第3章ー⑤ 銃と剣
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ハンターギルドの掲示板の前で、ロゼッタは少し背伸びをするようにして依頼書を見上げていたが、その横に立つ二人の少女の装備が、どうしても視界に入ってしまい、無意識に視線を奪われていた。
一人は長い銃を肩から斜めに背負い、銃身の先に布を巻いた狙撃用の装備で、もう一人は短くも重そうな突撃銃を胸に抱え、腰に予備弾倉をいくつも下げている。
「……あんたもその依頼を?」
先に声をかけてきたのは狙撃手の方だった。
灰色がかった銀髪を後ろで一つに束ね、目つきは鋭いが、表情はどこか落ち着いていて、年齢はロゼッタより少し上――十七、八といったところだろうか。
「私、ミレイア。ランクはE。主に後方支援、狙撃担当」
淡々と名乗る彼女の背にあるのは、旧文明製を改修したボルトアクション式狙撃銃《グレイウルフM90》。
金属の鈍い光と、手入れの行き届いた木製ストックが、彼女の性格をそのまま形にしたようだった。
「で、こっちが――」
「リンだよ!」
被せるように元気な声を出したのは、もう一人の少女だった。
赤みがかった茶髪を短く切りそろえ、額にはゴーグルを乗せ、快活な笑顔を浮かべているが、肩に担いだ突撃銃は明らかに笑顔に似つかわしくない重量をしている。
「ランクE! 前に出て撃つのが得意! この子は《バルカンリーフAR-7》!」
彼女が軽く叩いたその銃は、某国軍の制式突撃銃を民間用に落としたモデルで、連射性と取り回しの良さを重視した“ロングセラー”として、今も多くのハンターに使われている名銃だった。
ロゼッタは、二人の武器を見て、わずかに喉を鳴らす。
「……ロゼッタ 近接担当です」
「ふーん。あんたは……剣?」
リンが興味深そうにロゼッタの装備を見る。
「はい。銃の方と組むのは……初めてです」
その言葉に、ミレイアがわずかに眉を動かした。
「……なるほど。今日はいい経験になる」
依頼は、街道脇の廃れた採掘跡に巣食う獣型モンスターの討伐。
数は少ないが、装甲が硬く、近接では被害が出やすい個体だ。
現地に到着すると、空気は一気に張り詰めた。
ミレイアは無言で高所を確保し、瓦礫の上に伏せ、銃身をゆっくりと前に向ける。
「……距離、100。風、微弱」
ロゼッタは、その静けさに息を潜める。
次の瞬間――
**ズドンッ!!**
乾いた衝撃音とともに、空気が叩き割られ、遠くでモンスターの頭部が弾け飛んだ。
「……っ!?」
ロゼッタの肩が跳ねる。
「これが、狙撃だ」
ミレイアはそう言って、すでに次弾を装填していた。
だが、それで終わりではない。
残りの個体が一斉に動き出す。
「来るよっ! ロゼッタ、前お願い!」
リンが叫び、突撃銃を構える。
**ダダダダダッ!!**
乾いた連続音。
《バルカンリーフAR-7》が火を噴く
**チャリン、チャリン*
薬莢が地面に転がる。
反動で銃口が跳ねるのを、リンは身体全体で抑え込みながら前進し、弾幕で敵の動きを縫い止める。
「すごい……」
ロゼッタは思わず呟き、その隙に一体が突進してくる。
「ロゼッタ、左!」
ミレイアの声と同時に、ロゼッタは剣を抜き、踏み込む。
**ガギィン!**
金属と装甲がぶつかる
弾で削られた装甲の隙間に、剣が深く食い込む。
「――はあっ!」
叫びとともに、モンスターは倒れ伏す。
銃声、剣戟、獣の咆哮。
三人の動きが、少しずつ噛み合っていく。
ミレイアの一撃が敵の動きを止め、リンの突撃銃が隙を作り、ロゼッタがそこに踏み込んで止めを刺す。
戦いが終わった後、静寂が戻る。
リンが銃を下ろし、息を吐いた。
「ふー……やっぱ前衛がいると楽だね!」
ミレイアはスコープから目を離し、ロゼッタを見る。
「……初めてとは思えない。銃との連携も悪くなかった」
ロゼッタは少し照れたように視線を落とす。
「二人が合わせてくれたので、だから……合わせられた」
初めての、銃を持つハンターとの共闘。
それは、闘技場とも、αチームとも違う “ハンターとしての戦場” の感触だった。
ロゼッタは、胸の奥で、また一つ新しい火が灯るのを感じていた。
---戦闘後
