では早速」

「馬鹿、てめぇ! 何しようとしてやがる」

 腕まくりをしながら、門のほうへ歩いて行こうとする伯爵の手を握り引き寄せる。

 罪人が後ろから抱きしめるかのような体勢。甘い香り。だが、その裏で血の匂いも交じっているのを感じ取る。

 そのことにぞっとしつつ、問いかける。

「何って、あの人形どもを蹴散らそうと思っての」

 なんて、恐ろしいことを言ってのける。

「アホか! んなことしたら中の連中に一発でばれるじゃねーか!」

「何、ばれないようにやれば問題ない」

「この脳筋野郎が! いいか。あれは『人形卿』の人形だぞ。どう考えても特注だぞ」

「儂が負けるわけがなかろうに」

 『伯爵』が笑う。成程、戦闘力には自信があるようだ。その姿にため息をつく。

「いいか、あそこに人形三体しかいねぇが、やつら、全員で一つの生命だ。視点から思考そういったものすべて共有してやがる。恐らく中にもたくさんの人形がいるだろうから、攻撃した時点でアウトだ」

 そして、罪人は人形たちが守っている門に視線を向け、ヘッドフォンをわずかにずらす。

「ついでに、入口はマジックロック。過去に見たことのある型だな。空けるには、それ用のキーが必要。で、見た感じ人形そのものがキーなんじゃねーか? 人形破壊したらそれでもアウトっつー仕組だ」

(もっとも、俺にとっては意味のない仕掛けだが、な)

 心の中で、そう付け加える。

「ふむ、成程、八方塞がりじゃの。 で、貴様は何故、それを知っている?」

 彼女の視線が、彼の耳元。いや、ヘッドフォンを見ている。

「企業秘密だ」

「まぁ、それならそうでいいが、作戦はあるのかのう?」

「てめぇも協力者なら何か考えろ」

「ふむ、残念だが頭脳労働は苦手なのだ」

「ちっ、見てろ」

 深呼吸して、一歩を踏み出す。

 顏には、笑顔。先までしていた獰猛な笑みではなく、気品を感じる余裕のある笑みを浮かべる。

 一歩一歩近づくごとに心拍数が上がっていく。だが、それを、表情に出すことはない。

「失礼」

 人形に声をつつ、自分の中にあるスイッチを起動させる。

 キーン、と一瞬の耳鳴りがし、そして、次の瞬間、騒音が耳の中に飛びこんでくる。

 ヘッドフォンを耳に当てる。それだけで、周囲の音が大分静かになる。

 魔術を使う準備は準備は完了。あとは時間との勝負だ。

「私は、ヘイジル・アッシャー男爵。オルブランド公国よりまいった」

 オルブラント公国。異界と呼ばれる異世界に存在する魔術師達の国であり、最下位とはいえ貴族なのだからそれなりの地位の人物なのだろう。無論、罪人がアッシャー男爵という訳ではない。

 事前の調査で参加予定の異界より参加する予定の貴族の名前であり、その貴族は現在、何らかのトラブルで到着が遅れているはずだ。そうなるよう仕向けている。

(頼むぜ、セールスマン)

