陸
大鰐が俺の家にやってきたのは月曜日、風邪が治ったのは水曜日。
今日は何曜日かというと、金曜日。
大鰐はまだ俺の家にいる。
これからについて話そうとすると彼女は家には帰りたくない、そう言って寝室から出ようともしないのだ。
こちらとしては早く両親に連絡して事情を説明したいが、彼女の口から連絡先を聞かない限り無理そうだ。
彼女の通っていた学校に連絡して両親の連絡先を聞いてみるのも一つの手だが、果たして教えてくれるだろうか。
しかし――だ。
「ご飯、扉の前に置いとくよ」
引きこもるのはどうかと思う。
溜息をついて、そんな今朝を思い出し空を仰いだ屋上での昼休み。
教室でクラスメイトと一緒に昼食を摂るのもいいが俺はあえて屋上へと足を運んだ。
別にクラスメイトとの友好関係に早くも亀裂が入ったのではなく、金曜日は晴れていたら屋上で昼食でもと思っただけだ。
と、思っただけではなく思いたいだけなのかも。
本音を言うと一人でいるのが好きだ。
まあ、浩太と一緒にいる時は別に一人でいたいなとは思わないしきっと彼との長い付き合いからこそ、そう思わないのだろう。
屋上はいい、運動不足の身体には少々屋上までの階段を上るのは疲れるがな。
周りでは生徒が数人ほどベンチに座って食事中、やはり多くの生徒が大食堂に行ったようだ。
この学校で唯一胸を張れるのは格別に美味いらしいメニューを取り揃えた大食堂だ、俺はまだ一度も利用した事は無いけれど。
コンビニで購入したおにぎりをいくつか取り出し空を見ながらの食事はいつもよりも美味しく感じる。
時間はいくらでもあったのに、結局俺は大鰐に何も事情を聞けず、気がつけば彼女は部屋から出てこない引きこもりみたいな状況に陥ってしまっているのを考えると、美味しさが徐々に薄くなっていく。
別に寝室は使ってなかったしいつまでいても構わないが、こうもだらけられると流石に考えさせられる。
「何辛気臭い顔してるの?」
「別に」
やってきたのは浩太。
「昔っから一人でいるの好きだねえ、ほら差し入れ」
食堂に寄ってきたらしく、浩太はから揚げを俺にくれた。
食堂のいいところの一つとして、かなり美味しいと定評のあるから揚げなどの惣菜が売られているのでご飯を持ってきて食堂でおかずを購入という手もある。
これで食堂が満員で教室や屋上に持って行って食べれるというわけだ。
「今日は弁当じゃないんだ?」
「まあな」
朝食を作って弁当を作ってという日が多いとどうしても俺は休憩のためにせめて一日弁当を作らない日が欲しいからな。
週に一度はその休憩のためにコンビニへ立ち寄って楽に済ませるのだ。
あ、そういえば大鰐は昼飯何か食べてるかな。
昨日、一昨日はレンジで温めればすぐ食べれる昼飯を用意したが、今日は用意し忘れた気がする。
しかし大鰐は部屋から出て食べ物を探したりして身体を動かしたほうがいいだろう。
だが……。
「引きこもりってどうやったら治るんだろうな」
「引きこもり? 君は別に引きこもりじゃないでしょ?」
「まあ俺は、そうだけどさ」
大鰐が引きこもりでね、とか軽々しくは言えず。
「そうだなあ、バイトとか誘えばいいんじゃない? 人とのコミュニケーションと、外に出るきっかけにもなるし何より、お金が貰えるっていう欲で釣れるんじゃ?」
「そういうもんで引きこもり治るのか?」
「さあどうだろう? ま、引きこもりじゃなくてもうちは人が欲しいかな」
「ああ、浩太の家は喫茶店やってるんだもんな」
それに人気店だった。
