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役を演じる者達

 予言書『罪人の書(クリミナル・サイン)』14ページ


 2011年7の月。

 宴の始まる。

 『人形卿』の宴に蝙蝠達が集う。

 煌びやかな舞台。その裏で役者達が暗躍する。

 『姫』『道化』『罪人』そして、『魔王』

 『姫』は、踊る。『罪人』とその罪を流す為に

 『道化』は笑う。『罪人』の愚直なまでの思いを利用せんが為に

 『罪人』は太陽を目指す。その刃を『魔王』に突き立てる為に

 『魔王』は時を待つ。『罪人』の刃を受け入れる。その時を

 11の鐘が鳴る時、世界は変化を求め動き出す。


/1


 遠くからワルツが聞こえてくる。

 暗闇に浮かび上がるのは、ライトアップされた石作りの宮殿。

 ライトの光も電気ではなく、火や光の精霊という徹底ぶり。

 雪でも降れば、幻想的だが、生憎季節は夏。ワルツの音をかき消さんと鳴く蝉がすべてを台無しにしている。

「本当、馬鹿げたイベントだ」

「ふむ、君もパーティーに参加したかったのかな? 神父殿。 今からでも遅くはないぞ。思う存分、踊ってきたまえ」

「耳が腐っているのか? 夢の国は、ディズニーだけで十分だ。つーか、俺は聖職者だ。んな、俗っぽいイベントには興味ない」

「いや、何か羨ましがっているように聞こえたからのう」

「あ? 耳だけじゃなくて頭もいかれているのか?」

 声の主は、二人。街灯の真下、ベンチに腰掛け険悪空気を作り出している。

 一人は小柄な若い男。神父殿と呼ばれた少年だ。が、今の彼を見て聖職者と思うものは殆どいないだろう。

 若すぎる、というのもあるが、その眼は余りにも険があり過ぎた。その口調とあいまって、聖職者のフリをしたヤンキーにしか見えない。

 ついでに何故か耳にヘッドフォンを当てている。かなりチグハグな印象をうける格好だが、不思議と似合っている。

 そして、もう一人は、ドレスを着込んだ浅黒い肌の美女だ。その印象は一言で言えば混沌。若さと、貴族的な優雅さと、その若さと釣り合わない老獪な双眸、それらが混じり合って独特の雰囲気を醸し出している。

 少年は『罪人』、女は『伯爵』と名乗っている。当然、偽名だ。

「 しかし、ディズニーか。確か、この国にあるテーマパークだったか。帰りにでも寄ってみようかのう」

 そう、ここは日本。埼玉県の一角にある森の中。埼玉県を悪くいうつもりはないが、日本の滞在期間の長い少年からすると、それだけで庶民的な印象になる。

 宮殿から聞こえた曲が切り替わる。女が少年に手を差し出す。

「ほれ、一曲踊るぞ」

「何を考えている?」

「ふむ、作戦実行まで時間があるからの。暇つぶしだ」

「俺は、魔族が嫌いだ。魔族とオテテ繋いでダンスなんざ、夢を通り越して悪夢でしかない」

「はははははははは、魔族である私の前でそれを言うか? 神父殿、貴様は自殺願望でもあるのかな?」

「はっ、選民思想もここに極まりたりってな。魔術師を舐めンな。化物」

 ここを夢の国と評したが、それを言うならば、彼も、そして、目の前の彼女も立派な夢の国の住民だ。

 この世界は、科学の力で回っている。それは、揺るがざる現実であり、定められたルールだ。

 世界に神秘など無い。科学で解明出来ないものは存在せず、知恵を武器とする生物は霊長類たる人間だ、という傲慢とも言えるルールから外れた存在が魔術師であり、魔族だ。

 魔族とは、オークや、エルフ、ここ日本においては、鬼や河童などといった伝承などに存在する人と同じような知性を持ち、そして、神秘を内包する存在であり、魔術師とは人の身でありながら神秘を扱う者達のことを表す。

