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ヒダカアローズ2  作者: 快速ナイトネリウム53号
第1章「侵攻」
3/17

II(九州)

@九州連邦共和国宮崎県南部―高度1万2000メートル

2月12日九州標準時刻1020時

「助かった……」

 宮崎県南部、高度1万2000メートル。

 国分はMG42改を抱えて飛びながらため息をついた。

 結局、自分たちが交戦に入った直後、迎撃部隊が到着した。

 結果からいえばクラックゥは全機を撃墜した。

 迎撃部隊が到着する前に自分たちが交戦に入ったことで図らずも爆撃型の護衛が引き離され、戦闘機から発射されたミサイルと航空機動歩兵によって比較的簡単に爆撃型を撃墜することができたという。

 こちらの被害は数機の戦闘機が被弾したのみ。

〈――ズッ―ザザッ―――〉

 国分が回想していると、通信が入感したらしく、ノイズが入る。

 すでに帰投の途中で、通信の不具合も解消されている。

〈こちら国分基地、15th FSQ(第15歩兵団)、警報、ポイント3201(サーティツージロワン)-31(サーティワン)45(フォーファイヴ)、高度1万にクラックゥの反応。数、40。爆撃部隊と思われる。直ちに迎撃に向かえ〉

15th FSQ(第15歩兵団)了解(ラージャ)

 長機が転針。

 部隊の3番機の位置にいた国分もそれにならって転針。

 180度旋回し、再び迎撃に向かう。


〈目標を確認。ほぼ正面、高度1万メートル、爆撃型と戦闘機型、改戦闘機型、数40から50、速度700。交差まであと3分〉

 固有魔法が広域探査の航空機動歩兵が固有魔法を発動させ、向かってきている敵の編隊の機数を再確認する。

 ある程度まで接近したらこうしたほうがAWACS(早期警戒機)やレーダーサイトからの情報より即時的、正確な情報を得られるのだ。

〈了解。部隊を2つに分ける。7.62ミリ以下の銃を装備しているものは国分大尉の指揮で先行、戦闘機型を引きつける。護衛を引き離したところで12.7ミリ以上を装備した者が爆撃型を攻撃。これより編隊を組み替える〉

