第3章ー㉔ 新しい街、新しい仕事、新しい仲間
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
定期便の中は、金属の床が微かに振動し、エンジン音が一定のリズムで腹に響いていた。
窓の外では、ジャンクタウンの雑多な影がゆっくりと遠ざかっていく。
ロゼッタは、向かいの座席に腰掛けながら、少し落ち着かない様子で二人を見ていた。
さっきまで一人で帰るつもりだった車内に、今はセリカとラベートがいる。その事実が、どこか不思議で、でも温かい。
「しかしさあ」
セリカが座席に肘をつき、にやりと笑う。
「まさか、あたしがハンターギルドに行くことになるとは思わなかったよ」
「登録するつもりなのか?」
ラベートが落ち着いた声で尋ねる。
「うん。
素材集めも、モンスター相手も慣れてるしさ。
どうせなら、ちゃんとした身分証があった方が楽でしょ?」
言いながら、セリカは楽しそうに指を折り始めた。
「まずは家探し。
工房に通いやすいとこで、風呂は最低限あって、作業台置ける広さで……
あ、家具もいるな。寝台と、棚と……」
「……ずいぶん具体的だな」
ラベートが苦笑する。
「決めたら早いんだよ、あたしは」
そう言って、セリカはロゼッタの方を向いた。
「ロゼッタ、ギルドの街でさ、
飯がうまい店、知ってる?」
「え……?」
急に話を振られて、ロゼッタは少し慌てた。
だが、すぐに思い浮かぶ。
「……はい。
果実酒が甘くて、パンがふわふわで……
あと、焼き菓子が……とても……」
話しているうちに、自然と表情が緩む。
「おお、それ聞いただけで当たりだな」
セリカが嬉しそうに頷く。
「よし、決まり。
最初の外食はそこだ」
「……そんなに簡単で、いいんですか?」
ロゼッタが小さく聞くと、セリカは目を丸くした。
「逆に聞くけど、
楽しまない理由、ある?」
ロゼッタは一瞬言葉に詰まり、それから首を振った。
「……ない、です」
ラベートは、そのやり取りを静かに眺めながら口を開く。
「俺もギルドに用事がある。
加工品の納品と、少し打ち合わせだ。
だから、しばらく同行する」
「えっ、兄貴も?」
「ちょうどいいタイミングだ」
ラベートはそう言って、ロゼッタを見る。
「君の鍛冶屋の親方にも、話を聞いてみたい。
素材の流れは、知っておいて損はない」
そして、セリカの方を見て、言った。
「それに妹がお世話になるんだ、家族として、兄として
挨拶しておきたい」
「は、はい……」
「あっ あぁ……」
それぞれが、それぞれの反応を返す
ロゼッタは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
一人で進むつもりだった道に、いつの間にか人が増えている。
定期便が大きく揺れ、進路を街道へと変える。
セリカは背もたれに身を預け、満足そうに息をついた。
「なんかさ……」
「?」
「悪くないね。
新しい街、新しい仕事、新しい仲間」
ロゼッタは、窓の外を流れる景色を見つめながら、静かに頷いた。
「……はい。
とても、楽しみです」
その言葉に、セリカは笑い、ラベートは小さく目を細めた。
定期便は、確かな音を立てながら、三人をハンターギルドの街へと運んでいった。
定期便が街道の中ほどに差しかかった頃だった。
車体の床下から、いつもとは違う低い振動が伝わってきて、次の瞬間、運転席側から短く鋭い警笛が鳴り響いた。
「――敵襲!」
護衛兵の怒号とほぼ同時に、後方を走る護衛車両の旋回砲塔が動き、重たい金属音を引きずるようにして機関銃が火を噴いた。
ダダダダダダッ――!!
乾いた連射音が空気を引き裂き、車体の側面をかすめる振動がロゼッタの腹に響く。
窓の外では、砂塵を巻き上げながら、歪なシルエットがいくつも迫ってきていた。
「……機械系だな」
ラベートが静かに言う。
その声には、驚きも焦りもない。
セリカが立ち上がり、窓から身を乗り出す。
「数、結構いるね!
