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 バスに乗って自宅へ向かうもこの時間帯はバス停での乗り降りが激しく帰りは意外と時間が掛かってしまった。

 姫子は既にバイトへ行ったようで、あいつはちゃんと飯食べたかなと台所へ行ったのだが妙に卵臭い。

 冷食は炒飯とかピラフなど何種類かあったがピラフを選んだようで空の袋がゴミ箱に入っていた。

 それならいいが、何故に卵臭い?

 ふとレンジを見てみるや半開きになっており、匂いはそこからきているようだ。

 レンジの中を覗いてみると白いものと黄色いものがいくつも付着しており、これは明らかに卵。

 多分……卵だよな。

 そういえば姫子がバイトに行く前に間に合ったら炒飯を作ってやろうと、卵を台所に一個置いたまま忘れていたかもしれない。

 それをあいつが発見し、茹でるのは面倒だから電子レンジに入れたとする。

 ……爆発する。

 ニュースで以前に取り上げられていたが、卵を電子レンジでチンすると爆発する可能性があるという知識は一般常識になっているだろうと俺は思い込んでいたわけでまさか身近な奴がそれをやるとは思わなかったな。

 ピラフを食べ終えて食器を流しに入れたところで卵を発見――バイトまで少し時間あるし卵を茹でて食べながら向かおうかな――茹でるよりレンジでチンすれば早いんじゃないかな、やってみよう、ボンッ。

 目を閉じれば一連の行動が思い浮かぶ。

 目立つところだけ拭いていったようだがそれでも汚い。

 流しには布巾が置いてあり、やや黄色い。

 仕方ない、後始末は俺がやってやるとしよう。

 夕方六時過ぎになると姫子は帰宅してきたが俺と目を合わせるもすぐさまに逸らして口笛を吹きながら居間へ。

 しらばくれるつもりかな?

「なあ知ってるか?」

 聞いてみる。

「し、知らない!」

「……まだ本題に入ってないんだけど」

 彼女がソファに座るよう、俺は冷蔵庫に入れておいたシュークリームと牛乳を二人分取り出してソファの前のテーブルに置いて誘導。

 とりあえず甘いものでもどうぞ、そういうわけだ。

 姫子は疲れたら甘いものが欲しくなるのか、最近は帰ってきてから必ずと言っていいほど甘いものを食べてから夕食だ。

 俺はシュークリームを食べるつもりも夕食前に何か腹に入れるつもりもなかったが、食前のデザートもたまにはいいだろう。

 姫子はそわそわしつつもソファに座ってシュークリームを手に取って口に運ぶ。

「バイトどうだったよ?」

 先ずはいつもと同じ会話をしていこう。

「今日は、結構……暇だった」

 喋り方が少しぎこちないぞ?

 どうしたんだ? どうかしたのか? どうかしたんだろう?

