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13/23

 あれからずっと、夕食を食べ終えたら居間は少々……いいやかなりうるさかった。

 母さんと姫子はテレビの前に立って陽気な音楽と共に二人は身体を動かし、そんな中を俺はソファに横になりながら漫画本を読んでいるのが主なのだが、二人が激しく動くと振動が伝わって文字が読みづらい。

 二人はフィットネスをしたり、それが終われば今度はスポーツゲーム。

 俺が買ったソフトはどうやらスポーツやミニゲームがいくつもできるらしく、昨日はテニスゲームをプレイ中だった。

 二人で白熱して大声を上げるのはご近所迷惑になるから少し自重して欲しいものだが、俺の思惑通りにいって何よりなのでそっとしておいている。

 しばらく続いて欲しいが、飽きられたらまた新しいソフトを購入ようと思うが、この調子なら飽きるまでしばらく掛かりそうだ。

 ただ……姫子はゲームを終えてシャワーを浴びた後、自室に引きこもる。

 何をしているのか、それは聞かずとも……な。

 ちょくちょくネトゲをするべく居間に現れて自室に引きこもる時間が減ったのはいい。

 だが姫子がうちのノートパソコンを使ってエロゲーをしていると思うと、頭を抱えたくなる。

 それにしてもデジカメは購入してから俺の視界に一切入らないのだが、あいつはデジカメをちゃんと使ってるのだろうか。

 使っているといっても、何に使っているのかは正直……あいつの趣味を知ってしまった俺にはどういった利用方法なのかは聞きたくないのもあるがな。

 もしも……ほら、あいつは自分の妄想の糧になるようなものをデジカメで撮ったり、あいつの妄想のモデルを街中で見かけたら写真撮ったりしてたら……な。

 流石に「お前さ、デジカメで何撮ったりしたんだ? 見せてくれよ」とか言えない。

 見せてあげる、とか言われてもあまり見たくはない……それで興奮するあいつも見たくない。

 しかしそれは俺の想像だけであって実際はどう使っているかは解らないが、この想像は間違っていると信じたい。

 放課後、俺は教室の掃除をしつつも窓の外に広がる青をじわりじわりと染め始めている橙色を見ながら、その橙色に姫子がパソコンの前でにやついてる顔を浮かべさせて溜め息。

 綺麗な夕空も姫子のにやついた顔が少しでも思い浮かんでしまうと感動すらできない。

「あら? 浩太君は?」

 夏木先生が教室に入ってきて、俺は思わず苦い顔をした。

 この人、掃除は生徒らでやって先生は最後に掃除終了の確認時のみ来るのが普通なのに俺が掃除当番の日はすぐやってきて俺に纏わりつきやがる。

「先に帰りましたよ、担当の掃除場所はちゃんと終わらせてそそくさと」

 浩太は家の手伝いがあるしそれにあいつはちゃんと掃除をして帰る。

 黒板は白いチョークの跡や粉など見当たる部分なく綺麗な黒々としているので文句は無いだろう。

 ちなみに自分の担当する掃除場所を終えればそそくさと帰る生徒は多く、その理由として最後に残った奴が先生に掃除終了の報告をしに行かねばならないからだ。

 今日のところは俺が終了の報告をする事になりそうで、こうして会話している間にも自分の担当する掃除場所の掃除具合は他の生徒よりも遅れる。

 むしろ夏木先生は俺へ会話を求めてきたり、頭を撫でようとしてきたりで意図的に掃除を遅れさせられている。

 どうして俺にそこまで纏わりついてくるんだか、理由を聞いてみたいところではあるもくだらなそうな気がするので俺は黙々と掃除を続ける事にした。

「最近よく溜め息ついてるけどどうしたの? 悩み事なら先生に相談してね」

