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第1章ー⑦ “生きる”ための刃

 ホーゲルのアジトの奥――薄暗い部屋のさらに奥にある、金属臭の濃い作業区画。

 そこには廃都市から拾い集めたスクラップが山のように積まれていた。


 錆びた鉄骨、折れた補助アーム、使い捨てのドローン殻、古い配管、歪んだブレード。

 どれも本来ならゴミだが、修復士ホーゲルの手にかかれば“素材”となる。


「ロゼッタ、お前の右腕はもう武器にはならん。

 だから――武器は別に持て。

 軽くて、扱いやすくて、壊れても代わりが作れるものを」


 ホーゲルはスクラップの山をかき分けながら言った。


「武器って……どんな?」 


「まずは《簡易刃》。

 古いドローンのブレードはチタン混合で軽い。これを細工すれば十分切れる」


 ホーゲルは火花を散らしながら切削機で金属板を削る。

 削った断面に角度をつけ、刃になるように整形。

 柄は折れた配管を加工し、衝撃吸収材を巻いて固定した。


――カンッ。


 作り終わった刃を台に置く音は軽く、鋭く鳴った。


「試してみろ」

「……うん」


 ロゼッタは弱い義手で柄を握り、そっと机の古い布を裂いてみた。

 軽い力でもスッと切れる。


「すごい……これ、本当にスクラップ?」

「スクラップだからこそ作れる。どんなものでも”工夫”次第で何にでもなる」


ロゼッタは嬉しそうに刃を見つめた。


ホーゲルは次に、太く短い金属部品を取り出した。


「《衝撃棒》インパクトロッドは威力は低いが、壊れにくい。

 お前の義手でも扱える重量だ」


 折れた産業ロボットの関節を切り出し、内部に鉛の破片を詰める。

 重心を先端に寄せることで、弱い力でも打撃効果が倍増する。


「これは敵の装甲を割るような武器じゃない。

 腕や膝を砕いて逃げ道を作るためのものだ」


「戦闘用じゃなくて……生存用の武器なんだね」


「そうだ」


「最後は《ジャンク・ダーツ》だ」


 ホーゲルは、細長いネジ、壊れたアンテナ、針金を並べた。


「遠距離攻撃はリスクが高いが、黒龍部隊のセンサーを壊すには有効だ。

 小さくて軽い金属を束ねて、バランスを取る。

 それを高速で投げれば、センサー部に刺さる」


 ロゼッタは驚く。

「そんな即席の武器でセンサーが止まるの?」

「止まる。強化兵の弱点は“視覚センサーの露出”だからな」


 束ねた針金をひねり、ネジを中心にして重心を後方に寄せる。

 それだけで武器として成立した。


「一回投げれば終わりだ。だが、材料はそのへんに転がっている。

 何本でも作れる。

 “壊れても困らない武器”ってのは、逃亡者にとって最強だ」


 ロゼッタはゆっくりとうなずいた。


「……これなら、私でも戦えるかもしれない」


「そうだ。

 “強さ”は腕じゃない。

 選び方と、使い方だ」


 ホーゲルは刃と棒とダーツを並べた。


 ロゼッタは三つの武器を前に座り込み、静かにそれぞれを手に取った。


 そして――弱くなった右義手を見つめながら、呟く。


「……ありがとうホーゲル。

 私、この腕にできる戦い方を見つける」


 彼女の目に迷いはなかった。

 弱い義手でも、スクラップの武器でも――


“生きる”ための刃なら十分だ。


第1章ー⑧へ続く

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