王子様、嵌まる。
あああ、息が詰まる。
屋敷の窓から、見渡す限りの草原と森を眺めて、さるやんごとなき高貴なる身分のお方は、これ以上ないほどに重いため息を深く深く吐き出した。
金の短髪を逆立て、周りを圧する深い青の双眸、彫りの深い精悍な顔つきは野性的に整い、見るものを惹き付ける。
現在王軍軍団長を拝命し、近く第一線から退くと噂されているサンクエディア王国国王である父から、王軍統括総司令官の地位を委譲されるのも時間の問題といわれている。
ラズウェル・サンクエディール。
今年23歳になる、サンクエディア王国の第一王子であり、王位継承権第一位にある王太子という立場にあるはずの彼が、今いる場所は。
サンクエディア王国の国境にある辺境の地。
その地方領主である伯爵の屋敷だ。
「ったく、やっと逃げ出せたと思ったら、今度は何にもないと来たか。退屈で死にそうだ」
あくびをしつつうんざりしたように言う彼が、なぜこんなところにいるかというと。
一言でいって、『逃走』という言葉が一番当てはまる。
今、王宮内で一番の話題は、彼の結婚相手には誰が選ばれるかということ。
その年齢と、男らしい美貌、そして、王軍軍団長として挙げた数々の武功により、ラズウェルは常に女性にもてはやされる立場にある。そして、彼もそれを利用し、幾人もの令嬢との浮名を流してきた。
ところが、恋人をとっかえひっかえするばかりで、いつまでも腰を落ち着けようとしない息子を見かねた父王に、
「いつまでふらふら遊んでいる気だ! 女性をないがしろにするのも大概にしろ! 半年以内に意中の女性が見つからなければ、私の決めた相手と結婚させるからそのつもりでいるがいい!」
と怒り心頭で言い渡されてしまった。
確かに、少々遊びすぎたかとは思う。けれど、一応は立場をわきまえ、割り切った関係で付き合える女性だけを選んできたつもりだし、後々面倒な火種となるような失敗をしないよう、細心の注意を払ってきた。
だが、父の言うとおり、そろそろ伴侶を決めなければならない時期にきているのは確かだ。
ラズウェルは王太子であり、近い将来、全軍を預かることになる立場だ。王族としての責務も自覚もあり、わがままを言うつもりも毛頭ない。
ため息混じりで渋々うなずくと、その日のうちにラズウェルの花嫁選びが始まることが城内に知れ渡っていた。
待ち構えたように広がった噂にも驚いたが、それに色めき立ったのは、城の内外の令嬢達だった。
今まで遊んできた令嬢以外にも、顔をあわせたこともない侍女達や、城に出ていない貴族の娘からも、茶会の申込みが殺到した。
果ては諸外国からも、内々に会ってくれないかとの打診が押し寄せる始末。
しかも、城内では今までのつけが回ってきたかのように、侍女たちが火花を散らしあう。
ラズウェルにまとわり付いて、少しでも自分の立場を誇示しようと争い始めたのだ。今まで割り切った関係だと思っていた女性達までもが。うっとうしいことこの上ない。
そのうえ、このままちょうどいい相手が見つからなければ、愛せるかどうかもわからない女性と結婚生活を送るはめになるなんて、冗談じゃない!
