表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/291

第3章ー⑭ 新たな力を求めて

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


翌朝、ギルドの中庭にはまだ薄い霧が残っていた。

石床に朝日が差し込み、武器の手入れをする金属音が静かに響く中、ロゼッタは剣を両手で持ち、何度か素振りを繰り返していた。


振り抜きは悪くない。

切れ味も十分。

けれど――


(……足りない)


昨日の戦い、無法者たちが装備していた厚手の防具。

車両と重火器。

刃を通す前に、叩き伏せる必要がある場面が、確かにあった。


朝の訓練を終えたハンターたちが汗を拭きながら散っていく中、ロゼッタは剣を背負い、武器庫の前で立ち止まっていた。



車両の重火器が放った一斉射撃。

あの**圧倒的な“打撃”**が、頭から離れなかった。


(斬るだけじゃ……足りない)


装甲、外殻、硬質化した個体。

剣が通らない瞬間が、今までに何度かあった。


「考え込んでる顔だな」


背後から、低く太い声。

振り返ると、グレンが腕を組んで立っていた。

斧を使う彼は、ギルドでも“威力”の象徴のような存在だ。


「……武器の相談、してもいいですか」


ロゼッタがそう言うと、グレンは短く笑った。


「いい顔だ。

 “次”を考えるようになったってことだな」


二人は武器庫の中へ入る。

壁一面に並ぶ武器の影が、朝の光を受けて伸びていた。


「まず覚えとけ」


グレンは一本の武器を手に取りながら言う。


「威力ってのは、

 斬撃・刺突・打撃、

 どれを“どう当てるか”で意味が変わる」


最初に示されたのは、グレートソードだった。

幅広で厚い刀身、重量感のある柄。

ロゼッタが両手で持つと、自然と体全体で支える姿勢になる。


「剣の延長だ。

 斬る、叩く、押し潰す。

 鎧ごと叩き割る力がある」


ロゼッタは軽く振ってみる。

風を切る音が、今までの剣より低く、重い。


「……重い、けど……安定します」


「体幹ができてるからな。

 剣闘士だったやつは、これと相性がいい」


次にグレンが指さしたのは、ハルバード。

長い柄の先に、斧刃と突き刺す槍先が備えられている。


「これは“距離”を制する武器だ。

 斬る、突く、引っ掛ける。

 重装相手にも、集団にも強い」


ロゼッタは構えてみて、少し目を見開いた。


「……届く。

 相手に、近づかなくていい」


「そうだ。

 だが、その分、扱いを間違えると隙もでかい」


最後に、無骨な塊のような武器が置かれた。

ヘビーメイス。

装飾も刃もなく、ただ硬い金属の頭部が付いている。


「そして、これが“打撃”の極みだ」


グレンの声が、少しだけ低くなる。


「斬れなくてもいい。

 割れなくてもいい。

 “壊せば勝ち”の武器だ」


ロゼッタが持ち上げると、思わず息を吸う。

重さが、腕にずしりとのしかかる。


「装甲、骨、殻。

 全部まとめて潰す。

 剣が効かない相手には、これが一番だ」


ロゼッタは、三つの武器を順に見比べた。

どれも、自分の戦いを広げてくれる可能性がある。


「……全部、違う“答え”ですね」


「だから、選ぶんだ」


グレンはそう言って、腕を組む。


「状況で使い分けるか。

 一つを極めるか。

 それを決めるのも、ハンターの仕事だ」


ロゼッタは、剣の柄に触れる。

そして、武器棚の前で静かに考え込んだ。


(……威力が欲しい。

 でも、私が振れる形で)


