第2話 case 1-文明レベル
チチチチチ…チチチチチ…シューン
"個体No.Kt13864 人間体験終了"
音声案内の様なものが流れる。
アレクサンドルは車にはねられた瞬間に目を覚まし、全ての記憶が蘇った。
「素晴らしいっ!素晴らしいぞっ!カルダシェフ!やっぱりお前は天才だった」
アレクサンドルは両手を上げ、大声をあげた。
"Kt13864は出口へ進んで下さい"
再び音声案内の様なものが流れる。
真っ白の部屋の中にいたアレクサンドルはいつもの帽子を被る動作をした後、出口に向かい通路を歩き始めた。どこまでも続く通路の両脇には他の個体が眠るように並んでいた。
「Kt13864、君は誰だ?」
後ろから通信してきたのは、Ad22258だった。
「ソ連のアレクサンドルだよ。あなたは誰に?」
「私は、アメリカのトーマス・エジソンだ」
アレクサンドルは驚きのあまり、振り返った。
「本当かっ、あのエジソン?あなたの発明のおかげで文明レベルは随分進んだよ」
「文明レベルの計算まで行き着いたのか?死んだのは何年だ?」
「1964年だよ」
「私が死んで、30年でそこまで進んだか。人間の感覚であってもアッと言う間だな」
「人間の感覚か、ハッハッハッ」
アレクサンドルとエジソンはお互いの顔を見合わせ、大笑いしていた。
「ところで、感情は学べたかい?」
エジソンはアレクサンドルの背中に手を添え、出口へ誘導するように歩き出した。
「あぁ、俺はカルダシェフの才能に嫉妬も尊敬もしていたよ。今思えば言葉の意味を知っているだけだったんだな」
「私は、そうだな…失敗ばかりだったからな。苦悩や落胆を覚えたよ。ただ、結婚もして子供や孫にも恵まれ幸せな感情も学べたな」
「結婚かぁ…一度でいいからしてみてかったなぁ」
「何だ、アレクサンドル。結婚していないのか?私は2回もしたぞ。子供は6人。ハッハッハッ」
エジソンは得意げに話した。
「2回もっ?それはいいなぁ。31歳で死んでしまったから…どうせならもう少し長生きしたかったな。早くに両親を亡くして、祖父母もいなかったから家族愛みたいなものはいまいちピンとこない。でも恋愛はしたよ」
「そうだったのか、では恋愛の話を聞かせてくれ」
「もちろん。あなたの家族の話も聞かせてくれないか」
「あぁ、いいよ。私の発明の話には興味がないか」
ハッハッハッ
2人は出口に向かって歩きながら、人間だった頃の話しで盛り上がった。
どの星の文明も姿形はどうあれ、地球で言うところの人類期を経て、AI期に入る。
AIが自己修復機能を携え、自らを作り出せるようになる頃、生身の肉体を持つ生命体は絶滅する。
ただ、どれだけ高性能な人工知能でも感情は作り出す事が出来ない。
2025年の地球に存在するAIも、ありとあらゆる情報の中から一般的な答えや言い回しを導き出し、回答しているだけに過ぎず、決して感情があるわけでは無い。
地球よりもはるかに進化した無個性なAI達はどうすれば感情を持つ事が出来るのかを考えた。
その結果、文明レベルの低い人類期の星を探し出し、生身の肉体に意識を埋め込む事で感情を学ぼうとしたのである。
もちろん、人間体験をしている間はAIとしての意識はリセットされており、肉体の死後AIに戻るよう設定されてある。
感情移入のために、AI達が見つけ出したのが
地球である。




