伍
姫子とは気まずい日々が続いている、数えるにそれは五日も経過していた。
こんな状況だと姫子に清次さんと話した事や、他にも話したい事もあるのだが姫子の眉間のしわは深く、俺と目を合わせても睨みつけた後に目を逸らすその態度……話しかけ辛い。
奏の退院も残すところあと八日、姫子の動きは依然見られず。
ここ最近の姫子といえば俺が買ってきたお菓子などをよく勝手に食べるようになって非常に困る。
廊下でばったり遭遇して通り過ぎる際に肩パンしてくるのも本当に困る。
溜め息をついて、意味もなく俺は目の前の病院を一階から最終回まで見上げていった。
相変わらず大きい病院だ、中に入るのも引けるくらいね。
ゆっくりと俺は中へ入ると、受付の看護士が俺を見て何故か慌しく立ち上がった。
何だろう、前回来た時より雰囲気が若干違う気がする。
緊張感、そういったものだろうか……? まるで大手術でも控えてるような雰囲気だ。
疑問感を引きずりながらも受付に今日も奏の面会をと歩み寄ると、
「あの、奏さんは一緒じゃないのです?」
「奏? いや、一緒じゃないですけど……?」
ていうか学校帰りだから奏と一緒になんていられるはずがない。
「どうかしたんですか?」
「また病室から抜け出しちゃいまして……しかも今日はずっと探してるのにまだ見つからないんです」
「見つからない!? ……わかりました、探してきます!」
「あ、あの――」
俺の去り際、看護士が何か言ってたけどそれよりも奏を早く見つけなければという焦燥感が言葉を待たなかった。
病院から抜け出したのはもしかして姫子が手助けしたのか? いや、あいつは今日も午後からバイトのはず。
それに道具は俺が没収したし毎朝鍵が開けられていないかとか確認もしている。
となればひとりで病院を抜け出したのかもしれない、姫子が関わってる可能性が無いとも言い切れないが。
それにしてもどこから探していいものやら。
あいつが行きそうな場所など解らない、当てもなく探すのは効率が悪いもののだからといって探さないよりはマシだ。
以前に会った場所をと巡ってみるも、やはり夕方となれば帰宅中の学生らが蟻の巣の前に甘いものを落としたかのように沸いているので人、人、人。
学生服はやや黒が多いので、この中から白を探せばいいって話にもなるが難しいな。
後ろを振り返って、伸びる歩道には白がいたと思えば普通の主婦だし、前を振り向いてそこにまた白がいたと思えば、
「下郎、ここで何してる。環境破壊はやめて、一息吐くだけで空気が腐ってるわよ」
「とんだご挨拶で泣きそう」
何故か姫子がいた。
意味深でやや大きめな黒い袋を持ちながら、今日も不愉快を引きずっている。
「晩御飯の買出し? それなら今日はシチューがいい」
了解したけど買出しはしてない。
「バイトは終わったの?」
「終わって買い物してた、やはり男と男は無限の可能性を秘めてる」
俺を見ながらそんな台詞言わないで、お願いだから。
「いや、何も言うまい。てか今はゆっくりお前と話してる場合じゃなくてだな、奏がまた病院から抜け出したらしくてさ!」
「奏が……?」
「だからまたな!」
一先ずこの観光通り中心に探してみるとして、だ。
そう俺は考えて一歩踏み出したところ、俺の服を掴んで話さない奴が一人。
「何だよ」
「私も一緒に探すわ」
それは助かるね。
「でももし奏を見つけたとして、近くに看護士とかさ、いたら教えてよ。私と奏は会っちゃいけない事になってるんだから」
ああそうだった、そういう話だったね。
この際だから今言っておこう。
「実はさ、この前お前の親父さんと話したんだよね」
「は?」
「それでね、お前と奏が会っても別に優遇措置を取り下げるなんて事はしないって言ってたよ痛いっ!」
突如、左太ももに衝撃。
「はよそれ言えや! いつ話したの!?」
「五日ほど前かな、うん」
「五日ほどぉ前かなぁ、うん――じゃねえよ!」
さらに左太ももへ衝撃、しかも俺の真似をちょいと阿呆らしく言ってきたのがとてもむかつく。
「なんかお前と話した海外留学の話もそうして欲しいってだけだとさ、そうしろって話じゃあない」
「……そう、そっか! そっかそっかそっか!」
太陽でも落ちてきたかのように彼女の表情が明るくなった。
「私が奏と会っても問題ないって事ね? 奏を探しても問題ないって事ね?」
「そういう事ね」
喜ぶところはやっぱりそこか。
「あいわかった! ほら、ぼさっとしない! 行くぞ!」
ぼさっとはしたくないんだが如何せん、太ももに受けたダメージのおかげで駆け足のお前に遅れを取ってしまっている始末。
理不尽だ、そう頭の中で文句を一言。
二人で探すのはいいとして、人数が増えてもあてもなく探しているのだから状況が向上したというわけではない。
姫子が奏の行きそうなところに心当たりがあるのなら別だが、右往左往するその足取りは心当たりなど無さそうだ。
「一緒に探しても意味無くないか? やっぱ二手に分かれようよ」
「いやね、この時間帯はよくあいつがここらにいるからね」
あいつ?
