VII(九州)
@九州連邦共和国鹿児島県鹿児島市上空―高度7800メートル
2月12日九州標準時刻1358時
「第15歩兵団、国分ライコ大尉」
〈認証完了。補給内容、レーション1、150発マガジン5〉
「了解」
国分はエンジンの出力を絞って|MiG-15UTIbis《空中補給機》に速度をあわせ、下方からゆっくりと上昇していく。
〈接近を確認。補給ポット開放〉
MiG-15UTIbisの後席のポットオペレーターは尾部の後方カメラの映像で国分が接近してきていることを確認、胴体下の補給ポットのロックを解除する。
補給ポットのランプが赤から青に変わったことを確認した国分はポットの横に滑り込み、ポット側面の蓋を開ける。
中からレーションとマガジンを取り出し、肩から提げたポーチに放り込む。
「国分大尉、補給完了」
〈了解。グッドラック、国分大尉〉
「グッドラック、スーパーミジェット」
国分はエンジンの出力をあげ、加速。MiG-15UTIbisの前方に離脱する。
「ふぅ……食欲がわかない……」
レーションとマガジンの補給を受け、そこからさして離れていない空域で補給を終えた第15歩兵団のメンバーと合流し、レーションの封を開けたが、食欲がわかない。
〈腹が減っては何とやらだ、食え。ライコ〉
しょうがないので大きな白い消しゴムのような44式戦闘食をじっと見つめていると、急に日向大尉が寄ってきていきなりレーションを口に押し込んできた。
「もごっ!もががっ!もごもご……」
いきなりの暴挙に目を白黒させながらもかろじて咀嚼し、飲み込むが胃が受け取ろうとしない。
4回ぐらい食道を往復させた後、ようやく胃に収まる。
すると、不思議なことに食欲がムクムクと沸いてきた。
無性に何かが食べたい。考えてみれば朝食を食べてからずっとなにも食べてない。
栄養価は完ぺきなのに味がないせいで食べ物に似た何か別の物体(Material Resembling Edibles)とも食べられる消しゴムとも言われるくらいまずい44式戦闘食だが、このときはなぜかとてもおいしいもののように感じられた。
「やっぱり、戦おう」
そして胃が満たされると、いつのまにか闘志がムクムクと沸いてきた。
@九州連邦共和国鹿児島県霧島市
2月12日九州標準時刻1403時
国分が補給を受けていた頃、前線は霧島市まで後退していた。
〈第31213小隊、全滅!〉
〈雷電が落とされた!パイロットの救助を要請する!〉
〈砲兵、砲撃をやめろ!俺たちを殺す気か――〉
〈やめろ中尉!それは味方だ!砲撃するな!〉
九州連邦共和国桜島学園臨時政府陸上軍第3師団第31連隊第312大隊第3124予備戦車中隊隊長の佐藤タクマ予備大尉は建物の影に隠れるように停めた九州55試装輪装甲車の車長席で無線を聞きながら心の中でため息をついた。
陸上軍はひどい混乱で十分に戦えてない。
味方討ち、誤認爆撃、誤認攻撃、衝突。
情報が錯綜し、恐怖が存在しない敵を生み出し、味方討ちが新たな敵の攻勢になる。
冷静になってデータリンクの情報を確認すればそういったことは起こらない。しかし、いざというときに冷静になれる人間は意外と少ない。しかも主力の正規部隊は朝からの連戦でかなり消耗していた――数でも、精神的にも。こうなると、正規の訓練を短い間隔で何回も受け、実戦経験が豊富な部隊でも戦闘力が落ちる。
佐藤はデータリンクの情報が表示されたモニター上の地図のあちこちに記される敵のマークや味方のマーク、全滅のマークをみながら友軍の混乱に頭を抱えたくなる。
「冷静になれよ……」
佐藤はぼやくが、ぼやいたところでどうにかなるものではない。
〈大尉。前方12時の方向に陸戦型、数、20〉
と、同時に前方を監視していた操縦手から報告が入る。
「よし、戦闘用意。なるべく引きつけてから射撃だ」
佐藤は砲手と操縦手、そして数メートル先に隠れている味方の隊戦車砲小隊に告げる。この対戦車砲小隊も本来は3門の扶桑40式対戦車砲を装備するのだが、今は1門しかない。
ビルの残骸を越えた陸戦型クラックゥが道いっぱいに広がりながら突撃してくる。
「爆破!」
その先頭との距離が戦車まで200メートルを切ったのと同時に佐藤が叫び、手元の無線機のボタンを強く押す。
同時にクラックゥの足下が爆発。事前に仕掛けておいたC4爆弾が爆発したのだ。
陸戦型の動きが一瞬止まる。
「射撃!」
同時に、1門の扶桑40式対戦車砲と55試装輪装甲車が装備する扶桑50式2号50ミリ機関砲が射撃、動きの止まった陸戦型に攻撃を加える。
「後退!」
攻撃を加えるとすぐに後退。離脱する。
扶桑40式対戦車砲を操作していた小隊の隊員はM113改造の扶桑40式弾薬補給車に乗り込み、全速力で対戦車砲を牽引して後退する。
