第3章ー⑭ 新たな力を求めて
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
翌朝、ギルドの中庭にはまだ薄い霧が残っていた。
石床に朝日が差し込み、武器の手入れをする金属音が静かに響く中、ロゼッタは剣を両手で持ち、何度か素振りを繰り返していた。
振り抜きは悪くない。
切れ味も十分。
けれど――
(……足りない)
昨日の戦い、無法者たちが装備していた厚手の防具。
車両と重火器。
刃を通す前に、叩き伏せる必要がある場面が、確かにあった。
朝の訓練を終えたハンターたちが汗を拭きながら散っていく中、ロゼッタは剣を背負い、武器庫の前で立ち止まっていた。
車両の重火器が放った一斉射撃。
あの**圧倒的な“打撃”**が、頭から離れなかった。
(斬るだけじゃ……足りない)
装甲、外殻、硬質化した個体。
剣が通らない瞬間が、今までに何度かあった。
「考え込んでる顔だな」
背後から、低く太い声。
振り返ると、グレンが腕を組んで立っていた。
斧を使う彼は、ギルドでも“威力”の象徴のような存在だ。
「……武器の相談、してもいいですか」
ロゼッタがそう言うと、グレンは短く笑った。
「いい顔だ。
“次”を考えるようになったってことだな」
二人は武器庫の中へ入る。
壁一面に並ぶ武器の影が、朝の光を受けて伸びていた。
「まず覚えとけ」
グレンは一本の武器を手に取りながら言う。
「威力ってのは、
斬撃・刺突・打撃、
どれを“どう当てるか”で意味が変わる」
最初に示されたのは、グレートソードだった。
幅広で厚い刀身、重量感のある柄。
ロゼッタが両手で持つと、自然と体全体で支える姿勢になる。
「剣の延長だ。
斬る、叩く、押し潰す。
鎧ごと叩き割る力がある」
ロゼッタは軽く振ってみる。
風を切る音が、今までの剣より低く、重い。
「……重い、けど……安定します」
「体幹ができてるからな。
剣闘士だったやつは、これと相性がいい」
次にグレンが指さしたのは、ハルバード。
長い柄の先に、斧刃と突き刺す槍先が備えられている。
「これは“距離”を制する武器だ。
斬る、突く、引っ掛ける。
重装相手にも、集団にも強い」
ロゼッタは構えてみて、少し目を見開いた。
「……届く。
相手に、近づかなくていい」
「そうだ。
だが、その分、扱いを間違えると隙もでかい」
最後に、無骨な塊のような武器が置かれた。
ヘビーメイス。
装飾も刃もなく、ただ硬い金属の頭部が付いている。
「そして、これが“打撃”の極みだ」
グレンの声が、少しだけ低くなる。
「斬れなくてもいい。
割れなくてもいい。
“壊せば勝ち”の武器だ」
ロゼッタが持ち上げると、思わず息を吸う。
重さが、腕にずしりとのしかかる。
「装甲、骨、殻。
全部まとめて潰す。
剣が効かない相手には、これが一番だ」
ロゼッタは、三つの武器を順に見比べた。
どれも、自分の戦いを広げてくれる可能性がある。
「……全部、違う“答え”ですね」
「だから、選ぶんだ」
グレンはそう言って、腕を組む。
「状況で使い分けるか。
一つを極めるか。
それを決めるのも、ハンターの仕事だ」
ロゼッタは、剣の柄に触れる。
そして、武器棚の前で静かに考え込んだ。
(……威力が欲しい。
でも、私が振れる形で)
まだ答えは出ない。
だが、確実に視界は広がっていた。
「ありがとうございます、グレン」
そう言って頭を下げると、グレンは鼻を鳴らした。
「焦るな。
武器は、選んだ瞬間から“相棒”になる。
ちゃんと悩め」
ロゼッタは頷き、再び武器棚を見つめる。
新たな戦いに備えるために――
彼女の選択は、ここから始まろうとしていた。
ギルドの中庭を後にして、ロゼッタはその足で鍛冶屋へ向かった。
石造りの通りに面した工房は、いつも通り炉の熱気で満ちており、鉄を叩くカン、カンという規則正しい音が、町の朝に溶け込んでいる。
「……失礼します」
鍛冶場は、朝から熱気に満ちていた。
炉の奥で赤く熔ける金属が唸り、鎚が振り下ろされるたびにカン、カンと澄んだ音が空気を震わせる。
ロゼッタはその音の中に立ち、以前に改修してもらった剣を両手で抱えるように持っていた。
「……打撃、か」
鍛冶屋の親方は、顎に手をやりながらロゼッタの剣を眺め、ゆっくりと頷いた。
年季の入った腕と、鋭い眼差し。
前に一度ここを訪れた時と同じ、だが少しだけ“見る目”が変わったような気配がある。
「考え方は悪くねぇ。
だがな、装備を一から作るとなると……金がかかる」
はっきりと、遠慮のない言葉だった。
ロゼッタは一瞬、肩をすくめる。
「……そうですよね」
闘技場では、装備は用意されるものだった。
だがハンターの世界では、すべてが自前だ。
親方は、ふっと鼻で笑った。
「前にも言ったな。
素材を持ち込めば、その分は工賃だけで済む」
そう言って、炉の火を少し弱め、ロゼッタの目をまっすぐに見る。
「まずは材料集めだ。
いい金属、いい部品、いい“重さ”。
それがなきゃ、威力も打撃も生まれねぇ」
ロゼッタは、自然と背筋を伸ばした。
「……どこで、集めればいいですか?」
親方は、顎で工房の奥に掛けられた地図を示す。
赤い印が、一つだけ付けられていた。
「この町から、車で半日。
ジャンクタウンだ」
その名を聞いた瞬間、ロゼッタの胸が少しだけ高鳴る。
響きだけで、ただの街ではないと分かる。
「旧文明の残骸、壊れた車両、使い捨てられた兵器。
ゴミの山だがな……
鍛冶屋にとっちゃ、宝の山だ」
親方は棚から布包みを一つ取り出し、ロゼッタに差し出した。
ずしりと、見た目以上の重みが手に伝わる。
「ちょうどいい。
依頼として出してやる」
ロゼッタは、少し驚いて目を瞬かせた。
「依頼……ですか?」
「ジャンクヤードに知り合いがいる。
そいつに、これを届けてこい」
布の隙間から覗くのは、古いが丁寧に保管された機械部品。
用途は分からないが、価値があることだけは伝わってくる。
「行って、見て、触ってこい。
素材を集めるってのは、ただ拾うことじゃねぇ」
親方は、低い声で続ける。
「何が使えて、何が使えないか。
自分の戦いに、何が必要か。
それを決めるのは……使う本人だ」
その言葉は、グレンの助言と、どこかで重なっていた。
威力と打撃。
斬るだけではない、倒すための装備。
ロゼッタは布包みを胸に抱え、深く頭を下げる。
「届け先に ”また、頼む” と伝えてくれ。それだけでわかる」
「……分かりました。行ってきます」
「無事に帰ってきたら、続きを話そう」
親方はそう言って、再び炉に向き直った。
**ゴォ……**と炎が息を吹き返す。
工房を出たロゼッタは、ギルドの方角を見上げる。
半日車を走らせる距離。
未知の街、未知の素材。
(……材料集めから)
それは、ただの準備ではない。
ハンターとして、自分の戦い方を選び直す旅の始まりだった。
ロゼッタは、布包みの重みを確かめるように握りしめ、静かに歩き出した。
続く
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