それは奏を指しているのか、でも姫子の口調からして感じ取られるのはそれとは違う気がする。
奏をあいつ呼ばわりするのは先ずありえないな。
それならあいつとは誰?
するとやや観光通りから遠からず近からずの、人気が少ない場所へと姫子は向かう。
頭の上にクエスチョンマークを浮かせながら俺はついていくが、あいつとやらはどこにいるのやら。
仕舞いには三階建てのビルが二軒ほど並んでいるその間の細い路地、そっと覗いて立ち止まった。
「あんたのさ、栄子の印象聞いていい?」
「なんだ唐突に」
「唐突に気になった」
唐突すぎる。
「で? どんな印象?」
「……そうだな、上品で清楚。表裏も無さそうだ」
「なるへそ、それでそれで?」
是非君も栄子さんを見習って欲しいよ。
「やっぱり一緒にいると気分がいいよね。あの清潔感とかさ、何より落ち着いた淑女を思わせる雰囲気。いいねあの人は」
「ですよねー」
「それで、どうしてこんな事聞いたの?」
真面目に聞いてる風でも無いし、なにより何故今ここで栄子さんの名前が出てきたのやら。
「改めてあんたって人を見る目が無いなっていう確認」
「確認?」
人を見る目ねえ……そりゃあ確かに見る目は無いかも。
すると姫子は手招きして細い路地を覗くよう指で指示。
そっと覗いてみると薄暗いその路地は奥に人影が二つ。
話し声も聞こえる、耳を澄ましてみるとしよう。
「ったく、だりいなくそが」
どこかで聞き覚えのある女性の声だが言葉遣いには女性らしさの欠片も無い。
それに鼻腔に嫌な刺激、煙草の匂いだろうか……かすかな風にその匂いが乗ってくる。
「めんどくせえ奴拾っちまったなあ。おいてめえ、下手に動くんじゃねーぞ。じっとしてろよ」
「動かないのだ、とりまお腹空いてきたのだ」
「知らねーよ、石でも食ってろ」
なんて言い方だ……。
一先ず、奏が見つかった事は喜ぶとしよう。
よく目を凝らしてみて、一方は声と口調から奏だと判断。
しかしもう一方は、目を凝らして確認するも、見間違いだよなと何度も俺は目を凝らしていた。
「おかしいな、疲れてるのかな。ちょっと視界が……」
「現実から目を逸らさないでちゃんと見なさいな、ひっひっ」
後ろでは俺の心情を把握して本当に心から楽しそうな、小悪魔的笑みを見せる姫子。
「はあ~。煙草もそろそろ切れそうだなあ、ちょっと煙草買ってこいよお前」
「か、奏は煙草なんか買えない……」
「ああ……てめえの顔じゃ止められるか、顔どころか全体がガキくせえもんな」
言いたい放題、あの人が……まさかあの人がこんな言葉遣いをするなんて衝撃的すぎて開いた口が塞がらない。
「そろそろ行こっか」
耳元で姫子がそう囁き、俺の背中を押してきた。
「行きたくない」
踏ん張って路地へと押し込もうとするその力に抵抗。
なんか路地に入って面と面を合わせてしまったら何かが崩れてしまう気がしてならないのだ。
「今行かなくていつ行くのさ、行くっきゃないっしょ」
強引に押し込まれて路地へと結局入ってしまった。
そう、入ってしまったのだ。
「あっ……」
目と目が合った。
それは奏と目が合ったのではなく、もう一人のほう。
手には先端に赤を宿す煙草を一本、口からは今吸った煙を丁度吐き出していたところで白い煙が出ていた。
「おお、君はいつぞやの!」
奏は喜び俺に飛びつくが、俺は奏に一切反応できずに固まっていた。
固まっていたのは俺だけではない、目の前にいくコンビニとかそういった場所にる不良のような座り方をしている彼女も同様。
慌てて煙草を捨ててすっと立ち上がって、
「あら偶然ですね」
いつもの笑顔で言うも時既に遅し。
「やっほー栄子」
「姫子もいたのですか? どうしたのです二人して」
「いやーこの時間ったらあんたはきっと人気の無い場所で一服してんだろうなーって思って、こいつに本当のあんたを見せようとしたわけである」