「了解」

 長機の指示で編隊を組み替え、汎用機関銃と軽機関銃装備の部隊と重機関銃や機関砲、ロケットランチャー装備の部隊に分かれる。

「軽装備は加速!」

 部隊が分かれたのを確認すると国分は指示を出し、同時にスロットルをMAXにセット。

 MF28エンジンに流れ込む魔力が増加、最大ミリタリー推力で国分を加速させる。

「ブレイク!」

 充分に接近したところで散開。

 国分はロールで背面に入り、背面で降下角40度の急降下に入る。

 先頭の戦闘機型にねらいを付け、射撃。

 戦闘機型の4枚の主翼に穴があき、そこから白い煙が吹き出す。

 胴体中心部にも弾を叩き込んでコアを破壊。

 そのまま急降下で編隊の下に抜ける。

 雲につっこむ前に引き起こしながら、首をひねって後ろを確認すると、2機の改戦闘機型が反転、ついてきていた。

 改戦闘機型は加速、国分との距離をつめ、主翼に内蔵した4門の実弾兵器発射機(機銃)で射撃。

 国分はシールドを張り、赤い弾丸を弾きつつ、わずかに高度を下げる。

 固有魔法の念動力を発動、自らに後ろ向きの力をかける。

 強引に減速。

 周囲の大気がわずかにゆがみ、骨が悲鳴を上げる。

 クラックゥは強引な減速についていけず、そのまま国分を上を追い越す。

 国分はアフターバーナーに点火、改戦闘機型と速度をあわせると、ロールして背面飛行に入り、真上の改戦闘機型の下腹部に向かって射撃。

 改戦闘機型は前方に向かってつけられた実弾兵器発射機やビーム兵器のほかに機体上部には回転式の4連装実弾兵器発射機を備えているが、下部はなにも装備していない。

 対クラックゥ炸裂弾が改戦闘機型の内部で爆発し、装甲を吹き飛ばす。

 同時に、改戦闘機型が急に機首を引き起こす。

 そのまま上下反転、クルビットのようにくるくると縦回転しながら雲の中に消えた。

 国分は雲の中に消えた2機の改戦闘機型を撃墜するのはあきらめ、上昇に移る。

 雲の中は視界が効かないので格闘戦をするのは厳しいし、機位を失するおそれがある。

 エンジンのフルパワーで垂直に上昇する国分の頭上を爆撃型クラックゥが前進角の変わる可変翼をもっとも前進させた状態で通過する。

〈敵の撤退を確認、ミッションコンプリート、RTB(帰投する)。この通信が届いた者は高度1万1000メートルまで上昇、合流されたし〉

 同時に、隊長からの通信。

 どうやら、戦闘は終了したようだ。


 それから数分後――

 国分ら第15歩兵団は編隊を組んで帰路についていた。

〈こちら国分基地、第15歩兵団、警報、ポイント3207サーティツージロセブン-31(サーティワン)35(スリーファイヴ)、高度5000にクラックゥの反応。数、60、速度600。爆撃部隊と思われる。直ちに迎撃に向かえ〉

〈こちら第15歩兵団、負傷者3名とそのエスコートとして1名を帰投させる許可を〉

〈こちら国分基地、許可する〉

〈こちら第15歩兵団、了解した〉

 第15歩兵団は負傷した3名とエスコート役の1名以外が再び転針、迎撃に向かう。




@九州連邦共和国宮崎県人吉市東漆田町―前線

2月12日九州標準時刻1057時

〈くそう、一向に減らないぞ!〉

 九州53式装軌戦闘車の砲手は前線の先に現れたクラックゥをペリスコープ越しに見て思わず悪態をついた。

 ここ1時間近くクラックゥが断続的に襲来してきている。

 彼が搭乗している車両は九州53式装軌戦闘車E型と呼ばれるタイプだ。E型は九州53式装軌戦闘車のなかでも最新型で、砲塔を大型化したことにより搭載できる弾薬数がそれまでのタイプよりも増加している。

