第3章ー⑰ それぞれの役割
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
旧文明の警備ロボットが完全に沈黙すると、スクラップヒルには再び金属の風音だけが戻った。
砕けた装甲片が**カラン……**と転がり、赤く灯っていたコアは、もう光を失っている。
「……よし、完全停止」
ロゼッタは一息つき、簡易モーニングスターを下ろした。
鎖と棒状の柄は歪んでいたが、まだ使えそうだ。
セリカはそれをちらりと見て、満足そうに頷く。
「初めてにしちゃ上出来。
でも、本番はここからだよ」
そう言って、警備ロボットの残骸に近づいた。
二人は、戦いではなく“解体”の目でロボットを観察する。
どこが壊れ、どこが生きているか。
ジャンクタウンでは、それが何より重要だった。
「……これ」
セリカがロボットの背中を指差す。
装甲の奥、マウント部に固定されていた一本の長い警棒。
旧文明の規格品らしく、表面は滑らかで、ほとんど傷がない。
ロゼッタが手に取ると、意外なほど軽かった。
「軽い……でも、しっかりしてる」
軽く振ってみると、空を切る音が**ヒュン……**と澄んで響く。
歪みもなく、衝撃を吸収するような反発がある。
「いい目してるね」
セリカは頷いた。
「それ、たぶん高密度合金。
旧文明の警備装備は、軽さと耐久力のバランスが異常にいいんだ」
ロゼッタは、警棒を見つめる。
剣でも、ハンマーでもない。
だが、打撃武器の“芯”としては、理想的に思えた。
「……これ、使えそうですか?」
「使えるどころか、当たりだよ」
セリカは周囲を見回し、他の部位にも目を向ける。
「ほら、こっちのフレームも悪くないし、
この装甲板も加工すれば防具になる」
だが、それらは明らかに重い。
二人だけで運ぶには無理があった。
セリカは口笛を吹き、近くで作業していた人たちに声をかける。
「おーい!
旧警備ロボ出たぞ!
ちょっと運ぶの手伝ってくれ!」
すると、スクラップヒルのあちこちから顔が上がる。
作業中だった住人たちが、状況を察して集まってきた。
「警備ロボか。
そりゃいい素材だ」
「芯材はこっちで持つぞ」
「装甲板は二人で行こう」
誰も驚かない。
誰も遠慮しない。
素材は、分け合い、運ぶものだ。
「助かります」
ロゼッタが頭を下げると、男たちは笑って肩を叩いた。
「気にすんな。
その代わり、いい武器作れよ」
「お、当たり引いたな」
「まだ動いてないよな?」
「重っ……けど、使えるなこれ」
慣れた手つきで残骸を分解し、使える部品とそうでないものを選別していく。
ロゼッタは、その光景に少し驚きながらも、自然と混ざって手を動かした。
警棒はロゼッタが抱え、
装甲板とフレームは、周囲の人々が肩に担ぐ。
「セリカの親父の工房までだな?」
「そう!
頼むよ!」
そんなやり取りを交わしながら、一行はスクラップヒルを下り始めた。
重たい金属を運びながらも、誰一人文句を言わない。
それが“当たり”なら、手を貸す。
次は自分が助けてもらう番だから。
ロゼッタは、警棒の重さを確かめながら思う。
ここでは、
素材も、戦いも、助け合いも――
すべてが循環している。
やがて見えてきたのは、見慣れた工房の外壁。
セリカの父の工房だ。
「さて……ここからが本番だね」
セリカはそう言って、にっと笑った。
ロゼッタも、無意識にその笑顔に応える。
この警棒が、どんな武器に生まれ変わるのか。
その第一歩は、確かにここにあった。
工房に戻ると、シャッターの奥から油と鉄の匂いがふわりと流れ出し、作業台の上では解体途中の義手の部品が静かに光を反射していた。
セリカの父――工房の親父は、運び込まれた素材の山を見るなり低く唸り、職人の目で一つひとつを確かめていく。
「……警備ロボか。まだ生きのいい部材を引っ張ってきたな」
ロゼッタは腰のベルトから旧文明の警棒を外し、両手で差し出した。
親父は受け取ると、何も言わずに軽く振り、耳元でヒュンと風切り音を聞き、指で表面を叩いてコン、コンと響きを確かめる。
「ほう……軽い、芯が死んでねぇ。
繊維補強に旧式合金、耐衝撃処理も残ってる。いい素材だ」
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
だが親父は、そこでふっと笑って警棒を作業台に置いた。
「ただし、だ」
その一言で空気が変わる。
「これは“素材”としては上物だが、
近接用の武器として仕上げるなら――俺より、ハンターギルドの鍛冶屋の親方の方が腕がいい」
ロゼッタは驚いて目を瞬かせる。
セリカも「え?」と声を上げた。
親父は気にせず、義手の関節部を指で叩きながら続ける。
「俺はな、どっちかっていうと機械屋だ。
義手、義足、外骨格、機構武器…… “動くもの” を作るのが専門だ」
作業台の奥には、複雑なギアと配線が組み合わさった義足や、銃身の中に回転機構を仕込んだ特殊武器が並んでいる。
刃物よりも、構造と力学。
それがこの工房の色だった。
「剣だの斧だの、打撃武器だのはな、
”あいつ” みたいに“振り心地”まで計算できるやつに任せた方がいい」
そう言って、親父は警棒をロゼッタの方へ押し返した。
「だがよ」
親父の視線が、警棒の端から内部構造へと向く。
「芯材の加工や、内部に仕込む補強、機構の追加なら話は別だ。
こいつを“どう使うか”が決まったら、俺も手を貸してやる」
ロゼッタは警棒を受け取り、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼はいらん。
セリカを無事に連れ戻してくれた代金だ」
セリカは「ちょっと!」と声を上げたが、親父は気にしない。
その横顔を見ながら、ロゼッタは思う。
ここは、刃を磨く場所ではない。
だが、武器に“命を通すための骨格”を作る場所だ。
警棒の軽さを、もう一度確かめるように握り直す。
次に向かうべき場所は、はっきりしていた。
ハンターギルドの鍛冶屋――
そして、この素材が、本当の武器になる場所へ。
続く
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