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ヒダカアローズ2  作者: 快速ナイトネリウム53号
第1章「侵攻」
7/17

VI(九州)

@九州連邦共和国東九州自動車道上空―高度1000メートル

2月12日九州標準時刻1325時

 迎撃ミッションの次は民の避難ルートの上空の哨戒ミッションだった。

 国分の眼下では雑多な車両が列をなして高速道路を時速2、30キロ程度で走っていく。

 避難民で満員の路線バスの車両や、荷台に避難民を満載したオリーブ色の軍のトラック、民間の軽トラックの荷台に20人近い避難民がしがみついているもの、車両の屋根まで避難民で埋め尽くされた10式装甲兵員輸送車(M113)やBTR-60、BMP-1もある。

 さらには38式戦車、北海道42式装輪戦闘車系統の車両などの戦闘車両も砲塔や車体の上に避難民を満載している。

 そして、その道路の左右には1キロに一人程度の間隔で陸上機動歩兵が立って周囲を警戒している。

 下手したら南九州で走っている大型車両の全車種がそろっていそうなレベルの雑多な車両の列の上、高度1000メートルのところで国分は武器を右手に持って青ざめた顔をしながら空中停止(ホバリング)していた。

 国分が右手に持っているのはチェーンソー。

 途中で捨てられているのを見つけ、拾ったものだ。愛用しているMG42改は弾切れになり、今はただの鈍器と化している。

 国分の腕や胴にはいくつもの傷ができている。

 幸い、太い動脈や内蔵を傷つけているものはないが、初めの方に爆撃型との戦闘で離脱した者の傷よりも明らかに重い。しかし、状況が国分を戦線から離脱させることを許さなかった。

 現在、大隅半島全域と出水山地以北、大口盆地、小林盆地、都城盆地が放棄され、絶望的な戦闘が各地で行われている――空も、陸も。

 そのせいで、補給もままならない。

 主戦力の航空機動歩兵を基地に帰投させて補給を行う時間はないし、前線付近で地上部隊から補給を受けることも前線が徐々に後退し、命令系統に混乱が出ている現状では非常に厳しい。他には、空中補給と呼ばれる他の航空機から補給を受ける方法もあるが、空中補給の母機は武装も貧弱で機動性も航空機動歩兵に大きく劣り、シールドの類もないためクラックゥに対して脆弱であるため、現状ではやはり厳しい。

 結果、国分は9時台に離陸してから全く休憩もとれず、食事もできていない。

 このような状況ではまともな戦闘ができるはずもなく、多くの航空機動歩兵が撃墜されたり、飛行中に気を失って墜落し、国分が所属している第15歩兵団も兵力は半分以下まで減り、まだ戦えるのは国分のようなベテランのみ、そのベテランも自分が()とされないようにするのが精一杯という有様だ。

〈警報!方位0(ジロ)-2(ツー)-0(ジロ)に陸上型クラックゥの反応!数っ!20以上!進路は白鹿山を起点に方位0(ジロ)-2(ツー)-0(ジロ)から1(ワン)-8(エイト)-0(ジロ)!〉

 唐突に通信が入る。第15歩兵団所属で固有魔法が「広域探査」の航空機動歩兵からのものだ。

 直後、道路の脇のコンクリートの切り通しの上に多数の灰色の戦車――いや、陸戦型クラックゥが木を踏み倒して現れた。

 固有魔法が「広域探査」の航空機動歩兵が発見したものとは違う――別動隊だ。

 ピリリリリリッー!!

 警戒のために立っていた陸上機動歩兵も気がつき、警報の代わりなのか力一杯笛を吹いた。

 その音が谷全体に響きわたる前に、陸戦型クラックゥは切り通しの上から躍り出る。

 タァン!

 陸上機動歩兵は果敢にもサブ・ウェポンの拳銃を抜き、降下してくる陸戦型の下部を狙って撃つが、全く効果はないようだ。

 しかし、その銃声は空腹と不意をつかれて一瞬停止していた国分を我に返らせた。

「こちら国分!敵襲!陸上型!」

 国分は後ろに倒れるように体を後ろに傾け、半回転して垂直降下。

 しかし、それよりも早く陸戦型クラックゥは高速道路にバスを踏みつぶしながら着地。

 次々と陸戦型や移動砲台型が車両を踏みつぶしながら着地、ビームや実弾兵器を周囲に乱射し始める。

 あわてて周囲の車両から人が飛び出すが、ビームと実弾兵器は容赦なくそれらを攻撃していく――車両も、人も。

 ビームが至近距離に命中したBTR-60が車体側面のガソリンタンクに引火、燃え上がる車体の一つしかないハッチから火だるまになった人間が飛び出してくる。

 至近距離に実弾兵器が命中し、着弾の衝撃で飛び散ったアスファルトの破片で顔が血塗れになった人間が狂ったように走り回り、ビームで体の半分を消失する。

 国分は急降下しながらチェーンソーを振りかぶり、減速しつつ陸戦型の上面に力一杯刃の部分をたたきつける。

 火花が散るが、装甲にダメージを与えられた様子はない。

 その間にも陸戦型は国分を気にする様子もなく、ビームや実弾兵器を放ち、大量殺戮を続けている。

 トラックが狂ったように暴走し、ビームの餌食になる。

 逃げまどう人間が一瞬で実弾兵器によって肉片に変えられる。

 ガギン!

