1-2 召喚獣、敗北する
【ミラ聖王国】アーケバス神帝国の後継たる、血筋を重んじる王政国家。
世界最初の統一国家であるアーケバス神帝国の初代皇帝ルアド・アーケバスが死去した事を切っ掛けに起きた内乱により、ルアドの妹であるミラ・アーケバスを国王として神暦120年に起こされた国。
神暦3995年時点、国王ユトロ・ゾス・アーケバスは臓腑を患っており、長男であるアテル・ゾス・アーケバスが五年前に亡くなったことから容体は悪化。政の多くを次男であるルディ・ゾス・アーケバスに一任し、口を開く回数も減ってきている。
【ルディ・ゾス・アーケバス】ミラ聖王国の第二王子。
血統主義のミラ聖王国において、実力主義の私兵団を抱える革新派。
ミラ聖王国の王族の例に洩れず、否、王族の中でも極めて才能に富んでいる。
しかし、彼は自身の実力に不満があるようで……
「笑止!」
獣が足を踏み鳴らすだけで、王城の端から端までが厳冬に沈む。瞬く間に城は白く霜に覆われ、第二王子の私兵たちの吐く息を白く染め上げた。獣の体に刺さっていた炎の蛇は瞬く間に凍り付いて崩れ去り、獣の豊かな鬣を持つ頭部が復元される。
王城屈指の実力を持つ第二王子の私兵ですら不可能な御業を、一工程で行った人智を越えた存在。頭部を失っても問題なく動き、失ったはずの頭部も問題なく復元してみた常識を超えた異形。目の前で起きた出来事に、周囲で見守っていたミラ聖王国の兵士も、逃げ遅れた王城の使用人も、相対する私兵たちですら思わず一歩退いた。
次の瞬間、獣は兵士たちを跳ね除けてルディに飛び掛かかる。その速さ、一瞬とはいえ逡巡した者たちでは捉えられず、その牙がルディを捕らえた……かに見えた。
だが、ルディは短い祈りによって起動した魔術で自身を強化し、城塞すら破壊する突進を片腕で防ぐ。揮発する汗が赤い蒸気となり、全身の血管と筋肉を浮き立たせるその姿は、見た者に神話の時代に勇者と相対した魔の王を思わせた。
魔術によって膨れ上がった自身の体より、十倍の大きさは在ろうかという獣を、ルディは軽々と投げ飛ばす。
獣は逆さまになった世界を見ながら、何が起きたか分からずに居る。しかしその心の中は、更に判断のつかない、言い表しがたい感情に呑まれていた。その感情が、獣の体から力を奪い去っていく。
まるで、ルディを討つことは自身の核から外れている行動なのだと告げられたかのように、身体から力が抜け落ちたのだ。
「馬鹿な、有り得ん。こんな、こんなはずは。いや、何が起きている? 我は、吾輩は、一体?」
謁見の間の床の上、何故か見覚えのある高い天井を見上げて、獣は現状把握に意識を割かれている。
倒れ伏した獣を赤い蒸気を燻らせたルディが見下ろす。
「獣よ、お前が何なのか、余には解ったぞ。その力を解析、量産したいところだが、お前の正体を思えばこそ生かしておけん」
「吾輩の正体? 待て、貴様は何を知っている?」
獣の問いにルディは全く応えない。答えを示しもしない。意味のある沈黙すら見せなかった。
「何故、吾輩は貴様を……いや、そもそも貴様、何を成そうというのだ!? 何をしようというのか!?」
すなわち、獣は何を止めれば良いのか、自身は何のためにここに来たのか、という問いでもあった。だが当然ルディは答えない。
そして魔王は先祖伝来の大剣を、獣へと振り下ろした。
「決まっている。このイカレタ世界を、このルディ・ゾス・アーケバスが滅ぼすのだ」
「おい作者ぁ!! 吾輩負けたぞ!!」
今更ですが、獣さんは召喚獣です。
召喚獣は「込められた願いを叶えるためなら最強」の存在ではあります。
「そう言ってたな。プロローグで」
では、負けてしまったのは何故か。
ずばり、獣さんに込められた願いは「ルアドを誅する事ではない」ということが解ります。しかし、ルアドの元まで力でドカーンと突っ込むまでは良かったですね。つまりそこまでは「願いに即している」と言えるかもしれません。
「ということは、城の中になにかあるのか? あるいは、ルアドに何かあるのか?」
さあ?
「『さあ?』!?」
作者、まだ書き終えていませんもの……
「なんだか途端に不安になって来たぞ」




