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 三日間の停学も明け、顔の腫れも引いてきていつものようでいつもと違う気分を抱きつつ教室に入り席に座る。

 いつもと違う気分――とは折角馴染み始めたクラスに、喧嘩で停学になった俺を生徒達はきっといつもと違う視線で見てくるに違いないと思ったからである。

 そんな気分を引きずって、引きずり続ければ気にしなくなるかなとそれなりに前向きに考えて軽く一呼吸。

 浩太はやはり、

「おはよ、今日も早いな」

 いつもと同じだ、これだけは変わらないと確信してた。

 教室へ入ってくるクラスメイトはというと、三日間空席だった席に俺が座っているので先ず一度は視線を投げてくる。

 それを受け止めるのは痛々しくも感じるから俺は視線をやや低めにして目を合わせないようにした。

「おはよう、停学明けたんだ」

「あ、ああ……」

 違うのは気分ではなかった、なんていうか意外だ。

 話しかけてきたのは女子生徒、これまで話した事は数える程度。

 名前は……なんだったっけ? 失礼だが覚えてないけどここは悟られないようにしよう。

「君って地味で弱そうに見えて意外とやるもんなんだね」

 笑顔でそう彼女は言った、意外とやるというのはどういう意味なのかを教えて欲しいな。

「えっと……何が?」

「もうっ、結構評判よ? 噂だと浩太君の店で働いてる子が絡まれてたところを助けたってさ、しかも相手は二人だったのに追い返したらしいじゃん! やるじゃん! かっこいいじゃん!」