 それほど学校で溜め息はついていない気がするけど、もしもこの人が俺の行動を常に観察しているのだとしたらきっと俺はよく溜め息をついているのだろう。

 悩み事といっても、人に相談できるような悩み事ではなく思わず俺は溜め息をついた。

「ほら、また溜め息。悩み事があるんでしょう?」

 頼られたい、そう顔に書いてるぜ先生。 

 でもまあこの人に相談してみるのも何か参考になるかもしれない。

 姫子の趣味は相談できないしどう相談しろって話だからあれは置いといて――だ。

「じゃあ相談します」

「是非是非!」

 嬉しそう。

 もうこうなったら掃除も遅れ気味だし手を休めて口を開くとする。

 どうせ掃除終了の報告は俺がするしかないのだ、この流れは。

「女の子ってデジカメが欲しい理由といったらどんな理由ですかね?」

「女の子が?」

「はい、女の子に対して深い意味は特に無いです」

 意味をつけるなら居候。

「んー……そうねえ、私もデジカメ欲しくて買ったんだけどやっぱり友達とか、それにペットとかね、楽しい時間を形にしておきたいから、かな」

「はぁ……形に、ですか」

 俺にはあまり理解できないな、先ずデジカメ手に入れても友達と一緒に撮るなんてする気にもならないし。

「女の子はね、皆で写真撮ってそれを部屋に飾るのが好きなのよ。撮って楽しんで撮った後も見て楽しむの」

 そういえばよくドラマとかで見るが女の子の部屋ってのは壁に写真が貼られてたりしてるな。

「でもどうしたの? ……ま、まさか君、好きな女の子がいて、女の子にデジカメをプレゼントしてそれをきっかけに付き合っちゃおう……とか? 先生はそんなやりかた関心しません!」

 俺も関心しません。

 でも家に住み始めた女の子が半ばカツアゲする勢いで俺から一万借りてデジカメを購入しただけとも言えない。

「いや、別にちょっと気になっただけでして」

「最近は生徒達のトラブルも多いから、よこしまな考えで行動しちゃダメよ?」

 よこしまどころか最近は真剣に一人の少女をどうにか正しい方向へ導いてやろうと頑張ってるんですがね。

 引きこもり予備軍から今ではバイトをして自室からも引きこもる時間が減ったまでに成長したのだから褒めて欲しいがこれまた言えない。

「何が起こるかわからないものよね。南奥高だったかしら、あそこなんか先月だったかな? 生徒が一人学校を辞めるって言い出してちょっと騒ぎになったとか」

 南奥高? 先月……? しかも学校を辞めるって?

 それはもしかして、もしかしたら、もしかするとって考えるまでも無く姫子じゃないか?

「そ、そんな事があったんですか……辞めるって言い出した理由は何なんです?」

「恋愛が原因……とかなんとか、だけどちゃんとした理由は解らないわ。あちらの先生とちょっと話をした時に聞いたくらいだから」

 恋愛の言葉を聞いて俺はすぐに宗助を連想した。

 しかしながら俺の記憶にある宗助はまだ幼い頃のまま、今はどんな姿なのかを想像してみるとすれば好青年ってとこかな。

 身長は俺よりも低め、その理由としてあいつはかなり背が小さかったからだ。

 実際に会って話したいところだし、最近は何かと時間が作れなかったり姫子も落ち着いてきたからそろそろ足を運ぶとしよう。

 次はまた宗助の家まで行って留守だったら流石に気分が萎えるから、病院に行って宗助を探すとする。

 結局いつもより帰宅時間が遅くなってしまい、いつもより橙色の濃い空の下を歩きながら俺はふと姫子は今日バイトなのを思い出して、あいつの様子でも見に行くかと帰路を変更した。