わがままを言うつもりはないが、自分にも好みというものはあるのだ。多少は希望を持てそうな相手のほうがいいに決まっている。誰でもいいわけじゃない。
さらに悪いことに、この件にやり手との悪名高い、叔父である宰相までもが乗り出してきたらしいとの噂を聞けば、どんな話をまとめられるかわかったものではなかった。
うるさい。うっとうしい。頭が痛い。雑音ばかりでイライラする。自分の周りに渦巻く打算、嫉妬、下心。一斉に蠢き始めたそれに飲み込まれそうで、爆発しそうだった。
その時、地方領地の税務監査団が出発準備にかかっているのを見て、護衛団に無理矢理入り込み、あわてて城を逃げ出したのは、ただの現実逃避だとはわかってはいるが。
だが、それがこうまで退屈なものになるとは、さすがに予想していなかった。
この地の領主は、アルファイド・フェルニール伯爵という人物が治めている。
変わり者という噂は王都まで聞こえてはいるが、それは本当のようだ。
かつて荒れ果てたこの地に、雑草であるアカスミレが生育していることに目をつけ、大量に栽培して染料を作り、織物や化粧品などの事業を起こして大成功している。
そのほかにも、温泉を掘り当てて観光施設を作ったり、自ら牧場を経営して、辺境でしか生育しない長毛種のウサギを飼い、高級な毛織物を産出している。
普通、地方領主といえば、領地からの収入と、国庫からの支給金で優雅に暮らすものだ。
支給金だけでもかなりの額があり、領地からの税収が少なくとも、生活に困ることはない。つまりは、わざわざ私財を投げ打って、成功するかどうかもわからない事業に自ら乗り出すなど、それだけで変わり者とみなされる。
だが彼は、『領民の生活が豊かになれば、それだけ自分達も豊かになる。働かずにのうのうとしているのは性に合わない』と、前当主が存命していた時から積極的に領地の改革に乗り出している。
しかも、貴族同士の付き合いを面倒がって、夜会に出てくることもなければ、めったに王都に出てくることもない。ラズウェルも、一度か二度顔を見たことがある程度だった。
滞在している屋敷は広いが、街から遠く離れた場所に建てられて、息抜きに出かける気にもなれない。
屋敷の周りは草原と森と、ウサギが放されている牧場だけだ。監査官は別室に缶詰になっていて、その間やることがない。
暇で暇で仕方がない。
「これなら、王宮にいたほうがまだマシだったか?」
ため息をつきながら窓辺によりかかり、何の気なしに巡らした視線が、ある一点で動きを止めた。
屋敷の前庭で、色とりどりの花が咲いている。
それらを腕いっぱいに抱える美少女。
柔らかそうな白金の髪をゆるく結って、儚げで清楚な雰囲気をまとい、淡いオレンジ色の薄絹を重ねたシフォンのドレスがよく似合っている。形のいい桜色の唇には、淡い笑みを浮かべていた。
伯爵には、3人の娘がいたはずだ。上の二人はすでに結婚していて、現在屋敷にいるのは、三女のフェリシア・フェルニールだけのはず。
とすると、あれがその三女か。
「なるほど、ここに来た甲斐はあったかも知れんな。こんな田舎にあんな掘り出し物がいるとは運がいい」
くっと酷薄そうな笑みを浮かべ、ラズウェルは身を翻して窓から離れた。
フェリシアは庭の花を切り出し、両手いっぱいに抱えていた。立ち上る甘い香りに目を細める。
昨日から、税務監査官が屋敷に滞在している。年2回訪れる彼らは、数日かけて帳簿や領収書などを調べ上げていく。今回は監査官二人に、護衛団10名ほどが同行していた。
しばらく屋敷にとどまるはずの彼らではあるが、毎年昼夜を問わず、限られた時間で膨大な収支状況を一つ一つ調べ上げていく監査官に比べ、同行の護衛団は毎度暇を持て余すらしい。
確かに、この屋敷は町から遠く離れていて、草と木以外に見えるものは何もない。護衛という名目上、屋敷から離れるわけにも行かず、室内でボードゲームやカード遊びをするのも飽きてくるようだった。
だからせめて彼らの慰めにでもなればと、手ずから切った花を屋敷の中に生けるつもりだった。
貴族ではあるが、自然に囲まれ、おおらかな両親の元でのびのび育ったフェリシアは、自ら花を愛で、自然に触れ、体を動かすことを厭わない。