高くてそれなりに美味いものが食べれる店か、安くてすごく美味いものや美味しいコーヒーや紅茶に洋風料理、それにケーキやアイスまで食べれられる店となれば誰もが後者を選ぶ。
更に浩太のさわやかな雰囲気に加えて不備など無い整った容姿が人気を呼び、他校からわざわざ足を運びに来る生徒もいるんだとか。
「先週、バイトが一人辞めて今は人が足んなくて困っててさ」
「バイトかあ……」
もしもバイトしたとして頭に思い浮かぶのは、俺のいない間に冷蔵庫の中を何でも取り出して食ってしまう母さんと、寝室で布団に潜ったまま出てこない大鰐。
「俺は家事もあるから無理だな」
「なら誰かやってくれそうな人がいたら声を掛けておいてくれよ」
誰かやってくれそうな人……大鰐はどうだろうなあ。
やってくれそうな人っていうよりもやる時間などいくらでもありそうな人かな。
一日中布団に入ってごろごろしているのだから、外に出なければこのままでは人として駄目になりそうだ。
外に出るきっかけを掴めば現状から前に一歩前進する気がする。
身体を動かしてさ、外の刺激に触れればそのうち家にも帰るんじゃないかな。
それに学校を辞めて何もせずに一日を潰していく生活はお勧めできない。
家に帰るや俺は真っ先に寝室へ。
扉をそっと静かに開けると大鰐は俺の部屋から持ち出した漫画本を読んで大笑い。一日中こうしていたようで、服装はパジャマのまま。
俺を見るや「これ面白いわ!」と一言。
俺は漫画本を全て取り上げて溜息をつく。
俺の思い出の中に今でも輝く大鰐姫子と現実の大鰐姫子を重ね合わせるとこれ以上とない悲しみしか生まれない。
このままではいけないよ、大鰐。
「あの、さ。大鰐、よかったらバイトとかしてみない?」
「姫子でいいわよ」
あ、そう……姫子。
「……バイトねえ。別に働かなくてもご飯は出てくるわ」
それは何もしなくても出てくる魔法のご飯じゃないんだけど。
「働かざる者食うべからず。今のお前はどうなんだ?」
「こうして自宅を守ってる」
「寝室以外の守りが酷すぎるわ」
自宅警備員として採用していたら本日付けで解雇。
「はいはいワロスワロス」
「お前……」
その言い方は確実にからかってるだろ。
どこかで聞いたような口調だが俺には解らん、ネット用語か何かなら疎い。
「働きたくないでござる」
そう言って布団に潜る姫子。
「今のお前は無一文。人の飯にありついて人の家に住み着いて引きこもってる、五文字で表すならろくでなし」
「はうぅ……!」
この言葉攻め、効いてるぞ。
「働く意思が無いのならニートという属性も付け足される」
「うぐぅ……!」
「ひきこもり、ろくでなし、ニート、これ以上お前のプロフィールに何を付け足すんだ? 職業は部屋警備員だしな、そろそろ自宅警備員に転勤しないのか? 両親にも連絡しないしよ。俺から転勤届け出してやろうか? 自宅警備員から公園警備員だ」
「下手な脅し乙……」
といいつつも布団から出てくる姫子。
「実はダンボールを用意しておいた。お前の身体がすっぽりと入るくらいのな」
俺は姫子にダンボールを見せてやった。
本当はこの部屋のいらないものを詰め込むのに用意したものだが、このままではいらないものとして姫子を入れる事になる。
しかしそうなる可能性は彼女の意思次第だ。
「わ、わかったわかった! いいわ! やってみても!」
「やってみても?」
「やります、やらせてください」
「よかろう」
これでとりあえず外に出すきっかけは掴めるだろう。
彼女も今の生活では駄目だと思っていたのかもしれないな。
だってさ、たった四日で寝室はそこらにはコップや皿が転がっていたりで酷い有様だ。
