第3章ー㉜ 大規模討伐依頼
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ギルドの掲示板前は、朝から異様な熱を帯びていた。
金属板に貼られた依頼書が何枚も重なり、そのすべてに赤い縁取りと同じ見出しが踊っている。
依頼:《大規模討伐戦》
紙を睨みつけるハンターたちの視線は真剣で、軽口を叩く者はほとんどいない。
対象は街道と廃区画周辺に増殖したモンスター群、単体では脅威にならないが、数が増えすぎた。
「……完全に増えすぎだな」
誰かが吐き捨てるように言った。
受付補佐が一段高い場所に立ち、通る声で説明を始める。
「今回の討伐は数を揃えた殲滅戦です。
主力はE〜Dランクのルーキー、区域ごとにパーティーを編成し、
上位ランクは車両と重火器で後方支援、緊急介入に回ります」
その言葉に、ざわめきが広がる。
銃を握りしめる者、弾倉を確認する者、肩の力を抜こうと深呼吸する者――
戦場に出る前の、独特の空気。
ロゼッタは少し離れた場所で、その様子を静かに見ていた。
腰のウォーハンマーに手を添え、肩越しに背負った簡易シールドの重みを確かめる。
「大きい仕事ね」
ミレイアが低く言う。
「こういうのは、ギルドの“本気”が見える」
リンはすでに地図と区域番号を照らし合わせている。
「銃声が多くなる。誤射と巻き込みに注意だね」
セリカは重装の肩を軽く叩き、笑った。
「前は任せろ。撃たせる時間は作る」
ロゼッタは頷いた。
「討伐のメインはミレイヤとリンで、私とセリカは、打ち漏らした敵を」
――【編成評価:合理的】
――【銃撃主体の戦場では、近接制圧役の存在が重要】
(わかってる、オラクル)
号令が鳴り、ハンターたちは一斉に動き出す。
即席で組まれたパーティーが、指定された区域へ散っていく。
―――――
ロゼッタたちの担当区域は、低層の廃建造物が密集した区画だった。
視界は悪く、瓦礫と壊れた壁が射線を切る。
「来る」
リンの短い声。
ガサッ、ザザッ――
複数の足音と擦れる音が、瓦礫の向こうから近づいてくる。
「数、多いな」
ミレイアが銃を構える。
ダンッ! ダンッ!
先制して放たれた銃声が、空気を裂いた。
鉛弾がモンスターの一体を倒し、後続が足を止める。
「前、出る!」
セリカが踏み込み、ハンマーを振り抜く。
ゴンッ!
金属と肉がぶつかる鈍い音、一体が吹き飛び、群れが崩れる。
その瞬間を逃さず、
ババッ、バンッ!
リンとミレイアの銃撃が連続し、確実に数を減らしていく。
ロゼッタは少し後方、しかし銃口の死角に立ち、全体を見ていた。
撃ちすぎない、近づきすぎない。
銃撃で止まらない個体だけを選び、前に出る。
ズンッ!
両手で振るったハンマーが、突進してきた一体を地面に叩き伏せる。
衝撃で他の個体がよろめき、その隙に銃声が重なる。
――【集団密度、低下】
――【銃撃と打撃の連携、良好】
戦闘は派手だが、混乱はない。
撃つ者、前に出る者、押し戻す者――
役割が噛み合っている。
周囲では、他のルーキーパーティーも戦っている。
連続する銃声、薬莢が地面に落ちる音、短い怒号。
ロゼッタはそのすべてを背中越しに感じながら、ふと思う。
(これは……個人の強さじゃない)
ギルドが張り巡らせた網。
車両、重火器、そして数多くのハンター。
その一部として、自分たちはここにいる。
最後の一体が倒れ、銃声が止んだ。
硝煙の匂いが、静かに漂う。
セリカが肩で息をしながら笑う。
「……よし、制圧完了」
「被害なし」
ミレイアが即座に確認する。
リンも頷いた。
「初参加としては、上出来だね!」
ロゼッタはハンマーを下ろし、周囲を見渡した。
倒れた仲間はいない。
それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
――【任務進行率:良好】
――【銃撃戦環境下での適応、確認】
(私たちは……ちゃんとハンターだ)
大規模討伐は、まだ続く。
だがこの瞬間、確かに――
ロゼッタたち四人は、銃声の中でギルドの一部として戦っていた。
硝煙が薄れきらない区画で、ロゼッタたち四人は次の動きに備えていた。
その様子を、少し離れた場所から別のパーティが見ていた。
「……おい、あそこ見ろよ」
若いハンターが、思わず声を落とす。
瓦礫の陰から顔を出した彼らの視線の先には、倒れたモンスターの山と、ほとんど乱れていない四人の陣形があった。
前に立つ重装の少女、左右に展開する二人の銃手、そして中央後方で全体を見渡す小柄な少女。
「撃ちすぎてない……?」
「いや、当てすぎなんだ」
別のベテランが、低く息を吐いた。
銃撃戦ではありがちな無駄弾がほとんど見られない。
撃つべきときに撃ち、止めるべきときに止める。
それを、あの年頃の連中がやっている。
「前衛が潰されてないのがでかい」
「しかも、近接が一人だけだぞ」
そのときだった。
――ズン……ズン……。
地面を叩くような重い振動が、遠くから伝わってくる。
他のパーティが、同時に気づいた。
「……来るぞ」
「でかいのが」
遠くで何かが“踏み潰される”音がした次の瞬間、瓦礫の山が内側から盛り上がり、砕けたコンクリート片が雨のように転がり落ちる。
姿を現したのは、装甲化した強力個体。
通常個体より一回り大きく、関節部を覆う金属質の外殻には、すでに他所で受けた銃痕が点在している。
だが、それは“効いていない痕”でもあった。
「……硬いわね」
ミレイアが歯を食いしばり、照準を合わせる。
バンッ!