「そっか、昼飯はちゃんと食べていったんだよな」

「あ、うん、ちゃ、ちゃんと、食べた……」

「何食べたんだ?」

「冷食のピラフ、だけど」

 うん、知ってる。

「他には?」

「な、何も」

 食べてはいないだろうな、確かに。

 爆発すればそりゃあ食べられないもんな。

「そうか? おかしいなあ……。何がおかしいかっていうとさあ、電子レンジの中で何かが爆発したような跡があったんだよ」

「……は、はあ」

 は、はあ――じゃないだろおい。

 シュークリーム食べるのも若干早い、それもずっと口の中に留まらせてる。

 食べているので喋れませんみたいな状況を作ろうとするんじゃない。

「何かが、なんだけどどうにもそれ……卵のようなんだ」

「もごご、もごー」

 どうしてそこまで誤魔化そうとするんだかこいつは。

「卵を電子レンジで温めようとすると爆発するんだぜ。知ってた?」

 姫子の目をじっと見て言うが完全に俺と視線を合わせまいとしている。

「知ってた?」

 大事な事なのでもう一度言う。

 すると姫子はシュークリームを食べ終えて、しかし目を逸らしながら、

「フヒヒサーセン……」

 まさかあんな事になるとは、って顔に書いてある。

 本当に卵が爆発するの知らなかったんだな、まあ炒飯の作り方すら知らないからそれも解らなくもない。

「危ないからな、気をつけろよ。家に帰ったらいきなり電子レンジの中すごい事になってるし何かあったら俺に連絡しろ」

 電話番号とメールアドレスは一応教えてあるものの連絡がきた事は一度も無い。

 俺からもした事は無く、お互いこうして一緒にいる時間が長いからわざわざ携帯電話を使ってコミュニケーションを取る必要は無いのだ。

「……あい」

 また卵を爆発させられたらたまらんが、それよりも何かあったら俺に連絡っていうのを彼女に伝えられたからよし。

 今日の夕食は焼き魚と味噌汁、それに漬物と健康に良い和食にしてみた。

 母さんは少し遅れるようで今しばらくは二人きり。

 夜七時から放送される番組と同時に夕食。

 話したい事、話しておくべき事、話さなければならない事がある。

 話すなら今、かな。

 こうして二人きりで夕食はまだ数回しかないので少し緊張。

「きょ、今日さ、宗助と奏に会いに行った」

 まあ奏は会いに行く前にあっちから会いに、というか遭遇してきたけど。

「へ、へえ。そーすけとかなでねえ」

 わざと変な発音で二人の名前を言ってしらばくれる姫子。

「どちら様? とか言うなよ。もう宗助から話は聞いたんだ」

 箸を置いて姫子は溜め息。

 もう言い逃れもできないなあとかそういう気持ちの込められた溜め息だ。

「まったくさ、勘違いしてたよ。お前が家出した原因は宗助にあると思っててさ」 

「は? 宗助? 何、私があいつと恋愛で揉めたとでも?」

 置いた箸を掴んで二、三回強く動かして威嚇。

 彼女には自動的に宗助と付き合っているかもという噂で思考を繋いでしまうようで眉間には深いしわが刻まれる。

「だから勘違いだったんだって!」

 姫子は箸を再び置いて味噌汁に手を伸ばし、俺を睨みつつ啜る。

 味噌汁の温かさで自分を落ち着かせようとでもしたのかな。

「それでさ、お前宗助と言い合いした後学校一週間休んだろ」

「ええ、休んだわね」

「その一週間の間に家出するきっかけがあったんじゃないか?」

 ――それから学校を休み始めて、ある日にまた言い争ううちにあの子、学校を辞めるって言い出しまして。それでまた大喧嘩したらしいですわ。

 思い出すは栄子さんの言葉。

 きっかけは父親との口論、おそらく。

 しかし俺も馬鹿な奴で、宗助にばっかり頭がいって目の前の答えを無視して大変な遠回りをしていたのだから笑える。

 笑える?

 笑えないか?

 いいや、笑おう。

「よかったらさ、教えてくれないか? どうして学校を辞めるって言い出して家出をしたのかをさ」

 それに最初から姫子に聞けばよかったんだ。

 とはいえ出会ったばかりの頃は気持ちも尖ってて素直に話してはくれなかっただろう、今だからこそ聞けるわけで。

「聞いて、どうするの?」

「力になれたらいいな、って思ってさ」

「なれるの?」

「なれるかもしれないしなれないかもしれない、でも力になろうとするよ、力になりたいから」

 俺は箸を置いて食事を一時中断。

 食べ物を口に運んで少しでも話の進行に支障が出る要素は弾いておきたい。

「……いいわ、話す」

 よし、と俺は身構える。

「その前に食べるけど」

 腹が減っては戦は出来ぬってわけだな。

 ……違うか。

 一先ず食事を終えて食器はきちんと流しへ、テーブルには麦茶を二つとクッキーを用意しテレビの音量は低く、話をしてる最中に母さんが帰ってくるかもしれないのですぐに夕食を作れるよう材料は冷蔵庫に。

 話をする場は完璧、重箱の隅など突付きようが無いだろうと自負してソファに腰を下ろした。

「……父はね、医学界ではかなり有名らしいの。テレビでたまに見ない? 大鰐清次って奴」

「あー……たまにっていうかよく見るな、何……あの人が姫子のお父さん?」

 病気や医学などを中心とした番組が夜に放送されているがそこでほぼ登場する人だ。

 あまり関心なく食事中や暇な時に見ている程度だったので大鰐という名前には特に気にしてなかった。

 医学者限定のSNSを開設、全国で医者と交流やら研究やら何やら色々と有名らしいが記憶にはおぼろげでしかない。

 一つだけ確かなのは、姫子の父親――大鰐清次はすごいって事。

「残念ながら」

 残念どころかすごい人なんだからここは娘として自慢すべきでは?