 しかし、さすがにそろそろ弾薬が心許なくなってきた。

 しかも、1時間前に前線にいた味方の半分近くが負傷したり射撃不能になって第2梯団と交代している。

「車長、射撃は?」

〈許可する。だが陸戦魔女(陸上機動歩兵)がこのあたりは少ないから無駄弾は撃つな。――弾切れになったら一気に抜かれる〉

「了解」

 砲手は照準装置からの映像が表示されているモニターの中のクラックゥをにらむ。

 昆虫のような陸戦型クラックゥがその脚を動かしながらこちらに向かってくる。

 陸戦型はビームを放ってくるが、照準が高く、車高の高い53式にはかすりもしない。

 陸戦型との距離が1000メートルを切った瞬間、味方の扶桑40式対戦車砲がいっせいに射撃。

 160ミリ対クラックゥ炸裂弾が命中。

 遅延信管によりクラックゥの内部で炸裂。

 陸戦型は上部についた砲塔のようなものが吹き飛んだり昆虫のような脚が吹き飛び、動きが止まったりしている。

 脚の形や砲塔の形の白い光を発生させ、それらを回復させようとしているところにさらに1発。

 動きが止まったものには後方の自走迫撃砲がデータリンクを介して照準、120ミリ迫撃砲弾を降り注がせる。

 さらに、航空軍(空軍)のA-40対地攻撃機が超低空から接近、機首に装備した30ミリ多砲身機関砲で機銃掃射。

 コアを破壊された何機ものクラックゥが崩壊する。

 しかし、破壊されなかったクラックゥが突撃してくる。

 レーザー照準機が距離を測定。

 500メートルを切ったところで砲手はフットペダルを踏み込み、射撃。

 砲手用モニターの端に表示された残弾数が減っていく。

 陸戦型はそのサイズからは想像もできないほど軽やかに左右に動き、こちらの射線から逃れようとする。

 隠れていた40式対戦射砲が射撃、その横っ腹に160ミリ対クラックゥ炸裂弾を撃ち込む。

 一瞬、陸戦型の動きが止まる。

 その一瞬を逃さずに射撃。

 陸戦型を破壊。

 次の目標を探す。

 発見。

 ――10時方向(左斜め前)、距離、300

 前線にかなり接近してきている。

 扶桑40式が応射しているが間に合いそうにない。

 砲手はフットペダルを踏み込み、射撃。

〈3時の方向、至近距離に陸戦型!〉

 同時に車長からの。

 陸戦型が3時の方向(右側)から接近してきていた。

 砲手はコントローラーを操作し、砲塔を3時の方向に指向させる。

 照準、射撃。

 陸戦型に次々と50ミリ機関砲弾が命中し、白い煙が上がる。

 唐突に射撃が止まる。

 画面に警告。

 残弾数が0。

 同時に中隊本部から通信。

〈第1次防衛線は放棄!各隊は速やかに第2次防衛線まで撤退せよ!繰り返す、第1次防衛線は放棄!各隊は速やかに第2次防衛線まで撤退せよ!〉

操縦手(ドライバー)、全速力で後退!〉

 車長の指示で操縦手はギアを最後退に叩き込み、土煙を上げながら53式が後退し始める。



 同様の事態は、熊本県西部、水俣戦線や宮崎県東部、田野―都城戦線でも発生していた。




@九州連邦共和国宮崎県人吉市大畑町(おこば)―前線、第2次防衛ライン

2月12日九州標準時刻1120時

《空襲警報!!各部隊は空襲に備えよ!》

 第1次防衛線の放棄から約20分後、撤退を終え、ようやく陣地を組み直し終えた部隊に空襲警報が発令された。

 中隊本部所属の扶桑44式対空レーダー車が3機の対地攻撃型クラックゥが前線に接近してきているのを確認したのだ。

 対地攻撃型はすでに第2次防衛ラインから15キロ北まで接近してきていた。

 通常なら早期警戒機やレーダーサイトがもっと早く察知し、航空機動歩兵が直ちに迎撃するのだが、運の悪いことに航空機動歩兵は宮崎県東部や熊本県西部で波状に襲来してきている爆撃型の迎撃で手いっぱいになっている。

《総員、対空戦闘用意、総員、対空戦闘用意》

 レーダー車両から発射されるマイクロ波に誘導されてS-75(ガイドライン)が発射される。

 対地攻撃型がビームを発射。

 発射されたすべてのS-75が撃墜される。

 対地攻撃型がさらに接近。

 隠蔽されていた九州52式対空戦闘車甲の30ミリ機関砲が照準、射撃。

 対地攻撃型がビーム兵器を発射。

 発射装置を左右に振ることでビームの着弾点が移動する。

 ビームが自走高射砲のエンジンを貫き、大爆発。

 ビームが車体を貫通、搭載していた機関砲弾に誘爆、九州53式装軌戦闘車の砲塔が跳ね上がる。

 至近距離を通過したビームの熱で扶桑40式対戦車砲の砲弾が爆発、周囲の人間が木の葉のように吹き飛ばされる。

 たちまち、阿鼻叫喚の地獄絵図が出現する。

 命令を無視して後退を始める部隊。

 果敢に対地攻撃型に向かって撃ち続ける者。

 そこに陸戦型と移動砲台型クラックゥが襲いかかる。

 火を噴いた車両を捨て、逃げ出す戦車兵。

 クラックゥに囲まれ、弾切れになり、工具で必死に応戦する兵。

 急に立ちこめた瘴気を吸い込み、ガスマスクをつける暇すらなく死ぬ兵。

 陸上機動歩兵も必死で応戦するが、多勢に無勢、どんどん押されていく。

《各部隊に告ぐ!第2次防衛線は放棄!第3次防衛線まで撤退せよ!》

 撤退命令がでる頃には第3次防衛線も危うくなっていた。

 さらに追い討ちをかけるように上空に中型クラックゥが現れ、中隊本部にビーム攻撃を仕掛け始める。

 ちょうど離陸しようとしていた攻撃ヘリにビームが突き刺さり、爆発。燃料に引火してあちこちで火災が起こり、火の手が上がる。

 応援に駆けつけたA-40もビーム兵器の直撃を受け、爆発四散する。

《第3次防衛線も放棄!最終防衛線まで撤退!》

 第3次防衛線の放棄命令がでた頃には最終防衛線も実質的に放棄され、最終防衛線より数キロ後方のトンネルの入り口付近で辛うじて戦える者が必死の防戦を行い、トンネルの中は臨時の野戦病院となっていた。

 トンネルの中は負傷者のうめき声と入り口付近での戦闘の騒音に満たされていた。



 そして、1245時、戦線の放棄が決定され、えびの市などに避難命令が出された。


登場する架空兵器の解説を……


●北海道42式装輪戦闘車



[性能(D型)]

