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第3章ー⑪ 掃討戦

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


夜明け前。

空はまだ群青色を残し、地平線の向こうだけがわずかに白み始めていた。


合図は、鐘でも号令でもない。

ただ、耳元の小さな指笛ひとつ。


――討伐開始。


ロゼッタは第二班の先頭近く、呼吸を殺して丘の斜面を進んでいた。

湿った草を踏むたび、**ザリ……ザリ……**と微かな音が靴底から伝わる。

その一つ一つが、無法者たちの耳に届くのではないかと、神経が張りつめる。


だが――


ドンッ!!


突然、正面から爆ぜるような衝撃音。


「……っ!」


次の瞬間、丘の向こうで怒号と悲鳴が交錯した。


ガァン!! ゴギャッ!!


金属が砕ける音。

骨が叩き折られる、嫌な鈍い音。


「始まった……!」


ロゼッタが視線を向けた先、

正面制圧班の中心に、一人だけ異様な存在がいた。


――グレン。


大柄な体躯。

鎧は簡素で無駄な装飾一切ない、傷だらけで、使い込まれている。

両手で握られた巨大な斧が、朝靄の中で鈍く光っていた。


「どけぇぇぇッ!!」


雄叫びと同時に、斧が振り下ろされる。


ドォン!!


地面ごと叩き割る一撃。

無法者の一人が盾ごと吹き飛び、**ゴロゴロッ!!**と転がった。


「……な、に……」


ロゼッタは、言葉を失う。


速い。

重い。

そして――迷いがない。


剣闘士の動きとは、まるで違う。

魅せるためでも、勝ち残るためでもない。


“敵を壊す”ための戦い方。


無法者たちが一斉に襲いかかる。


「囲めぇぇ!!」

「斧使いだ、距離を取れ!」


投擲槍が飛ぶ。

ヒュッ!! ヒュン!!


だが、グレンは退かない。


斧の柄で弾き、

一歩踏み込み、

横薙ぎ。


ズバァァン!!


空気が裂ける音とともに、二人まとめて吹き飛ばされる。


ロゼッタの喉が、無意識に鳴った。


(……重火器みたい……)


違う。

あれは、人が扱う暴力の極限だ。


「第二班、前へ!」


指示が飛ぶ。

ロゼッタは我に返り、剣を抜く。


シャキン。


刃が朝の光を受ける。


無法者の一人がこちらに突っ込んでくる。

歪んだ剣、血走った目。


「ガキがぁ!!」


ロゼッタは一歩、踏み出す。


――グレンを、見た後だからこそ。


迷いは、なかった。


ガキィン!!


剣と剣がぶつかる。

衝撃が腕に走るが、両手持ちの柄が力を逃がさない。


回転。

踏み込み。

斬り下ろし。


ザシュッ!!


無法者が崩れ落ちる。


だが、視線はどうしても、斧の男に吸い寄せられる。


グレンは、笑っていた。

狂気ではない。

戦場でしか生きられない者の、静かな高揚。


「ハンターってのはなぁ!」


斧を振るいながら、叫ぶ。


「一人で強ぇ必要はねぇ!!

 ――前に立つ覚悟がありゃあ、それでいい!!」


ゴォン!! ドガァン!!


斧が盾を砕き、

身体を折り、

恐怖を叩き潰す。


無法者たちの隊形が、目に見えて崩れていく。


ロゼッタは、胸の奥が震えるのを感じていた。


(……これが、ギルドの本気)


剣闘士として知っていた“戦い”とは違う。

しかし、ここでは個の強さが、仲間を生かす。


グレンの斧が、道を切り拓き、

その背後を、仲間たちが確実に制圧していく。


ズドン!!

銃声が響き、逃げようとした無法者が倒れる。


ガシャッ!!

拘束具が嵌められる音。


戦場は、確実に終わりへ向かっていた。


ロゼッタは剣を握りしめ、

血と土と汗の匂いの中で、はっきりと理解する。


――自分は、まだ知らなかった。

――ハンターという存在の、真の恐ろしさを。


そして同時に、

その世界に足を踏み入れてしまったことを、

もう後戻りできないことを。




斧が振り下ろされるたび、

ドンッ、ドンッと、地面が応えた。


それは、

この街が生き残るための、確かな鼓動だった。


丘陵の窪地は、もはや静寂ではなかった。

遠くで斧が地面を砕くドンッ、ドンッという重低音、銃声の残響、怒号と悲鳴が混じり合い、空気そのものが震えている。

その中心から少し外れた場所で、ロゼッタと脱走剣闘士は、互いの間合いを測りながら円を描くように動いていた。


ザッ……ザッ……


土を踏む音が重なり、呼吸が白く漏れる。

男の剣がゆっくりと上がり、刃先がロゼッタを指す。


「……やっぱり同類だ」

男は確信したように言った。「その目、闘技場で生き残った奴の目だ」


次の瞬間、男が踏み込む。

ダンッ!!


