表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/290

第3章ー⑦ 前に立つ者として

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


ギルドの訓練場は昼下がりになると少しだけ人が減り、鉄の匂いと乾いた土の感触だけが残る場所になっていて、ロゼッタはその端に立つグレンの背中を見つけると、いつもより少しだけ緊張した足取りで近づいていった。


グレンは木製の標的を相手に斧を振るっていたが、ロゼッタの気配に気づくと動きを止め、肩に担いだまま振り返り、いつもの豪快な笑みを浮かべる。


「おう、どうしたロゼッタ。

 珍しく考え事してる顔だな」


「……相談があります」


短く、だがはっきりとした声。

グレンはその言い方だけで、冗談ではないと察し、斧を地面に立てて腰掛けるように促した。


「いいぞ。

 武器の話か?」


ロゼッタは頷き、腰の剣に手を添える。


「銃の強さを知りました。

 だが、場所によっては使えません。

 だから私は、その時その時で“選びたい”」


グレンは、少し目を細めた。


「……いい考えだ」


即答だった。


「武器ってのはな、

 一つで全部やろうとすると、

 逆に全部中途半端になる」


そう言って、ロゼッタの剣を指さす。


「だが、その剣。

 作りは悪くねえが、少し“決め打ち”すぎる」


「決め打ち?」


「片手前提だ。

 速さはあるが、押し合いと打ち下ろしに弱い」


ロゼッタは、今日の戦いで感じた感触を思い出し、ゆっくりと頷く。


「……重装の敵には、止められる」


「そうだ。

 だからな――」


グレンは立ち上がり、地面に枝で簡単な図を描きながら続ける。


「握りを少し伸ばす。

 一握り分でいい。

 両手でも持てるようにする」


ロゼッタは驚いたように剣を見る。


「刃は変えない。

 間合いも変えない。

 だが、持ち方の選択肢が増える」


グレンは、両手で斧を構え、ゆっくりと動かして見せる。


「片手は“動くため”。

 両手は“止めるため”。

 使い分けるだけで、戦い方がまるで変わる」


ロゼッタは、剣の柄を想像の中で伸ばし、両手で握る感触を思い描く。


「重くならないか?」


「多少はな。

 だが、それは“選べる重さ”だ」


グレンは笑った。


「常に両手で振れって話じゃねえ。

 必要な時に、両手に切り替えられる。

 それが肝心なんだ」


ロゼッタは、静かに息を吸い、そして吐いた。


「……私は、迷うと思う」


正直な言葉だった。


「戦闘の最中に、

 片手か、両手か、

 踏み込むか、下がるか」


グレンは、その言葉を否定しなかった。


「迷えばいい」


力強く言い切る。


「迷わねえ奴は、

 選んでない。

 ただ流されてるだけだ」


そして、ロゼッタの目を真っ直ぐに見る。


「その時その時を選べ。

 生き残るために」


ロゼッタは、深く頭を下げた。


「……ありがとう」


グレンは照れたように鼻を鳴らす。


「礼はいらねえ。

 生きて、次も相談に来い」


その言葉に、ロゼッタは小さく、しかし確かに頷いた。


剣の形は、少し変わる。

だが、芯は変わらない。


それは、

**選び続けるための武器**だった。




ギルド街の外れ、石畳が途切れるあたりにある鍛冶屋は、遠くからでも分かるほど濃い鉄の匂いと、**カン、カン、カン**と一定の間隔で響く金属音に満ちていて、ロゼッタはその音に導かれるように扉の前に立ち、深く息を吸ってから中へ足を踏み入れた。


炉の赤い光が揺れ、天井の梁には年代物の武器や防具が無造作に吊るされ、床には削り屑と煤が積もり、ここが“物を売る場所”ではなく、“戦う者の身体を預かる場所”であることが一目で分かる。


「……ほう」


低く、しわがれた声。


金床の前に立っていた鍛冶屋は、振り下ろしていた槌を止め、ロゼッタの腰に差された剣を見るより先に、彼女の立ち方と視線の置き方をじっと観察する。


「剣の相談か、嬢ちゃん」


「はい。

 柄を、少し伸ばしたいと思いまして……」


そう言って剣を差し出すと、鍛冶屋は受け取らず、顎で示す。


「置け」


ロゼッタが台に剣を置くと、鍛冶屋は刃ではなく柄に手を伸ばし、革巻きの擦れ、芯材の癖、重心の位置を確かめるように、指先でゆっくりとなぞった。


「……片手前提。

 速さ重視。

 だが、止めに来た相手を受ける余地が少ねぇ」


その指摘に、ロゼッタの背筋がわずかに伸びる。


「誰に教わった?」


「……生きる中で、覚えました」


鍛冶屋は鼻で小さく笑った。


「やっぱりな」


炉の火を背にしながら、はっきりと言う。


「嬢ちゃん、

 あんた元剣闘士だろ」


空気が、一瞬だけ張り詰める。


否定の言葉を探す前に、鍛冶屋は続けた。


「構えが違う。

 相手の“武器”じゃなく、“動き”を見る目だ。

 殺し合いを、見世物としてやってきた奴の癖だ」


ロゼッタは黙っていた。

否定も肯定もせず、ただ視線を落とす。


鍛冶屋は、それ以上踏み込まなかった。


「安心しな。

 ここじゃ過去は値段にならねぇ」


そう言って、剣を持ち上げる。


「柄を一握り分延ばす。

 芯を通して、両手でも扱えるようにする。

 刃は変えねぇ。

 あんたの距離感は、もう出来上がってる」


ロゼッタは、ほっと息を吐いた。


「……できますか?」


「できる。

 ただし――」


鍛冶屋は剣を台に戻し、今度はロゼッタ自身を見た。


「前に出るなら、

 武器だけじゃ足りねぇ」


そう言って、壁に掛けられた古い胸当てを叩く。


「前衛はな、場合によっては

 “当たらない”より先に、

 “耐える”を考えなければならねぇ ”状況” が来る」


金属が**ゴン**と鈍い音を立てる。


「剣は攻めの選択肢だ。

 防具は、生き残るための余白だ」


ロゼッタは、自分の簡素な装備を見る。


「軽さを取ってきたな。

 悪くねぇ。

 だが、次の段階だ」


鍛冶屋は棚から、いくつかの素材を見せる。


獣の硬質殻。

旧文明機械の装甲片。

柔軟性を残した合金板。


「素材を持って来い。

 剥いだものでいい。

 使えるなら、武器にも防具にもなる」


「……作ってくれるのか?」


「ああ、金は取るがな」


即答だった。


「既製品を買うより、

 あんたの戦い方に合わせて削る。

 改造もする」


鍛冶屋は、にやりと笑う。


「ハンターの武器はな、

 依頼と一緒に育つもんだ」


ロゼッタは、深く頭を下げた。


「……頼みます」


「いい目だ」


鍛冶屋は槌を取り上げ、炉に火を入れ直す。


**ゴォッ**と炎が唸り、鉄が赤く染まる。


「剣も、防具も、

 素材も経験も、

 持って来りゃ、全部形にしてやる」


その言葉を背に、ロゼッタは剣を預け、店を後にした。


過去を見抜かれた。

だが、否定はされなかった。


代わりに与えられたのは、

**“前に立つ者として生き延びる術”**だった。


ロゼッタは、次の討伐で何を剥ぐかを考えながら、

少しだけ、足取りを軽くして歩き出した。


続く


【作者からのお願い】


もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!


また、☆で評価していただければ大変うれしいです。


皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