九州55試装輪装甲車も4対のコンバットタイヤを唸らせながら全速力で後退。
クラックゥが腹いせのように佐藤たちが隠れていた建物にビームや実弾兵器を大量に撃ち込む頃には佐藤たちは別な場所に隠れ、射撃のチャンスを待っていた。
文中に出てくる架空兵器の解説を……
●53式観測機「白電」・FOF53・HOF1・F/O-53・MiG-15UTIbis「スーパーミジェット」
[性能]
全幅:10.08m
全長:10.11m
全高:3.70m
翼面積:20.60平方メートル
空虚重量:3,882kg
通常重量:4,960kg
最大離陸重量:6,105kg
燃料搭載量:1,400
発動機:十勝重工F10「ド・モルガン」(HOF1)、鉈飛行機F15(FOF53・MiG-15UTIbis)、武蔵航空機製作所エ53(53式観測機)×1
最大出力:3000
推力重量比:0.6
最大速度:1,090km/h
巡航速度:850km/h
通常航続距離:1,100km
増加燃料タンク装備:1,870km
上昇率:60m/秒
実用上昇限度:16,000m
[特徴]
ソ連のMiG-15UTIのライセンスを東部ソヴィエト連邦から購入、エンジン換装、新規の電子機器を搭載した機体。
これは観測ヘリなどでは万が一クラックゥと遭遇した時に脆弱であるのが列島歴1153年の御前崎遭遇戦において認識され、また、速度も遅いために作戦の障害になる可能性も指摘された。
これにより安価で速度も機動歩兵に近いMiG-15UTIを改造して観測機を制作することが決定され、日本連合と東部ソヴィエト連邦との間でライセンス契約が結ばれた。
追加の電子機器はコックピットの後ろに膨らみを設け、そこに収納。また、前後席ともに49式艦上戦闘機とほぼ同様のグラスコックピット化されていて、パイロットと司令官はHMDを使用する。ただしレーダーは装備せず、基本的にデータリンクが使用できる環境での運用が前提である。
基本的に前席がパイロット、後席が司令官となる。
固定武装は25ミリ機関砲、外部にロケット弾ポッドなどを装着できるほか、補給用ポッドという弾丸などを収め、必要に応じて随行する航空機動歩兵に供給できるポッドも搭載できる。
ただし、補給用ポッドを搭載し、空中補給機として使用する場合、後席はポッドオペレーターとなる。
坂東では基本的に観測ヘリとこの機体が2~3個分隊にそれぞれ1機づつ配備されている。
また、基地間の連絡機として使用されたりもする。
また、補助ロケットを使用してゼロ距離滑走離陸(垂直離陸)した例がある。
●補給ポット
特徴:航空機動歩兵に弾薬を補給するためのポット。機体が小型化した第3世代飛行鞄向け。
初期のポ49(坂東)はポ30トラベルポットを転用したものだが、後に対応した機体のコックピットからドア開閉を操作できるようになった改良型が登場した。
一部のMiG-15UTIbisなどが改良型の補給ポットに対応できるように改造された。基本的にプロペラ機かヘリコプターが母機として使用される。
●九州55試装輪装甲車/九州55試歩兵戦闘車/九州55試装軌戦闘車/九州55試自走高射砲
[性能]
分類:多用途車両システム
武装:扶桑32式3号改30ミリ機関砲(歩兵戦闘車)/扶桑50式2号改50ミリ機関砲(装甲車)/福井工業55口径長105ミリ砲(装軌戦闘車)/扶桑32式4号改30ミリ機関砲×2(自走高射砲)
扶桑52式12.7ミリ機関銃
発煙弾発射器
全長:7.6m~8.1m
全幅:3.4m
全高:2m~3.2m
自重:20t~45t
エンジン:九州53式2号改ディーゼル発電方式パワーパック680hp(桜島学園製作所)
サスペンション:トーションバー方式
最大速度:90km/h(車輪駆動時)
65km/h(履帯駆動時)
行動半径:670km(車輪駆動時・路上)
580km(履帯駆動時)
乗員:3名
特徴:九州54式歩兵戦闘車をベースに試験中の多用途車両。
エンジンを53式装軌戦闘車と同様のディーゼル発電方式モーター駆動に変更、モジュラー装甲の自由度をさらに高めた。
また、車輪駆動と履帯駆動を変更でき、車輪駆動時は8対の車輪を持ち、パンクしにくいコンバットタイヤを使用する。
駆動方式は野外で数時間以内に変更可能(一定の訓練を受けた整備兵1名と訓練を受けていない兵6名の場合)。
砲塔もクレーンがあれば30分程度で交換でき、各タイプ互換性がある。
自走迫撃砲などのベースにする計画もある。
また、扶桑52式12.7ミリ機関銃は扶桑45式ロケットランチャーや北海道49式対戦車ロケットランチャー、北海道25式機関擲弾投擲銃、坂東52式超電磁機関銃などに変更可能。(定番)