第3章ー㉘ 新たな武器
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
工房の奥、いつもより早い時間から炉の火が入っていた。
赤く脈打つ炎の前に立つセリカは、髪を後ろで束ね、普段の気さくな笑顔をしまい込んで、真剣な目で作業台の上を見下ろしている。
その中央に置かれているのは――ジャンクタウンから持ち帰った、旧文明製の長警棒。
軽く、芯があり、衝撃を逃がす構造を持つ、打撃武器の土台としてはこれ以上ない素材だった。
「芯はこれで決まりだな……」
セリカは呟き、親方に一度だけ視線を向ける。
親方は何も言わず、顎で「やれ」と示した。
長警棒を分解し、内部構造を確認し、必要な部分だけを残して補強材を組み込んでいく。
打撃を受け止め、反発を返す“骨”を作る作業は、経験が浅いセリカにとって決して簡単ではなかったが、それでも手は止まらなかった。
「ロゼッタ、前に言ってたよね」
作業の合間、セリカがふっと声をかける。
「斬れない相手には、壊すしかないって」
ロゼッタは少し離れた場所で見守りながら、静かに頷いた。
「……うん。
でも、重すぎると振れない」
「わかってる」
セリカはそう言って、警棒の先端に取り付けるハンマーヘッドを手に取った。
中空構造を活かしつつ、内部に高密度の素材を仕込むことで、重量を抑えながら破壊力を出す設計。
さらに反対側――バランスを取る位置には、**ピッグ(尖頭)**を設ける。
「叩いてもいいし、突いてもいい。
振り抜けなかったら、引っ掛けて崩すこともできる」
親方が初めて口を開いた。
「欲張りだが、悪くねえ。
使い手が使い分けられるなら、だが」
ロゼッタはその言葉を聞いて、自然と背筋が伸びた。
「……使い分けます」
セリカは一瞬だけ微笑んで、作業に戻った。
ハンマーヘッドは着脱式。
固定具を外せば、片手用の軽量ハンマーとしても使える。
長柄のままなら、両手で振るウォーハンマー。
状況に応じて姿を変える武器――それは、ロゼッタの戦い方そのものだった。
最後に、全体を組み上げる。
――カン……カン……カン……
音が変わる。
鈍く、重く、それでいて芯の通った響き。
親方が出来上がった武器を手に取り、何度か軽く振る。
「……よし」
その一言だけで、工房の空気が緩んだ。
ロゼッタは鞄から支払いを取り出し、差し出す。
「お願いします」
親方はそれを受け取らず、代わりに武器をセリカの方へ差し出した。
「違う」
「え?」
「これは――お前が作った武器だ」
セリカは一瞬、言葉を失った。
ロゼッタも、目を見開く。
「代金は、こいつに払え。
責任も、誇りも、全部な」
セリカの手が、少し震えながら武器を受け取る。
重さを確かめ、柄を握り直し、そしてロゼッタへ向き直った。
「……ロゼッタ」
「うん」
「これ、ちゃんと使って。
壊れたら直すから。
でも――」
一瞬、照れたように目を逸らしてから、セリカは続けた。
「簡単には壊れないように、作った」
ロゼッタは両手でウォーハンマーを受け取った。
ずしりとくる重さ。
だが、不思議と振れる感覚がある。
(……私の武器だ)
剣闘士のための武器ではない。
殺すためだけの道具でもない。
ハンターとして、生き延びるための武器。
ロゼッタは小さく、でも確かに笑った。
「ありがとう、セリカ」
その言葉に、セリカは少しだけ胸を張った。
「どういたしまして、使い手さん」
炉の火が、ぱちりと弾ける。
その音は、二人のこれからを祝福する合図のようだった。
ギルドの掲示板の前に並んで立つ二人は、まだどこか落ち着かない空気をまとっていた。
ロゼッタは背中に新しいウォーハンマーを負い、時折その重みを確かめるように肩を動かし、セリカは工具袋を腰に提げたまま、依頼書の紙を一枚一枚めくっては真剣な顔で読み込んでいる。
――【依頼内容の危険度は低〜中。初実戦として妥当な選択です、ロゼッタ】