 喫茶店は今日も大盛況で、中に入るや空いているのはカウンター席が一つとテーブル席が一つのみ。

 空いていて幸運というもの、学生らがこれから続々と雪崩れ込んでくる時間帯だからな。

 夕食の前に軽いものでもとか、皆とゆったり会話でもなんていう生徒らはちょっとした遠回りくらいなら惜しまず必ずここに来る。

 近くにバス停があるもんだからここら付近に住む南奥高の生徒なんかは寄りやすい場所でもあるから、姫子はちょいと大変だろうな。

 といってもこれは訓練だ、あいつの精神を鍛える訓練なのだ。

 俺はマスターに挨拶して着席。

 コーヒーを注文し、姫子は来ないかなと辺りを見回した。

 その姿捉えるや、彼女は置くのテーブル席に座る俺と同じ学校の生徒の接客中。

 俺にはまだ気づいていないようだな。

 気づくまでここからこっそり見ていてやろう、入り口近くのカウンター席は彼女の位置からでは気づきづらいだろうしここでの仕事を久しぶりに観察してやろうじゃないか。 

 しばらくそうしてコーヒーを飲みつつ姫子を観察していると店に客が一組入ってきた。

 普通なら特に気にはしないが、その客は南奥高の特徴ある青を基調としたブレザーを着ており、男女それぞれ二人ずつの四人組となれば大人数に区分されるのかもと俺は思わず姫子を見る。

 姫子はその客を見るやそそくさと厨房へ逃げるように引っ込んでいき、代わりに浩太が接客。

 お互い自分の役割の切り替えは実にスムーズで、もう慣れているかのようだ。

 やっぱりあいつは逃げたか。

 まあそれも仕方ないけれど。

 テーブル席が近いのもあって会話が聞き取れる、盗み聞きするつもりは無いが意外と声が拾えるのは好奇心に押されて俺は耳を傾けた。

「ねえねえ、やっぱりあれ大鰐姫子だよね」

「間違いねえな、あの顔はよ」

 姫子目的で来たようだ、それに顔見知り。

 クラスメイトかなんかだろうが、でも姫子は逃げ出したとなればそれほど親しい仲でもなさそうな印象。

「あのお、ここに姫子っていう子が働いてませんか?」

 接客に入った浩太へ四人組の一人がそう質問した。

「ええ、いますよ。どうかしました?」

「私達彼女のクラスメイトで、会いたいんですよお」

「クラスメイト? そうなんですか……? ならこの注文は彼女に持ってこさせますよ」

 快く承諾する浩太――別にそれは構わない。

 ただ俺は、嫌な予感ってのが心を突付いてきてコーヒーが中々口に運ばなかった。

 気づかれないように四人組を見るやその笑みは好印象とは捕らえられないようなもので、見ていて嫌な気分になるがしかし――それは俺だけが思っているだけなのかもしれないしそっとしておいた。

 浩太も俺には気づかなかったので、辰夫さんは軽く俺を見てくるも俺は薄らと笑みを見せて首を小さく横に振って仕事の邪魔になるから今は挨拶しておきません、と無言の会話。

 しばらくして姫子が奥から出てくるも表情は曇りがち。

 テーブルへカップを置くも荒々しかった。

「あら、たいそうなご挨拶ね」

「ドーゾゴユックリー」

 姫子はまったく心のこもってない言葉でそう言い、しかも相手の顔を見ず言下には舌打ちまでする始末。

「あれから宗助君とはどうしたのかなあ? 注目の的だった彼を独り占めできたあ? なんでも彼の妹さんに近づいたんでしょ? あんたもやるわねえ」

 妹? 宗助に妹なんていたかな?

 それに彼女の口調は敵意を感じさせるし、会いにきたんじゃなく煽りにきたに違いない。

 しかも姫子と宗助について――それは恋愛を思わせるような関係。

「ほんとほんと、腹黒ー」

「あいつと口論になって、クラスでもハゴされればそりゃあ学校辞めたくなるか」

「超が付くほどの優等生だったのに、メッキが剥がれるとなあ」

 姫子を馬鹿にするような彼らの笑い声――いや、馬鹿にしている笑い声は聞いているだけで腹が立ってくる。

「あんたが学校来なくなったおかげで過ごしやすくなったからいいけどねー」

「私も妹さんに近づこっかなあ? ねえ妹さんに会わせてよお」

 パンッ――。

 その時、鼓膜を刺激した音は何かを掌で叩くような音――視線を音のほうに向けるや右手を振り終えて空で止める姫子と、唐突の事に頭がついていけてないのか目を点にさせて赤くなった頬を押さえる女子生徒。