弾丸は装甲に弾かれ、甲高い音を立てて跳ねた。
「正面装甲、ほぼ無効!」
リンが即座に判断を叫ぶ。
「関節と、首の付け根だけが薄い!」
モンスターが咆哮を上げ、地面を蹴る。
ドンッ!
重量のある一歩で、瓦礫が砕け、粉塵が舞い上がった。
セリカが一歩前に出る。
重装備の脚が地面に沈み込み、体重を受け止める。
「私が前に出る。近づかせるな!」
ガンッ!
ハンマーが振るわれ、装甲に直撃する。
衝撃は通るが、まだ致命打には足りない。
返ってくる反動で、腕が痺れる。
その隙を狙って、モンスターの腕が振り下ろされた。
ゴォンッ!
空気を裂く音。
ロゼッタは反射的に横へ跳ぶ。
剣闘士として染みついた“当たらない距離”の感覚が、体を動かしていた。
(近すぎる……でも、離れすぎてもだめ)
着地と同時に、ウォーハンマーを両手で握り直す。
重さが腕に食い込むが、恐怖よりも集中が勝った。
――【対象、前進中】
――【推奨:左脚関節】
オラクルの情報が、頭の奥に流れ込む。
「左脚!」
ダンッ! ダンッ!
ミレイアの狙撃が、関節の継ぎ目を正確に叩く。
装甲の隙間から、火花と黒い液体が噴き出した。
モンスターの動きが、ほんの一瞬鈍る。
「今だ!」
セリカが吠える。
ロゼッタは、その一瞬を逃さなかった。
踏み込み、全身の力を腕に集める。
腰を回し、体重を乗せ――
「倒れろぉぉっ!!」
ロゼッタの叫びが、戦場に響いた。
ズンッ!!
ウォーハンマーが、左脚関節に叩き込まれた。
鈍い破壊音。
内部構造が潰れる感触が、柄を通して伝わる。
モンスターが体勢を崩し、前のめりになる。
バババンッ!!
すかさずリンの連射が、露出した内部を容赦なく撃ち抜く。
弾丸が内部機構を破壊し、火花と煙が噴き上がる。
それでも、モンスターは完全には倒れない。
腕を振り上げ、最後の抵抗を見せる。
「終わらせる!」
ロゼッタが、全体重を乗せて跳び込み、
ガンッ!!!
とどめの一撃を頭部へ叩き込んだ。
装甲が砕け、巨体が地面に崩れ落ちる。
ドォン……
鈍い音を残し、完全に沈黙した。
しばらく、誰も動かなかった。
銃口を下ろし、呼吸を整える音だけが、静かに響く。
ロゼッタは、自分の手を見た。
震えている。
だが、それは恐怖ではなく、戦闘の余韻だった。
(……一人じゃ、無理だった)
振り返ると、三人がそこにいた。
誰も大げさなことは言わない。
ただ、当たり前のように次の戦場へ向かう準備をしている。
その背中を見て、ロゼッタは小さく頷いた。
銃声の中で、信頼が積み重なっていくのを、確かに感じながら。
遠くで、別のパーティがその光景を呆然と見ていた。
彼らはまだ知らない。
この四人が “普通のルーキー” ではないことを。
続く
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