 でもこの話と喧嘩はどう関連性があるのだろう。

「奏が環境の良い病室にいるのもあいつのおかげ、私が必死に頼んだらあいつは入院費を全額病院負担にしてすぐに部屋も用意したのよね」

 それほど影響力のある人物なのが解る。

 奏の父親は医学界でも有名、となればこの街一番と言っても過言ではない平輪中央病院にも何らかの協力若しくは貢献などで関係が持たれているはず。

「私が奏を病院から脱走させたのを知ったあいつはすごく怒ってさ。警察のお世話にもなったから尚更」

 やはり警察からの連絡が自宅に行き、それで父親に知られて喧嘩っていう流れは間違いないようだ。

「病院には私が奏と面会できないようにしたらしくて、しかももしまた奏に会ったら奏を普通の病室に戻して入院費用の負担を辞めるって言ったの」

「えっ……!? それじゃあそれ以来病院に来なかったんじゃなく会えなかったって事?」

「そういう事。それから一週間、学校にも行く気が湧かなかったわ……思い切ってあいつに抗議しに行ったら条件を突きつけられたの」

「条件? どんな?」

「高校を卒業したら海外に留学、医者の道を進めって」

 医者を目指しているのならばそれは喜ぶべき話だが、曇りがちの表情を見る限り彼女は医者の道には進みたくないようだ。

「それに……」

「それに?」

「私の趣味……やめろって言うのよ! 信じられる!? 崇高なる愛を拝めなくなるなんて酷すぎる!」

 崇高なる愛であろうが俺もあんまりお勧めできないが。

「人の部屋に勝手に入って漁って、私のお気に入りだった学園漢祭りっていう神ゲーを私の前で真っ二つにしたのよ! でもこの前買いなおしたからいいけどね!」

 怒りを爆発させるべき場所が違うと思うよ。

 学園漢祭り――この前姫子が買ってたゲームのタイトルを聞いただけでちょっと背筋に悪寒。

 神ゲーだか知らないがどう反応していいのやら。

 それはやりすぎだ! なんて言うのも、そのゲームをやっていいと俺が認めているようで複雑だし、といっても真っ二つにされても仕方が無いだろうと言えば彼女の怒りを確実に買う。

 少なくとも俺が姫子の親なら真っ二つにはしないものの何かしらのアクションは起こしたと思う。

「お、おう……そうか」

 一先ず言葉は簡単に、苦笑いでそう言うしかなく彼女の言葉を待つとした。

「私は医者になるために勉強してきたんじゃないし勉強するつもりもない。海外留学なんてしたら結局奏に会えなくなる、あいつはただ私と奏を引き離したいだけなのよ」

「どうしてさ」

「知らん」

 まあいい、家出の理由も解った。

 あとはこれまでではなくこれからを聞くべきかな。

「家出して何かが解決するわけでもない、お前はこれからどうする気なんだ?」

「家に戻れとでも言うの?」

「別に、そうじゃないけどさ……」

「だったら何よ」

「ここにいても何も変わらないぜ」

 解っているだろうけど、彼女にとってはきっと自分の家に帰ってももう何も変わらないと思ってるからこそここに留まっているのかもしれない。

 留まっていても何も変わりはしないのに……。

「だったら何とかしてみせて」

 突き刺すようにその双眸から放たれる姫子の視線、深いしわを寄せた眉間が威圧感を引き出していく。

 臆してしまいそうになるがここはこらえて、こちらも眉間に深いしわを寄せて応えるように答える。

「なんとかしたいさ、でもお前はここから動かないし状況は良いと言えない。なんとかしたいといっても解決策が転がってるわけでもない」

 遠まわしに言ってみる。

 姫子と父親に必要なのは落ち着かせる時間、それも一ヶ月という猶予があったので十分落ち着いただろう。

 だからそろそろお互いに向き合って話し合うべきではないだろうか。

「そう、だけど……」

「俺がお前の親父さんに直談判しにいこうか?」

「……話が拗れるだけよ」

「だろうな」

 これは俺と姫子との間で起きている問題ではない。

 ましてや俺と姫子の父親との間で起きている問題でもない。

 その問題は俺が口出ししようにも親子という間の問題であってお門違い。

 それも親子の間での問題であれ、奏も関わってくる問題であるからこそただの問題ではなく大問題。

「……いいわ、もう。この話はおしまい!」

 姫子は唐突に席を立つや逃げるように居間から出て行って部屋に。

「あ、おい……待てよ」

「待たない、エロゲーやる」

 部屋の扉を閉めるや、同時に玄関の扉が開き母さんが帰宅。

 姫子に構いたいものの仕方なく俺は台所へ。

 さて、これからどうするべきなのか。

 何かできる事……それも全部が丸く収まるような結果を引き出せるような事を考えねばなるまい。

 調理中に溜め息は、あまり良いスパイスではないが思わず漏らさずにはいられなかった。


次から最終章となります。

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