第3章ー④ 託した者、託された者
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ハンターギルドの奥。
表の喧騒から切り離された、小さな談話室。
厚い石壁は音を遮り、ここでは笑い声も怒号も届かない。
卓の上には、湯気の消えた茶と、注がれただけの酒。
どちらにも、まだ手を伸ばした形跡はなかった。
グレイヴは椅子に深く腰掛け、
窓の外――中庭で武器を手入れする若いハンターたちを、黙って眺めている。
その向かいで、
グランは腕を組み、背もたれに体重を預けていた。
「……でだ」
最初に口を開いたのは、グランだった。
いつもの豪快さは抑えられているが、声は明るい。
「俺に、あの嬢ちゃんを組ませた理由。
そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃねえか?」
一拍置く。
「ただの新人の“慣らし”って顔じゃなかったぞ、あれは。
最初から、俺に見極めさせるつもりだっただろ?」
グレイヴは、すぐには答えない。
窓枠に指をかけ、外の光に目を細める。
「……勘がいいな」
低く、静かな声だった。
「お前には隠せんと思っていた」
「……あの子はな」
ゆっくりと、言葉を選ぶように口を開く。
「俺が預かることになった時点で、
もう“普通の新人”じゃなかった」
グランは、眉をひそめる。
「普通じゃねえ、か。
確かに動きは変わってたがよ。
闘技場上がりってだけじゃ説明つかねえ部分もあった」
「そうだ」
グレイヴは、短く肯定する。
「俺が信じてる連中がいる。
……αチームって言えば、分かるか?」
グランの目が、わずかに見開かれた。
「冗談だろ。
あの“面倒事専門”の連中か?」
「その通りだ」
グレイヴは、笑わない。
「あいつらが、命を懸けて守り、
生きる ”術” を叩き込み
そして――俺に託した」
その一言で、部屋の空気が変わった。
グランは、しばらく黙り込み、
やがて大きく息を吐く。
「……なるほどな」
肘を卓につき、顎をかく。
「そりゃあ、俺に話が回ってくるわけだ」
「お前なら、変な詮索をせず、
それでいて“甘やかさない”」
グレイヴの視線は、まっすぐだった。
「それに、
ハンターとして、チームで戦えるかどうかを、
一度は見極める必要があった」
グランは、ふっと笑った。
「ははっ……
随分と重てえ役を振ってくれるじゃねえか」
だが、その笑いに、不満はなかった。
グレイヴは、静かに頷く。
「だから、甘やかさない人間が必要だった。
だが、壊さない人間もな」
グランの口角が、わずかに上がる。
「随分と、難しい注文だ」
「だが、お前ならできる」
そう言い切った。
「で、今日の動きを見て、どうだった?」
グランは、即答しなかった。
坑道の暗さ、魔物の唸り、
ロゼッタの踏み込みと引き際――
すべてを思い返す。
「……正直に言うぞ」
グランは、ゆっくり前屈みになる。
「あの嬢ちゃんは、
もう“生き残る術”を体に叩き込まれてる」
指を折りながら言う。
「強え。
反応も早い。
だが何より――
自分が死ぬ線を、ちゃんと理解してる」
グレイヴの目が、わずかに細まる。
「それは、ハンターとして?」
「いや」
グランは、首を横に振る。
「人としてだ」
一瞬の沈黙。
その言葉が、
グレイヴの胸に、確かに届いたのが分かった。
「……お前に任せて正解だったな」
グレイヴの声は、ほんの少しだけ柔らいだ。
「それが聞けただけで、
あいつらに顔向けができる」
グランは立ち上がり、背筋を伸ばす。
「託された、ってわけだな」
扉に向かいながら、振り返る。
「正直言ってよ、
こういう話は嫌いじゃねえ」
拳を鳴らし、にっと笑う。
「だが一つだけ約束しろ」
「何だ?」
「守りすぎるな。
だが、独りにするな」
グレイヴは、即座に答えた。
「そのつもりだ」
グランは満足そうに頷き、扉を開ける。
「だったら問題ねえ。
あの嬢ちゃんは――
ちゃんと前に進める」
扉が閉まる。
その外で、
ロゼッタは何も知らず、
ギルドの片隅で、剣の刃を静かに磨いている。
誰が、どんな覚悟で、
彼女の道を選び、繋いだのかも知らずに。
だが確かに、
αチームから託されたものは、
グレイヴの手を経て、
グランへと渡された。
それは命令でも、義務でもない。
ただの――
責任だった。
第3章ー⑤へ続く
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