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第4話 スッポン鍋と地獄の業火

 深夜1時55分。

 俺は、買ってきたコンビニの「イカ墨パスタ」をテーブルに置き、プシュッとストロング缶を開けた。


 まず、ごくりと一口喉を通す。


 そしていつものように、本来なら反応しないはずのボタンを押した。

 もはやこの番組を見るのが、習慣と化しつつあった。


『はい!こんばんは。今夜も始まりました「ルルのドキドキ♡クッキング」!』


 画面の向こうには、お待ちかねの美少女エルフ、ルルちゃんが立っていた。

 相変わらず、直視できないほど可愛い。

 だが、ピンクのエプロン、銀色の艶やかな髪がいつもと違い、風になびいていた。


「ん?!」


 今日はいつものスタジオではなく、なぜか岩肌が剥き出しの荒野のような場所にいる。


(……おい、今日は野外ロケかよ! 料理番組で荒野ってどういうことだ?)


『今日は特別編!スタジオを飛び出して野外からお届けしますっ!今夜の食材はこちら!「溶岩すっぽん」ですっ!』


 ルルちゃんの足元には、甲羅がマグマのように赤く発光している巨大なすっぽんがいた。


(すっぽん!? しかも絶対熱いやつだろそれ!)


『皆さんご存知のように、この子、すっごく美味しいんですけど、炎耐性が高くて普通のコンロじゃ全く火が通らないんですよねー――』


 こちらは全くご存知ないけど、ルルちゃんは満面の笑みだ。


(食べるんじゃなくて、そいつをコンロにした方が良くないか?)


 なんてことを、思っているとルルちゃんがスタッフから杖を受け取った。


『だから、今日はこれを使います。――「獄炎魔法インフェルノ」!』


 ルルちゃんが杖を構えると、彼女の周囲に恐ろしいほどの魔法の光が展開された。


(いやいや、料理番組で使っていい魔法じゃねえだろ!)


『えいっ!』


 ルルちゃんが笑顔で杖を振り下ろした瞬間、画面全体が目を開けていられないほどの閃光と爆炎に包まれた。


 ゴォォォォッ!!という轟音が響き渡り、カメラのレンズにはヒビが入り、画面はひたすら燃え盛る炎と黒煙だけを映し出し始めた。


「……料理じゃなくてただの爆撃じゃねーか!」


 画面は炎に包まれたままだが、ルルちゃんの『いい感じに焼けましたねー!』という楽しげな声だけが響く。


 やがて煙が晴れると、そこには黒焦げになった謎の塊。

 ススだらけになったルルちゃんは、手袋をはめ謎の塊を手に取ると、屋外に設置されたキッチンスペースへと移動した。


『じゃあこれから、調理していきますね! まずは一口大に切ります』


 ルルちゃんはまな板の上にそれを乗せて、笑顔で真っ二つに切った。

 断面が見えるが真っ黒だ。


「炭になってるじゃねーか!」


 ゴクゴクとストロング缶を喉に通す。


 ルルちゃんは、それをさらに二等分すると煮えたっている、鍋に掘り込んだ。


「いや、一口大は?! 普通に四等分じゃねーか!!」


 カメラが鍋をズームで捉える。

 テレビに映し出されたのは、真っ黒な炭汁と言っていい謎の鍋。


 そして、画面の隅には相変わらず読めない異世界文字のレシピが表示されている。


『皆さんもぜひ作ってみてください!――では、来週もまた見てくださいね! ルルでしたー♡』


 ススだらけのルルちゃんが、満面の笑みでこちらに手を振っている。


「いや、作れねーよ!」


 プツン。

 テレビの電源が勝手に切れ、部屋に静寂が訪れる。


「……ルルちゃんが加減ができない事以外、何一つ分からなかった……」


 俺は、テーブルの上の「イカ墨パスタ」をズズズと一口啜った。

 俺は、唇を真っ黒に染めながら、火加減という概念が存在する地球の料理に、ただ静かに感謝した。

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地球に感謝だ....! みんなそうだったりして? そのうち特別ゲストとか来そう。
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