彼女の髪は寝癖で花火みたいになってるし、清楚とか可憐とかそういう言葉はゴミ箱にでも突っ込んだのかおい。
「……それに生活費くらい入れておかないとね。月々いくらくらい必要かしら」
月々? ちょっと気になる言葉だな。
「まさか住み込むつもりじゃないだろうね?」
母さんなら即答で承諾してくれるであろうが、俺は悩んでしまう。
いつまで住み込むつもりなのかは知らないがこちらも姫子の両親に話はしておきたい。
「いいでしょ? みちるはずっと居ていいって言ってたわよ」
みちるは母さんの名前だ。
母さんは俺に何も言ってなかったがそういう話は俺にも話しておいてほしいな。
「でも君の両親にも話しておかないとさ。流石に人の家に住み込むのは色々とまずいだろ?」
「話す必要は無いわ、どうせ心配もしてないだろうし」
解らないぜ、今頃心配して探し回ってるかも。
「口論になるとすごくうるさくてたまらないのよね。どうしてもって言うならそのうち電話の一本でも掛けるわよ。それでいいわよね?」
「よくは無いが……」
やはり喧嘩して家を出たようだな。
しかしながら彼女から両親に連絡する意思があるのならそのうち落ち着いて家に帰るんじゃないだろうか。
「まあ……とりあえず喫茶店に行こう」
「今から? 嘘でしょ? もう日が暮れるじゃない」
いやいや、まだ夕方の五時前なんだけど。
今の時期は日が暮れるにはあと一時間以上は掛かるぞ。
「……その、やっぱり……ね?」
ね? じゃねーよ。
「ほら、部屋から出ろ」
「外は危険がいっぱいだし……ね?」
だから……ね? じゃねーよ。
「ああもう、早く出ろ!」
俺は姫子の腕を掴んで強引に引っ張って出そうとするが、彼女は全身全霊で踏ん張って拒否。
「外に出ねえとバイトできないだろ!」
「待って! やっぱり考える時間を頂戴!」
「そんな時間必要無いだろ! 外に出たくないだけじゃん!」
俺の手を振り払って姫子は布団の中に飛び込み、丸くなった。
「ええそうね! 確かに外には出たくない! 働きたくないでござる!」
「ござるじゃねーよ! これ以上引きこもってどうすんだ!」
「この部屋の神になる!」
「規模が小さすぎるわ! せいぜい貧乏神か疫病神が限界だろ!」
梃子でも動かぬほどに、まるで布団と融合したかのように引っ張っても微動だにしない。
まったくこういう奴いるよな。
ちょっとした乗り気も、いざとなるとその乗り気は消沈して臆する奴。
「……こりゃあもう警察に任せるしかないな、家出少女を保護したって言えばすぐ来てくれるだろうし家族にも連絡してくれるだろうな」
「そ、それだけは……!」
布団から顔が出てきた。
「だったら行こうぜ、引きこもるのだけは許さん」
「くそう……欝だ……」
渋々身体も出して立ち上がるまでに至ったが、部屋から出るのすらこうも抵抗があると苦戦するな。
「ほら、行くぞ」
彼女の手を引いてとりあえず廊下へ引っ張る。
廊下まではたった1メートル。
その1メートルですら、移動させるのが難しいとは思いもよらなかった。
「これ以上抵抗したらお前を担いでいくからな」
「セクハラで訴えるわよ!」
どこがどうセクハラに値するのか教えて欲しいところだが、ここはその台詞に乗って対抗してやろう。
「おお、訴えろ訴えろ。俺は家出少女が人の家に住み着いたので連れ出してましたって答えるだけだからな」
姫子は沈黙。
これ以上対抗できる言葉は無いようだ。
ようやく廊下に出したはいいが次は外。
玄関にたどり着くや姫子の抵抗が再開される。