 今回の仕事をバックアップをしている昔馴染みに、心の中で祈る。

「アッシャー男爵。お待ちしておりました。招待状をお願いします」

 どうやらうまくいったようだ。高性能ではあるが所詮は魂のこもっていない人形。ハルが貴族の着る服ではなく神父の服装であるというのに、全く気にした様子はない。

 相手が人間だったらこの段階で計画はとん挫していただろう。

「ああ、少しまて……ん? ないな」

 無いはずの招待状を探すふりをしつつ、相手の『音』に耳を傾ける。

 金属が共鳴するような音。これは、実際に耳を通して聞こえている音ではない。

 彼にしか聞こえない音。彼特有のスキル。つまりは魔術だ。

「参ったな。招待状が無いと入れないか?」

「申し訳ございません。主より、招待状の無い者は入れるな、と」

「はぁ、これだから人形は融通が利かなくて困る。 もう少しまって」

 怒った表情を作り、しかし、意識は完全に自分の内へと潜っていく。

 一定のテンポで刻まれるリズム。それは、隣の人形から、そして城の中からも聞こえてくる。

 規則正しい、美しい音。その音に、自分の音を重ねる。

 そして……

「ビンゴ」

「はっ?」

 何かいうより早く、その僅かに空いた口に手を突っ込む。

 ぶちぶち、と何かを引きちぎる音。腕に握られているのは、赤い宝玉。

「解析完了っと、落ちやがれ」

 魔術を発動。瞬間、人形の膝がかくん、と崩れ落ちる。

「敵対行動と認識。排除します」

 もう一体の人形が、表情を変えず即座に剣を抜く。動揺せず最善の行動をする。これは人間にはない人形のメリットだ。だが……

「やってみろよ」

 引き抜いた赤い宝玉に力を込める。次の瞬間には、同じように襲いかかろうとした人形も地面に倒れる。

 そんな人形を見てため息をつく。

「やっぱ、デメリットのほうが大きすぎる。所詮は金持ちの道楽だ」

 そう、罪人は呟き、門に目を向ける。やはり、覚えのある作りだ。なら、破るのも簡単。

「開け、ゴマっと」

 要領はさっきと同じ。同じように音を聞き、こん、と門をたたく。

 それだけで、門が開かれる。振り返ると伯爵が人形の残骸を草むらに隠している。

 それを確認し武器はバックの中へ。

 大きなバックを担ぐその姿は見るからに怪しいが、それでも城の中に入れば、自分たちはゲスト、恐らくは問題はない。

「ほら、行くぞ」

「そこの人形は大丈夫か」

「問題ない。だが、時間がたてば、そのうちばれるぞ。急げ」

「ふむ、分かり申した」

 そういうと伯爵が罪人の後ろをついてくる。

「ふむ、外から見てもそうだが、中は豪華じゃのう」

「……成金趣味丸出しにし過ぎだ」

 そう、門を潜ると、金色の空間が広がっている。

 金で塗りたくった柱に天井。床は、赤のカーペット。

 豪華絢爛、というにはけばけばし過ぎる空間。主のセンスの無さが浮き彫りとなる。 

 中に入れば、人形達もノーチェックらしい。案内役の人形に目を向けると勝手に口を開く。

 奥の広間ではダンスパーティーが開かれているとのこと。だが、罪人の目的はそこではない。

 目指すは太陽の間。ホールは一階だが、太陽の間は三階。階段には見張りの人形。今度は人目がある、どう切り抜けるか。

 真剣に考える罪人に伯爵が横から話しかける。

「ふむ、そこらは見分けがつくか。貴様、元は貴族か何かか?」

「さあ、な」

「ふむ、悪ぶっているが、貴様の立ち振る舞いから品のようなものを感じるのう」

「んなの、どうでもいいだろう」

 何組かの人間と魔族を見かける。服装や立ち振る舞いから、特権階級のようだ。

 楽しそうな談笑。しかし、その笑顔の裏で互いを見下しているのが透けて見える。

 彼らと同じ? 考えただけでも反吐が出る。自然と歩く速度が上がる。

「貴様も、本来ならこの場にいた人間なのかもしれぬの」

「ありえない。魔術師は魔族を狩るために存在している」

 所詮は、魔族と人間が手を取るなど不可能。それは歴史が証明している。

 何百年、何千年。まさに神話の時代から魔術師と魔族は敵対してきたのだ。

 それを今更、お手手を取り合って、なんてありえない。だが、ふと視界にあるものが映る。

 親についてきた魔術師と魔族の子供達。純粋そうな人間の少年が、子鬼の女の子に手を差し出している。

 男の子は、躊躇いもなく、少女は恐る恐る、その手を握る。

(それが可能なら、可能だとしたら、自分は何の為に)

 罪人は苛立っていた。だから、気づかなかった。伯爵の雰囲気が変わったことに


「ふむ、面白いな。やはり、私は貴様と踊りたい」


 ぞくっと、背筋が冷たくなる。

 振り返ると、伯爵が持った赤い剣が罪人目がけて振り下ろされた。





 ワルツが人の悲鳴に変わった。

 三階のテラスから外を見ていた彼女の耳にもその音は聞くことが出来た。

「始まりましたか。でも、思ったより派手に花火を上げましたね。罪人さん」

 苦笑めいた表情を浮かべるのは銀髪の少女だ。

「で、一緒にいる女性。あの人は誰です?」

 少女は背後にいる人物に声をかける。

「ああ、私が斡旋した魔族ですね。予言の関係者ですが役職(クラス)は知りません」

「……よくそんな人物を斡旋しましたね」

「この場にいる以上は『罪人の書(クリミナル・サイン)』を実行しようとするはず。達成するまでは、邪魔はしませんよ」

 彼女の背後にいたのはセールスマン。先日、罪人と打ち合わせをしていた死の商人だ。

「じゃあ、この騒ぎはなんです?」

「さあ? ですが彼なら辿りつくでしょう。この『太陽の間』に」

 そう、彼らがいるのは太陽の間。予言書『罪人の書(クリミナル・サイン)』にて『魔王』を倒そうとする『罪人』の終着駅だ。

 この銀髪の少女が『魔王』か? そして、何故、セールスマンがここにいるのか?

 もし、この場に『罪人』がいたら混乱する状況下。銀髪の少女がじど目で罪人を見つめ一言。

「……誤魔化しましたね」

 セールスマンは答えない。無表情に徹しているが、顔から冷や汗がたらたらと垂れている。





……おにーさんは褐色の肌の女性が大好きです。

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