討伐を終えた三人は、採掘跡の外れにある岩陰で小休止を取っていたが、戦闘の熱が完全に冷めきることはなく、空気の中にはまだ火薬と金属の匂いがうっすらと残っていた。
リンは岩に腰掛け、突撃銃《バルカンリーフAR-7》を膝に置きながら、慣れた手つきで弾倉を外し、薬室を確認してから、ふうっと大きく息を吐いた。
「いやー、思ったよりスムーズだったねぇ。
正直、剣一本の子って聞いてたから、もっと危なっかしいと思ってたよ」
そう言いながら、ちらりとロゼッタを見る。
ロゼッタは少し離れた場所で、剣についた汚れを丁寧に拭い、刃こぼれがないか真剣な表情で確認していたが、その動きにはどこか異様な落ち着きがあり、年齢に似合わない“慣れ”が滲んでいた。
ミレイアはその様子を、銃身を磨きながら横目で観察している。
「……危なっかしい、か。
私は逆に、近接なのに距離感が妙に正確だと思った」
「え?」
リンが首を傾げる。
「普通、剣だけの新人は、弾幕を怖がるか、逆に突っ込みすぎる。
でもロゼッタは、私の狙撃線と、あんたの射線をちゃんと“避けて”動いてた」
ミレイアの声は淡々としているが、そこには確かな評価が含まれていた。
「……あれ、感覚でできるものじゃない」
リンは一瞬、口を閉じ、戦闘を思い返すように天を仰いだ。
「言われてみれば……
弾が飛ぶ場所、ちゃんと分かってる感じはしたかも」
「しかも――」
ミレイアは、そこで一度言葉を切り、ロゼッタの背中を見る。
「恐怖が、ほとんど出ていない。
銃声にも、獣の突進にも、心拍が乱れた様子がない」
リンが、少し冗談めかして笑う。
「度胸が据わってるってことじゃない?」
「新人で?」
ミレイアの問いに、リンは言葉に詰まる。
そのとき、ロゼッタが二人の視線に気づき、少しだけ首を傾げてこちらを向いた。
「……何か、問題がありました?」
「いやいや、問題どころかさ」
リンは手を振りながら立ち上がり、軽い調子で言う。
「ロゼッタ、あんたさ、どこで剣を習ったの?」
その問いに、ロゼッタは一瞬だけ言葉を探すように視線を落とし、それから静かに答えた。
「……生きるために、振っていただけです」
嘘ではない。
だが、全ても語っていない。
ミレイアは、その答えを深く追及しなかった。
代わりに、低く息を吐く。
「……なるほど」
それだけで、彼女は納得したようだった。
「戦い方が “教わった型” じゃない。
必要な動きだけを、削ぎ落として残した感じがする」
リンが、少し真顔になる。
「それって……結構ヤバい評価じゃない?」
「褒めている」
ミレイアは即答した。
「少なくとも、ハンターとして伸びる。
ただ――」
そこで言葉を止める。
「ただ?」
リンが促す。
「剣しかない。
それは、強みでもあるけど、弱点にもなる」
ロゼッタは、その言葉を黙って聞いていた。
「銃を持つ気は?」
ミレイアの問い。
ロゼッタは、少し考え、正直に首を振った。
「……今は、ありません。
だが、知る必要はあると感じました」
リンが、ぱっと笑顔になる。
「それでいいよ、それで!
無理に持たなくていいし、知ってれば十分!」
そして、少しだけ声を落とし、付け加える。
「でもさ……あたし、思ったんだ」
「何を?」
「ロゼッタって、
“誰かを守る前に、まず前に出る”タイプだよね」
ロゼッタは、否定しなかった。
ミレイアが静かに頷く。
「……それは、”闘い” に慣れた人間の動きだ」
元剣闘士――
その言葉は、誰の口からも出なかった。
だが二人は、確かに感じ取っていた。
この少女は、
**ただの新人ではない**
それでも。
「ま、今は新人ランクの仲間だしさ」
リンが明るく言う。
「一緒に依頼こなして、少しずつ覚えてけばいいよ!」
ミレイアも、短く言葉を添える。
「……背中は、任せて」
ロゼッタは、その言葉を胸に刻むように、静かに頷いた。
知られていない過去。
知られていない痛み。
それでも今は、
“同じ依頼を受けた仲間” として評価されている。
その事実が、
ロゼッタにとっては何よりも新しく、
何よりも、救いだった。
続く
読み返してして ”読み応え”が足りないかなと感じまして、今までの2話分を1話分にしました
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