「やっぱり……明日にしよ?」
「駄目だ、今すぐ行く」
どうせ明日になったらまたさっきと同じ事を繰り返す羽目になるに決まってる。
玄関まで連れ出すのすら苦労したのに明日また繰り返せと言われたら絶対にお断りだ。
「……お願いしましゅ」
妙な言い方に加えて上目遣いで見てくるのは実に可愛らしい。
しかしこれは明らかに色仕掛け、そんなの釣られてたまるか。
「さっさと靴を履け」
「……くっ、私の色仕掛けが効かないなんて……。あんた……ホモなの?」
「んなわけあるか」
俺はノーマルだよ。
初恋は風間浦奏、正真正銘女の子だ。
「……ああ、もう欝すぎてやばい」
靴を履くのもかなりゆっくりで、見ているこっちが苛々してくる。
「十秒以内に履き終えなかったら晩飯抜きな」
すると姫子は慌てて靴を履いて、履き終えるとちょっと眉間にしわを寄せて拗ねた様子。
「……意地悪ね、どうせ私を追い出したいからそうするんでしょ」
そういう風に捉えたか。
確かに少し意地悪が過ぎたかもしれない。
ここは彼女に押し付けるだけじゃなくて一歩引く必要があるな。
「別に追い出したいわけじゃない。ただ引きこもりが身体に染み付くのはお勧めしないからもっと外に出て活動して欲しいんだよ」
「ふん、上手い事言っちゃって……」
「ちゃんとバイト採用されたら今晩好きなもん食わせてやるから、俺の漫画本だっていくらでも持っていっていいぞ」
すると姫子の瞳に輝きが生まれた。
「ほ、ほんと?」
よし、こいつは飴と鞭の加減を調整すればちゃんと動いてくれるぞ。
「ああほんとだ、だから引きこもりだけはするなよ」
すると姫子は深呼吸をし始めた。
重い腰を上げて、玄関の扉の前でさらに大きく深呼吸。
「ふぅ……はぁ……ふぅ……はぁ……」
「ひっひっ?」
「ふぅ……。私は出産で力む妊婦か!」
気持ち良いくらいに突っ込まれた。
とりあえず玄関の扉を開けて彼女の様子を窺うとした。
「ほら、怖くない怖くない」
ゆっくり手を引いて外へ一歩ずつ近づける。
何が彼女へ恐怖を植えつけているのかは解らないが、外に出るというだけで顔がかなり強張っている。
「こ、怖くない……怖くない……!」
自分にも言い聞かせて足は順調に進んでいる。
まだ少しだけ肌寒くも感じる夕方の風ではあるがこうして肌を撫でるように通り過ぎる風は心地良いものだ。
だからこそ彼女にもこの心地良さを感じてもらって、外に対する嫌気を緩和してもらいたい。
「で、出たわ!」
「おめでとう!」
すかさず俺は玄関の扉を閉めて鍵を掛け、完全なる退路遮断。
折角ここまで来て逃げ帰られたらきっと俺は挫けてしまうしな。
「まったく手間掛けさせやがって」
「ふひひサーセン」
妙な口調だが声がやや震えてる事から彼女の心情はちょっと下降気味。
それほど外に出るのが嫌であれ、克服しなければならないのだから今がいい機会だろう。
こうして接するたびに、中学時代の姫子は一体なんだったんだろうって思うけど、もう今は割り切って大鰐姫子とはこういう人物だったんだと思うようにするのがいいな。
浩太の自宅こと喫茶店はここから少し歩けばすぐに着く。
大体十分くらい、それでも姫子は息を荒くして遠いとか呟き始める。
身体が鈍ってるんだろ、毎日布団生活とかするからそうなる。
喫茶店に到着するというのに休憩しましょうと言い出し始める始末で、俺は無視して歩いて到着。
しかし俺については来たものの人の視線から避けるように俺の影を踏むような歩行は妙なものだったな。
そんなに人目を避けたかったのか?