剣が横薙ぎに振るわれる。


ブォンッ!!


ロゼッタは即座に剣を合わせる。


ガキィィン!!


金属が噛み合い、火花が散る。

衝撃が両腕を痺れさせ、歯を食いしばらなければ吹き飛ばされそうになる。


「ほらなぁ!!」

男が吠える。「俺たちしか分からねぇ感覚だ!!」


力任せに押し込まれる。

鍔と鍔がぶつかり合い、**ギリギリギリ……!**と嫌な音が鳴る。


ロゼッタは、必死に踏ん張りながら、男の顔を睨み返す。


「……違う……!」


押し合いの最中、男が膝を突き上げる。


ゴッ!!


腹に衝撃。

ロゼッタは息を詰まらせながら後退し、転がるように距離を取る。


「同じだろ!」

男は追撃に入る。「剣闘士はな、奪うか、殺すか、それしかなかった!!」


剣が振り下ろされる。


ズガァァン!!


ロゼッタは受け流すが、地面が抉れ、土砂が舞い上がる。

視界が塞がれた瞬間、男の剣先が突き込まれる。


ヒュッ――!!


「――っ!」


ロゼッタは半歩遅れで刃を弾く。


キンッ!!


紙一重。

頬をかすめ、熱を残して刃が通り過ぎる。


胸の奥で、何かが脈打った。


ドクン……ズゥン……


闘技場の砂。

鎖の音。

歓声と罵声。


ドクンッ!!


胸の奥が脈打つ。

血の記憶。

剣闘士として殺し合った日々。


――スパルタカスの残滓が、鳴動する。


「……同じだって?」


ロゼッタの声が、震えながらも低く響く。


再び、剣がぶつかる。


ガキィン!! ギャリッ!!


斬り、受け、叩き落とし、弾く。

刃と刃が何度も交錯し、火花が連続して弾ける。


「違う……違う……!」


男が力任せに押し込む。


ギリギリギリ……!!


「檻を壊しただけで、

 次の檻を作る奴と――」


ロゼッタの怒りが、限界を超えた、

身体が熱を帯び、視界が研ぎ澄まされる。


「生きるために、

 誰かを踏み台にする生き方をする奴と

――同じにするなぁぁぁぁッ!!」


叫びが、戦場を裂いた。


その瞬間。

周囲の空気が、凍りつく。


遠くで斧を振るっていたハンター。

逃げ惑っていた無法者。

一瞬だけ、全員の動きが止まる。


ただの声ではない。

闘技場で、生き残るために何度も叫ばされた、

魂を叩きつける叫びだった。


男の一瞬の硬直。


それで、十分だった。


剣が振り下ろされる。


しかしその斬撃は、それまでのものと比べてほんの少し

威力を欠いていた


ブォンッ!!


ロゼッタは、刃が迫るのを見て、

切られる寸前で地面に身を投げた。


ゴロォンッ!!



転がりながら、剣を地面すれすれに――



――思い出す。

剣闘士時代、何度も窮地を救った技。


「……レッグスライサー」


低く呟いた瞬間、紅い閃光が走った。


ザギィィンッ!!


足首を薙ぐ、鋭く、無慈悲な一閃。


「――がぁぁぁぁッ!!」


足首から血が噴き、男の身体が崩れ落ちる。


ドシャッ!!


膝をつき、地面に手をついた男が、信じられないものを見るようにロゼッタを見上げる。


「……剣闘士技……本物……」


ロゼッタは荒い息を吐きながら立ち上がり、剣を構える。

胸の奥では、まだ残滓が**ズゥン……ズゥン……**と鳴っていた。


「……私は、過去から逃げない」


声は、もう揺れていなかった。


「でも――

 お前みたいに、力を振り回す存在にもならない」


剣先が、確かに相手を捉える。


戦場は、再び動き出す。

だがこの瞬間だけは、

ロゼッタの怒りと決意が、すべてを制圧していた。


続く

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