第3章ー⑧ 変異種討伐 星の意味
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
朝のハンターギルドは、酒と鉄と汗の匂いが入り混じり、掲示板の前では依頼書を睨みつける者、仲間を探す者、無言で装備を確かめる者がそれぞれの時間を過ごしており、ロゼッタはその中を静かに歩きながら、自分の背中にかかる“剣の重み”を何度も意識していた。
柄が伸び、両手で握れるようになった剣は、腰に下げると以前よりもわずかに存在感を主張し、歩くたびに鞘がコツ、コツと鳴るその音が、彼女にとっては新しい呼吸のように感じられた。
受付台の前に立つと、いつもの女性職員がちらりと剣を見て、ほんの少しだけ目を丸くする。
「……武器、変えました?」
「はい」
それだけのやり取りで、依頼書が差し出される。
内容は単純だった。
旧街道沿いに出没する獣型モンスターの討伐。
ランクは低め。
ロゼッタは依頼書を握り、深く息を吸ってから受付へ向かった。
ギルドの扉を開けた瞬間、外の光が差し込み、**ギィ……**という音が背中で閉じると同時に、彼女の表情は戦う者のものへと切り替わった。
ロゼッタがギルドを出発してしばらく
旧街道に ”変異種” が目撃されたと情報が入った
「気を付けて、必ず生きて帰るのよ」
情報を聞いた別の受付嬢がつぶやいた
旧街道は崩れ、石と鉄骨が折り重なるように道を塞ぎ、その隙間に草が生え、静けさの中に不自然な気配だけが溜まっている。
ロゼッタは歩幅を小さくし、剣の柄に右手を添えたまま進む。
――来る。
次の瞬間、瓦礫の影からズルリと何かが這い出した。
獣型。
だが、明らかに大きい。
筋肉の付き方が異様で、前脚には硬質化した骨が外装のように張り付き、口を開いた瞬間、ギチギチと歯が擦れる音がした。
「……何 あれ?」
呟いた直後、モンスターが地面を蹴る。
ドンッ!!
衝撃で小石が跳ね、ロゼッタは反射的に横へ飛ぶ。
ズガァッ!
さっきまで立っていた場所に、前脚が叩きつけられ、石畳が砕け散る。
速い。
重い。
片手では、受け切れない。
ロゼッタは後退しながら、剣を抜く。
シャァン!
金属音が空気を裂いた瞬間、彼女は柄の中央ではなく、後方までしっかりと両手で握り込んだ。
重心が、安定する。
次の突進。
ドドドドッ!!
地面を抉りながら迫る巨体に、ロゼッタは逃げず、半身で踏み込む。
ガギィィン!!
剣と前脚がぶつかり合い、衝撃が両腕に走るが、柄が伸びたことで力が分散し、弾かれずに受け止めきる。
「……いける」
そのまま体重を乗せ、剣を押し返す。
ギャァッ!!
獣がたたらを踏んだ一瞬を逃さず、ロゼッタは踏み込む。
ザシュッ!!
刃が肩口を裂き、黒い血が飛ぶ。
だが、倒れない。
獣は咆哮を上げ、尻尾を振る。
ブンッ!!
ロゼッタは剣を盾代わりに構え、
ゴンッ!!
鈍い衝撃を両腕で受け止め、地面を滑るように後退する。
肺が痛む。
だが、足は止まらない。
闘技場で覚えた“耐える間”を思い出しながら、呼吸を整え、視線を獣の脚へ落とす。
――重い。
――なら、崩す。
獣が再び踏み込んだ瞬間、ロゼッタは低く身を沈め、両手で剣を振り抜いた。
ズバァァン!!
前脚の関節に刃が食い込み、硬質骨が砕ける音が響く。
バキィッ!!
獣が崩れ、体勢を失った瞬間、ロゼッタは全身の力を剣に乗せる。
「――っ!」
ドォン!!