将来は父の元、この地で自分も役に立ちたいと考えている。
「いいにおい」
ふふっと笑うと、仕立てのいいドレスの生地に花粉がついても、『あらあら』というくらいで、一向に構わなかった。
その歩みを止めたのは、目の前に立ちはだかった大柄な男のせい。
顔を上げると、精悍な美貌が、自分をまっすぐ見つめていた。
背が高く、肩幅が広い。金の髪は日の光を反射して輝き、深い青の瞳が印象的な、若い男。
確か、彼は税務監査官に同行してきた、護衛団の副団長だったはず。
「ごきげんよう」
ふわりとスカートを摘んで優雅に頭を下げ、フェリシアはにこりと笑んだ。
「何かご用でしょうか?」
首を傾げて問うフェリシアに、男はふっと笑った。
青い瞳が、まるで森の奥の湖の水のようだと、フェリシアは思う。
「お前がフェリシア・フェルニールか」
「ええ、多分。この屋敷には、その名を持つのは私しかいないと思いますわ」
不躾で唐突な質問にも、嫌な顔一つせずに正直に答えれば、彼は興味深そうにフェリシアを見下ろす。
「なるほど。変わり者の娘というのは、親に似て変わっているものか。俺はラズウェルという。俺を見て動揺しない女は珍しいんだがな」
ふん、と鼻を鳴らせば、まぁ、と首を傾げられて拍子抜けする。
「あら、そうですの? どうしてですか?」
「お前…俺を知らないのか?」
「今日初めてお会いしたのは確かですわね」
その清楚な雰囲気に似合わない、とぼけた回答に一瞬言葉に詰まる。本気で言っているのか、わざとはぐらかしているのか。
「…顔には、多少自信があるんだがな」
いくらなんでも自国の王太子の顔を知らぬ貴族の娘などいないだろう。
多少の皮肉をこめて言い返してやれば、小首を傾げるその愛らしい仕草に、一瞬見とれた。
「そうですの。でも、私にはそれほどかわいいとは思えませんわ。メリーの方がずっとかわいらしい顔をしてますもの」
…今俺は、何の話をしていた?
返ってきたのは、予想の斜め上を行く言葉で、一瞬思考が飛んだ。
「…っ、誰がそんな話をした! そのメリーというのはなんだ!?」
「当家で飼っているウサギの子ですわ。つい1ヶ月ほど前に生まれたばかりですの。とてもかわいらしいんですのよ?」
にっこり、と微笑まれた。
(こいつ…正気か…!?)
頭が痛くなる。確かに、顔立ちはなかなかお目にかかれない程に美しいが、どうにも会話が成立しない。
狙ってやっているのならたいしたものだが、ふわふわと笑う表情には裏があるとは思えない。
まともに取り合うだけ無駄というものだ。
暇つぶしの相手にしてはいささか心もとないが、まぁいないよりはましだろう。
そう気を取り直し、ラズウェルはフェリシアの手首をつかんだ。
「まあいい、そんな話はどうでも。お前、しばらく俺に付き合え」
「まぁ、どこまでお付き合いすればよろしいのかしら? 私、これからアップルパイを焼くんですの。近くを散策する程度でしたらお付き合いできますけれど、森の奥の湖や町までとなると、申し訳ないのですがお供できかねますわねぇ」
「だからお前は、いつ俺が一緒に散歩する話をした!」
「きゃ」
いらついた声と共に、捕らえた手首を引かれ、腰を引き寄せられ、上がったかわいらしい声に満足する。
ラズウェルはこんな反応を返す女性を知らない。少なくとも、行く先々で、目が合うだけで頬を染め、少しでも近づこうとする女性は後をたたないし、そうさせる自分の容姿を疑ったこともなかった。
たとえ自分が王子であると知らなくても、多少強引に迫って落ちない女はいなかった。彼女だって、キスの一つもしてやれば、おとなしくなるだろう。
「俺はお前より身分が高い。黙って従えばそれでいい」
まだあどけない印象の少女相手に、ここまで強引なことをする気などなかった。ただ、ちょっとからかって、その気になったらキスの一つくらい出来たらそれでよかったはずだった。
目を丸くしている少女の顔を見て、卑怯なことをしている自覚はある。だけれど、ここまで来たらもはや意地のようなものだ。引くに引けなかった。
顔を傾け、その桜色の唇を蹂躙しようとした瞬間、ばさりと青臭い何かに顔が埋まった。
「いやですわ」
両手いっぱいの花を盾に、フェリシアがふわりと笑った。
「な…!」