頭の奥に、あの落ち着いた声が響いた。
(……うん、わかってる)
「……これだな」
セリカが指差したのは、街道沿いの廃施設に出没する**機械系モンスターの討伐依頼**だった。
難度は低め、だが数が多く、装甲もそれなりに厚い。
まるで――今の二人を試すために用意されたかのような内容だった。
「 ”初仕事” としては、ちょうどいいと思う」
ロゼッタが静かに言う。
――【同意。打撃武器の実地検証にも最適】
セリカは少しだけ笑って頷いた。
「武器の出来も、実地で確かめたいしね。
作った本人としては、ちょっと緊張するけど」
受付で手続きを済ませると、周囲のハンターたちの視線がちらりと集まった。
ロゼッタの背負う見慣れない打撃武器と、隣に立つ新人らしい少女の組み合わせは、確かに目を引く。
――【周囲の注目度、やや高め。だが敵意は検出されない】
二人は気に留めず、街の外へと歩き出した。
---
廃施設は、旧文明時代の倉庫を転用したものらしく、崩れた外壁とむき出しの鉄骨が不気味な影を落としていた。
中に足を踏み入れた瞬間、かすかな駆動音が耳に届く。
――ギィ……ギギ……。
「来るね」
セリカが低く呟き、即座に周囲を見回す。
ロゼッタはウォーハンマーを背から下ろし、両手で柄を握った。
――【前方熱源反応、複数。小型機械個体】
最初に姿を現したのは、四脚の小型機械モンスター。
装甲は薄いが数が多い、典型的な雑魚群だ。
「先に私が前に出る」
ロゼッタが一歩踏み出す。
――【推奨戦術:前進圧力。装甲破砕後に各個撃破】
重心を落とし、両手で振りかぶる。
――ブォンッ!
空気を裂く音とともに、ハンマーが振り下ろされ、最前列の機械を正面から叩き潰す。
**ガンッ!!**という衝撃音が響き、装甲が歪み、内部機構が火花を散らして停止した。
「……っ、効いてるね!」
セリカの声に、ロゼッタは一瞬だけ目を細める。
――【打撃力、想定値以上。良好な結果】
左右から回り込もうとする機械には、柄を軸にした横薙ぎ。
**ゴンッ、ゴンッ!**と鈍い音が連続し、脚部を砕かれた機体が次々と転倒する。
その隙を逃さず、セリカが動いた。
腰の工具袋から即席の投擲具を取り出し、露出した関節部へ正確に投げ込む。
――カシャンッ、バチッ!
短い火花とともに動きが止まる。
「いい感じ! 重心、安定してる!」
「……うん、振り切れる」
ロゼッタは呼吸を整えながら、次の敵を見据える。
――【注意。後方から大型反応】
奥から現れたのは、一回り大きな装甲機。
小型とは違い、表面は厚く、剣では通りにくいタイプだ。
ロゼッタは一瞬、ハンマーヘッドの固定具に指をかける。
外すか、このままいくか――。
(……今は、両手)
判断は一瞬だった。
踏み込み、全身の力を乗せて振り下ろす。
――ドォンッ!!!
衝撃が腕から肩、背中へと突き抜け、足元の地面が震えた。
装甲が凹み、内部から嫌な音が漏れる。
――【内部構造損傷、推定六割】
「もう一発!」
セリカの声に応え、ロゼッタは反対側のピッグで突きを入れる。
**ズンッ!**と鈍く刺さり、内部の基幹部を破壊。
――【中枢破壊確認】
機械は大きく傾き、そのまま崩れ落ちた。
しばしの静寂。
残骸から立ち上る煙の中で、二人は互いの顔を見る。
「……成功、かな」
セリカが言う。
――【任務達成率:百パーセント】
ロゼッタは少し遅れて、はっきりと頷いた。
「うん。
この武器……ちゃんと、私と一緒に戦ってくれた」
――【適切な評価です。武器は使い手を選びます】
セリカは照れたように頭をかき、でもどこか誇らしげに笑った。
「それなら、作った甲斐があったよ」
廃施設を後にする二人の足取りは、来た時よりも確かだった。
新人二人のクエストは、派手さはないが――
確実に、次へ進むための一歩になっていた。
続く
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