プロローグ
日本は恵まれた環境の中でモラトリアムの拡大が問題視されるようになった。七五三も成人式もただのお祝いとなり、子どもから大人への境目は感じられなくなっていた。そのことは青年期を必要以上に引き伸ばすこととなり、義務教育を終えても一人前となりきれないという状況を生み出していた。
これらの打開を訴えた○○党の××党首が多くの支持を集め、総理大臣に就任した。そして打ち出した政策が「男児は義務教育を終える直前に全員が通過儀礼として割礼を受ける」というものだった。体に、特に男児のシンボルであるペニスに一瞬の痛みを与え、それに耐えることが大人への認識という考え方であった。割礼は諸外国で今も昔も行われている通過儀礼である。心と体の痛みに耐えてこそ、厳しい社会を生き抜くことが出来るとうたわれていた。更にその背景には隣国、韓国へのライバル視があった。韓国では大半の男の子が小学生の時に包茎手術を受け、ズルムケになる。一方の日本は「包茎は病気ではない」という教育が浸透した結果、包茎を改善しようとする考えすら衰退してしまい、成人しても皮かぶりが常識となってしまった。まずは男性のシンボルで韓国に負けないように、これが××首相の考えだった。突然古い慣習を取り入れることに抵抗を示すものも多かったが、首相の人気とパワーに押し切られた形で多くの国民は同意した。
首相が就任したのは20▲0年の秋だった。首相は翌20▲1年度には法律を整備し、全国で必修化しようと考えた。まずは20▲0年度末に実験的に何校かで導入することとした。この小説は、実験校として選ばれた学校の生徒たちを描いたものである。