 噂に尾ひれがついてるなあ。

 しかもどれほど広まってるんだその噂は。

 確かに喫茶店に同じ学校の生徒がいたかもしれないから何かしら噂が広まるかもと危惧していたが、少なくとも悪い印象とくっついて広まってはいないらしい。

「この地味で弱そうで大人しそうで女装したらもう女の子って感じでむしろかわいいって感じの君が喧嘩で二人を追い返すなんてねえ」

 頬を突付きながら彼女はそう言う、妙な単語を混ぜて。

「褒められてる気がしないんだけど」

「褒められてるんだよ、素直に喜ぼう」

 浩太はにやにやと俺を見てくるが明らかにこの状況を楽しんでやがる。

「あーそうかい、ありがとよ」

 そういえばクラスの生徒達が俺を見る目はどこかこう……敬うようにも感じられる、気のせい? どうであれ妙な視線。

 三日経ったら英雄にされてたような気分だ。

 今日一日、女子には休み時間に何度も話しかけられるし男子には反撃はどんな感じでとか質問責め。

 夏木先生はいつも以上に接してくるわで今日は疲れた。

 帰りには生徒指導の先生に呼ばれて、噂を聞いたのか「事情も知らずにすまなかったな」なんて謝られた。

 警察の報告のみで判断してしまった結果と相手高校の処罰にこちらもそうするべきだと判断を早まったために一方的な停学を押し付けてしまったとか何とか。

 三日間で生徒達から少しずつ真相を知って、夏木先生の懇願もあり停学は内申書に記入せず、その三日間は怪我による欠席という事にしたらしい。

 良い事尽くめで何だか気味が悪い、これから何か悪い事が起きる予兆でなければいいが。

「そうそう、昨日うちの店にさ、宗助が来たんだよ」

「宗助が!?」

 驚いたな、浩太の店まで結構な距離なのによく足を運んだものだ。

 にしても何か理由があってきたのか、それともコーヒーでもと気まぐれに立ち寄ったのか。

「偶然うちの店に来たっぽくてね。休憩中に色々話したなあ。昔話に花が咲いてね、思い出の場所とか懐かしい話ばっかりさ」

「知ってれば俺も行きたかったなあ」

 停学中だから知ってたとしても行けなかったがね。

「今度行ってみよっか、森の中の丘までの道はあんまり憶えてないから行けるか不安だけどさ」

 思い出の場所に行くには小さな森を抜けなきゃならないが、中々に迷いやすい。

 俺も正しい道を覚えてるかは不安なところ。

「まあ気が向いたら」

 皆で行けたら行きたいが、今は叶わないと思う。

 懐かしさを共感しつつその余韻を引きずったまま俺達は別れ、俺は一度自宅へ。

 今日は家で着替えをしてから病院に行く予定だ。

 姫子にも一言言ってから行きたいのもある、昨日はバイトが無いからって一日中部屋に引きこもりやがるから少しはこちらから顔を合わせておきたい。

 自室で着替えをし終えて俺は二階からゆっくりと降り、姫子の部屋の前に。

 中からは微かに音が聞こえてくる、今日はバイトが夕方からなのでそろそろ支度をする時間だ。

 俺はノックを二回して、反応を待つ。

「何?」

 扉越しの声は少しだけ不機嫌そう。

「病院に行ってくるよ」

「……そう」

 素っ気無い声だ、少し寂しそうな感じにも聞こえる。

「何か伝言とか、渡したいものとか無い?」

 会えなくとも出来る事はある、俺を通して言葉なり物なりは伝えるなり手渡すなりできる。

 すると扉の下、床との僅かな隙間から何かが出てきた。

「渡して」

 それを手に取ると、どうやら街のどこかを撮影した写真のようだ。

 デジカメで撮影したのを現像したのだろうがいつ現像したのやら。

「いろんなところ撮ってきたの、外に出れない分……写真なら、少しは楽しめるかなって」

 そんな意図があってデジカメを購入したのか。

「ああ、わかった。渡しておく」

 写真は全部で十一枚、その中でも五枚は公園や木々の茂る場所や、森林博物館というところの木々が目立つ場所だったりする。

「もしかしてさ、奏の言う思い出の場所を……それかそれに似た場所を意識して撮った?」

 意図的に選ばれて撮ったとなればそう思わざるを得ない。

「……そうよ」

「思い出の場所ってやつ、その場所知ってるなら直接撮りに行けばよかったんじゃ?」

「……詳しい場所は知らないの、前に奏に案内してもらって行こうとはしたけど結局行けなかった」

 行けなかった……ね。

 これまでの情報をかき集めて紡いでみるに警察に保護されたんだと思う。

 傷だらけだったらしいが、道中何らかのトラブルでもあったのかな。

 どうであれこうして写真まで撮って奏に渡して欲しいなんて言うのだから姫子にとって奏は本当に大切な友達だと解る。

