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 昔から誰かのために頑張るのが好きだった。

 具体的にどんな事を頑張るのかというと、兎に角何でも。あの子が苛められたから仕返しして欲しいんだと言われれば絶対に仕返ししに行く、私の飼ってる猫がいなくなって……と涙目になりつつ心の奥底から搾り出すかのようなか細い声で女の子がそう呟くのならば見つかるまで猫を探した。

 一番はあれだな。

 俺の初恋の女の子が思い出の場所にお花を咲かせたいのと言わて、花屋に行って種を買い占めてはその思い出の場所とやらに種を埋めて咲くまで管理した。

 そうして誰かが幸せになるのなら、どんな苦労も蝋燭の火を消すくらいに一瞬で消える。

 俺にとっての幸せは誰かが喜ぶ一瞬にあったからだ。

 正義の味方、ああ、そういうのに憧れてたのもあるかも。特撮の番組に影響されて、当時はかっこいいと思っていたポーズをとってみたりもして、そうしてまた誰かの願いを聞いて、願いを叶えるべく常に駆けずり回っていた幼い頃。

 ただそんな頑張りはいつまでも続くわけも無く、成長すると共に頻度も減っていって、昔はこんなに我武者羅だったんだよなあと当時を思い出して懐かしんでいるのがここ数日の俺。

 中学になると我武者羅さは既に無くなっており、特に目立つ生徒でも無くかといって空気のように透明で影の薄い生徒でも無いごく普通の生徒だった気がする。気がするってだけでクラスメイトはどう思っていたのかは解らないが、それなりに会話はしていたし友達も何人かいた。

 女子とも話はある程度出来ていたし交流も毎日微々たるものではあったが維持されていたのだから、俺の存在感は確かにあったと信じたい。

 毎日誰かに話し掛けられる側ではあったけど、それは俺の存在感あってこそである。

 そうそう、よく話題にでたのは一クラスに一人はいるヒロイン的な存在の生徒。

 清楚、可憐、等々それらをまとめて才色兼備という言葉が実に似合う生徒でクラスメイトの信頼も厚く、クラス委員長は当然の称号。

 話し合いの場では彼女がいなければ無法地帯、学校行事では彼女の掛け声でクラスは一つになる。

 試験では常に五位以内、むしろ一位が多くて一位以下ならどうしたの? って心配されるくらいに頭が良い。

 容姿に関しては、天はニ物を与えずなんていう言葉は紙に書いて丸めてゴミ箱に捨ててもいいってくらい。

 告白した生徒は数知れず、無敵艦隊を前に恋する兵士達は全て二階級特進ときたから逆に振り向かせようと燃え上がってたが、結局卒業まで彼女を射止められる生徒はいなかった。

 名前は大鰐姫子。

 初めて見たのは中学一年の時、かな。どこかで見覚えのあるような気がするけどそれは彼女が俺の家に近からず遠からずで意識せずに通学中や帰宅中に歩いているところでも目に入っていたのかもしれない。

 席は一番後ろの廊下側、俺は一番後ろの窓側でちょっと横目で見れば奥に彼女の横顔が見れる位置。

 授業態度は素晴らしいもので教師が黒板に謎の呪文のような授業内容を只管書き込む中で彼女の持つシャーペンも華麗にノートの上で踊っていた。

 教師に当てられれば必ず的確な答えを導いて説明し、教師が感心してしまうくらいだ。

 昼休みは女子生徒が五人から六人ほど囲んで男子が彼女の気を引こうとしようにも入り込めずで遠くからちらちら見ていたりして、そんな教室内の雰囲気が俺はとても好きだった。

 俺のクラスは大鰐姫子を中心に廻っていたのだ。

 そしてこの雰囲気は思春期真っ盛りな俺達を刺激して、周りはどんどん恋をして散っては結ばれていったり、一部は大鰐姫子を想い続けていたりでそれぞれ青春を作っていく中、俺は恋愛なんてしなかったし気になる生徒もいなかった。

 女性との会話には疎い面もあったかもしれないし、男子でわいわい話していたほうが楽しかったしね。

 でも気になる生徒を挙げるとして真っ先に名前が出るとしたら大鰐姫子、ではあるが俺には彼女との距離数メートルが遠かった。

 ほんの少し歩数を重ねれば彼女には近づけるけれど、それでも遠く感じて結局まともな会話も出来ずに出来ずにいた中学時代。

 クラス替えがあっても彼女とは三年間同じクラスだったが話しかける機会はなかなか無く、特に話す内容も思いつかずで自ら話しかける機会も潰していたのかもしれない。

 けれども些細なやり取りくらいなら度々はあったさ、会話とは到底呼べないものではあったがね。

 もしもいつか再会できたら何か話してみようかな、思い出に浸る度にそう思う。

 久しぶり、憶えてる? とか言ってみたりして。

 しっかりものだった彼女なら「ええ、当然憶えてるわよ」なんて口元を緩やかに上げて眩しいくらいの笑顔で答えてくれるかも。いいや、かもじゃなく絶対さ。

 クラスメイトの名前は全員本名をしっかりと憶えていて点呼では俺の本名もきちんと読み上げてくれたのだから頭の中で想像しているシチュエーションは思い描く通りになるに違いない、嫌な想像は杞憂に終わるね。

 問題点があるとすれば上手く口を開けるか、だが雲ひとつ無い空の下で気分も清々しくなるような丁度良い陽光と肌を撫でるような心地良い風が吹いていれば自然と気分が高揚して口が開くだろう。

 だから大丈夫だ、きっと。

 彼女――大鰐姫子が目の前にいるとしても、だ。気分も良いし。

 ベンチに座って空を仰いでる様子はどこか退屈そうで、風に靡き陽光に照らされて艶やかさを訴えるかのような長い黒髪は思わず触りたくなる。

 綺麗で雫でも垂らしたらつるりと滑りそうな顔のラインにつぶらな二重瞼に瞳、整った目鼻の配置、ふっくらとした唇、これらは大鰐姫子という完成された完璧な容姿の説明である。

 問題文に大鰐姫子の容姿について説明せよとあれば間違いなく正解、むしろ花丸もの。

 彼女の目の前まで来て俺は小さく深呼吸をしてからゆっくりと口を開いた。

「あ、あのさ……久しぶり」

 先ずはこの言葉、シチュエーション通りで次は憶えてる? だ。

「はぁ……? あんた誰?」

 次の台詞を言う前に、彼女ははっきりとそう言った。

 この時を振り返るたびに思う、酷い再会だったと。



 ちょっと種別設定を間違えてしまったので投稿し直しました、以下以前と同文説明。

 こちらは現在連載されている僕らの(略)と同じ世界観での物語です。今月末には連載を終了する故その後はこちらの作品の連載となります。こちらの更新は今月は遅めの更新ではございますが、少しずつ更新して僕らの(略)の更新が終わりましたら本格的に更新スタートする予定です。

 ではでは読んでいただきありがとう御座います。

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