第3章ー⑯ スクラップヒル ー生きるための闘い
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
スクラップヒルは、ジャンクタウンの奥にそびえる“金属の山”だった。
崩れた装甲板、折れた砲身、歯車の絡まった塊が層を成し、ところどころから配線が露出して火花を散らしている。
風が吹くたびに、**カラ……ガシャン……**と乾いた金属音が重なり、まるで山そのものが呼吸しているようだった。
「足元気をつけな、ロゼッタ。
ここ、見た目より滑るからさ」
セリカは慣れた足取りで斜面を登っていく。
その背中には、柄の長いがっしりとしたハンマー。
装飾も凝った仕掛けもない、無骨そのものの武器だ。
「この辺りは“芯が生きてる”素材が多いんだ。
叩いても割れにくい金属とか、衝撃を逃がす合金とかね」
ロゼッタは周囲を見回しながら、セリカの言葉を噛みしめる。
確かに、ただの廃材とは思えない重みと密度を感じるものが、無数に転がっていた。
その時だった。
ギギ……ギィ……
金属が擦れる不快な音が、背後から響く。
セリカが、即座に足を止めた。
「来たな」
スクラップの山が崩れ、そこから這い出してきたのは、四足の機械モンスターだった。
外装は錆びつき、関節部が剥き出しになっているが、動きは速い。
赤い光が点灯し、標的を定めるようにロゼッタを捉える。
ロゼッタが身構えるより早く、セリカが一歩前に出た。
「下がってな!」
次の瞬間、セリカはハンマーを肩に担ぎ、地面を強く蹴った。
ドンッ!
踏み込みは鋭く、無駄がない。
機械モンスターが跳びかかるのと同時に、セリカのハンマーが振り下ろされた。
ゴォン!!
鈍く、しかし骨まで響くような衝撃音。
装甲が歪み、内部構造が一気に潰れる。
機械モンスターは悲鳴のような電子音を発し、そのまま地面に叩きつけられた。
追撃は一撃。
ガンッ!!
頭部を完全に砕かれ、赤い光が消える。
動きは、そこで止まった。
ロゼッタは、思わず息を呑んだ。
「……強い」
セリカは肩をすくめ、軽く笑う。
「まあね。
材料集めは危険が隣り合わせだから、これくらい慣れてないとやってられないよ」
そう言って、機械モンスターの残骸を足で転がす。
「ほら見な。
中身はやっぱり脆い。
こういうヤツらには、刃より“衝撃”が効くんだ」
ハンマーを軽く叩き、続ける。
「打撃武器のいいところはさ、
単純構造で作れること。
壊れにくいし、直しやすい。
それに――」
セリカは砕けた機械の内部を指さした。
「機械モンスターには、打撃が一番効く。
歯車も軸も、潰せば終わりだからね」
ロゼッタは頷きながら、砕けた部品を拾い上げる。
確かに、剣で切り裂くより、内部構造を壊す方が理にかなっている。
周囲を見渡すと、遠くのスクラップヒルでも、似たような光景があった。
別の住人たちが、連携を取りながら機械モンスターを狩り、素材を剥ぎ取っている。
銃声、打撃音、切断音が、当たり前のように響いていた。
「ここじゃ、これが日常」
セリカはそう言って、次の素材に目を向ける。
「ジャンクタウンの住人はね、
危ない場所で生きる代わりに、
使えるものは全部使う。
壊すことも、直すことも、作ることも」
ロゼッタは、その背中を見ながら思う。
ここは、ハンターギルドの街とは違う。
だが確かに “生きるための戦い”が、ここにもあった。
金属の山の中で、二人は黙々と素材を集め続ける。
ハンマーの一撃が、ロゼッタの新しい武器の未来を、少しずつ形作っていくのだった。
スクラップヒルの中腹で、二人は黙々と素材を拾っていた。
分厚い装甲板の端を持ち上げ、内部に残った芯材を確認し、使えそうなものだけを選別していく。
金属が擦れるたび、**ギリ……ガラン……**と低い音が響き、空気そのものが震えるようだった。
積み上がった装甲板の隙間で、空気がわずかに軋んだ。
金属同士が擦れ合う、鈍く湿った音――ギ……ギギ……。
ロゼッタは足を止め、剣の柄に手をかける。
次の瞬間、スクラップの山が崩れ、その奥から姿を現したのは旧文明の警備ロボットだった。
人型に近い骨格、剥がれ落ちた外装、露出した配線。
だが胸部のコアは赤く灯り、完全には死んでいない。
ギィィン……侵入者……排除……
途切れた機械音声とともに、重い一歩が踏み出される。
ドン……ガンッ……
踏みしめるたびに、金属屑が跳ね、地面が震えた。
「……旧文明の警備ロボだ。
しかも、まだ動くやつ」
「……来る」
ロゼッタは一歩前に出た。
セリカの気配を背後に感じながら、視線はロボットから外さない。
「私が引き受ける」
剣を抜き、間合いを詰める。
踏み込み、横薙ぎ。
シュッ――ガギィン!!
