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第3章ー② 生きている者としての居場所

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

ハンターギルドに登録してから、ロゼッタは本当に簡単な依頼ばかりを受けていた。

街道沿いの魔物避けの設置、倉庫に入り込んだ小型獣の駆除、旧区画の瓦礫撤去――

どれも大きな名誉にはならない、しかし確実に誰かの役に立つ仕事だった。


依頼を選ぶとき、彼女は掲示板の前で少しだけ立ち止まる。

紙に書かれた内容を、一つひとつ指でなぞるように読み、難しすぎないものを選ぶ。

受付の女性が声をかけると、ロゼッタは背筋を伸ばして、はっきりと頷いた。


「……行ってきます」


その言い方は、まるで誰かに教わった通りに言葉を置いているようで、

周囲のハンターたちは、最初は気にも留めなかった。


だが、数日、数週間と経つうちに、

「あの子、また戻ってきてるな」

「毎回、ちゃんと仕事を終えてる」

そんな声が、少しずつ聞こえるようになる。


戦い方は派手ではない。

無駄な動きがなく、危なくなればすぐ距離を取る。

剣を振るうときも、必要以上に深追いしない。

まるで“生き延びること”を最優先に体に刻み込まれているかのようだった。


依頼を終えてギルドに戻ると、ロゼッタは素材袋を両手で抱え、受付台に差し出す。

カウンターに置く音は控えめで、

「依頼……終わりました」

と、小さく報告する。


受付は最初こそ事務的だったが、

今では彼女が来ると、わずかに表情が和らぐ。


「怪我は?」

「……ありません」

「ちゃんと食べてる?」

「……はい」


そのやり取りを、周囲のハンターたちは何気なく聞き、

気づけば、彼女の存在を“当たり前”として受け止め始めていた。


依頼を終えた後、ロゼッタは決まって同じ席に座った。

背もたれに背中が届かず、足が床から少し浮いてしまう椅子。

そこに腰かけて、両手で木製の皿を押さえるようにして、食事をとる。


食べ方は、どこかぎこちない。

一口ごとにきちんと噛みしめ、こぼさないように、真剣な顔をする。

肉よりも、パンよりも、彼女の動きが止まる瞬間があった。


――甘いものが出たときだ。


焼き菓子や、果実を煮詰めた菓子を前にすると、

ロゼッタの視線は、わずかにそれに吸い寄せられる。

気づいていないつもりでも、目が離れていない。。


目尻が下がり、

警戒の色が消え、

「おいしい」という感情を、言葉にせずに受け止めるような、

とても小さな、けれど確かな笑顔。


それは一瞬で、すぐに消える。

だが、それを見た者は、なぜか忘れられなくなる。


「あの子さ……」

「甘いの食う時だけ、顔が違うんだよ」


そんな噂が、いつの間にか広がっていた。


一口、口に含む。

噛む。

そして――


ほんの一瞬だけ、口元が緩む。


大きく笑うわけではない。

声も出さない。

ただ、柔らかく、安堵したような、子供らしい笑顔が、かすかに浮かぶ。

それを、何人かが見ていた。


誰も声をかけない。

からかいもしない。

ただ、心のどこかで思う。


――ああ、この子は。

――強いとか弱いとか以前に。

――ちゃんと、生きようとしているんだな、と。


その日から、

ロゼッタ・スカーレットという名前は、

「強い新人」ではなく、

「気になる新人」として、ギルドの中で静かに広がっていく。


小さくて、警戒心が強くて、

でも、甘いものを食べるときだけ、少し笑う子。


それを見た周囲のハンターたちは、

なぜか視線を逸らし、咳払いをしたり、酒を煽ったりする。


「……なんだよ」

「いや、別に」


誰かが小さく、

「かわいいな」

と呟いたのを、ロゼッタ自身は聞いていない。


依頼の帰り道、彼女は街の外れで子供たちに会うこともあった。

壊れた柵を直す依頼の途中で、興味深そうに近寄ってくる子供たち。


ロゼッタは、どう接していいかわからず、少し困った顔をする。

それでも、怖がらせないように、ゆっくりしゃがみ、目線を合わせる。

私を育ててくれた ”あの人達” がそうしてくれたように


「……危ないから、下がって」


その言葉は不器用だが、優しい。

剣を持つ手も、子供たちの前では自然と下がる。


依頼が終わると、子供の一人が、硬い飴玉を差し出した。

ロゼッタは一瞬迷い、それから小さく頷いて受け取る。


「……ありがとう」


飴を口に含み、甘さを確かめるようにゆっくり転がす。

その時だけ、また、あの小さな笑顔がこぼれる。


それを見て、子供たちははしゃぎ、

遠くで見ていた大人たちは、静かに目を細めた。


ロゼッタは、自分が注目されていることを、ほとんど自覚していない。

ただ、依頼を受けて、終えて、戻ってくる。

食べて、眠って、また剣を握る。


そのけなげな姿が、

無理をして強がらないところが、

生きることに必死なところが、


気づけば、街の人々の心に、静かに残り始めていた。


「あの子なら、大丈夫だろう」

「あの子に頼めば、きっと帰ってくる」


そうしてロゼッタは、

知らぬ間に“名前を覚えられるハンター”になっていく。


それはまだ、伝説には程遠い。

けれど確かに、

誰かの記憶に残り始めた瞬間だった。


それは、剣闘士として浴びた歓声とは、まるで違う。

だが、ずっと温かく、ずっと確かな、

生きている者としての居場所だった。


第3章ー③へ続く

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