第3話 オーク肉と柔らかくなる魔法
深夜1時55分。
俺は、コンビニのカルビ焼肉弁当をテーブルに置き、プシュッとストロング缶を開けた。
そしていつものように、本来なら反応しないはずのボタンを押す。
『はい! こんばんは。今夜も始まりました「ルルのドキドキ♡クッキング」!』
画面の向こうには、相変わらず直視できないほど可愛い銀髪エルフのルルちゃんが立っていた。
(……今日も可愛いな)
『今夜のメイン食材は、こちら! 先ほど仕留めたばかりの「オークの極上肉」ですっ!』
まな板の上にドスンと置かれたのは、巨大な岩のような赤身肉のブロックだった。
(オークってあの豚のバケモノかよ! ってか、極上って言うけどめっちゃ硬そうじゃねえか!)
『このお肉、とっても美味しいんですけど、ちょっと硬いのが難点なんですよねー。ほらっ!』
ルルちゃんが包丁を振り下ろすが、ゴンッ!という音がして弾かれる。
『なので、今日は特別にこれを使います! ――「とっても柔らかくなる魔法」!』
(嫌な予感しかしない……前回のマンドラゴラの時は放送全体が無音になる放送事故になっただろ)
ルルちゃんが杖を振ると、ピンク色の光が画面いっぱいに広がった。
『えいっ! ……あ、あれ?』
光が収まると、異変が起きていた。
オークの肉だけでなく、ルルちゃんが持っていた包丁、まな板、さらにはスタジオのテーブルまでが、まるでスライムのようにグニャグニャに柔らかくなってしまったのだ。
(魔法、肉だけじゃなくて周囲の物体全部にかかってんじゃねーか!!)
ゴムのように垂れ下がる包丁を握り、トランポリンのようにたわむまな板の上で、ルルちゃんは必死に肉を切ろうとしているが、全く切れていない。
『ふふっ、ちょっと柔らかくなりすぎちゃいましたね! でも大丈夫です!』
無駄にポジティブな笑顔でこね回すこと数分。
画面の隅に読めない異世界文字のレシピが表示され、完成品のアップが映し出された。
そこにあったのは、肉だったのかどうかも分からない、謎のペースト状の物体だった。
(……完全にスライムじゃねえか。どうやったらあの肉がこうなるんだよ……)
『――では、来週もまた見てくださいね! ルルでしたー♡』
彼女が笑顔で、グニャグニャになった包丁らしきものをブンブン振っている。
プツン。
テレビの電源が勝手に切れた。
「……今回もルルちゃんが可愛いこと以外、何一つ分からなかった。あと、魔法は加減を考えて使え」
俺は、買ってきたコンビニのカルビ焼肉弁当を一口食べた。
適度な歯ごたえがある肉の食感を、俺は一人、深夜に噛み締めた。




