第3章ー⑮ ジャンクタウン
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ギルドの手配所で事情を伝えると、ロゼッタはすんなりと都市間の定期便に案内された。
大型の装甲トラックは荷台を人と物で区切る仕様になっており、外装には無数の補修跡が残っているが、整備は行き届いている。
ハンターや商人、行商人が無言で乗り込み、それぞれが目的地までの時間をやり過ごす、実用一点張りの車両だった。
警備席の男が、ロゼッタの布包みとギルドの札を一瞥する。
「……鍛冶屋の親方の依頼か?」
「はい」
そう答えると、男は鼻で短く笑った。
「なら代金はもう受け取ってる。
気にせず乗りな」
余計な詮索も、説明もない。
そのやり取りだけで、鍛冶屋とこの便の間に、長い付き合いがあることが分かった。
ゴウン……
エンジンが低く唸り、定期便は町を離れる。
舗装路は次第に荒れ、土と砂利が混じる道に変わり、車体は小刻みに揺れ始めた。
ロゼッタは窓の外を見つめながら、初めて町の外の“日常”を知る。
畑でも街道でもない、役目を終えた建造物。
崩れかけた監視塔。
朽ちた看板に残る、読めない文字。
半日という時間は、思っていたよりも短く、しかし濃かった。
やがて、運転席の男が顎をしゃくる。
「……見えてきたぞ」
ロゼッタは身を乗り出す。
地平線の向こうに現れたのは、街と呼ぶにはあまりにも歪な光景だった。
積み上げられた金属の山。
解体途中で放置された旧式車両の残骸。
折れたクレーン、半壊した工場、配線が露出したままの塔。
――ジャンクタウン。
鍛冶屋の言葉通りだった。
いや、それ以上だ。
鉄と油の匂いが、車内にまで流れ込んでくる。
風に混じって聞こえるのは、鎚の音、切断機の唸り、どこかで鳴る警報の残響。
「降りるなら、あそこだ」
男が指さしたのは、簡易ゲートの前。
門と呼ぶには頼りないが、見張りの姿は確かにあり、無秩序の中に最低限の秩序があることを示している。
車が止まり、ロゼッタは地面に降り立った。
足元には、砂と金属片が混ざった不思議な感触。
周囲を見渡す。
防護具を身に着けた人々が、当たり前のように廃材を運び、解体し、選別している。
武器とも工具ともつかないものを腰に下げ、誰もが自分の仕事に没頭していた。
(……ゴミじゃない)
ロゼッタは、直感的にそう思った。
ここにあるものは、すべて“使われなくなっただけ”の素材だ。
布包みの重みを確かめ、彼女は一歩、前に進む。
鍛冶屋の知り合いが待つ場所へ。
そして、自分の武器となる“重さ”を探すために。
ジャンクタウンの中を進むにつれ、空気はさらに重く、油と鉄粉の匂いが濃くなっていった。
ロゼッタは鍛冶屋から預かった布包みを胸に抱え、案内板代わりの落書きだらけの鉄板を頼りに、目的の工房を探す。
やがて辿り着いたのは、半壊した工場を無理やり再利用したような建物だった。
外壁には無数の補強板と溶接跡が走り、排気管が蜘蛛の巣のように絡み合っている。
中からはガガガ……という切断音と、圧縮空気の弾けるプシューッという音が絶え間なく漏れていた。
中は、ハンターギルドの都市とはまるで別世界だった。
整然とした石造りの鍛冶場とは違い、天井から垂れ下がる配線、無造作に積まれた部品箱、稼働中の機械が放つ振動が床を伝えてくる。
壁一面には分解された銃器や装甲板、見たこともない機械部品が吊るされ、まさに“機械工房”という言葉がそのまま当てはまる空間だった。
「おう、誰だ?」
作業台の向こうで、屈強な体躯の親父が振り返る。
腕は油と煤で黒く染まり、ゴーグル越しの目だけが鋭く光っている。
ロゼッタは布包みを差し出した。
「鍛冶屋の親方から、依頼品を預かってきました」
その一言で、親父の表情が変わった。
布を受け取り、中身を確かめると、短く鼻を鳴らす。
「……ああ、あいつか。
代金はもうもらってる。よく持ってきたな」
事務的だが、信用はしている様子だった。
そう言って包みを棚に置き、ロゼッタを改めて観察する。
「で? ただの配達じゃなさそうだな」
「はい。
武器の材料を探していて……
威力と、打撃を重視したいんです」
「打撃、ねぇ。
斧でもハンマーでも、要は“重さ”と“粘り”だ」
親父は鼻を鳴らし、腕を組む。
そう言いかけた、その時だった。
「おっ、珍しい客じゃん」
工房の奥、重い隔壁が開き、ひょいと顔を出したのは少女だった。
ロゼッタより少し年上――十七歳くらいだろう。
肩までの赤茶色の髪を無造作に束ね、長身で、作業着の上からでも分かる体格の良さ。
目は生き生きとしていて、全身から“動いてなんぼ”という雰囲気が溢れていた。
「誰? ハンター?」
親父が、面倒くさそうに顎をしゃくる。
「鍛冶屋の親方のとこから来た。
打撃武器の材料を探してるらしい」
少女はロゼッタを見るなり、目を輝かせた。
「へぇ! いいねえ!
あたし、セリカ!
素材探しなら、ちょうど暇してたとこ!」
口調は砕けていて、遠慮がない。
だが、その明るさに、ロゼッタは思わず少しだけ肩の力が抜けた。
「……ロゼッタです。よろしくお願いします」
「よし決まり!」
セリカは親父の方を振り返る。
「親父、あたし行ってくるね!
スクラップヒル、見せてやる!」
「勝手に決めるな」
そう言いながらも、親父は止めなかった。
むしろ、ロゼッタに向かって短く言う。
「奥のスクラップヒルだ。
叩くなら、いい素材が転がってる。
セリカについて行け」
それが、この街なりの許可だった。
工房を出ると、ジャンクタウンの“メカメカしい”空気が、より濃くなる。
蒸気が噴き出す配管、動き続ける解体アーム、火花を散らす切断機。
すべてが稼働音を立て、生き物のように脈打っている。
「こっち!」
セリカは軽快に歩き出し、ロゼッタもその隣に並ぶ。
「スクラップヒルはね、
ただのゴミ山じゃないんだよ。
運が良けりゃ、掘り出し物だらけ!」
赤茶色の髪を揺らしながら振り返るその笑顔は、楽しくてしょうがないという顔だった。
二人は並んで、ジャンクタウンの奥へと進んでいく。
金属の山が連なるその先――
ロゼッタにとって、新しい武器の“核”となる素材が眠る場所、
スクラップヒルへ。
続く
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