1-4 最強の召喚獣、最弱の可愛い猫になる
【猫】可愛いもふもふの雑食動物。
基本的には現実世界の猫をイメージしてもらえると助かります。
作者は猫が好きなので、ゲルテアはこのフォームの間は荒事に巻き込まれず、このフォームのゲルテアを雑に扱った者には作者から死の宣告が入ります。
「確かに、吾輩はこの世の生き物のどれとも異なる存在だろう。この身が何者かの願いを核とし、その願いに突き動かされている事は理解している。だが、もしも吾輩が召喚獣であるならば、いくつか確認しなければならん」
男はまるで悪戯の相談をする子供のように相槌を打ち、笑顔で獣を見つめ続けた。その視線に耐えられず、獣は視線を逸らす。
それを合図とするかのように、男は一度体を起こし、両手を天高く振り上げた。そして、己が頭蓋を叩き割らんとする勢いで地面に額をこすりつける。所謂、土下座だ。
「申し訳ありませんでした!!」
「まだ何も言ってないが」
「願いの件ですよね!? 本当にすみませんでした!!」
あらん限りの大声で男が謝罪をした。そして、男は土と血の付いた顔をあげて獣に向き直る。
「召喚の際に不手際があって、その、ゲルテアさんの使命とも言える物、正しい願いが解らなくなっちゃいました」
「まあ、まさにそこが気になっていたが、召喚獣というのはそういう物、でもないのだな、その反応を見るに」
「えっと、本来はですね」
男は歯切れが悪く、謝罪の言葉とは裏腹にどんどん声は小さくなる。
「贄の願いをしっかりと受け取るタイミングというかフェイズというか機会があったんですが、込められた願いが強すぎたのか、僕の不手際なのか、いや僕の不手際で、僕の責任で、ゲルテアさんがはっきりと成形される前に駆け出しちゃって、その結果、この、その、あの、どの、いや、願いなのか、解らなくなりまして」
「つまり?」
獣は思わずいらだった口調で結論を促した。
今一度、男は己の額を地面に叩きつける。
「ゲルテアさんの召喚に失敗したんです!」
男は申し訳なさげに、しかしどこか楽しそうにしながら、血だらけの顔を上げた。
「そのせいでゲルテアさんが本気で叶えなきゃならない願いが解らなくなっちゃったんです! なので、それまでゲルテアさんは消えることもできない“ただの猫”になっちゃったんです! 可愛いねこちゃんです!! 可愛い長毛種のにゃんこです!!」
可愛いは必要だったのかと、どっか楽しんでいるのではないかと、獣は侮蔑の表情を浮かべた。とはいえ、猫の表情が人間に伝わるかは解らない。というか多分伝わっていない。
男は少し落ち着きを取り戻した様子で、穏やかな笑みを浮かべる。
「あ、でも、一応、本来の願いを叶えることで退去、消える事は叶います。その胸の内に燻る焦燥感から解放される方法はそれだけですので、そこを目的にするしかないかと……ああ、でも、消えるのが嫌なら、とことん付き合いますよ」
獣は、なんとなく自身がそういう存在なのだと理解していた。胸の内からじりじりと溢れる焦りを止める方法がそれしかないのだとも、本能的に理解する。
「いや、消える事は恐怖ではない。むしろ、願いの為に動かずに居るのは落ち着かない」
「ああ、ですよね。なので、提案があります」
男は人差し指を立てて獣に笑顔を向ける。今日一番の屈託のない笑顔だ。
「僕と一緒に、ゲルテアさんの願いが何なのか、調べる旅に出ましょう!」
獣は今一度侮蔑の表情を浮かべたが、やはり伝わっていないようである。次回から舌打ちをしようと獣は決めた。
「何故そうなる。そもそも調べるとはどうするのだ? 楽しい遠足でもするというわけか?」
「はい。愉快な遠足ですよ!」
「元気だな」
「元気だけが取り柄な物で!」
妙に元気な男と対照的に、皮肉が通じなかったことで少しの気まずさを獣は感じた。
男は気にせずに続ける。
「ゲルテアさんはミラ聖王国の第二王子ルディ・ゾス・アーケバスの元へ猪突猛進して行かれました。つまり、かの王子について調べたら、もしかしたら何か解るかもしれません。召喚獣は、願いを叶える方向に行動するほど、その胸の中の焦りは薄くなっていきます。それをコンパス代わりにできるはずです」
「なあ、思ったんだが、この男、大丈夫か?」
と言いますと?
「なーんかこう、微妙に反応がズレているというか……」
ご安心ください。わざとです。
この作品には人外が多く出てくるので、人外しぐさと言いますか、そういうところに割と力を入れている節があります。
「つまり、この男にも何かあるということだな」
と言いますか、こやつが一億一万四千年生きていくキャラですね。
「暦が四千年ってことは……立派な人外だなぁ」