「だって、ファーストキスは女の子の夢ですのよ? それを無理やり奪うような男は、誰であれろくなものじゃない、身分にかかわらず拒否してよろしいと、母が言っていましたもの。ですので、嫌ですわ」
にっこりと言い放たれて、頭が真っ白になった。
仮にも一国の王子である自分を、なんの迷いもなく拒否するなんて、あってはならないことだ。
それも、『乙女の夢を奪う男不埒な男だから』というありえない理由で。
ラズウェルの中で、嗜虐的な感情が燃え上がる。
そんなものは拒否の理由になどならないと、この世間知らずな少女に思い知らせてやる。
「俺に従うつもりはないということか」
「はい」
「言うことを聞かねばどうなるか、わかっているのだろうな?」
「さぁ。わかりませんわ。だって、私今日初めてあなたに会ったのですもの。どうやって解れとおっしゃるの?」
正論で切り返され、ぐっと言葉に詰まる。
「っ…。お前の家など、取り潰すのはわけもないことだぞ!」
「一介の地方領主を、私怨でお取り潰しになるなど、進んで民の笑いものになるようなものですわ」
「俺が卑劣だとでも言いたいのか!」
「そんなこと、私一言も申し上げておりません。そんなことをなさるようなお方とも思えませんけど、卑劣なことをしているという自覚はおありなのね」
脅せば脅すほど、こちらが不利になってゆく。しかも、動じた様子もなく、おっとりと微笑んだまま痛いところを的確に、容赦なくえぐられて、羞恥に視界が赤く染まった気がした。
「本気だといったらどうするつもりだ」
…だけれど。口に出した一言は、果たして単なる脅しだったのか、それとも。
娘がどのように切り返してくるか、それを見たいだけの興味だったのか。
「どうもしません。父は、そう簡単に取り潰される程信用がないわけではないとおっしゃっておりますし、潰されたら潰されたで、家族で何か事業でも起こしますわ。一から何かを作り出すことにかけて、当家に比肩する家はございません。万一領地を手放すことになっても、生きてさえいれば何とかなりますし」
「領民を見捨てるのか?」
ところが、それまで淡い笑みを刷いていた口元が、妖艶に釣りあがり、…一瞬、見惚れた。
「まぁ…おかしなことをおっしゃるのね。サンクエディアにおいて、税率は基本的に収入2割と決まっていますわ。領主は定められた税を徴収する役目を担っているだけのこと。領主の交代など、領民にとっては単なる首の挿げ替えに過ぎませんし、たいした問題ではございません。今までと同じように働き、定められた税を納めるだけのことですもの。それとも、国はこの地にわざと悪徳な領主を据えるおつもり? もしそうなら、それは国の落ち度であって、私たちの罪ではございません。それに、今までともに生きてきた領民達にそんなことをされて、当家がおとなしく黙っているとお思いなの?」
「ああいえばこういう…! 口の減らない女だ! 黙らせてやろうか…!」
その、清楚でまだあどけなさを残しながらもどこかひきつけられる表情に、敗北感が一層かき立てられて。
その感情を植え付けた少女をねじ伏せる為、もう一度抱き寄せようとした瞬間、フェリシアが1歩踏み込んだ。
「…っ!」
吐息が触れそうな距離に、儚げな顔が顔が迫る。アメジストのような大きな瞳にまっすぐ見上げられ、一瞬怯んだ。反射的に身を引いた途端、緩んだ拘束からひらりと柔らかな肢体が逃げて行った。
「な…」
あっけに取られるラズウェルに、フェリシアは手の届かないところまで距離を取って振り返り、くすくすと笑う。
「逃げよう逃げようとすると、逆にしっかりと捕まえておきたくなるものですわ。犬に噛まれた時も同じですの。ぐっと奥に腕を押し込んだほうが、苦しくて離してしまうのですって」
告げられた言葉が苦い。反論しても、正論で返されるだけだ。わかっていても、言わずにはいられない。
「お前は…犬と俺を一緒にするのか」
「血統書付きのしつけの悪い犬に噛まれたようなものでございましょう? 大差ないのではありませんか?」
言い方は柔らかいが、言っている内容は辛辣だ。しかも、ラズウェルもたちの悪いちょっかいをかけたと自覚があるだけに、余計ばつが悪い。言い返すことも出来ずに、結局むっつりと黙り込む。
すると。
