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第3章ー㉕ 新しい弟子、新しい武器、そして新しい縁

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


定期便が減速し、重たいエンジン音が街の外壁に反響した。

高く積み上げられた石と鉄の混合壁、その上に張り巡らされた索道と見張り台――ここが、ロゼッタが所属することになったハンターギルドの街、周囲の都市から物資の集まる街

人々が *ハブ・ゼロ* と呼ばれる街がそこにあった。


門をくぐった瞬間、空気が変わる。

人の多さ、視線の鋭さ、装備の重さ。

誰もが武器を携え、誰もがそれを「日常」として扱っている。


「……やっぱ、ここ来ると背筋伸びるな」


セリカがそう言って伸びをすると、腰の工具袋がじゃらりと鳴った。


「初めてじゃないのか?」


ラベートが尋ねる。


「親父の付き添いで来たことは何度もあるけどさ。

 ”ちゃんと” 中に入るのは、初めてだ」


ロゼッタは、少し遅れて歩きながら周囲を見渡していた。

闘技場とは違う。


ここには歓声も、観客席もない。

あるのは、傷と修理と、次の依頼の話だけだ。

改めて見る景色は、以前とは違うものに感じた。


いや、しっかりと見る ”余裕” が今まではなかっただけだったのだ。


――やはりここは ”戦う人間の生活” なんだ。


ギルドの建物が見えてくると、自然と視線が集まるのを感じた。

理由ははっきりしている。


歩く中心にいるのが、ロゼッタだったからだ。


まだ小柄な体躯。

だが、歩き方に迷いがなく、武器の重さに引きずられない。

義手の右腕は目立つが、隠す様子もない。


「あの子久々に見るな、遠征でもしてた?」


「隣の女の子、誰だろ?見たことある?」


「あの子……新人か?」


「でも、空気が違うぞ」


「一緒にいる男、この辺じゃ見ない顔だが、ただものじゃねぇな」


そんな囁きが、風に混じって聞こえる。


受付前に並ぶと、ギルド職員が顔を上げた。


「……ロゼッタ・スカーレット、Eランク。

 帰還報告と……おかえりなさい、ロゼッタさん」


視線が、ラベートとセリカに移る。


「同行者の方は?」


「納品と打ち合わせだ」


ラベートが短く答えると、職員は一瞬だけ目を細めた。


「……ラベート氏ですね。

 確認済みです。奥へどうぞ」


その対応の違いに、ロゼッタは内心驚いた。

名前だけで通る。

それがCランクの重みなのだと、はっきり分かる。


次に、セリカが一歩前へ出た。


「登録をお願いしたいんだけど」


「職業は?」


「ジャンクタウンの工房育ち。

 材料回収と簡易修理、応急武装ができるよ」


職員は一瞬ペンを止め、セリカを上から下まで見た。


「……珍しいですね。

 戦闘は?」


「機械系のモンスターとの戦闘経験あり、やるときはやるよ」


ロゼッタは、思わず小さく頷いていた。


登録が終わるまでの間、ロゼッタは壁際で待っていた。

そこへ、別の受付員が声をかけてくる。


「……あなた、最近名前をよく聞きますよ」


「え……?」


「変異種討伐、スモール・ブロンズ。

 新人では、なかなかありません」


ロゼッタは、少しだけ背筋を伸ばした。


「……運が良かっただけです」


その返答に、受付員はふっと笑った。


「運も、実力のうちですよ」


セリカの登録証が手渡されると、彼女はそれを掲げてみせた。


「よし、これで正式だ!」


「……おめでとうございます」


ロゼッタがそう言うと、セリカは目を丸くした。


「なに、その言い方。

 あんた、先輩じゃん」


「……まだ、全然……」


そのやり取りを、ラベートは少し離れたところから見ていた。


――託される、というのは、こういうことか。


バルカやグレイヴの顔が、一瞬脳裏をよぎる。


「さて」


ラベートが声をかける。


「鍛冶屋に顔を出そう。

 荷物もあるしな」


