表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第2話 マンドラゴラと放送事故

 深夜1時55分。

 俺は吸い寄せられるように、本来なら反応しないはずのボタンを押した。

 ノイズの向こう側に、今日も彼女はいた。


『はい! こんばんは。今夜も始まりました「ルルのドキドキ♡クッキング」!』


 ルルちゃんは相変わらず、直視できないほど可愛い笑顔で立っている。


『今夜のメイン食材は、これ! どこの家庭でもお馴染み、今朝捕まえた「マンドラゴラ」ですっ!』


 まな板の上に置かれたのは、顔のついた大根のような植物。

 マンドラゴラは、まな板に乗せられた瞬間、顔中の穴という穴を見開いて「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」と、画面が震えるほどの咆哮を上げ始めた。


「家庭にお馴染みじゃねーよ! あと、うるせえ!  4Kテレビの音質をこんな叫び声で使うな!」


 スピーカーが割れんばかりの絶叫。

 近所迷惑を恐れて音量を下げようとしたその時、ルルちゃんが人差し指を口に当ててウィンクした。


『この子、絞める時にすっごくうるさいんですよね。だから、これを使います。――「沈黙の魔法(サイレンス)」!』


 ルルちゃんが杖を軽く振ると、画面がキラキラとした光に包まれる。


「……ま、魔法!? ――でも、これでやっと静かになるか」


 そう思った瞬間、異変が起きた。

 テレビから、一切の音が消えた。


 マンドラゴラが必死に口を開けて叫んでいる。

 ルルちゃんも、何かを一生懸命解説しながら身振り手振りで笑っている。

 だが、環境音すら聞こえない。

 完全なる、静寂。


「……何も聞こえねーよ!  魔法、マンドラゴラじゃなくて放送全体にかかってんじゃねーか!  放送事故だろ、これ!」


 無音の中、ルルちゃんは楽しげに調理を進めていく。


 マンドラゴラの頭部を躊躇なく引き抜き、中から出てきた緑色のワタのようなものをボウルに移す。

 ルルちゃんが何か重要なポイントを喋っているようだが、口の動きが早すぎて1ミリも読み取れない。


 そのまま無音のまま5分が経過し、画面の隅に『できあがり!』というテロップ(もちろん異世界文字なので読めない)が出た。


 皿の上には、よく分からない、ドロドロのゼリー状の物体。


(……これが、完成品?)


『………………!!』


 ルルちゃんが満面の笑みで、サムズアップをこちらに向けている。

 おそらく「美味しいですよ!」と言っているのだろうが、音がないせいで、何か不吉な儀式の完了報告にしか見えない。


 プツン。


 テレビが切れると同時に、ようやく日常の音が戻ってきた。


「……今回もルルちゃんが可愛いこと以外、何一つ分からなかった。あと、魔法は加減を考えて使え」


 俺は、コンビニの冷めたツナマヨおにぎりを口に放り込んだ。

 パリッという海苔の音。

 音が聞こえる。

 それだけで、少し泣きそうになった。

この作品をお読みいただき、ありがとうございます。


『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!


面白かったら★5つ、つまらなかったら★1つ、正直な感想で結構です。


また、ブックマークもしていただけると嬉しいです。

皆様の応援が、作品執筆のエネルギーになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ルルちゃん、加減が苦手なのかな? そこもかわいい!!! 主人公に共感しちゃう!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