第3章ー③ 剣闘士からハンターへ
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ギルドの朝は、今日も騒がしかった。
分厚い木の扉が開くたびに外の光が差し込み、重い鎧の影が床に落ちる。
酒の匂い、汗の匂い、血と油が染み込んだ革の匂い。
壁に貼られた依頼書の前では、誰かが声を荒げ、誰かが笑い、誰かが黙って腕を組んでいる。
ロゼッタは、その喧騒の中を静かに進んでいた。
以前のように視線を伏せすぎることもなく、しかし周囲を睨みつけることもない。
自然体――それが一番近い。
背中の剣は軽くはないが、もう重荷でもなかった。
掲示板の前で足を止め、依頼書を読む。
二名以上推奨。
坑道内討伐。
中型魔物。
その文字を指でなぞっていた時、
背後から、腹の底に響くような声が落ちてきた。
「おい、そっちの嬢ちゃん。
まさかそれ、一人で行く気じゃねえよな?」
振り返ると、そこに立っていたのは大柄な男だった。
鎧は傷だらけだが、無駄がなく、手入れも行き届いている。
笑っているのに、視線は鋭く、場数の違いが一目で分かる。
「俺はグレンだ。
今日は俺がお前の相棒だ。よろしくな!」
ロゼッタは一瞬だけ戸惑い、それから背筋を伸ばして頭を下げる。
「……ロゼッタです。よろしくお願いします」
それを見たグレンは、楽しそうに歯を見せて笑った。
「ははっ!
いいじゃねえか、その真面目さ。
嫌いじゃねえぜ!」
旧採掘坑に近づくにつれ、空気は変わっていく。
湿気が増し、音が反響しやすくなる。
足元の砂利が不安定で、一歩ごとに感覚を確かめる必要がある。
「いいか、ロゼッタ」
坑道の入り口で、グレンは足を止めた。
「ここは闘技場じゃねえ。
見せ場も拍手も、ここにはねえ」
そう言って、岩壁を軽く叩く。
「あるのは、暗闇と、不意打ちと、
油断した奴が死ぬ現実だけだ」
ロゼッタは、静かに頷く。
「無理だと思ったら引け。
それは逃げじゃねえ。
生き残る判断だ」
その言葉は、命令ではなく、
長く生き延びてきた者の実感だった。
分岐点に差し掛かった瞬間、
低い唸り声が坑道に響いた。
魔物が、岩陰から飛び出す。
「来たぞ!」
グレンが一歩前に出る。
突進を真正面から受け止め、地面が揺れる。
その衝撃に、ロゼッタの足元の砂利が跳ねた。
「力はあるな!
だが、動きは素直すぎる!」
グレンが叫ぶ。
その声に合わせるように、ロゼッタは横へ回る。
側面から一撃。
刃が皮膚を裂き、確かな手応えが伝わる。
だが、追わない。
すぐに距離を取る。
魔物の尾が振るわれ、風圧が頬を打つ。
一瞬遅れていたら、致命傷だった。
「そうだ、欲張るな!
その引き、いいぞ!」
グレンの声は、戦闘中でも明るい。
だが、その一言一言が、的確だった。
魔物が再び突進する。
グレンが正面から受け、踏ん張る。
「今だ! 行け!」
ロゼッタは迷わない。
踏み込み、体重を乗せ、狙いを一点に集中させる。
剣が首元を断ち、
魔物は大きく痙攣して、崩れ落ちた。
静寂が戻る。
坑道の奥で、水滴が落ちる音だけが響く。
グレンは剣を肩に担ぎ、大きく息を吐いた。
「はーっ……!
やるじゃねえか、ロゼッタ!」
肩を叩く力は強いが、そこに悪意はない。
「無駄がねえ。
前に出すぎもしねえし、引き際も分かってる」
少しだけ真剣な目になる。
「闘技場上がりだろ?」
「……はい」
「だろうな。
だがよ、ちゃんと抑えてる。
強えのに、調子に乗らねえ」
そして、再び笑う。
「正直言って、
俺ぁ背中預けてもいいと思ったぜ!」
ギルドに戻ると、
扉を開けた瞬間、視線が集まる。
「お、帰ってきたな」
「無事か?」
受付が身を乗り出す。
「どうだった?」
グレンは胸を張り、即答する。
「文句なしだ!
この嬢ちゃん、ちゃんと“組める”!」
ロゼッタが素材を差し出すと、
周囲の空気が、確かに変わる。
評価の目。
仲間として見る目。
グレンは腕を組み、堂々と言った。
「覚えとけ。
こいつは生き残るぞ。
変な真似しなきゃな!」
最後にロゼッタを見て、にっと笑う。
「また組もうぜ。
次は、もっと厄介なの行こうな!」
ロゼッタは、少しだけ間を置き、
はっきりと頷いた。
「……はい」
その返事に、
グレンは満足そうに鼻を鳴らした。
第3章ー④へ続く
豪快な面倒見のいいアニキ系のキャラに弱いんですよね
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