「その前に!」


セリカがロゼッタの腕を軽く引いた。


「さっき言ってた店、案内してよ。

 腹減った」


ロゼッタは、少し照れたように、それでもはっきり頷いた。


「……はい。

 甘い果実酒と、焼き菓子のある店です」


二人は笑い、ラベートは小さく息を吐いた。


こうして、ロゼッタはまた一歩、

“独りで戦う場所”から “誰かと立つ場所” へと進んでいった。




ギルドの喧騒を抜け、石畳の路地を少し外れた場所に、その工房はあった。

煤と油の匂い、金属を叩く乾いた音。ロゼッタにとっては、どこか落ち着く空気だった。


「ここだよ」


セリカが先に扉を押し開ける。

中は広く、天井近くまで工具と素材が並び、中央の作業台には叩き跡だらけの鉄板が鎮座していた。


「……変わってないな」


ラベートが小さく呟く。


奥から、ずっしりとした足取りで親方が姿を現した。

がっしりした体格、白くなり始めた髭、鋭いが疲れを知った目。


「おう。

 ……お前が、あいつの嬢ちゃんだな、話は聞いとる」


視線がロゼッタに向く。


「無事に届けてくれたんだな

 助かったぞ」


「……いえ。こちらこそ」


その直後、セリカが一歩前に出た。

いつもの軽い調子ではなく、背筋を伸ばしている。


「親方。

 私……ここで、弟子入りさせてほしい」


工房の空気が、一瞬止まった。


「ほう?」


親方はセリカをじっと見つめる。

工具の扱いでできた手の傷、姿勢、目線。

一つ一つを確かめるように。


「理由は?」


「武器をちゃんと作れるようになりたい。

 人を守れる道具を、自分の手で仕上げたい」


短く、誤魔化しのない言葉だった。


その横で、ラベートが一歩進み出る。


「兄です。

 ご迷惑をかけるかもしれませんが……」


「分かってる」


親方は手を上げて制した。


「……血の匂いがする。

 だが、それだけじゃない。

 覚悟もある」


ふん、と一息ついてから言う。


「話はあとだ。

 まずは“腕”を見せてもらう」


その言葉に、セリカの表情が少し引き締まった。


親方は今度はロゼッタに向き直る。


「ところで……

 嬢ちゃん」


「……はい」


「作りたい武器は、もう決まったか?」


ロゼッタは一瞬迷い、それから頷いた。


「……打撃武器を、お願いします」


そう言って、背負っていた布包みをほどく。

中から現れたのは、ジャンクタウンで手に入れた長い警棒だった。


旧文明の素材。

傷だらけだが、芯は歪んでいない。


親方の目が、わずかに細くなる。


「……いい芯だ」


警棒を手に取り、軽く振る。

空を切る音が、澄んでいた。


「切るより、叩く。

 最近の連中は忘れがちだが……悪くない選択だ」


そして、不意にセリカを見る。


「おい、弟子志願。

 これに合う素材は、どれだ?」


セリカは一瞬だけ目を閉じ、工房の壁際へ向かった。

積まれた素材の中を見渡し、手を伸ばす。


「……これと、これ。

 あと、この衝撃吸収材」


持ってきたのは、

靭性のある合金板、重心調整用のウェイト、そして機械部品由来の緩衝素材。


親方は無言でそれを受け取り、警棒と並べる。

しばらく眺め――


「……合格だ」


その一言に、セリカの肩がわずかに揺れた。


「素材を見る目はある。

 あとは叩き方と、考え方だ」


親方はロゼッタに警棒を返しながら続ける。


「嬢ちゃん。

 いい武器は、持ち主と一緒に育つ。

 これは、まだ“途中”だ」


ロゼッタは、しっかりとそれを受け取った。


「……はい。

 大切にします」


工房の火が、静かに燃えていた。

新しい弟子、新しい武器、そして新しい縁が――

この場所で、確かに生まれつつあった。



続く

ハブ・ゼロ(Hub Zero) 物流の基準点としてつけました。

この街からロゼッタ達に色々行ってもらおうと思ってます



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