「ほら、中に入った入った」
しかしどう足掻いても結局これから人目につくわけだ。
「……人が多いわね」
「そりゃあ人気店だからな」
流石に大人数を前に、しかもこの店内で接客をするとなれば気は進まないか。
「別に人と接するのは慣れてるだろ?」
しかし姫子ならバイトの一つくらい簡単にこなせる能力を持っているはず。
こうして半ば強引に連れ出したのは悪いと思っているが、彼女ならできると俺は信じているからこそだ。
「……やっ」
「――やっぱり無理とか言うなよ」
先に言葉を拾っておく。
それほどに彼女の次に言う言葉は予測しやすい。
「何事も慣れだ」
しかしここまでつれてきたものの、やはり最後には姫子の意思を確認したい。
だからこそ俺は、扉を開けてただ待った。
姫子が自分の意思で中に入るか、それともそのまま踵を返して帰るのか。
「入る」
そう呟いて姫子は自ら中へ。
かなり安心した、ちゃんと彼女も自らの意思で選んだのだからな。
続けて俺も中に入り、ジャズの音楽と鼻腔を優しく刺激する香ばしい香りが店内の雰囲気を引き立てる。
香りだけでも楽しめるが、コーヒーか紅茶を無意識に頼んでしまいたくなる。
「やあ浩太」
「おお、よく来たね」
店内はいつものように客が多い。
テーブル席は満席、カウンター席は、二席しか空いていない。
客はほとんどが学生達だ、今の時間帯は帰宅する前にここで談話でもという生徒ばかり。
そうしてコーヒーや紅茶、それに美味しい料理の魅力に取り付かれて常連へという流れで、ほとんどが平輪中央高校の生徒である。
一人で接客をする浩太は大変そうに右往左往。
これで話は出来ないな。
俺はカウンター席に座ってコーヒーを注文した。姫子の分も注文してやるとする、彼女は紅茶がいいらしい。
着席して先ず俺の興味はカウンターの奥に。
そこにはスキンヘッドで口ひげを蓄えた強面なマスターが一人。
浩太の父親である、辰夫さんは見た目と違って優しい口調のおとなしい人。
辰夫さんは料理をしつつコーヒーと紅茶を用意、その手捌きは見ていて飽きない。
集中しているようなのでバイトの話は落ち着いた頃に浩太にでも話そう。
三十分後、コーヒー二杯目を二人で飲んでいるとようやく浩太は一息ついてこちらへやってきた。
「どうしたの今日……は、ってその子……」
一目で彼女が誰かと理解したようではある。
どうしてここに? そんな表情だ。
一方、姫子は紅茶を絶賛してマスターにどこの葉を使っているのか、抽出のコツはあるのかと質問中。
マスターが困り果ててるから止めなよ、シャイなんだから。
「バイトの件なんだけどさ、こいつはどう?」
「君の紹介なら別に反対はしないけど、まさか君が彼女と接点あったとはね」
誰もがまさかとは思うだろう。
だけど彼女とこうして今は同じ屋根の下で過ごしていたり、寝室を占拠されていたり、世話をしていたり、バイトを紹介していたりしている。
接点どころか家に住み込まれているんだよ、引きこもりされてたとも言うが。
なんて心の声は喉から飛び出せず。
「そ、それで、どうなの?」
ようやく話に入ってきた姫子。
「そうだね、来週から来れる? 平日は大体五時から九時、曜日は君の都合に合わせるけど週三回は最低でも来て欲しいかな。でも学校は大丈夫なのかい?」
「問題ないわ」
まあ、問題は無いだろうけど学校という単語が出て右手が微かに動いたのがちょっと意味深。
「そっか。親父、どうだ?」
辰夫さんは頷いてにこりと笑った。
どうやら採用のようだ。
「曜日の都合もな、こいつは毎日大丈夫だから気にしなくていい」
「え? そうなの?」
「……いや、警備の仕事が」
何が警備だ。
それにちゃんと人の目を見て言えよもう。
「引きこもりたいとか言うなよ?」
「も、もちろん! ……任せておきなさい」
彼女なら大丈夫だろ、やれるはずだ。
怠け心が身体に染み付いてないといいけどな。
ただ一つ心配なのは、今の姫子を浩太はどう思うかって事だ。
心配ではあるが感想はちょっと楽しみでもある。
その帰り道、姫子が気分よさそうに跳ね気味で歩いている理由は、今晩は何を食べたい? って聞いたらすき焼きと答えて俺は快く承諾したから――かな。
バイトに受かったお祝いとして、今日の晩飯は豪華にしてやる。
ただし来週から頑張ってもらおう。
それに彼女にはなんとか昔の栄光を取り戻して欲しいしな。
学校を辞めた彼女は現在所謂ニート、ならばせめてこうしてバイトを紹介したりして少しでも助けになってやりたい。
学校を辞めた理由や家出をした理由も気になるが、今は姫子をどうにかこうして引きこもりなどしないように自立させねば。
引きこもらなければきっとそのうち家に帰る……はず。
こうした出会いも何かの縁だ、やってやるさ。
先ずは……散らかった寝室の掃除かな。
次回から第二章に入ります。