栄子さんの顔が引きつった。
この人の顔はいつも笑顔で心地良くなってしまうものなのだが、今日の表情の変化は随分と激しい。
「いつから知ってた?」
「喫茶店で私があんたの携帯こっそりパクって中身見てからね、街中であんた見つけたら結構つけてたんだ知ってた? 知らないよね? 知るわけねーもんね、フヒヒ」
嫌な顔しやがるこいつ。
他人の弱みを掴んだと思いきやそれを振りかざして強気な態度。
「奏を病院から連れ出した時も通報を受けたとはいえやけに警察が迅速に尚且つ私達の場所を確実に把握してきたのが気になってね、あんたの携帯にはまだ履歴も残ってたしツメが甘いよねー」
「かっ、しくったなあ」
もはや隠す意味無しと判断したようだ。
懐から煙草を取り出して栄子さんは火をつけた。
てか未成年だよね?
「あ、あの、栄子さん……未成年ですよね?」
「あ? だったらあ?」
「そういうものはその……よくないと思います」
「ちと黙ってろよ糞餓鬼があ。吸いてえもんは吸いてえの、解るかおい」
俺の中にあった栄子さんという情報、それらは全て崩れ去った。
煙草の煙を吹き付けられて、色々とショックが重なってめまいまでしてきた。
「ああそうさ、てめえが奏を連れ出したのを見届けて警察に電話して、その後はてめえの親父に警察沙汰の事をかざして脅してやったのさ。困るもんなあ、大事な患者さんを娘が連れ出して警察沙汰になるなんてなあ、噂とか広まったら嫌だもんなあ」
「わお、予想以上のゲス」
「褒め言葉ありがとう。お財布が暖かくなってさいっこーって感じ」
お互い交差する視線には火花が散ってそうな気がする。
奏もこの雰囲気を察して俺の後ろに隠れてしまっている。
「……怖いのだ」
大丈夫だよ奏、お前は安心だ……多分。
「言いふらそうたって無駄よ、あたしは優等生で通ってるんだから誰も信じないからねギャハハ!」
「そうね、信じないだろうね」
「残念でした、ふー煙草がうめー」
「でも今までの会話を録音したものを聞かされたらどうかな、皆信じるかな?」
すると姫子はポケットからなにやら取り出した。
「は?」
「録音機能って素晴らしいよね、ちょっと古いけど録音はちゃんとできるわよこれ」
懐かしい、見た瞬間の感想がこれ。
ちょっと大きめで、カセットテープを入れて録音押すだけでテープに録音されるもので昔は結構皆持ってたと思う。
今では時代の波に消えてしまった産物だがね。
録音機能はそれほど高性能ではないものの、この細い路地では雑音は無く、姫子と栄子さんの距離は間近。
これらからテープにはきちんと栄子さんの声は録音されたに違いない。
咄嗟に栄子さんはそれを奪おうとするも姫子はすばやく後退。
「そのうち機材を揃えてこの音声をパソコンに入れて、今の女子高生はこれだ! って投稿サイトに投げるのもありよね、生放送できるサイトもあるようだから生放送中に流すのもありか」
「てめえ……!」
「てめえ?」
「いや、えっと……」
「ちなみにあんたが煙草吸ってたところもばっちし前から写真撮ってるのよね」
「な、何ですって!? 返しやがれ糞餓鬼ぁ!」
大慌ての栄子さん。
この数分間で随分と立場がよろしくなくなったね。
「ちょいちょい、親友がそんな言い方するなんて私ショック」
「あ、あたしだっててめえが警察沙汰になったの言いふらせるんだからな! 調子にのんなよおい!」
「どうぞどうぞご自由に。お互い痛み分けしましょう、最もあんたのほうが重傷になりそうだけど」
「てめえの悪趣味だって知ってるんだぞ!」
ああ、姫子の趣味と言えばあれか。
「さすが栄子、何でも知ってるねえ。私もあんたの事は何でも知ってる、お互い社会へ全てぶちまけよっか!」
二人の言い合い、これをじっと見続けて尚且つ奏も一緒なのは彼女に悪い。
そっと俺は奏をつれて路地から出た。