 以降、姫子は言葉を発せず扉越しの物音を聞く限り、支度を始めた様子なので俺は写真を懐に入れて家をあとにした。

 思い出の場所について詳しく聞きたいところではあったが致し方ない。

 夕方はバスも混むのであまり乗りたくはないが、面会時間とやらがあるはずなので時間短縮のために仕方なくバスを利用する。

 運良く一つだけ席が空いていたので着席し、退屈を紛らわせたく懐に手を入れて写真を取り出して一枚ずつ見ていった。

 俺と姫子が久しぶりに再会を果たした公園まで撮ってやがる。

 こうして振り返ると懐かしささえ感じてしまう、短い月日ながらも多くの出来事があったために長く感じて懐かしさを引き出してるのかもしれない。

 ああ、そういえば姫子に思い出の場所を聞くの忘れてた。

 写真を見る限り昔行ったあの丘とは類似点も見当たらなかったが、もしかしたら思い出の場所は丘じゃないのかな。

「あら、偶然。お久しぶりですわね」

 バスから降りて数歩目、目の前に病院が見えたところで後ろから栄子さんが声を掛けてきた。

「あ、どうも。久しぶりです」

 栄子さんが喫茶店に来て以来もう一ヶ月も会ってなかったなそういえば。

 そりゃあお互い通っている学校も離れているし、栄子さんは何度か喫茶店へ行ったかもしれないが俺自身喫茶サテンへはそれほど行かないので会う機会がこれといって無い。

 しかしいつ見ても綺麗な人だ、目の保養になる。

 微かに靡く風に、長髪が揺られるやその姿、心臓の鼓動を大きく脈動させる魅力を秘めていて後光でも見えそうだ。

「その顔……どうしました?」

 腫れは引いたとはいえ、やはり真正面から顔を合わせれば聞きたくなる怪我。

 素直に話すのも、話は長くなるし喧嘩してましたとか言えない。

「ちょっと……」

 何がちょっとだ、たくさんだろうがよ――って感じ。

「そういえば……喫茶店で喧嘩して騒ぎになったとか聞きましたが……」

 知っていたのならばわざわざ隠そうとして嘘を塗りたくる必要も無い、かな。

「まあ……その……」

 ただ正直に話すのも抵抗もある。

「そうなんです?」

 首を傾げるその仕草、可愛らしい。

 きっと男子にもてるんだろうなあこの人。

「そう、いうわけですはい」

 そんな癒しに思わず正直に話してしまった。

 ちょっと気まずい、自分の悪事をさらけ出しているようで。

「貴方も意外とやるものですね、かっこいいですわ」

「ど、どうも」

 かっこいいと褒められても素直に喜べない。

 結局のところ、喧嘩なんてしていいものではなく、それに結末は二人に喧嘩を売ってボッコボコに殴られただけなのだから。

 ただ、姫子を守れた――そこだけは自分でもかっこいいかも、なんて。

「今日は治療のために病院へ?」

「いえ、友人が入院してまして会おうかなと思って。栄子さんは?」

「え? あ、私はその……」

 彼女は言葉を詰まらせた。

 随分と目が泳いでいるな、俺には言いづらい理由でもあるのだろうか?

 栄子さんが病院に来ていて、しかしその理由は俺に言いづらい――この二つの情報を元に考えるも簡単には紡げない。

「別に健康そうですが、どうかしたのですか?」

「え、いや……その……ちょっと持病の、お薬を受け取りに」

「持病? どこか悪いのですか?」

「ま、まあそう……ちょっとありますの、あ、あとお見舞いにも!」

 なんか怪しい。

 動揺して思わず思いつくままに嘘を付いているような印象。

 やはり以前、病院の前で見た少女の後姿は栄子さんで間違い無さそうだ。

「そういえば姫子の奴、貴方がここに来てたら是非教えて欲しいと言ってましたけど」

 なんて姫子はそんなの言ってはいないが姫子の名前を出してみて様子を窺ってみる。

「そ、それだけは言わないで!」

「え?どうしてです?」

「いや……えっと……」

「姫子には言えない理由があるんですか? 気になりますねえ……ああ、そうだ。姫子には内緒にしておきますから、教えてくれませんか?」

 なんか彼女を脅しているようで嫌だなあ。

 というよりも脅していると素直に認めたほうがいいのかもしれない。

「本当に秘密にしてくれます?」

「ええ、秘密にしますとも」

 戸惑いつつも、栄子さんはゆっくりと口を開いた。

「実は……姫子のお父さんに会う予定なの」

 目を逸らしながら栄子さんはそう言う。

 後ろめたさを抱いているような感じで、何に対してと思考を巡らせればこの人にとっては当然姫子。

 では何故?