両手剣の一撃が首元を叩き割り、獣は地面に伏し、二度と動かなかった。
静寂。
ロゼッタは剣を下ろし、荒い息を吐く。
両腕は痺れているが、折れていない。
刃も、欠けていない。
「……ありがとう」
誰にともなく呟き、剣を拭う。
新調した武器は、彼女を裏切らなかった。
そして、彼女自身も、その重さを“使い切った”。
ギルドへ戻る道すがら、剣の重みはもう違和感ではなく、確かな“支え”として背中にあった。
それは、
ロゼッタが剣闘士ではなく、
ハンターとして前に進み始めた証だった。
ギルドへ戻ると、いつもより空気がわずかに張り詰めていた。
依頼帰りのハンターたちの喧騒は確かにあるのに、その中心――受付奥の調査卓の周囲だけ、音が薄く削ぎ落とされたように静かだった。
ロゼッタが提出した討伐素材は、白布の上に丁寧に並べられている。
砕けた硬質骨、異常に発達した筋繊維、そして通常個体では確認されない黒く脈打つ核状組織。
どれもが、ただの「強い獣」では説明できないものだった。
調査担当の職員が手袋越しに素材を持ち上げ、別の記録員が古い帳簿をめくる。
紙の擦れる音が、やけに大きく響いた。
「……該当記録、なし」
「通常種の生息域と一致していません」
「成長段階を飛ばしている……いや、最初からこの形か?」
低い声で交わされる言葉は、ロゼッタの耳に断片的に届く。
理解しきれなくても、**“大変なことになろうとしている”**ことだけは、肌でわかった。
やがて、ギルドマスター代理――白髪混じりの壮年の男が一歩前に出る。
胸には金色の1つ星が輝いていた。
その立ち姿だけで、周囲の空気が自然と引き締まった。
「ロゼッタ・スカーレット」
名を呼ばれ、ロゼッタは一歩進む。
背筋を伸ばし、視線を逸らさず、ただ待つ。
「提出された素材、戦闘報告、周辺地域の目撃証言……すべて照合した」
男は一拍置き、続けた。
「本個体は――通常種ではない」
その言葉が落ちた瞬間、周囲で小さなどよめきが起こる。
だが、それはすぐに静まった。
「ギルドの基準に基づき、当該モンスターを
《変異種》として正式に認定する」
はっきりとした宣告だった。
疑いも、含みもない、組織としての決定。
ロゼッタは、胸の奥で何かが静かに鳴るのを感じた。
怖さではない。
むしろ、重さだった。
「変異種認定により、該当区域の危険度は引き上げられる。
同時に――」
男はロゼッタを見る。
「初動対応を行い、単独で討伐した君の戦果は、正式に記録される」
周囲の視線が一斉に集まる。
驚き、興味、警戒、評価――さまざまな感情が混じった視線。
受付の女性職員が、少しだけ誇らしげに微笑んだのを、ロゼッタは見逃さなかった。
「今回の件により、君には変異種対応の注意喚起が共有される。
無茶はするな。だが、君の判断は正しかった」
「よって ギルドはこの討伐に対し Eランクの昇格と
”スモール・ブロンズ” の戦歴を君に与える」
ギルド内の誰もが驚愕した
「星つきかよ」
「確かあの子 まだFランクだろ」
「すげえな」
ギルド内で次々と声が上がる
ロゼッタは ”その意味”が わからなかったが、雰囲気にのまれ、慌てて頭を下げ
「ありがとうございます……」とつぶやくので精一杯だった
■ハンターギルド公式認定
――《変異種》討伐記録制度
ハンターギルドでは、通常のモンスターとは明確に異なる挙動・強度・生態を示す個体を、**変異種**として正式に分類する。
変異種とは単なる「強い個体」ではない。
生態の逸脱、異常成長、人工改変の痕跡、戦闘時の学習能力など、世界の危険度を引き上げかねない存在として扱われる。
目撃情報、被害によっては 賞金首になる場合がほとんど
そのため、変異種を討伐したハンターには、
報酬とは別に戦歴への特別記載が行われる。
これは階級やランクとは異なり、
** 一生消えない “実績の刻印” **だ。
変異種戦歴ランク
戦歴は、討伐した変異種の危険度・戦闘難度・単独性・被害規模を総合評価し、
以下の四段階で記録される。
◆ ブロンズ
「変異」と認定される最低ライン。
新人は瞬殺、中堅クラスでも確実に殺す力を持つ。
ランクは一番下だが、遭遇自体が ”稀”である。
◆ シルバー
通常ランクを逸脱した高危険個体。
経験と判断力がなければ生還すら難しい。
単独討伐は高ランクでないと、難しいとされている。
◆ ゴールド
地域の生態系を破壊するレベル。
複数の熟練ハンターでも死者が出る想定。
大規模クランでも討伐が難しい。
討伐者はハンターにおける ”伝説級” となる
◆ プラチナ
国家級危険指定。
街や拠点、果ては一地域を単独で ”壊滅” させかねない存在。
各支部からの選りすぐりのハンターによる ”討伐隊” が結成され。
使用が禁止されている、旧文明の封印級武器すら使用される
戦闘があった地域は文字通り ”壊滅” する
討伐者は事実上 ”英雄” 扱いとなるが
討伐隊のほとんどが未帰還となっている、ギルドの記録でもほとんど情報がない。
星(★)による細分化
各ランクはさらに、
星の大きさ三段階で評価される。
★(スモール)
★★(ミドル)
★★★(ラージ)
例:
スモール・ブロンズ
ミドル・シルバー
ラージ・ゴールド
という形で記録される。
■ロゼッタにおける「スモール・ブロンズ」の意味
ここが重要だ。
戦歴への特別記載は、日時と討伐した”ランク”も記載される
一番下の評価、
スモール・ブロンズであるが
これがあるか、ないかで、
ハンターとしての扱いは決定的に変わる。
単なる依頼消化者か
危険を越えた実戦経験者か
その境界線が、ここだ。
スモール・ブロンズが戦歴に刻まれている低ランクハンターは、
ギルド職員の見る目が変わる
依頼の選択肢が増える
ベテランから“素人扱い”されなくなる
各地のギルド支部からも名前を覚えられる
いわゆる「期待の新人」となる
何より、
「生き残った」という事実が、公式に証明される。
ロゼッタが討伐した個体は、
検証で**変異種:スモール・ブロンズ級**と認定された。
それは、
派手な称号でも、英雄の証でもない。
だが――
「この子は、
普通の新人ではない」
そうギルドに、街に、
静かに刻まれる最初の一行になる。
剣闘士でもなく、
実験体でもなく。
ハンター・ロゼッタとして、
世界に正式に名が残る瞬間だ。
続く
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