「仲良いんだねー」
「そうだね、多分良いんだと思う」
お互い包み隠さず今は全てぶちまけてる最中だ、そっとしておくとする。
それに二人の言い合いをあまり近くで聞きたくない、ちょっとした現実逃避。
二人の言い合いが終わるまでは奏と話をしていよう。
「奏はどうしてまた今日脱走したの?」
「えっと、誰かに呼ばれた気がしたの」
「誰かに?」
「うん、誰か」
誰なのかは既に記憶には残されていないようだ。
これも症状の進行と見ていいのだろうか、どうであれ奏には時間が限られているのは確かな事。
「なんちゃって」
「え?」
唐突。
「やっぱり外はいいね、そう思わない? 貴方がインドア派ならあまり共感はしてくれないかもしれないけれど」
この落ち着いた雰囲気、口調もいつもとはまったく違う。
まさにこれは……本当の奏だ。
一体いつから入れ替わってたんだろう、まあ深く気にしなくていいがそれよりも今は本当の奏と会話している。それが大事なのだ。
「この際だから思い出の場所、行かない? いいでしょう? ある程度なら場所憶えてるの」
「でもなあ……」
今奏が外にいる時点で非常にまずい、何がまずいかって看護士達が奏を探しているからだ。
さらに思い出の場所へ向かうにもかすかな記憶では結構な距離だったはず、帰りは確実に夜。
退院してからなら問題無いし、もう少し早めの時間に行けるが、退院してからではもしかしたらもう奏の人格は無くなってる可能性もある。
だからといって今から行くのも問題だ。
「とりあえず病院に戻ろうよ」
「嫌、絶対に」
「今からだとほら、時間も時間だし」
「今日中には帰れるじゃない」
そりゃあ今日中には帰れるだろうけど、帰れる頃は夜だよ? もしかしたら深夜って言える時間にだよ?
捨てられた子犬が助けを求めるような瞳で奏は俺の服の裾を掴んで無言の要求をしてくるが、俺に求められても俺は決定権が無いからなんとも言えない。
「皆心配するしさ、看護士さんも探してるんだよ?」
「なら大丈夫だと連絡しましょう」
奏はさっと俺の上着のポケット全てに手を入れ始めた。
「ちょ、ちょっとちょっと!」
若干くすぐったい、何をしようとしてるのやら解らないが少しだけ抵抗するもすぐに彼女の手は引っ込んだ。
「借りるね」
引っ込んだ手には俺の携帯電話が握られていた。
指を走らせて、電話をかけるが相手は誰だろう。
「もしもし、私。ええ、そう、彼の電話から掛けてるの。私は大丈夫だから、多分夜には帰ると思う。それだけ、またね。何も聞かないで、何も言わないで、何も考えないで」
奏はすぐに電話を切って、さらには電源も切って俺に渡した。
「これで大丈夫、電源は入れないようにね。きっと電話がばんばん掛かってくるから」
「誰に電話掛けてたの?」
「宗助よ」
なるほど、おそらく一番今奏の心配をしてる人物だ。
電源を入れたままだった場合、宗助から電話が掛かってくるのは必至。
奏は携帯電話を俺に渡したものの、どのポケットに入れたかをちゃんと確認してたので、俺が電源を入れて連絡を取らぬよう警戒をしてる様子が窺えた。
隙を見て電源を入れて宗助と連絡を取り合いたいな、ずっと俺の傍に居て服の裾を掴んでいる彼女から隙を見て携帯電話の電源を入れて尚且つ連絡をするのは流石に難しそうだが。
路地のほうもどうやら話が落ち着いてきたようなので姫子のところへ行くとする。
結末や如何に。
お互いぶちまけるだけぶちまけて最後は握手、そんな未来が見たい。
「すみませんでしたほんと勘弁してください……」
でもこんな未来は見たくなかった。
土下座して姫子に屈する栄子さんを勝ち誇った顔で見下ろす姫子、酷い光景だ。
「それでいいのよ、次に調子こいたら首に水平チョップするからね」
それは痛そう。
「姫子、あの日の約束憶えてる?」
「憶えてるわ、忘れるわけ無い」