「恥を知れ!」

 姫子は更に怒声を浴びせた。

 本来は音量を低めで流しているジャズの音楽だけがはっきりと聞こえるくらいの沈黙。

 店員が客をビンタする、それは重大な事であるにも関わらず姫子は決して凛とした姿勢を崩さなかった。

「て、てめえ!」

 立ち上がったのは男子生徒二人、叩かれた女子生徒は涙目で姫子を睨むのみ。

「そんくらいで止めとけよ」

 これ以上は姫子の導火線を短くするだけ、導火線の火を消すには爆薬から切り離すのが一番。

 だからこそ俺は姫子の盾になるように割ってはいった。

「あ、あんた――」

 いたの? ってか? ああ、いたさ。

「なんだお前は!」

「こいつの保護者」

 あとこいつの妄想では受けとかいう役割で活用されている奴。

「引っ込んでろよ!」

「引っ込むのはお前らのほうだろ、わざわざ店にまで来てこいつを煽りに来たのかよ。それも四人組で来るとかさあ、どうかしてるぜ。群れを成さなきゃ女の子にもびくびくして会えないのか?」

「なんだとおい!」

 肩を押されて連鎖的に姫子にもぶつかった。

 無性に苛々してくる、荒々しい奴らめ。

 しかもこいつらは場所も弁えない奴らだ、本当に南奥高の生徒なのか? どこぞの不良と変わらないなこりゃあ。

「おい、お前がついてきてとでも言ったのか?」

 男子生徒二人を手で押し退けて俺は女子生徒に話しかけた。

「そ、そうよ……」

「姫子を煽るためにとでも言ったのか?」

「だ、だったらなんだっていうの!」

 叩かれて感情が高ぶっているからか、本来は隠すべき理由を簡単に言ってしまっている。

「ふん、理由を聞かされて喜んでついてきたわけだあんたらは。最近の南奥高の生徒は女の子を煽りに行くのが流行ってるのか?」

「て、てめえ!」

 あ――やばっ。

 何がやばいかっていうと。

 男子生徒の右手が俺の目の前にあったからだ。

 瞬時に視界がぶれて頬には強烈な痛み、膝が折れそうになるもカウンターに手をついてなんとか姿勢を維持。

 歯を食いしばると同時に、鉄の味が口の中に広がった。

 その味を感じるや身体全体が熱くなるような感覚、無意識に動く身体を俺は微塵も抑制せずに身を任せた。

「うがっ――! や、やりやがったな!」

 あぁ……やってしまった。

 何をやってしまったかというと。

 男子生徒の頬を思い切り殴ったのだ。

 それからというのは悲惨なもので、後ろにいたもう一人の男子生徒も加わって二対一。

 後先考えないで行動した結果、殴りあうものの二人分の拳には打ち勝てず、ならば一人だけでも痛い目を見させてやろうと集中的に殴り、気がつけば天井を見ていた。

 それも店内の天井ではなく見覚えの無い真っ白な天井。

「気がついた?」

 そんな視界に姫子の顔が覗いてくる。

「ここ、どこ?」

「休憩室」

 一体あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。

 顔も所々痛いし腰も痛い、でも後頭部には柔らかい感触。

 そして姫子が至近距離にいるとなればこれは、膝枕をしてもらっているのではないだろうか。

 だろうか――否、膝枕をしてもらっているに違いない。

「はあ……はは、気絶してたんだな俺」

「そうね、一時間くらい寝てた。浩太が止めに入ったんだけど止まんなくて、あんたは殴られて倒れてさ、頭を打ったから全然動かなくて、あいつら逃げちゃった」

 その間の記憶がまったく無い、倒れた拍子に頭の外に飛び出してしまったようだ。

「かっこ悪いとこ見せちゃったな」

 二人を叩きのめして店から追い出すのが俺の理想だったが、現実では格闘技やスポーツなんて縁の無い俺が勝てるわけもなく、その挙句気絶して……。

 でもこの膝枕は悪くない。

「そんな事無い。その……ありがと、かっこよかった……かな」

 そりゃあどうも。

 ただこんだけ傷だらけだと素直に喜べない。

「ほら、治療中だからじっとしてて」

