第3章ー㉙ 前に立つ覚悟
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
四人で受けたクエストを終え、ギルドに戻って報告を済ませたあと、食堂の一角でようやく腰を落ち着けたときだった。
熱の残る身体に木の椅子が心地よく、卓上に並んだ水差しの中身があっという間に減っていく中で、自然と装備の話題になった。
ミレイアがセリカの軽装を一瞥し、率直に口を開く。
「動きはいいけど、そのままじゃ前に出るのは危ないわね。今日も、あと半歩で当たってた場面があった」
リンも頷き、突撃銃を壁に立てかけながら続ける。
「武器は工夫でどうにかなるけど、防具は別。慣れる前に一度、ちゃんと考えた方がいいよ」
セリカは一瞬きょとんとしたあと、苦笑した。
「……だよね。ジャンクタウンじゃ、当たる前に壊すが基本だからさ。
でも、ハンターとしてやるなら、ちゃんと守るものも要るか」
ロゼッタは黙ってその会話を聞いていたが、頭の奥で静かな声が重なる。
――【戦闘ログ解析。セリカの被弾確率はロゼッタ比で一・三倍。防具の最適化を推奨】
(……オラクルも、そう言ってるなら)
「防具の材料、取りに行こう」
ロゼッタがそう言うと、セリカは目を瞬かせ、次の瞬間ぱっと表情を明るくした。
「いいの? それ。……正直、ちょっと作ってみたかったんだ」
ミレイアが肩をすくめる。
「ちょうどいいわ。討伐依頼じゃなくても、素材集めはハンターの仕事だもの」
リンも短く笑った。
「場所は?」
ロゼッタは答える前に、一瞬だけ考える。
――【推奨地点:街から北東。旧採掘場跡。耐衝撃性の高い合金殻を持つ個体が確認されている】
「北東の旧採掘場。
……丈夫な素材が、手に入る」
誰もその言い切りを疑わなかった。
四人はそのまま準備を整え、街の外へと向かう。
旧採掘場は、崩れた坑道と露出した岩盤が入り組み、金属音がやけに響く場所だった。
足元には砕けた鉱石と、旧文明の残骸が混じり合って転がっている。
「ここ、嫌いじゃないな」
セリカが周囲を見回しながら言う。
「素材の匂いがする」
ロゼッタは頷き、ウォーハンマーを軽く構えた。
――【反応あり。殻持ち機械個体、接近中】
次の瞬間、岩陰から姿を現したのは、装甲殻を背負った中型の機械モンスターだった。
鈍重そうに見えるが、一撃の重さは侮れない。
ミレイアが前に出ようとするのを、ロゼッタが手で制した。
「……セリカ、見てて」
「うん」
ロゼッタは踏み込み、殻の側面へと打撃を叩き込む。
**ガンッ!**という鈍い音とともに、表面がわずかに歪むが、貫通はしない。
――【想定通り。殻素材、回収価値高】
続けて、角度を変えた二撃目。
ドンッ!
内部に衝撃が伝わり、機械が体勢を崩す。
その隙を逃さず、ミレイアの銃声が響く。
バンッ!
露出した関節部を正確に撃ち抜き、動きを止める。
「今だよ!」
セリカが叫び、ロゼッタは全身の力を乗せて振り下ろした。
ドォンッ!!
殻が砕け、内部機構が露出する。
――【撃破確認】
倒れた機体の前で、セリカはしゃがみ込み、砕けた殻を手に取った。
目が、職人のそれに変わる。
「……これ、いい。
軽いのに、衝撃を分散する構造してる」
ミレイアが感心したように息を吐く。
「防具向きね」
ロゼッタは、その様子を少し離れたところから見ていた。
戦うためではなく、守るための準備。
――【装備の更新は生存率を上げる。だが、それ以上に……】
(……仲間が、増える)
素材を回収し終えた四人は、静かに採掘場を後にした。
セリカの防具は、まだ形になっていない。
けれどこの日、確かに“守るための一歩”が踏み出されたのだった。
その後、ロゼッタ達はセリカの親方の工房へ向かった
工房の奥は、いつ来ても独特の匂いがする。
熱せられた金属の匂い、油、古い機械の埃――それらが混じり合い、ここが「作る場所」であることを強く主張していた。
作業台の前に立つセリカは、腕まくりをし、集めてきた素材を一つ一つ並べている。
旧採掘場で回収した殻材、歪んだままの合金板、内部フレームに使えそうな骨組み。
その横で、工房の親方が腕を組み、黙って眺めていた。
「……で、どうするつもりだ」
しばらくして、親方が低く言う。
セリカは即答した。
「前に出る装備にします。
四人で動くなら、私が前衛です」
その言葉に、ロゼッタは小さく息を吸った。
ミレイアとリンは火力と制圧、ロゼッタは機動力と打撃。
確かに、残る一枠は“受け止める役”が必要になる。
親方はふん、と鼻を鳴らした。
「わかってるじゃねえか。
前衛はな、当たる前提で考えろ。避け損なった一撃を“耐える”のが仕事だ」
セリカは真剣な顔で頷く。
「重装備、ですね」
「そうだ。
幸い、お前は背もあるし体格もいい。前に立つには向いてる」
そう言われて、セリカは少しだけ照れたように笑ったが、すぐに真顔に戻った。
「ただ、この素材だと見た目がちょっと……」
「ヒヨッコが見た目なんか、気にすんじゃねぇ」
親方は即座に言い切った。
「防具は飾りじゃねえ。
とにかく性能第一だ。生きて帰るための道具だぞ」
その一言で、工房の空気が引き締まる。
――【前衛装備の最適化は、チーム全体の生存率を向上させる】
ロゼッタの頭の奥で、静かな声が補足する。
(……うん、そうだね)
セリカは素材を手に取り、親方の指示を受けながら作業を始めた。
まずは内部フレーム。
動きを阻害しないよう、関節部に余裕を持たせ、衝撃が一点に集中しない構造に組み直す。
「重くなるから、全部盛るな。
守る場所を決めろ。胸、腹、肩。脚は動き優先だ」
「了解」
セリカは手早くメモを取り、すぐに工具を握る。
叩く音、削る音、火花。
カン、カン、ギィンッと、工房に規則正しいリズムが生まれる。
ミレイアとリンは少し離れた場所で、その様子を静かに見守っていた。
「……前に立つ覚悟、決めた顔ね」
ミレイアが小さく呟く。
リンは頷いた。
ロゼッタは言葉を挟まず、ただセリカの背中を見ていた。
剣闘士の頃とは違う。
これは、誰かを倒すための装備じゃない。
“仲間を守るため”の装備だ。
やがて、荒削りながらも形になった防具が作業台に並ぶ。
厚みのある胸当て、肩を覆う装甲、腹部を守るプレート。
重そうだが、無駄はない。
親方が一通り確認し、短く頷いた。
「悪くねえ。
初めてにしちゃ、上出来だ」
セリカは息を吐き、汗を拭った。
「……ほんと?」
「前に立つなら、これくらいは要る。
あとは実戦で調整だ」
――【推定防御性能、既製品比一・五倍】
ロゼッタは、わずかに微笑んだ。
(……これで、前に出られるね)
セリカの防具はまだ完成じゃない。
だがこの日、彼女は“前衛”としての第一歩を、確かに踏み出していた。
続く
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