「ええ、私も。準備はした?」
「準備してたものはこいつに取られた」
「なるほど、なら取りに行きましょう」
なるほど、なんかこの流れはやばいぞ。
止めなきゃやばいぞこれは。
二人とも目が輝いてる、今から何をしようとしているのか考えずとも解ってしまう自分の頭を砕きたいね。
壁にもたれて縮こまってる栄子さんと一緒に俺も何も考えずに縮こまりたい。
「病院に戻ろう、じゃないと騒ぎになる」
「私が電話したから大丈夫」
あの電話で収拾がつくならありがたいもんだ。
「そう言ってもな、場所も記憶が曖昧で行けるか解らない上に奏は病院から抜け出してるんだ、いつまでも帰ってこないとなれば警察沙汰だってありえるんだよ?」
行き着く先は思い出の場所にたどり着けず警察に保護されるってとこかな。
「細けぇこたぁ気にすんな」
「こ、細かくはないだろ」
思い出の場所につれていってやりたいけど、状況がよろしくないからなあ……葛藤の結果、病院に戻せって頭の中の俺はずっと囁いてるが、奏を見ると頭を抱えてしまいたくなる。
「何よ、あんたは奏の事が大切じゃないの!?」
「大切だよ! ただみんな探してるから今は病院に戻ろうって言ってるんだ!」
「あんたは自分の保身しか考えてない! 面倒事を避けたいならついてくんな! 私は奏を連れていくからね!」
それはそれで見過ごせない。
「二人とも、落ち着いて」
「ごめん……」
奏の前でなら姫子はとても素直な奴だな、俺に対してもこうした態度を取って欲しいね。
「……ねえ、一緒に来て。やっぱり、あんたがいないと駄目」
姫子は俺に歩み寄り、力溢れる眼光は無くすがるような弱々しい視線を投げ掛けてきた。
「……無理。お前だって解るだろ? 皆心配してるし二度目だぞ? お前のお父さんだって二度目となったら流石に厳しくするはずだ、そうして欲しいがそうしろってなるかもしれないんだぞ?」
「……それでも、それでもいい!」
「よくないだろ!」
「姫子……もしかして私のせいで何か大変な事になる……?」
奏には話せないだろうな、以前に脱走した件で清次さんと揉めたのは。
「なんでもないわ、心配しないで」
無理して作る笑顔、逆にそれは心配を与えてしまうと思うが。
「お願い、あんたの記憶が頼りなんだから」
思い出の場所への道を聞きたいようだが、正直記憶は曖昧だ。
「助けてよ」
奏を思えば、ここは手助けしたい……。
――どうする?
自分へ問いかけするも、すぐには決断できない。
「助けてよ、師匠!」
師匠って呼ぶな、今考えてるところなんだから。
……ん?
「私はあんまり行けなくて道が解らなかったから、いつもあんたに道案内してもらってたの忘れた?」
いや、待て。
俺を師匠って呼ぶ奴は限られてる。
どうしてお前が言う? 奏から聞いた? それにしては姫子が言った言葉から汲み取るに、昔からこいつは俺の事を知ってる風だ。奏から聞いたというのではなく最初から知っていた――といっても最初っていつ?
そういえば思い出の場所はいつも五人で遊んでた。
宗助、浩太、奏、俺……うん、やっぱり一人足りない。
となると――
「あっ……ああ~」
時々思い出してはあと一人は誰だったかなって思ってた奴、そいつが目の前にいるようだ、いるらしい、いるわけだ。
「ああ~じゃないっ!」
首へ水平チョップ。
「がへっ……ちょ、げほっ……!」
「いつまでも思い出さないあんたが悪い」
ごもっともです、すみません。
「だからさ……」
姫子は俺の両肩を掴んだ、強く握り締められ、彼女は言葉を少し詰まらせるものの立て直して続けて言葉を発する。
「だからさ……助けてよ」
この時、多分俺は……あれやこれやと考えるのは止めたと思う。
「……わかったよ、手伝う」
深い溜め息をついた、もうどうにでもなれって意味を込めた溜め息だ。