 さらに思考を巡らせてみる。

 姫子と奏が会った場合、誰がそれを目撃して誰がそれを姫子の父親に知らせるのか。

 それに姫子を心配しないはずがない、もしも姫子の様子を監視する人がいるとしたら……。

「……報告ですか」

「ええ、そう……そうですわ」

 それなりの事情があるような匂い。

 これは嗅ぎまわるのはよしておこう。

「なら今日病院に姫子の父親がいるんですよね?」

「いますよ、でもそれが?」

「会いたいなって思って」

 僥倖、まさにそれだ。

 この機会は逃したくない。

 たとえ話が拗れてしまうとしても、会って話はしておくべきだ。

「でも……」

「お願いします、どうしても会いたくて」

「……聞いてみます」

 ここで立ち話もなんなのでと俺達は肩を並べて病院へ。

 栄子さんは受付で何か話を数分ほどし、俺は近場にあった椅子に座っているとしばらくして彼女は隣に座った。

 着席と同時に小さく溜め息一回、俺に気づかれないようやや顔を下に向けたようだがまじまじと意味もなく見ていたからその溜め息に気づいてしまった。

 それは、姫子の父親と会うのが彼女にとって心労――斟酌するとそうとしか感じられないが、それでも栄子さんは温顔を見せる。

「姫子は家で何してますの?」

「あいつは……」

 家であいつは何をしているのかを説明するにあたって、言わないほうがいいものばかりであったために一瞬、俺は言葉を詰まらせた。

「パ、パソコンでネットとか……それに読書も」

 それとエロゲーと、ネットはエロゲーの攻略情報を見たりしてるけどそれは言うまい。

「そう、あの子がパソコン使うなんて意外です」

「意外、ですか?」

「私がパソコン買おうとした時はあの子詳しいかなって聞いてみたけど全然解らないとか言ってましたから」

 きっと嘘だ、嘘に違いない。

 ネットで検索する指の動作はあまりにも速く、文字が一瞬にして打ち込まれるほどで熟練している。

 そんな奴がパソコンを全然わからないとか言うか? いいや言わないね、少しでも自分の情報を隠したいのならば別だがな。

「うちに来てから興味を持って最近パソコンに熱中してるんですよ」

 とりあえずそう言っておく。

「そうなのですか、楽しく過ごしてるようでほっとしました」

 楽しいどころか部屋の中で時々発狂したような声まで上げてるくらいですよ。

「私がいつも見るあの子は、よく溜め息混じりな声で空を見上げていたりして何だかこう……つまらなそうな感じでしたから」

「きっと今は伸び伸びしてられる時間が増えたからでしょうね」

「そうかも。家出して一時はどうなるかと思ったけど……あの子には今の生活のほうがいいのかしらね」

 それは俺も同意する。

 伸び伸びどころか好き放題やってるあいつを見ているとむしろ俺も清々しくなるしね。

 ただ伸び伸びしすぎには注意して欲しいものだ。

 しばらくして受付に動きがあり、栄子さんが呼ばれて俺は一人で待つ事になった。

 周りは家族連れで診察を受けにきている人や不安そうな表情で席に座って溜め息をつく人、忙しそうに歩き回る医者や看護士などでこの空間を見渡すだけで人、人、人。

 それほどこの病院はこの街で重要なものであり、昔から中心街に病院があればと皆が願っていたので

 一人でいると心細い。

 奏に会いにいっちゃあ駄目かな、駄目だよな。

 もどかしい気持ちを携えながらも待つ事十分後、栄子さんは重石でも引きずっているかのような足取りで戻ってきた。

「ついてきて」

 その足取りとは裏腹に表情はさきほどに見せた温顔で変わっておらず、無理して温顔を維持しなくてもいいのにと少し思う。

「それと、あの子には絶対に、その……」

 報告の事、であろう。

 一度は聞いたもののもう一度確認のために聞いてくるところからしてよほど知られたくないようだ。

「絶対に言いませんから安心してください」

 わざわざ姫子にこの事を教えて二人の仲を拗れさせる理由も無い。

 長い廊下を歩いていき、栄子さんが足を止めて目の前の扉を軽くノック。

 聞くだけで貫禄が感じられる男性の声がして、栄子さんはゆっくりと扉を開けてしかし、自分は中に入らないようで横に避けて動かず。

 一人で入るにはやや緊張と不安さが纏わりつくが、小さく深呼吸して心を落ち着かせてから俺は中へ入った。

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