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第3章ー㉖ ハンターの価値

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


工房の裏手、資材置き場の奥にある小さな空き部屋が、セリカの新しい寝床になった。

簡易ベッドと机、壁際に工具箱を置けばいっぱいになる程度の広さ。それでも、彼女は不思議と満足そうだった。


「……工房の音が聞こえる」


夜、横になりながらそう呟いた声は、どこか嬉しそうだった。


――翌日。


「最低限、生活用品は揃えないとね」


ロゼッタと並んで歩く通りは、ハンターギルド近くの商業区。

食料、作業着、消耗品、寝具の替え。

セリカは工具を見る目とは違う、少し浮ついた表情で店先を覗いていた。


「ねえロゼッタ、これ。

 工房用のエプロン、丈夫そう」


「……セリカ、弟子入り初日からやる気出しすぎ」


「今だけだよ、たぶん!」


笑い合いながら露店を回っていると、不意に聞き覚えのある声がした。


「あれ?

 ロゼッタじゃない」


振り向くと、そこに立っていたのはミレイアだった。

落ち着いた雰囲気の中に芯の強さを感じさせる女性で、隣には相変わらず元気なリンがいる。


「……久しぶり。

 帰って来てたのね」


「ミレイア! リン!」


ロゼッタは軽く手を上げる。


「ちょうど買い出し中」


ミレイアの視線が、ロゼッタの隣に立つ少女へ移った。


「そちらは?」


一瞬、セリカが姿勢を正す。

だが、ロゼッタが先に口を開いた。


「セリカ。

 今日から、鍛冶屋の工房で弟子入りする」


「えっ、弟子入り?」


ミレイアが目を見開き、すぐに柔らかく微笑んだ。


「それは……すごいじゃない」


リンはじっとセリカを見つめ、短く頷く。


「手、傷だらけだ。

 本気のようだね」


「う、うん。よろしく」


セリカは少し照れながら頭を下げた。


「ロゼッタには、いろいろ助けてもらってて」


「へえ」


ミレイアは意味ありげにロゼッタを見る。


「相変わらず ”縁” を引き寄せるわね」


ロゼッタは肩をすくめる。


「……たまたま」


その時、ロゼッタの頭の奥に、あの落ち着いた声が響いた。


――《観測結果:新規人物“セリカ”。

  環境適応率、高。

  ロゼッタ、良好な補助要員を確保しました》


(……今は黙ってて)


――《了解。社交フェーズでは沈黙を推奨します》


ロゼッタがほんのわずかに目を伏せるのを、ミレイアは見逃さなかったが、何も言わなかった。


「今度、時間があったら一緒に食事でもどう?」


ミレイアがセリカに向けて言う。


「工房暮らしだと、栄養偏りがちだし」


「ぜひ!」


セリカは即答だった。


リンも付け加える。


「訓練場、案内できるよ!」


「ありがとう!」


通りの喧騒の中で、自然に会話は混ざり合っていく。

ロゼッタはその様子を少し後ろから眺めながら、胸の奥が静かに温まるのを感じていた。


旅は一人でも続けられる。

けれど――


誰かと並んで歩く道も、悪くない。ロゼッタはそう思った。



午後のハンターギルドは、討伐依頼の張り紙よりも、荷の出入りが目立っていた。

木箱、金属ケース、封蝋のされた書類束。

戦場の匂いとは違う、仕事場の匂いがする。


その中で、ラベートは当たり前のように立っていた。


「ロゼッタ、少し手を貸してもらえるか」


声をかけられて振り向くと、彼の足元にはいくつかの納品箱。

中身は武器部品、装甲材、機械用の加工パーツ――どれも丁寧に仕分けされ、番号が振られている。


「はい、でもこれは?」


「ああ。

 これは前に言ってた “ギルドの仕事” だ」


そう言って、ラベートは軽く箱を叩いた。


「運ぶだけでいい。

 ついでに、見ておいた方がいい」


意味深な言い方だった。


ギルド上層階。

普段のハンターが立ち入らない区画で、空気が違う。

静かで、重くて、判断が積み重なった場所。


応接室には、ギルドの管理官が二人。

机の上に、ラベートの持ち込んだ書類と部品が並べられる。


「彼女は?」


ひとりの管理官がロゼッタを見て言った


「いい、彼女はジャンクタウン帰りだ」


もう一人の管理官が言った。その一言で納得したようだ。


「予定より早いな」


「現場の都合です。

 最近、機械系モンスターの稼働率が上がっている」


管理官の表情が、わずかに引き締まる。


「……帝国側の動きと一致するな」


ロゼッタは、その言葉に反応した。


「帝国?」


ラベートは会話を止めず、淡々と続ける。


「直接的な侵攻じゃありません。

 ただ、旧文明の施設に手を伸ばしている形跡がある」


「つまり?」


「結果として、

 制御を失った機械モンスターが増える」


管理官の一人が、ロゼッタを見る。


「君は討伐側だな。

 現場では、もう感じているだろう?」


ロゼッタは思い出す。

ジャンクタウン、スクラップヒル、暴走した装甲車両。

偶然とは思えない頻度。


「……はい」


「だからこそ、装備と加工品が要る」


ラベートが、静かに締めくくった。


「討伐だけでは、街は守れません。

 支える仕事も、戦いの一部です」


その言葉は、評価でも誇示でもなく、事実だった。


応接室を出たあと、廊下を歩きながら、ロゼッタは言った。


「……Cランクって聞いて、驚きました」


ラベートは少しだけ笑う。


「よく言われる」


「今の会話で、正直もっと ”上” だと思ってました」


「ランクは、役割の一面に過ぎない」


立ち止まり、ラベートはロゼッタを見る。


「君は ”討伐” で評価される。

 俺は ”供給と調整” で評価される」


「同じ “ハンター ”でも、やってることが違う」


「違うから、成立する」


その言葉が、ロゼッタの胸に残った。


――討伐以外で、評価されるハンター。

――前線に立たず、戦いを動かす存在。


世界は、自分が思っていたよりも、ずっと広い。


ギルドを出た後、ラベートは何気ない口調で言った。


「ロゼッタ」


「?」


「君の戦い方だが」


足を止めず、前を見たまま。


「踏み込みが速い。

 判断も的確だ。

 だが――」


一瞬の間。


「自分を削る癖がある」


ロゼッタは何も言えなかった。


「武器を変えようとしているのは、正しい」


ラベートは続ける。


「力を“増やす”んじゃない。

 力の使い方を分散させろ」


それは、助言であり、分析であり、

戦場を知る者の視線だった。


「君は、長く生きるハンターだ。

 だから――無理はするな」


その言葉は、静かで、重かった。


ロゼッタは、少しだけ息を吐き、頷いた。


「……ありがとうございます」


その背後で、聞き慣れた声が、頭の奥で囁く。


――《評価補足:

  ラベートは脅威ではありません。

  信頼値、高》


(……珍しく同意)


――《ありがとうございます》


ロゼッタは、ほんの少しだけ、笑った。


ハンターの価値は、剣の数だけじゃない。

この街で、彼女はまた一つ、それを知った。


続く

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