 綿を傷口に当てるや強烈な痛みが襲う。

「痛いっ!」

「我慢して!」

 消毒液を染み込ませてたのならそう言ってくれよ、頭が未だに回転してないからちゃんと説明してくれないと心の準備が出来ない。

 しかしそれはそうと姫子の奴、こうして俺に構ってていいのだろうか。

 今日は五時からでバイト時間が少ないから休憩は無いはず、つまり今はバイト時間なんだが店はあれから一時間となるとまだまだ混む時間だ。

「お前バイトは……?」

「喧嘩中に物投げてあいつら扉のガラス割っていくし、客があまりの喧嘩に警察へ連絡したらしくてさ。ちょっと騒がしくって今日は早めに閉店したんだ」

 そうか、店に迷惑掛けちまったな……。

「店長はね、気にしなくていいって言ってた。褒めてたよ、男らしいところ見せてくれたって」

 男らしいところ――ね。

 にしては膝枕してもらって治療中な俺は男らしいの欠片も無い。

「あ、そうだ」

 姫子はポケットを探ってなにやら取り出した。

「ほら、笑って?」

「笑ってってお前……」

 取り出したのはデジカメ、それを構えてにっこり笑ってくる。

「この顔だぞ、撮る必要ないだろ」

「いいじゃん、二人の野蛮人に立ち向かった名誉の傷を写真に収めるチャンスよ?」

 まったく、そんなに撮りたいならいいだろう。

 笑うと口元がちょっと痛いがここは我慢して笑ってみせた。

「はい、チーズ!」

 パシャ――と至近距離でフラッシュもたかれて目がチカチカ。

 お互い、目を合わせてまた笑いあって……痛みなんかどうでもよくなった。

 それからは扉のガラスも、原因は俺にあるので辰夫さんに頭を下げて何度も謝罪して弁償すると言ったけど辰夫さんは気にするなと一言。

 それどころかコーヒーまで出してくれて俺は頭が上がらなかった。

 家に帰るや母さんは大慌てで救急箱を持ってくるも治療後に更に治療してもらうのも遠慮したいので阻止。

 どうして顔中怪我やら腫れやらなのかを問い質したときは喧嘩だとはっきり言ってやった。

 男ならたまには喧嘩するものだ、なんてかっこつけて言ってみせたがかっこわるく気絶してたとは言えず。

 翌日、学校に登校するや夏木先生に呼び出されて生徒指導の先生らと昨日についての話し合い。

 昨日に警察からも連絡が来て俺と南奥高との喧嘩は既に把握しているようでその事実確認らしい。

 相手の生徒も特定されているらしく南奥高はその生徒二人に三日間の停学を言い渡すと決定したようで、こちらも同じ判断を下すという。

 人生初めての停学だ。

 もちろん俺も相手を殴ったから文句は言わない、あいつらより怪我は酷くたって喧嘩したのは変わりないし警察沙汰にもなって店長達に迷惑をかけた。

 むしろ妥当な判断だと思うね。

 夏木先生は俺の怪我の具合もあって最後まで厳重注意で済ますよう言ってくれたがやはり南奥高が処分しているのにこちらだけ処分しないのは無理だといい、俺は授業を受ける事無く帰宅した。

「三日間の停学だってよ、しかもあいつらも同じ処分らしくてな。気分がいいぜ」

 姫子には笑ってそう言ってやった。

 なるべくこいつには責任を感じさせたくないから、痛いの我慢して笑ったが姫子は申し訳なさそうに下を向く。

「お前のせいじゃねえから、気にすんな」

 頭を撫でてやるも、随分と大人しく撫でさせてくれるのでしばらく撫でた。

 さらさらの髪の毛は俺のように寝癖がついたら中々とれないような髪質にとって羨ましい限りだ。

「……サーセン」

 ちょっとからかってやろう。

 顔を隠しがちな前髪をかきあげて、

「サーモン? 腹減ってんの? 朝食食べただろ、太るぞ?」

 きょとん、なんていう言葉を顔いっぱいに貼り付けて表現したような表情で覗く。

「もう! 馬鹿!」

 手を振り払われ、姫子は自室に。

 そうだ、それでいい。

 そういう元気いっぱいなお前が一番だぜ。

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