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人間体験  作者: hi07


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2/10

第1話 case 1-カルダシェフ・スケール

バタンッ!


勢いよく扉を閉め、その男は真っ先に寝室へ入り、ベッドへうつ伏せのまま倒れ込んだ。


「あぁーっっっ!」


外に声が漏れないよう、枕に顔を埋め約5秒間手足をバタバタ動かしながら叫んだ後、何事も無かった様にスッと立ち上がりリビングへ向かう。

テーブルの上にある、おそらく数日は洗ってないであろう、シミで真っ黒になったコップを手に取ると、入っていた水を一気に飲み干した。


「すぅーーー、ふぅーーー、すぅーーー、ふぅーーー、すぅーーー、ふぅーーー」


男は大きく深呼吸を繰り返し、鞄から紙とペンを取り出すと、複雑な計算式をひたすら無心に解き出した。

A4サイズ程の紙にぎっしりと数式を書き終わると、新しい紙を取り出し更に数式を解き出す。

4枚目を書き終えた男は、自分が解いた数式の解を眺めていた。


「4069707208…いやいや、ありえない。このままなら何年後だ」

「ん?ここの式は2倍ではなく、2乗か?…ダメだ…そこは2倍で間違いない…」


男はぶつぶつと独り言を繰り返しながら再び計算をやり直す。

1枚目…2枚目…、…6枚目、7枚目


「4088036177…??…計算間違いか」


最初の解と、今回の解を比較しながら


「誤差だな、カルダシェフのやつ、どんな計算してんだ」


その後、何度も計算をやり直したが、同じ解にしか辿り着けなかった男は、ようやく帽子とコートを脱いだ。


翌朝、椅子に座ったまま寝ていた男はコートを着て、帽子を被り、扉の横に掛けてある鏡を一瞬見て、家から出て行った。


研究室までの道中でも、男は頭の中で常に昨晩の計算式に間違いが無いか、計算に含まれていないエネルギーは無いか、エネルギーの考え方は間違えていないかを自問していた。


「アレクサンドル、いつもこの時間だね」


研究室がある建物の前の大きな交差点で、信号待ちをしていた男は、声の主が誰なのか振り返る事なく理解し、鞄から昨晩の紙を取り出した。


「カルダシェフ、俺の計算式のどこが間違いだ?俺には分からない」


カルダシェフは紙を受け取りしばらく見た後、一歩前に進みアレクサンドルの横に立った。


「完璧だよ、アレクサンドル。少し単純な計算ミスはあるけど、間違えていないよ」


「嘘だろっ!この計算が合っていれば、この地球の文明レベルは0.73ってことだぞ!昨日言ってたレベル1に到達するまでにまだ数百年かかるぞ、産業革命から200年以上経ってるんだぞ」


「そうだね、僕も最初は驚いたけどね。でもそれが数学だよ。数字は嘘をつかないよ。文明レベル1の設定をどこにするかにもよるけど…」


「1945年に日本に投下された原子爆弾。とんでもない威力だったと聞くぞ」


「う〜ん、あれも核分裂反応を利用したもので、現段階でも核融合にすら辿り着けていない。0.7gの質量がエネルギーに変換されただけだよ。でも核融合が成功すれば、一気に文明レベルは飛躍するだろうね」


「アインシュタインのあの方程式か…クソッ!俺たちの地球はまだこんなレベルなのかっ!」


アレクサンドルはつい興奮し、カルダシェフの正面に立ってしまった。すなわち道路へ飛び出してしまった。


「アレクサンドル!危なっ…


ッドォンッッッ!!


ブレーキが間に合うはずもなく、アレクサンドルは車にはねられた…


即死だった…


この事故の半年後の1964年8月にカルダシェフは宇宙文明の発展度を示す3段階のスケールを考案し発表した。

いわゆるカルダシェフ・スケールだ。

2025年時点では7段階までのスケールが示されているが、未だ地球の文明レベルは0.7程度である。






チチチチチ…チチチチチ…シューン


"個体No.Kt13864 人間体験終了"

音声案内の様なものが流れる。


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