護衛だけじゃ削り切れないかも!」
機関銃の弾が装甲を弾くたび、火花が散る。
だが、旧文明由来の機械モンスターは、被弾をものともせず前進してくる。脚部の駆動音が、ぎぎぎ、と不快な金属音を立てていた。
その時、ラベートがゆっくりと荷物を開いた。
「ロゼッタ、下がっていろ」
「え……?」
次の瞬間、彼の手に収まったのは、見慣れない工具だった。
一見すれば、建築用の ”釘打ち機”――だが、銃身は延長され、内部構造も明らかに改造されている。
「……それ、武器なんですか?」
「工具だが、今は」
ラベートは短く答え、照準をつけた。
キィン――
甲高い発射音とともに、鋼鉄の釘が弾丸のように射出される。
ヒュン――ッ
ガンッ!!
機械モンスターの胸部、装甲の継ぎ目に正確に突き刺さった。
次の瞬間、内部から火花が噴き、動きが一瞬止まる。
「……急所?」
ロゼッタが息を呑む。
「駆動核の固定部だ。
装甲は硬いが、構造は素直だ」
そう言いながら、ラベートは二発、三発と迷いなく撃ち込む。
釘は叩き込まれるように深く食い込み、内部機構を破壊していく。
ギィ――……
機械モンスターは、前のめりに倒れ、完全に沈黙した。
「……えげつない精度だね、兄貴」
セリカが感心とも呆れともつかない声を出す。
だが、まだ終わりではなかった。
別の個体が、定期便の側面へ跳躍し、爪を立ててよじ登ろうとする。
ガリガリガリッ――!!
車体が大きく揺れ、乗客の悲鳴が上がる。
その瞬間、ラベートは釘打ち機を荷物に戻し、腰に下げていた工具袋から、先端の尖った短柄ハンマーを引き抜いた。
「……まさか、それで?」
ロゼッタの言葉を待たず、ラベートは窓枠に足をかけ、外へ躍り出る。
風を切る音。
次の瞬間、彼の身体は機械モンスターの頭上にあった。
「――ここだ」
ズンッ!!
鈍く、重い衝撃音。
ハンマーの尖端が、頭部センサーの根元へ正確に叩き込まれる。
バチィッ!!
火花が爆ぜ、機械の全身が痙攣するように震え、そのまま崩れ落ちた。
一撃。
ほとんど瞬殺だった。
ラベートは何事もなかったように車内へ戻り、手袋についた油を軽く払う。
「……これで終わりだ」
実際、その通りだった。
護衛車両の機関銃が残りを掃討し、モンスターの残骸が街道に転がる。
静寂が戻ると同時に、ロゼッタはしばらく言葉を失っていた。
剣闘士として、強者は何人も見てきた。
だが、これは違う。
「……ラベートさん」
「?」
「……ハンターって……
こんな戦い方も、あるんですね」
ラベートは、少し考えるように視線を落とし、それから静かに答えた。
「あるものを使い、
必要な力だけを、正しい場所に使う。
それが生き残るやり方だ」
セリカが肩をすくめる。
「だから言ったでしょ。
兄貴、技術屋の顔してるけど、
中身はだいぶ危ないんだって」
ラベートは否定も肯定もせず、ただ淡く笑った。
ロゼッタは、胸の奥で何かが静かに広がっていくのを感じていた。
剣だけじゃない。
力だけでもない。
――選び、使い、判断する。
それもまた、ハンターの強さなのだと。
定期便は再び走り出す。
その揺れの中で、ロゼッタは自分の両手を見つめ、これから先に広がる可能性を、初めて実感していた。
続く
一見インテリ系ですが、実はゴリゴリの武闘派って感じの兄貴ってかっこいいですよね
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