「これで、充分お付き合いできましたわよね? それでは私はこれで失礼致します。ごきげんよう、ラズウェル王太子殿下」
そう言って、ふわりとスカートを翻し、美しい笑みを残して、少女はあっという間に屋敷の方へ消えていった。
「くそ…なんなんだ、あの女…!」
はっと我に返ったときには、もう遅い。
視界から、少女の姿はすでに消えうせている。
いくらなんでも、自国の王太子の顔を知らぬ貴族の娘などいない。
そのとおりだ。会ったことはなくとも、あの娘は自分を王太子だと認識していた。
いっぱい食わされた上、まんまと逃げられたというわけか。
年下の女に、鮮やかに。
今まで、思い通りにならないものなどなかった。特に、女性に関しては。この自分を恐れず、歯牙にもかけず、はねつける女など、いるはずがなかった。
今、彼女を女性として傍におきたいと思ったわけではなかった。ただ、明快にやり込められたのが気にくわなかった。
「くそ、あの女…。見ていろ、必ずねじ伏せてやる」
ラズウェルの腕には、一瞬ぴたりと寄り添った柔らかい感触が、残り香のように甘い余韻を残していた。
「フェルニール伯爵の3女、フェリシア・フェルニールか」
「ああ。年齢的にもちょうどいいし、伯爵家ではあるが、3代前の当主に、メリディア王女が降嫁している。血筋にも問題ない」
「お前の目論見どおり、監査団と一緒に飛び出して行ったな。あの監査団が、わざわざフェルニール伯爵家に時期をあわせて派遣されたものだとは、さすがのあいつも気づかなかったか。ここまで見事に踊らされていると、お前の手腕を褒めればいいのか、我が息子の短絡思考を嘆くべきか、複雑なところだな」
「それはもちろん、俺を褒めるべきだろう。何せ、あのしょうもない甥っ子の高くなりすぎた鼻をへし折った上に、落ち着かせて嫁まで世話してやるなんて、優しい叔父だと思わないか?」
「自分で言うな。お前のそれは昔から胡散臭いんだよ」
王の私室、魔法光のランプの下、国の双璧と名高い人物が顔をそろえていた。
一人は、言わずと知れたサンクエディア王国国王、ハイデニック・サンクエディール。
そしてもう一人は、ラズウェルの叔父に当たる、切れ者と名高いサンクエディア王国宰相、アレクサンドル・ウォーロック。
二人が目を付けたラズウェルの花嫁候補こそ、辺境伯フェルニール家の3女、フェリシア・フェルニールだった。
息子に似た鋭い眼光を和らげて、ハイデニックは赤く薫り高いアルコールを満たした杯を煽る。
「しかし、そううまくいくか? アレク」
愛称で呼ばれたアレクサンドルは、涼やかな目元にモノクルをかけた、理知的な相貌にゆったりした笑みを浮かべた。
「うまくいくさ、もちろん。何しろ、ラズはお前と性格が全く一緒だからな、ハイド」
こちらは琥珀色の液体を舐めながら、国王に砕けた態度で接している。
二人はかつて軍学校で机を並べた仲だ。武のハイデニック、知のアレクサンドルと評され、国の双璧と呼ばれた時期も長い。
アレクサンドルは、ハイデニックの妹、当時の王妹であった王女アデリアードを妻にしたこともあり、二人は親友として長年良好な関係を保っている。
「俺と性格が一緒で、なぜうまく行くと言いきれる?」
「それはもちろん」
疑わしげに眉をひそめたハイデニックに、深い緑のジャケットの肩の金モールを揺らして、アレクサンドルはくくっと人の悪い笑みを浮かべて見せる。
「お前達は親子して、自分の思い通りにならぬものに無駄な闘志を燃やすタイプだからな。大体にして、お前が結婚する時も、なびかないシェルミラに躍起になって、半年も言い寄っていたのはどこの誰だ」
「うるさい! もう忘れろ、そんなことは!」
くくくっと笑いながらアレクサンドルはグラスを取り上げ、王妃との馴れ初めを揶揄されてふてくされたハイデニックの杯にカチンとぶつける。
「俺の人選に間違いはない。なに、数年のうちに、孫の顔が見られるだろうさ」
オヤジ二人の企みに嵌まったことなど知る由もなく、フェリシアをどうしてやろうかと闘志を燃やすラズウェルだった。
どんだけ俺様なんでしょう。やなヤツですねーラズウェルw
さて、こんな出会いでしたが、いかがでしょうか?
個人的にオヤジ二人が結構好きです。