分類:装輪戦闘車

武装:十勝重工業52口径105ミリライフル砲

   M2重機関銃

   7.62ミリ機関銃×2

全長:9.2m

全幅:2.9m

全高:2.624m

軸数:8軸

自重:25.5t

エンジン:十勝重工業42式2号2型V型6気筒空冷式ターボディーゼル(550hp)

制御方式:オートマティック

ギア:前進6段、後退1段

最大速度:115km/h(路上)

乗員:4名

採用国:北海道陸軍

    東北解放義勇軍/東北合衆国解放軍→東北陸軍

    坂東帝国軍陸上戦闘部

    扶桑国軍陸上部

    九州連邦陸上軍

    琉球王国海軍

    東部ソヴィエト連邦陸上軍

    ASEAON(東南アジア・オセアニア諸国連合)陸軍

設計:十勝重工業

製造:日本列島・オーストラリア・東南アジア・東ソ連の各社

[特徴]

8輪タイプの装輪式戦闘車。

東北がクラックゥに占領されたことにより、危機感を募らせた北海道陸軍は整地走行に適した安価な戦闘車両の開発を十勝重工業に要求し、開発された車両。

安価ながらも105ミリ砲を搭載し、整備の容易な装輪式のため、列島各国で採用されている。

また、派生型には指揮戦闘車や歩兵戦闘車もある。

装甲は一般的なD型で正面が30ミリ機関砲弾の直撃、側面が20ミリの直撃に耐えられる程度。

[バリエーション]

北海道41試戦闘車:試作車

A型(1142年~):第1次生産型

B型(1143年~):第2次生産型。装甲を強化した。

C型(1143年~):A型を近代化改造したタイプ。新しいタイプの複合装甲搭載で重量を増やさずに装甲を強化した。

BC型(1144年~):B型をC型相当に改造。

D型(1145年~):第3次生産型及び輸出型。C型をベースにエンジンを強化し、最高時速を上げた。

CD型・BCD型(1145年~):C型・BC型をD型相当に改造。

E型(1147年~):第4次生産型。自動装填装置を搭載。データリンク機能も強化された。

CE型(1147年~):C型をE型相当に改造したタイプ。

DE型・CDE型・BCDE型(1147年~):D型・CD型・BCD型をE型レベルに改造したタイプ。改造が行われた国によって性能が異なる。

F型(1148年~):第4次生産型。自動装填装置の性能を上げた。

G型(1149年~):第5次生産型及び第6次生産型、第7次生産型。足回りを強化し、主砲を40口径120ミリライフル砲に換装した。北海道陸軍と東北軍のみ装備。

H型(1151年~):第8次生産型及び第9次生産型、第10次生産型、第11次生産型。無人砲塔化。

DEH型・CDEH型・BCDEH型(1151年~):DE型、CDE型、BCDE型をH型相当までアップグレードしたタイプ。

I型(1155年~):第12次生産型。装甲をビーム兵器の余波に耐えられる程度まで薄くし、20t程度まで軽量化した。

[派生型]

北海道42式自走迫撃砲:A型の砲塔を撤去、後装式120ミリ迫撃砲を搭載。C型、D型にも同様の改造を行ったタイプが存在する。

北海道42式指揮戦闘車:A型をベースに、通信機器を装備した。42式装輪戦闘車E型相当の車体にしたB型、データリンク機能の強化を行ったC型がある。

扶桑44式対空レーダー車

扶桑45式自走105ミリ無反動砲:BCD型の主砲を自動装填装置付きの105ミリ無反動砲(2連装)に変更した。

北海道48式自走迫撃砲:D型の砲塔を撤去、自動装填装置付きの後装式120ミリ迫撃砲を装備した。

九州51式装輪戦闘車:DE型、CDE型の主砲を扶桑50式50ミリ機関砲に変更、砲塔及び全面装甲にモジュラー装甲を装備した。

九州52式対空戦闘車甲:DE型から105ミリライフル砲を撤去、2連装の30ミリ機関砲を2機と対空レーダーを搭載した。

九州52式対空戦闘車乙:CDE型やDE型から砲塔を撤去。8連装の中距離対空ミサイル発射器を搭載した。



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