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 それから……。

 それからの事。

 それからは、病院の看護士や清次さんに怒られて、あとはなんだったかな。

 今回の件は全面的に俺が悪い、奏を見つけた時点で病院へ連れて行けばいいものの一緒に夜になろうが構わず思い出の場所に向かったわけだからね。

 ただ、お咎めも無くこうして奏の病室に居られてるのは宗助が庇ってくれたからだ。

 おかげで姫子もそれほど怒られず、清次さんも面会を許してくれたので隣には姫子が椅子に座っていられている。

 浩太と宗助は不在、浩太は店の手伝いがあるから忙しくない日には来れそう。

 宗助はそろそろ来るかもしれない。

 ああ、ちなみに。

 ちなみに、あれから二週間経つ。

 あの日を終えて、その次の日から奏は眠ったままだ。

 体の様々な機能が低下して、今は病院の用意した医療機器を使わなければ生命維持も難しいとか。

 その割に俺達の目の前で奏は安らいだ表情で寝息を立てている、今すぐにでも目を覚ますのではないかと思うくらいに。

 現状は、予想されていた結果に早く到達しただけ、ただそれだけらしい。

 もう目を覚まさないかもしれない、それかいつか目を覚ますかもしれない、それははっきりとは解らない。

 奏はいつか目覚める、俺達はそれを信じて待つだけだ。

 目覚めたとしても今までの記憶は無いだろうと清次さんは言っていたけど、それでも構わない。

 目が覚めたらまた、思い出を作っていけばいいだけの話なのだから。

「姫子、俺はもう行くよ」

「ん……うぃ。私も行く」

 バイト終わりにここへ姫子は最近よく来るがおかげでバイトでの疲れによって船を漕ぐ事もちらほら。

「寝てた?」

「寝てない」

「寝てただろ」

 ああ、あれから。

 あれから、姫子は自分の家に帰ったので最近うちの食卓が広々と使えすぎてなんていうか、なんだろう、物足りない? みたいな。 

「今日はうちに来て飯でも食わないか?」

 母さんが寂しがってるからたまには飯を食べに来いとは姫子に何度か言ってるが忙しいのか、まだ一度もうちには来ていない。

「んー……どうしよっかな」

「都合悪いなら無理しなくてもいいけどさ」

「行けたら行く」

 その台詞ってほぼ来ない時に使われる気がする。

 姫子とは病院の前で別れ、俺はバスに揺られながらの帰宅。

 今日もうちに飯食いに来ないとなると寂しい。

 ……寂しい?

 寂しいのか俺は。

 いや、母さんが寂しがってるだけで俺も寂しいわけじゃない。

 ああ、そうだ。

 ……でも、なんだろう。

 姫子はちゃんと自分の家に帰った。

 バイトも紹介できたから引きこもる事も無いだろう、俺がやれるだけの事は色々とやった、俺頑張った。

 いつもの日常に戻って、思い出の場所に行ったあの日以来昔集まった仲間達との交流も増えた。

 栄子さんはどうしてるかな、どこかで元気にしていそう。

 全部万々歳なはずなのに、なんだかしっくりこない。

 家についたのは夕方の六時過ぎ。

 母さんは七時までに帰ってくるとか言ってたのでゆっくり夕食の準備をするとしよう。

 今夜はカレーだ、母さんが帰ってくる頃には煮込み時間を考えると丁度いい具合に出来上がると思う。

 そうして時間が経過して鼻腔へ食欲を刺激させる香りが漂う中。

「ただいまぁ~」

「お帰り」

 母さんのご帰宅だ。

「カレー?」

「カレー」

「シチューは?」

「無い」

 文句を言わずにすんなりと夕食を食べて欲しいものである。

「姫子ちゃんいないと寂しいなあ。寂しいよねえ?」

「さあな」

 食事を早々と終えて俺はテレビを見る事にする。

 この時間、姫子はいつも何をしてたかな。

 居間のパソコン使ってゲーム? それともVii? 部屋に行ってノートパソコンでゲーム?

 思い返すとゲームばっかやってたなあいつ。

 あとはソファでテレビでも見ながらごろごろしていたくらい。

 居間に母さんと姫子がいれば会話は途切れず騒がしい日々で、それはそれで楽しかったと言えば楽しかったかも。

 これからは静かでまったりとした夜を過ごせる。それもそれで、いいかも。

 いいけど、なんだろう……物足りないっていうのかな。

 掃除も前より必要なくなった、洗濯物も減ったし洗い物も減った。

 食材はいつもより一人分増やさなくてもいいので帰りに買った物を家まで運ぶのも少しは軽くなった。

 もやもやする。

 夜になると特にそうした気持ちが心の中で渦巻いて、次の日を迎える繰り返し。

 七月に近づくにつれて、最近は目が覚めてカーテンを開けるや晴天。

 雲ひとつ無く清々しいね。

 静謐、強いて音を探すなら鳥の鳴き声がどこからか聞こえるくらい。

 今日の朝食は味噌汁に玉子焼き、それと鮭。

 やっぱり朝はこの組み合わせに限る。

 遅れて食卓にやってきた母さんは寝癖で髪が満開の花火のようになっていた、寝癖が悪いから髪がそのように荒ぶっているのかな。

 母さんは眉間にしわを寄せて、

「またこれぇ?」

 なんて言うもののきちんと着席。

 味噌汁、玉子焼き、鮭の組み合わせはよく朝に出して文句を言われるものの最後にはきちんと完食してくれるから嬉しい。

 母さんを見送ってから俺はゆっくりと支度し、テレビでも見ながら時計を確認。

 七時半を過ぎたあたりで俺は登校、姫子がうちに来る前の、いつもの朝だ。

 近くには公園がある。

 今週は通りかかる時に公園を見ても、特に誰もおらず閑散としていた。

 とはいえ、平日の朝から公園に誰かいるのも妙な話なのでそれが普通。

 ベンチに人の姿なんてあったら、

「……ん?」

 思わず足を止めてしまう。

 そんで、近づいてしまう。

「何してんの?」

 さらに、話しかけてしまう。

「また喧嘩した」

 溜め息もついてしまう。

「しばらく泊めて」

「……別に構わないけどさ」

 ああ、そうだ。

 今日は学校を休むとしよう、二度目のサボりだ。

 仮病を使うのは後ろめたいが、このままこいつを家に置いて学校に行くのは不安。

「朝飯なんかある?」

「あー……そういえば昨日のカレー、まだ残ってたな」

 すっかり忘れていた、今日の朝食はカレーにして手を抜けばよかった。

「シチューは?」

「なんでこうも周りの奴はすんなりとカレーを受け入れてくれないかな」

「ん?」

「いや、こっちの話」

 さて、今回はどうなるやら。

 これから先なんてまだ解らないけど、少しはこいつを良い方向へ導いてやりたいところだ。

「あんた学校は?」

「いいよ、今日はサボる」

「さすが師匠」

「師匠言うなや」

 まったく。

 未来は誰も知り得ないからこそ面白い。




これにて僕らの未来は誰も知り得ないは完結でございます、ご愛読ありがとうございました。

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