 神話の時代では、主役であった彼らも、時代が進むにつれて歴史の隅に追いやられ、今ではこの有様。 魔術師も魔族も空想上の生き物へと成り下がってしまった。

 そんな状況でも魔族と魔術師は争った。双方とも甚大な被害を出し、つい十年前に協定を結ぶ。

 その結果の一つが今夜、この宮殿で行われている魔族と魔術師のダンスパーティー。

 互いの親睦を深めようといった目的の元集まった少年からすれば反吐が出る話だ。

「つまらん。折角の美少年じゃ。これが終わったら骨抜きにしてペットにしたかったのにのう」

 少女の姿でとんでもないことを口にする。

「のぉ、貴様は本当には男なのかな?」

「あ? 何言っているんだ? 見るからに男だろう?」

 今日会ったばかりで、互いの素性を知らない。

 ただ、女は魔族で人間と敵対し、少年は人間で魔族を恨んでいる。それしか知らない。

 女と少年との違いは、女は、もう片方の種族と敵対しているものの、恨みは無いということ。

 だから、似て異なる少年に少し興味があった。

 少年を観察する。物騒な恰好をしているが、全体的に線が細い。筋肉が付きにくい体質なのだろう。鍛えてはいるものの男にしては小柄で華奢だ。

 そして、悪ぶってはいるが、女性と間違えかねない顔立ちをしており、表情さえなんとかすれば、下手なアイドルよりも可愛らしい。

「ふむ、やはりもったいない。私は男であろうが女であろうが美しいものが好きだ。どうじゃ? 少年。君の目的は復讐だったな。もう一度言う。貴様の復讐に手を貸してやる。望めば、富も名誉も私の身体でよければくれてやる。だから、私のペットにならないか? 何、十分寵愛して……っと」

 そう言って一歩下がる。先ほどまで彼女の首のあった場所に、彼のふるった斧が通り過ぎる。

「まったく、冗談だというのに過剰反応しすぎじゃ」

 クックック、と彼女が笑う。

「黙れ、ビッチ。魔族に飼われるなんざ、死んでもごめんだ」

 その言葉に彼女の笑みが更に深くなる。

「いいのぉ。余計君が欲しくなった。ふむ、貴様は、純情過ぎる。罪人というより、狼だな。ただ、目の前の獲物を貪欲に追い求める気高き獣。だが、狼殿、気をつけたまえ。貴様は我々、魔物を狙うが、狼を狩るのは常に人間だ。 断言しよう、君は人によって殺される」

「そうかよ」

 吐き捨てるように少年は言う。

 先の事など関係無い。何しろ、自分はこの日の為に生きてきたようなものだ。

「まぁ、同じ予言書に選ばれたもの同志じゃ。短い間ではあるが仲良くしようではないか」

 ちっ、と舌打ちをする。罪人は胸元に隠した紙を意識する。

 それは、丸めた羊皮紙。子供の頃、手にいれ、『罪人』の人生の道標となったとある予言が書かれたものだ。そして、それは目の前にいる女も同じものを持っている。

 七森予言書。魔術師、魔族の間において、絶対の信頼を寄せている予言書だ。

 この手紙は、予言に関係する人物に配られ、その人物が予言の通り、行動するとその予言は現実になるとされている。

 だから、今回は互いに協力関係を結んでいる。どちらか片方が失敗しただけで折角の予言が無効になるからだ。

 予言書にはこう書かれている。


 『罪人』は太陽を目指す。その刃を『魔王』に突き立てる為に


 ここに書かれた太陽とは、この城の一角にある『太陽の間』。そして、『魔王』とはその名の通り七つの大罪の一つ、『暴食(グラトニー)』の名を戴く魔族の王だ。

  

 魔王を狩る。それが、少年の悲願でもある。

「ふむ、時間だ」

 時計の針が、10時を指す。

 蝉がやけに五月蠅い。それはまるで、幻想などいらぬと告げているようだった。



……タイトル詐欺で申し訳ござませんが、男の娘の登場はまだ先になります。

しばらくはシリアス展開です(汗)

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