 チェーンソーが装甲にはじかれる。

「この!壊れろ!」

 果敢に陸戦型に攻撃を仕掛けようとした戦車がビームと実弾兵器の集中砲火を受けて蜂の巣にされる。

 ガギン!

 チェーンソーが装甲にはじかれる。

「この!壊れろ!」

 遮蔽物を生かして石つぶてや車のボンネットを投げつけてなんとか応戦していた陸上機動歩兵も魔力が尽きたらしく、シールドが次々と明滅しはじめる。直後、シールドをビームや実弾兵器が貫通し、次々と倒れていく。

 ガギン!

 チェーンソーが装甲にはじかれる。

「壊れてくれ!壊れてください!」

 国分は叫びながらチェーンソーを陸戦型にたたきつけ続ける。

 すでに周囲に生物の陰はなく、燃える車両と肉片や無惨な遺骸――生命の抜け殻――とクラックゥしか周囲にはいない。

 ガギン!

 チェーンソーが装甲にはじかれる。

「お願いします!壊れてください!」

 もはや破壊すべき対象がなくなった場所から西――必死で逃げ続ける避難民がいるはずの方向に進み始めるクラックゥに必死で食らいつきながら国分はチェーンソーを振りかぶり続ける。

 ガギン!

 チェーンソーが装甲にはじかれる。

「たのみます!壊れてください!何でもします!」

 国分はのどがかれるほどに叫ぶが、魔力が足りないのか、チェーンソーが装甲に刺さる様子はない。

 それでも国分はチェーンソーを振りかぶり、陸戦型に挑み続ける。

〈国分!〉

 唐突に何者かが振りかぶっていた国分の手首をつかみ、その作業を中断させる。

 その何者かは陸戦型から引き離すように一気に国分を引っ張り、上空へ国分を連れていく。

〈国分、おちつけ、撤退命令が出た〉

 その何者かは上空まで国分を引っ張りあげると茫然自失としている国分の前に回り込み、国分の瞳をのぞき込みながら悲しそうに告げた。

「日向……?」

 国分は茫然自失としたままその友人の名を口に出した。

〈撤退命令が出た――下の人たちはあきらめろ。……生存者がいたら奇跡と呼べる状況だ〉

 日向はそういうのが精一杯のようにのどの奥から絞り出すような声で告げると、国分を引っ張って西へと飛行をし始めた。

 国分はもはやそれにあらがう力も残っていないようにただ引っ張られていった。


文中に出てくる架空兵器の解説を……


●38式戦車



[性能(原型)]

武装:福井工業45口径長120ミリ滑腔砲

   地対空ミサイル発射機×8

最高時速:72km/h

重量:49t+

全幅:3.7m

全高:2.69m

全長:9.668m(車体長:7.772m)

乗員:4名

行動半径:550km

サスペンション:トーションバー方式

エンジン:海星重工38式V型12気筒液冷式ターボチャージエンジン(1500hp)

[特徴]

坂東の汎用名作戦車。

1138年に坂東で制式採用と同時に日本列島各国にブラックボックスなしのライセンス販売を行うことが許可され、東北、扶桑、九州、北海道などが同時期に進めていた次期戦車計画を取り止めてライセンスを購入した。さらに、東部ソヴィエト連邦仕様車両や、東南アジア・オセアニア諸国連合軍仕様車、オーストラリア国防軍仕様車、中国人民解放軍仕様車もあるため、極東標準戦車と言える。

また、車体が元々頑丈に造られていたこともあり、クラックゥのビームが直撃しても車体は修理して再利用可能なこともあり、例えば、1139年製造の北海道仕様車39号車は1150年までの間に50回ビームの直撃を受け、50回修理されて戦線復帰し、その間に5回あまりの近代化改修を受け、その後装甲回収車になるという経歴を持つ。

ライセンスは各国に売却されたため、ライセンスを購入した各国のメーカーが独自に近代化改修型を製造し、その数は100余りあるとされる。しかし、車体自体はほぼそのままのため、高い部品の互換性を持つことが多い。

また、近代化改修を繰り返すことで性能の向上が行われ、1155年時点での最新型では軽量化がなされ、変速機の交換で出せる出力が向上、主砲は55口径120ミリライフル砲、車長用独立赤外線カメラ、発展型FCSなどを搭載している。

また、映画やアニメにもよく登場し、知名度の高い戦車。


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