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Wish upon a Beast  作者: 九十九 千尋
聖抜戦争
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1-3 ある街道の端で

【聖獣ゲルテア】アーケバス神帝国における守護聖獣。

 ルアド・アーケバスが世界を行脚して出会った、強力な聖獣。

 その存在は、聖剣を守護する試練であったとも、勇者に魔を退ける聖なる力を授けたとも言われている。

 何時の頃からか見隠れされたと言われているが、ミラ聖王国の地下に今でも存命で存在しているとの噂もある。ミラ聖王国の王族のみが謁見を許されているのだとも言われているが、王族以外には確認する方法がない。


【魔法と魔術】古き世界の法と現代の術。

 神暦にして神暦前4000年。存在が確認されていない古代国家、プロミダス神話国という国にて、地中より“神”が掘り起こされた。“神”は人々に魔術を与え、世界は大きく発展した。

 “神”が魔術を寸志するより前、“神”が使用していた魔術めいた技術を魔法と呼ぶ。

 魔術で造られた物は総じて数時間で崩れてしまう。物によっては数秒ももたない。だが、魔法で造られた物は例外であり、世界の全ても“神”の魔法で造られたと見られている。


 神暦 3995年 水の月 35日 


 ゲルテアと名乗っていた獣は、気が付けばある男の膝の上に乗っていた。

 その身は小さな家猫ほどのサイズになっており、青色の長毛種の猫そのものとなっている。

 なぜこんなことになっているのか、その過程はとんと浮かばない。


 澄んだ青空には大きな雲がゆったりと流れていく。ここはどこかの街道の脇らしい。来た場所も行く場所も見えない長い街道。きっと大都市と大都市を繋ぐ通路なのだろう。

 轍の刻まれた道から少し外れた林の中、岩に腰を下ろして猫を膝の上に乗せて、鼻歌交じりに猫の毛並みを整える男。


 そもそも、自身を膝の上に乗せてブラシで梳いているこの男は誰なのか、と獣は考えたが、当然の如く答えなど持ち合わせていない。


「待て、何が、一体何だってこんなことになっているのだ。そもそも、貴様は誰だ?」

「あ、起きましたか、ゲルテアさん」


 男の姿は見るからに流浪者のそれであり、彼が腰かける岩の傍には大荷物の背負子があった。

 一見すると好青年に見える、ともすれば少年にすら見える年ごろか。どこにでも居そうな顔立ちで安堵感を覚え、しかし不思議とどこか威厳と畏れを感じる顔だった。

 見かけに沿うさわやかな声で、されどどこか飄々と男は喋る。


「まったく、無茶しましたね。それはもう滅茶苦茶に無茶苦茶に無理をしてしまった感じです。ええ。なので、少し休憩しましょう」


 男は変わらず獣を撫でている。

 獣はどこか腹立たしい男の手を前足で払いのけて、精一杯睨みつけた。


「いや何者か名乗れ、せめて。あと撫でるな。吾輩は猫ではない」

「いやいや、見るからにかわいい猫ちゃんじゃないですか、ゲルテアさんは」


 そうして微笑み、なおも撫でようとした男の手を獣は手加減しながら噛んだ。男は痛がりながら手を引き、少し涙目になりながら獣を見つめる。

 思わず立ち上がった男の膝から、獣はひらりとしなやかな体で地面に降りた。


「吾輩にはなさねばならんことがある」


 ミラ聖王国の謁見の間で起きた事は、決して夢幻のことではない。獣はそれを理解している。なおもその胸中にある核が、何かを訴え続けていた。だが何を成すべきなのか、それが獣には解らない。


「というか、吾輩の名を呼ぶ以上、貴様は吾輩が何者か理解しているのだろう? 猫扱いはやめろ。次は本気で噛むぞ」


 男は噛まれた手をひとしきり振った後、獣に対して自身も地面に体を這いつくばって応える。だが姿勢を低くしたのは謝罪のためではないことは、その笑顔を見れば一目瞭然であった。


「これは失礼を。僕は言ってしまえば、召喚者です」

「召喚者?」

「はい。召喚魔法で、ある人の最期の願いを元に、あなたを召喚しました。ご自分が召喚獣であることは既にお解りなんですね。話が早くて助かります」


 魔法……それは、今ある国々が起きるよりさらに前、神話の時代よりも昔、創世の神々がおとぎ話の世界に居た頃に存在したとされる、現代の魔術の基礎と呼ばれる古い技術。

 中でも、召喚魔法は禁断魔法とされている。

 召喚魔法は、贄を犠牲として願いを叶える獣を魔法によって構築する術とされており、呼び出された獣、通称召喚獣は『込められた願いを叶えるためならば不可能は無い』とされる超常の存在だ。


 獣は不思議と自身に備わっていた一般常識を疑いもせずに信用し、同時に疑問を抱いた。


「こんちはー! 初めましてー! もう一人の主人公です!」


 というわけで、もう一人の主人公、男さんです。

 獣さん、挨拶して。


「いや、代名詞じゃなく固有名詞は無いのか?」


 有るけど、急に名乗るのって不自然じゃない?


「そこを何とかするのが作者の仕事ではないのか?」


 返す言葉もねぇです。

 書いてて思ったんですが、後書きに二人出したらどっちがどっちか解りにくいですな。


「あー、それで、僕は敬語で喋って、猫さんは一人称が独特なんですね」

「『吾輩』にはそんな理由が?」


 いや、猫と言えば一人称は“吾輩”でしょ!


「あ、それ思いました!」


 でも、次回から後書きには一人ずつ呼ぶことにします。


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