火花が散る。
刃は当たったが、装甲は裂けない。
剣先が弾かれ、手に嫌な反動が返ってくる。
「っ……!」
二撃、三撃。
ガンッ! ギィンッ!
どれも同じ。
切れない。届かない。
ロボットの腕が振り上がる。
ブゥン――ドンッ!!
地面が叩き割られ、衝撃が足裏から跳ね上がる。
ロゼッタは転がるように距離を取り、息を整えた。
(刃じゃ無理……)
その瞬間、背後から鋭い声が飛んだ。
「ロゼッタ! 時間稼いで!」
振り返る暇はない。
ロゼッタは剣で牽制しながら、ロボットの正面に立ち続ける。
攻撃を誘い、動きを限定する。
ドンッ! ガンッ!
一撃ごとに地面が沈み、スクラップが跳ねる。
致命打は与えられないが、注意を引きつけることはできていた。
その間――
セリカは、周囲の廃材に飛びついていた。
「これ……使える!」
彼女が掴んだのは、太いチェーンと、拳大の金属塊、そして折れた金属パイプ。
即座に判断し、パイプの端にチェーンを通し、金属塊を鎖の先に固定する。
ガチャッ……ガシャンッ……
棒状のパイプは即席の柄。
鎖の先には、重さそのものの塊。
「よし……!」
簡易モーニングスター。
構造は単純だが、質量は十分すぎる。
「ロゼッタ! 取れ!」
ロゼッタはロボットの攻撃を紙一重でかわし、地面を強く蹴った。
ドンッ!!
跳躍と同時に、投げられてきたそれを視界に捉える。
空中で、両手を伸ばす。
ガシッ!
金属パイプの冷たい感触が掌に収まる。
着地と同時に、ロゼッタは両手で柄を握り締めた。
(重い……でも、振れる)
ロボットが迫る。
ロゼッタは身体を捻り、鎖を振り回す。
棒状の柄が安定を生み、鎖の先の金属塊が大きく円を描く。
遠心力が一気に増し、腕にかかる負荷が跳ね上がる。
「――っ!!」
全身の力を込め、両手で振り下ろした。
ゴォォンッ!!!
鈍く、腹に響く衝撃音。
刃ではなく “潰す ”音。
装甲が歪み、内部構造が悲鳴を上げる。
バキンッ!
嫌な破断音が連なり、ロボットの動きが止まる。
ロゼッタは止まらない。
柄を握り直し、鎖を再び回す。
ブゥン……ドゴォンッ!!
二撃目。
関節部が砕け、脚が折れる。
ロボットは膝をつき、赤い光が乱れる。
最後に、身体を沈め、全体重を乗せて叩きつける。
ガァァンッ!!
胸部が潰れ、コアが弾けるように消えた。
ロボットは**ガシャァン……**と崩れ落ち、完全に沈黙する。
静寂が戻る。
金属の山を渡る風の音だけが、耳に残った。
ロゼッタは荒い息を吐き、簡易モーニングスターを地面に下ろす。
セリカが歩み寄り、満足そうに笑う。
「……切れなくても、壊せばいいんですね」
「そういうこと!
機械相手なら、理屈は単純。
潰せば、止まる!」
セリカは肩で息をしながら、にっと笑った。
「だから言っただろ?
機械には、打撃が一番だって」
ロゼッタは砕けた警備ロボットを見下ろし、ゆっくりと頷いた。
剣では届かなかった“中身”に、確かな手応えが残っている。
このスクラップヒルでは、
武器も、戦い方も――
その場で作る。
それが、ジャンクタウンのやり方だった。
続く
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