まだ答えは出ない。

だが、確実に視界は広がっていた。


「ありがとうございます、グレン」


そう言って頭を下げると、グレンは鼻を鳴らした。


「焦るな。

 武器は、選んだ瞬間から“相棒”になる。

 ちゃんと悩め」


ロゼッタは頷き、再び武器棚を見つめる。

新たな戦いに備えるために――

彼女の選択は、ここから始まろうとしていた。



ギルドの中庭を後にして、ロゼッタはその足で鍛冶屋へ向かった。

石造りの通りに面した工房は、いつも通り炉の熱気で満ちており、鉄を叩くカン、カンという規則正しい音が、町の朝に溶け込んでいる。


「……失礼します」


鍛冶場は、朝から熱気に満ちていた。

炉の奥で赤く熔ける金属が唸り、鎚が振り下ろされるたびにカン、カンと澄んだ音が空気を震わせる。

ロゼッタはその音の中に立ち、以前に改修してもらった剣を両手で抱えるように持っていた。


「……打撃、か」


鍛冶屋の親方は、顎に手をやりながらロゼッタの剣を眺め、ゆっくりと頷いた。

年季の入った腕と、鋭い眼差し。

前に一度ここを訪れた時と同じ、だが少しだけ“見る目”が変わったような気配がある。


「考え方は悪くねぇ。

 だがな、装備を一から作るとなると……金がかかる」


はっきりと、遠慮のない言葉だった。

ロゼッタは一瞬、肩をすくめる。


「……そうですよね」


闘技場では、装備は用意されるものだった。

だがハンターの世界では、すべてが自前だ。


親方は、ふっと鼻で笑った。


「前にも言ったな。

 素材を持ち込めば、その分は工賃だけで済む」


そう言って、炉の火を少し弱め、ロゼッタの目をまっすぐに見る。


「まずは材料集めだ。

 いい金属、いい部品、いい“重さ”。

 それがなきゃ、威力も打撃も生まれねぇ」


ロゼッタは、自然と背筋を伸ばした。


「……どこで、集めればいいですか?」


親方は、顎で工房の奥に掛けられた地図を示す。

赤い印が、一つだけ付けられていた。


「この町から、車で半日。

 ジャンクタウンだ」


その名を聞いた瞬間、ロゼッタの胸が少しだけ高鳴る。

響きだけで、ただの街ではないと分かる。


「旧文明の残骸、壊れた車両、使い捨てられた兵器。

 ゴミの山だがな……

 鍛冶屋にとっちゃ、宝の山だ」


親方は棚から布包みを一つ取り出し、ロゼッタに差し出した。

ずしりと、見た目以上の重みが手に伝わる。


「ちょうどいい。

 依頼として出してやる」


ロゼッタは、少し驚いて目を瞬かせた。


「依頼……ですか?」


「ジャンクヤードに知り合いがいる。

 そいつに、これを届けてこい」


布の隙間から覗くのは、古いが丁寧に保管された機械部品。

用途は分からないが、価値があることだけは伝わってくる。


「行って、見て、触ってこい。

 素材を集めるってのは、ただ拾うことじゃねぇ」


親方は、低い声で続ける。


「何が使えて、何が使えないか。

 自分の戦いに、何が必要か。

 それを決めるのは……使う本人だ」


その言葉は、グレンの助言と、どこかで重なっていた。

威力と打撃。

斬るだけではない、倒すための装備。


ロゼッタは布包みを胸に抱え、深く頭を下げる。


「届け先に ”また、頼む” と伝えてくれ。それだけでわかる」


「……分かりました。行ってきます」


「無事に帰ってきたら、続きを話そう」


親方はそう言って、再び炉に向き直った。

**ゴォ……**と炎が息を吹き返す。


工房を出たロゼッタは、ギルドの方角を見上げる。

半日車を走らせる距離。

未知の街、未知の素材。


(……材料集めから)


それは、ただの準備ではない。

ハンターとして、自分の戦い方を選び直す旅の始まりだった。


ロゼッタは、布包みの重みを確かめるように握りしめ、静かに歩き出した。


続く

【作者からのお願い】


もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!


また、☆で評価していただければ大変うれしいです。


皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